この連載の読者の多くは、現在関東圏内に住んでいらっしゃると思います。
私も10年以上関東で生活しておりますが、今でも地方への愛着を持っています。
地方民あるあるだと思うのですが、たまに『地方に住もうかな?』と思うときがあります。
地元以外でも行ってみたい地方、住んでみたい地方などがあるからです。
そこでいざ移住を考え始めると、とても大きな問題にぶち当たります。
それが「仕事が無い」という問題です。
地方の有名都市であれば、大手企業の支店・支社くらいはあるかと思いますが、それらの支社では原則として本採用は行っておらず(採用機能は東京本社が一括管理している)、行っていても少数の雇用しか生み出せていないため、原則として地方には東京と比べて仕事がありません。
東京では少し努力すれば仕事が見つかりますが、地方ではいくら努力しても無いものは無いので、専門性の高い職種や所得が高い職種にはまずもって就けない可能性が高いです。
私の場合ベンチャー大好き人間なので、働くならベンチャーがいいと思っているのですが、地方にはベンチャーもほぼございません。
ベンチャーの8~9割は関東に偏っているといっても過言ではない状況だからです。
この問題に対する解決策みたいなものはまだないので、ただ嘆くだけの記事になってしまうのですが、地方とベンチャーが大好きな民族として少し語らせてください。
まずお話しなければならない点は、地方にもいろいろな段階があるという点です。
様々な区分があると思いますが、わかりやすく人口で定義していきましょう。
例えば、以下のような都市は地方であっても一流地方です。
いずれも人口100万人以上の大都市です。
ちなみに、横浜は300万人超え、大阪と名古屋は200万人超えなので超一流地方都市です。
どこまでを地方というかは人それぞれですが、おそらく横浜・川崎・さいたまについては「東京の一部」だと考えている人が多いと思います。
私も地方出身者なのでそういう感覚です。
東京都にストレス無く通える範囲は東京の一部だと思っています。
横浜なんて恵比寿まで25分で着きますから、ほぼ東京都、いや24番目の区だといっても過言ではないでしょう。
その他、福岡、神戸、京都、仙台なども地方の中では別格に位置していると思います。
そこで今回は、上記に掲げた仙台市までの一流地方都市を除きましょう。
惜しくも人口100万人に届かなかった千葉市(約97万人)からが地方ということにします。
なお、千葉駅からWARCのオフィスがある目黒駅までは片道1時間かかります。
地方の大学を出た皆さんは心から頷いてくれると思うのですが、地方での就活はとても大変です。
ある程度大きな地方都市には、大抵有名な国立大学がありますが、この国立大学の学生がまず地方の重要な職業を根こそぎ奪っていきます。
せっかくなので、雑学として国立大学一覧(一流地方に位置する大学を除く)を見てみましょう!
今現在、日本の国立大学は以下のとおりとなっています。
主たるキャンパスで探したのですが、もし間違っていたらすみません。
一部抜け漏れあるかもしれませんが、大体合っているはずなので、上記の国立大学を中心に考えていきましょう。
地方で有名な国立大学を出ていれば、特段の事情がない限り就活で困ることはないと思います。
大学の偏差値が高い場合は、下手をすると東大卒より大事にされます。
地域によっては地方の有名国立大学卒の時点で神扱いです。
そのため、よほどの難点がない限り、地方での就活で就活無双を楽しむことができるはずです。
結果、重要な職業はほぼ国立大学の子たちに持っていかれます。
地方で人気のある重要な職業としては、例えば地方銀行、地方農協、その他地方有力企業や地方公共団体の職員等ですが、それらの企業・団体といえでも、大した人数は雇えないので、国立大学以外の多くの学生は、その地元での就活ができずに上京(関西中心部含む)することになります。
そのため、多くの学生が人口100万人超えの一流地方または関東に出ていくしかありません。
これが地方の就活の現状かなと思います。
地方で有力企業に就職できた人たちは運が良い一部の人たちだけです。
ただ、本当にそれでいいのかと私は思うわけです。
地方にもいっぱい賢い学生がいますが、彼らの多くが地方の公務員や銀行員になります。
さらに賢い子たちは東京の一流企業に入って終わりです。
本当にそれでいいのか。
もっと能力を活かせる社会貢献度の高い選択肢もあったのではないか。
(※大きなお世話です)
もし地方にも有力なベンチャーが多数あったら、彼らのうち何人かはその選択肢を選んだのではないか。
なんて考えてしまいます。
地方出身の方はお解りいただけるかと思いますが、地元に帰った時、明らかに商店街が寂れてきていますよね。
下手をすると多くのお店が潰れていて、人口そのものが減少し続けているはずです。
10年後には経済破綻するんじゃないか?と心配になるほど人がいない地域もあります。
夕張市が破綻したように、破綻直前となっている地方公共団体も相当数あります。
実は一流地方の京都市ですら財政的には危ないのです。
そんな今にも無くなりそうな地方をこのまま放置していていいのか。
自分に何ができるか。
そんなことを考える年齢になりました。
上述のとおり、地方には大きな会社がほとんどありませんし、あったとしても中小企業の枠を超えない会社が多いので、原則として就職先が限られています。
一生懸命勉強をして、地方の有名な国立大学を出ても、地方にいたいと願うなら選択肢は限定的です。
では、地方にベンチャーを作れば解決するのか?
それで雇用が生まれるのか?
というとそんなに簡単な話ではありません。
地方出身の私の視点でみると、地方には大きくわけて以下の4つの課題があると考えています。
以下、一つずつ私見を述べていこうと思います。
大した話ではないので読み飛ばしていただいても構いません。
最大の問題だと思う点が市場規模です。
もし、地方でベンチャーを立ち上げるなら、多くの経営者が「その地方に貢献したい」と願うでしょうし、私もそういう会社が好きです。
しかし、残念なことに地方の市場はとても小さいのです。
多くの地方公共団体は急速な過疎化に悩まされていて、若い人がどんどん居なくなっています。
私の通っていた小学校については1学年3クラス(1クラス30人くらい)しか子どもがいません。
隣町の小学校は全校生徒で13人(1年生~6年生の合計)という危機的状況に陥っていました。
政令指定都市や県庁所在地から少し離れると、多くの地方では子どもがいなくなります。
子どもがいないということは、その親世代(30代)もいないということなので、町にはご年配の方々が溢れることになります。
人口が減り、高齢者が多くなるということは、その地域の所得平均が下がることを意味します。
年金生活をしている人が多くなるからです。
このような状況下で一体どれほどの市場規模が見込めるのかというと、ほとんど見込めません。
この市場を少し広く捉えて、県や地域(九州地方、中国・四国地方、近畿地方などの広い地域)で商売をしようとする場合、各都道府県の県庁所在地に本社を作った方が効率的です。
仮に全国を市場と捉えるなら、東京近辺にいる方がいいでしょう。
自社の所属する市場をどう捉えるのか、そしてその市場を狙う場合に地方にいることが合理的なのか。
そういう視点で考えていくと、ベンチャーが地方に残る理由が一つ一つ消えていきます。
次に、人材獲得の問題があります。
上述のとおり、地方では若い優秀な人の多くが公務員や地方の有力企業に就職していきます。
そして、それ以外の子たちの多くが関東をはじめとした大都市に移動していきます。
その結果、地方にはほとんどベンチャー人材が残っていません。
現実的なお話をすると、東京で出会う若手社員の平均的な学力と地方に残っている若者(有力企業に入った子や公務員になった子を除く)の平均的な学力では、かなり大きな違いがあると思います。
あくまでも経験則ですが、かなり違うと感じています。
これはある意味致し方ないことで、有名な私立大学の多くが政令指定都市や関東・関西に集中してしまっているからです。
そのため、地方ベンチャーは、地元で優秀な人材を採用しようと思っても、なかなか上手くいかないという状況に陥ります。
地方に残っている優秀人材の母数自体が極端に少ないので、出会うことすらできないかもしれません。
他方で、東京では人が溢れていますから、ベンチャー企業であっても、地方で超優秀だと言われそうな若手を採用できることが多いです。
あくまでも経験上ですが、東京では比較的容易に若手人材を獲得できます。
しかし、地方で同じことをやろうとしても、まず無理でしょう。
文系人材ならまだ可能性はありますが、エンジニアやデザイナー等になるともう絶望的だと思います。
ベンチャーが地方で優秀な人材を獲得するのは相当な人事力が必要になってきます。
それなら最初から都会にオフィスを構えた方が、効率的に優秀人材との接触点が増えるので合理的です。
上述のとおり地方は市場が小さく、かつ、人材も集まりにくい構造になっています。
それに加えて物的資源の問題も抱えています。
地方でどんな事業をやるかと考えた場合、リスクを押さえたいと思うのであれば、在庫を保たないITビジネスを思いつくと思います。
しかし、東京でも常に不足しているエンジニア人材を地方で獲得できるとは思えませんし、現実的にも難しいです。
そのため、大規模なIT企業を立ち上げることは困難です。
できなくはないと思いますが、偉業の類だと思います。
そうだとすると、地方で行えるビジネスは、原則として地場の物的資源を活用したビジネスに偏っていきます。
例えば、農産物、山林、海産物、お酒、陶器、その他地産物品などです。
これらの物的資源の流通網を全国または海外という大きな市場に拡張させるビジネスモデルが主たる事業内容になるはずです。
このようなビジネスモデルであればそこまで高度なIT技術は必要ないので、比較的地方でも始めやすいです。
現に地方ベンチャーの多くがこういう思考でビジネスモデルを構築していっています。
このようなビジネスモデルを採用した場合、果たしてどれだけの需要があるかという問題が出てきます。
例えば、九州の有名な港で取れたアワビやメジナなどをわざわざ東京都民が産地直送便で取り寄せて食べるという行為を年に何回行いますか?という問題です。
九州から送ってきますから送料もそこそこかかりますし、別に九州の港だろうが築地市場だろうが味は大して変わらないわけです。
下手したら築地市場のとれたての魚の方が美味しくないか?と思うことすらありますけども、そういう様々な心理的・経済的障壁を超えてどれだけの人が九州産にこだわるのかという確率論の話になってきます。
これは野菜でも陶器でも同じことです。
また、林業が盛んな地域では、その地域特有の木材に人気があることがあるのですが、林業の場合すでに流通網がしっかりしているので大手が買ってくれます。
それゆえにベンチャー設立の必要性が低いです。
そして、一番怖いのが林業のサイクルです。
間伐などを行って上手に回したとしても、1本の木を育てるのに数十年かかることに変わりはないので、林業だけを本業にするのは難しいと思います。
他にも、農産物に関するベンチャーを立ち上げて、地元で取れた農作物を全国に流通させようという計画を立てて、流通網を拡大させようとする場合、農協と比べてどれほど効率的に野菜を拡販できるのかという問題があります。
農協は一括で大量に仕入れてくれるので、農家にとっては非常に効率的なのです。
野菜は収穫した瞬間から鮮度がどんどん落ちていくので、実際に販売網を拡張することができたとしても、届けるコストや手間、クレームに対する対応などを考えると農協よりも効率的な流通網をゼロから構築するのは不可能に近いです。
そのような様々な難題にぶち当たる結果、地方でのベンチャー創業は、ビジネスモデルとしてスケールしづらいもの、スケールしてもコスト高になるものが出来上がってしまうのです。
それゆえに成功しづらいといえます。
上記の、市場・人材・物的資源の問題は、資金調達の問題に直結していきます。
企業の資金調達手段は、原則としてエクイティ(出資)かデット(借金)の2択です。
そして、ベンチャーやスタートアップは、創業間もないと信用がほとんどないので、デットでの大型の資金調達は極めて困難な状況です。
地方銀行がスタートアップ支援を目的とした貸付を行ってくれるならいいのですが、リスクも高いのであまりやらないでしょう。
そのため、ベンチャー・スタートアップの資金調達手段はほぼエクイティに限られます。
そして、エクイティで調達する場合、大きく分けて2つの方法があります。
一つが、裕福な個人投資家から投資してもらうエンジェル投資家からの出資です。
このエンジェル出資は創業初期の比較的小さい金額の資金調達手段として活用されています。
もう一つがVC(ベンチャーキャピタル)やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)からの出資です。
一般的にはこちらの方が出資額も大きいので、ベンチャーやスタートアップの資金調達手段として中心的役割を担っています。
しかし、東京に山程良いベンチャーがあるのに、わざわざ上記のようなリスク満載の地方ベンチャーに、交通費と時間というコストを大量にかけてまで出資を行うかといわれると、かなり厳しい状況だと言わざるを得ないです。
現在でも、スタートアップ投資の8割が東京に一極集中しているのですが、その理由は「わざわざ地方にまで行かなくても東京で良い投資対象が見つかるから」だろうと思います。
地方特有の様々な問題と距離的問題によってVCやCVCが地方まで手を回す必要性が低いのだろうと思います。
その結果、地方には資金調達手段が無い又は乏しいという状況になり、自力で頑張れるベンチャー又は規模の拡大を過度に狙わずに細々とやっていくベンチャーしか生き残れなくなります。
ここまでお話してきたとおり、地方にはベンチャー・スタートアップが発生しづらい仕組みが整っています。
発生したとしても存続が難しい状況です。
10年事業を続けられるベンチャーは僅かだと思います。
でもここですべてを諦めたら地方は終わります。
そこで私は、地方の大学発ベンチャーに希望を持っています。
その中でも一定の人口を有する政令指定都市にある大学にです。
現在、政令指定都市として認定されている市とそこにある国立及び有名私立大学は以下のとおりです。
※上記で除いた人口100万人以上の都市も含めて記載します。
一部の政令指定都市を除いて、原則一都市一国立大学があるのです。
これだけの地域に大学発ベンチャーがいっぱいあったら、良いと思いませんか。
私は嬉しいです。
地元の学生さんにも地元で働く選択肢が生まれるし、一度東京に出てきたけどやっぱ地方に戻りたいという中堅層にとっても新しい選択肢になります。
そして、その大学発ベンチャーに政令指定都市がバックアップしてくれるような制度があったら最高だと思うのです。
例えば、政令指定都市がVCと共同で出資を行ったり、又は地方銀行の貸付に対して一部保証を与えたり、ベンチャーに直接補助金を出したりなどが考えられます。
ベンチャーにお金を出すのが難しいなら、地方ベンチャーに転職してきた他県からのU・Iターン組に補助金を出すでも良いです。
関わり方はいろいろあると思うのですが、VC・CVCと行政側のサポートがあれば、比較的地方ベンチャーの人材獲得ハードルが下がると思うのです。
そういう地方創生のあり方もあっていのではないかと。
すでに地方大学発のベンチャーキャピタルの動きは出てきておりまして、その先陣を切っているのが東北大学です。
東北大学ベンチャーパートナーズ株式会社(仙台市)は、東北大学の100%出資子会社として発足して、現在は東北地方を中心としたの大学発スタートアップに出資を行っているVCです。
仙台の地方創生に一役買っています。
さらに、大阪大学もベンチャーキャピタルを作っています。
このように、徐々に地方大学発のベンチャーキャピタルが生まれてきているので、この動きが今後政令指定都市を巻き込んで活発になっていったら嬉しいなと思っています。
最近では、政令指定都市が主導でスタートアップ支援を行うという活動も活発になってきていますので、少しずつ状況は変わってきているように思います。
地方が少しずつ活性化してくれることを心から願っています。
今日は地方にベンチャーが少ないという問題について、私見を書いてみました。
何の解決策も示していないのでただの嘆き悲しみ記事なのですが、少しずつ地方で変化も起こっているので、今後も注目していきたいと思います。
それでは、最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりご連絡ください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。