組織内の公平性が保たれている場合、従業員の不満はあまり出て来ないことが多いのですが、不公平な状態に陥ると一気に問題が噴出してきます。
その不満は徐々に離職率の上昇となって現れてきます。
今日はこの「組織の公平性」の問題についてお話させていただこうと思います。
参考になるかわかりませんが、ベンチャー企業で働くマネジメント層の皆さんの参考になれば嬉しいです。
公平性の問題とは、組織の構成員が「不公平だ」と感じる事象が存在していることによって発生する様々な派生的問題のことをいいます。
この問題は主観的に判断されるものなので、客観的には公平に見えても、従業員が「不公平だ」と感じればそれは不公平です。
そして、その不公平な事象・事実が存在していることによって、様々な派生的な問題が発生していきます。
この派生的な問題が公平性の問題です。
代表例でいうと「報酬・給与」の問題があります。
例えば、組織の中にXさんとYさんの2名の社員がいたとします。
それぞれ客観的な能力は以下のとおりです。
【Xさん】
【Yさん】
一見すると、両者共に専門職人材で、かつ、ほぼ同じ報酬です。
Xさんが士業としての資格を持っていることを考慮すると、客観的には公平であるようにも思えます。
しかし、現実的には、Xさんは週に2日ほど社外に出て副業をしていて、内部の事務作業はほとんどせず、Yさんが多くの業務を実行していた場合はどうでしょう?
しかも、その事実をYさんと一部の同僚のみしか知らない状態だとします。
これはよくあることで、他部署の人間にとっては、よその部署の内部事情を把握し辛いのです。
この状況をYさんの立場に立って考えると、自分より明らかに手を動かしていないのに、自分と同じ報酬をもらっているXさんの存在が不公平な存在に映ります。
実質週3日勤務で自分により高い報酬をもらっていて、立場上は上司のような役割になるわけですから、ここでYさんは不公平感を抱きます。
そういう心理状態が長く続くと、ほぼ間違いなくYさんは転職を検討し始めます。
このままこの会社に勤めても、ずっと作業員として働き続けるだけで、大きなプロジェクトに関われるわけでもない。
かといって頑張ってマネージャーになったとしても、Xさんと立場が逆転してしまって気まずいことになるかもしれないので、残り続けることにメリットを感じにくい。
そういう思考になっていきます。
その結果、コアメンバーの一人であるYさんが抜けて、あまり働いていないXさんだけが残るのです。
Yさんのように社内の実務を実質一人で担当して、事情を熟知した人間が抜ける穴はそう簡単には埋まりませんし、非常に見つけにくい人材だと思います。
同等の人はすぐには採用できないでしょうから、中途半端な能力の人を複数人雇って、数でカバーすることが多くなります。
そうすると、人件費及び採用費が増加して、営業利益を圧迫します。
このように、組織の公平性の問題は、離職率の上昇やコスト増などの派生的問題を引き起こすのです。
そして公平性の問題は、実は非常に根深い問題で、マネジメント層が気づけないことも多い問題です。
マネジメント層にとっては「ある日突然スタッフが転職した」という状況に見えます。
しかし、その多くは予見可能だったものばかりです。
起こるべくして起こっている問題といっていいでしょう。
これを防ぐためには、マネジメント層が自ら注意深く組織全体を観察し、仮説を立て、不公平を取り除いていかないといけません。
マネジメント層がこの一手間をかけるだけで、組織内の問題の多くが発生しなくなります。
後々大変な思いをしなくて済むように、日頃から注意して観察してみるといろいろなところに不公平が潜んでいることに気づくと思います。
それをあえて放置することも戦略の一つですが、できることなら芽が小さいうちに解決しておいた方が良いと思います。
マネジメント経験がまだ浅い若手リーダーの場合、組織内でどのような点が公平性の問題を発生させるかについてなかなか気づけないかもしれません。
そこで、いくつか過去の事例を見て疑似経験値を高めていきましょう。
先程の事例では、報酬の不公平感を事例として挙げました。
あの事例は、形式的報酬額は公平に見えますが、実質的な報酬額が不公平なので離職につながった事例です。
それ以外にはどのようなものがあるか、一つずつ解説していきます。
不公平が発生しやすい事例として、コミュニケーション量が挙げられます。
経営層やマネジメント層に入ったばかりの人の多くは、自分自身のコミュニケーションにそこまで大きな意味や効果はないと考えていると思います。
自分が誰とどれだけ話したかなんて、組織に対してさほど影響しないだろうという感覚です。
しかし、その認識は改めないといけません。
マネージャーが優秀であればあるほど、そのマネージャーのコミュニケーション量は組織に大きな影響を与えます。
他人から尊敬され、信頼されるリーダーであるほど、たった一言の言葉で他人を救ったり絶望させたりできるのです。
良きリーダーほどその自覚が無かったりします。
優秀な人は自己を過小評価する傾向があるので致し方ない部分もありますが、ほんの少しだけコミュニケーションの質と量に注意を払ってみてください。
組織の中で、特定の人間(比較的話しやすい人間)にだけコミュニケーションが偏っているような場合は要注意です。
次に、報酬・コミュニケーション量と並んで公平性の問題が発生しやすい要素として、業務時間が挙げられます。
業務時間は労務部と協力しないとなかなか問題点として浮上してこない論点なので、発見が遅れがちになります。
また、業務時間は論点として認識されたとしても様々な問題が入り組んでいて、解決に時間がかかる場合が多いです。
特に多いケースは経理・財務の業務時間(残業時間)です。
内部統制が整っている会社で、かつ、優れた経理・財務マネージャーがいる会社では、会計分野においてもDX化が進んでいて、決算月でも比較的スムーズに業務が進行し、残業も少なく抑えられます。
しかし、ベンチャー企業ではそもそも内部統制がまだ整っていませんし、事業優先型で業務が進行していくので、どうしても決算月に残業が増えます。
チーム全体で、各人が月平均100時間を超えるような残業が常態化している組織も少なからず存在します。
このような組織で働いていると、心も身体も疲弊していきます。
経理・財務だと他の部署の報酬額等も全部見れてしまうことが多いので、他部署の人間はほとんど残業もない状態で自分と同じくらいの報酬をもらっているという事実がわかってしまうのです。
その結果、経理・財務の離職が相次ぎ、新しい人を入れてもすぐに別の人が辞めるという悪循環を繰り返し、内部統制が整わないまま何年も経過するということがよく起きます。
この問題を解決するためには、経理・財務の報酬を十分に引き上げるか、もしくは内部統制を整えて残業時間を減らすかですが、どちらも別の問題(コスト問題など)と絡んでくるので慎重に考えて手を打たないといけません。
最後に、インセンティブ制度の事例を取り上げましょう。
多くの会社では表彰や報奨金などのインセンティブ制度を採用していると思います。
しかし、その多くは営業部門におけるものです。
営業という職種は、いわば会社の花形で、お金を直接的に稼いできてくれる最重要部署です。
それゆえ、何らかのインセンティブを与え、モチベーションを保ってもらわないといけません。
その結果、営業部門においては基本的にインセンティブ制度が導入されます。
月間MVP、四半期表彰、年度末表彰など、名称は様々ですが、何らかのインセンティブを与えているはずです。
このとき、間接部門のことを少しだけ考えてみる必要があります。
たしかに間接部門は、直接的には利益に貢献しません。
そのため、通常は営業部門よりも給与が安く据え置かれます。
そして、報酬の上がり幅も狭く、役職の空きもあまり出ないため、出世も難しいという特徴があります。
そうすると、間接部門の人材は、何のために働くのかという疑問を持ち始めます。
誰からも評価されない、報酬が上がる可能性も低い、出世も難しい。
そんな状況で高いモチベーションを保って他人に貢献しようと思える人の方が少数派です。
それが続くとどうなるかというと、優秀な人材から辞めていきます。
日々学習し、能力や知識を磨き上げている間接部門のプロフェッショナルが辞めるのです。
残る人たちは「生活のためにただ作業をこなすだけの人たち」です。
そういう間接部門が増えれば増えるほど、事業部との溝が深まっていき、組織が機能的に動けなくなっていきます。
また、優秀な間接部門がいない組織は、年に何度か起こるアクシデントに対応できなくなっていくので、些細な問題で事業が止まるようになります。
間接部門が本当の意味で足を引っ張る組織になるのです。
たしかに営業部門の方が利益に直接的に関与するので重要かもしれません。
しかし、だからといって専門職になるために膨大な時間を勉強に投資し、高い専門性を身に着けていた人たちの価値が低いわけではないのです。
そういう専門家の価値を理解している企業は他にいくらでもあるので、優秀な人ほどまともな会社に転職します。
このような不都合を回避するためにも、インセンティブ制度を設計するときは、職種間の公平性にも着目してみてください。
日頃スポットライトを浴びない部署にこそ、たまには光を当てるべきです。
今日は組織の公平性の問題についていくつか事例を交えて解説させていただきました。
報酬制度や組織開発の参考になれば幸いです。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
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内容に応じて担当者がお返事させていただきます。