今日は「ベンチャーが経営管理部門のハイクラス人材を中途採用で獲得する方法」について私見を述べさせていただこうと思います。
ベンチャー業界の中でも経営層が読むことを想定して書きますので、若干レベルの高い話になりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
ベンチャー企業がVC(ベンチャーキャピタル)等から資金を調達し、少しずつ拡大していくにつれて、IPO(新規上場)という目標が具体化していきます。
そして、IPOを実現するためには、必ず経営管理部門を創設し、優秀な専門職を何人も採用しないといけません。
しかし、多くのベンチャー企業の経営層が経営管理部門には詳しくなく、採用活動もどう手を付けたら良いかわからない状態です。
仮にある程度の知見があっても、どういう人材が優秀か、優秀な人材が市場にどの程度いるかという点についてはほとんど知らないことが多いでしょう。
だからこそ、今一度優秀層の割合を理解しておきましょう。
まず前提として、転職市場において経営管理部門の人材は1~2割程度しかいません。
なぜなら、経営管理部門という部署は間接部門であり、コストがかかる(売上に直結しない)部署であるため、そもそもの母集団が少ないからです。
しかも、一見すると経営管理部門人材に見える人の大半が一般事務職に属する人材であるため、本当の意味での専門職はその中でも半分もいないと考えられます。
ハイクラス層の転職が盛んに行われる時期を外してしまうと、専門職と言える人の割合が極端に少なくなる時期もあります。
そのため、専門職と呼べるだけの専門知識と技能を持ち合わせている人の割合は、転職市場全体の3~10%程度になると思われます。
そこからさらに、経理・財務・法務・労務などの職種ごとに細分化されていきますので、実際に採りたい部署の候補者数はさらに減少していきます。
経理スタッフに関してはある程度の人数いるので比較的見つかりやすいですが、CFO、経理部長、法務部長、労務統括、M&Aの専門家等になってくると、求められる知識レベルも高度になってくるため、極々少数になります。
某大手の転職サイトでスカウトをかけようと思っても、ほしいと思える経歴・資格を保有している人が10名程度しかいないということもよくあります。
仮に素晴らしい人材を見つけられたとしても、そのようなハイクラス人材は何ヶ月もログインしていない人であったり、ログインをしてくれていても一瞬で転職先が決まったりして、なかなか接触できないというのが通常です。
このような極めて少ないハイクラス層を「大手上場企業及び有名ベンチャー企業と取り合う」という感覚を持たないといけません。
優秀な専門職人材は、転職サイトに登録した段階でスカウトが大量に来ますので、完全に『選ぶ側』です。
わざわざ自分で会社を探して、調べて、ビジネスモデルを理解して、という活動をしなくても、採用に本気を出している有名企業の方からどんどんアプローチしてくれますので何もしなくても情報が入ってきます。
その中から選べばいいだけなので、本当に楽に転職活動を行えます。
ベンチャー企業の経営層は、優秀な人材の割合とその優秀層が置かれている状況をよく理解した上で、獲得競争に挑まないといけません。
優秀な人材は紹介してもらう、応募してもらうのではなく『採りに行く』ものです。
この考え方ができるかどうかで成功確率が全然違ってきます。
そして、採りに行くためには、社長や役員が自らプロフィールを確認して、一通一通丁寧にスカウトを打つ方が良いです。
CEOやCFOが自らの名前で、各候補者に対して個別のメッセージを作ってスカウトを打つ方が返信率は明らかに高くなります。
また、人材紹介会社から紹介をもうら場合であっても、履歴書等を受け取った段階で経営層がチェックを入れるべきです。
そして、良い人材だと思えるような人が現れたら、一次面接等を飛ばして、最初から役員面接をするというスタンスでいた方が良いでしょう。
採用に本気で動いている会社は、ハイクラス人材の面接については最初から役員がでてくるので、1次面接が実質的に最終面接という状態になっていることが多いです。
そういうスピーディな採用を行うからこそ競争に勝てるのだと思うので、良い人材だと思える人に出会ったら、即動けるようにしておきましょう。
続いて、優秀層の報酬の適正値を考えてみましょう。
ベンチャー企業の経営者の皆様は、報酬に対しては比較的シビアにお考えの人が多いです。
それは、ベンチャー企業が今はまだ中小企業であるという認識をしっかりと持っているからです。
それ自体は正しいと思います。
ベンチャー企業の多くは大手上場企業と比較して、まだ資金力も乏しいですし、利益も出ていないことが多いです。
あくまでも一般的なお話として、2年に1回くらいのペースで資金調達をしないと生き延びられないというのが現実だろうと思います。
かといって営業利益が多く出るような保守的な経営をしていたらあっという間に競合他社に追い越され、市場から淘汰されていきます。
そのため、人件費を抑えつつ、何とか販管費(主に広告宣伝費)をかけてシェアを取りに行かないといけないと考えるのが通常になります。
しかし、時代は変わり始めています。
ほんの10年前まではまだまだベンチャー企業の給与は安く、ハイクラス層がベンチャー企業に転職するケースなんて極めて少数の事例しかありませんでした。
しかし今ではもうハイクラス層がベンチャー企業に転職するのは「普通」となっています。
毎月何十人ものハイクラス層がベンチャー業界に入ってきています。
人気のあるベンチャー企業に関しては、ハイクラス層に対して年収1,000万円以上の提示をしてくることも珍しくない状態で、高いときには2,000万円以上の年収提示を行っています。
この金額感は大手上場企業よりも高く、外資系コンサルなどの年収帯に近い金額となっています。
一部のベンチャー企業については、それだけ採用活動に力を入れているのです。
それらのベンチャーでは、ハイクラス人材に対して高額の年収を提示することを「当然のことだ」と考えている経営者が多く、多数の普通の人より、少数の優秀な人を採りたいという価値観で採用をしています。
そのため、ベンチャー企業が本気で中途採用をしたいと思っていて、かつ、ハイクラス層を採りたいのであれば、それ相応の報酬を提示しなければなりません。
特に、財務(CFOクラス)、経理マネージャー、法務マネージャー、CHRO、経営企画部長などになってくると1,000~1,500万円くらいの年収提示は当たり前になりつつあります。
あとはその年収帯に見合う人を見つけられるかどうかです。
1,000万円以上の年収はけして安くないので、企業からしてもなかなかの投資金額です。
それに見合うリターンを得られるかどうかは面接時の分析力と信頼関係の構築度にかかっています。
優れた人材と深い信頼関係を構築し、全力で働いてもらえる環境を作り出せなければ採用は失敗します。
優秀な人をただ採用すればいいという問題ではないので、非常に難しいところです。
優秀な人材というのは、単に能力や知識を持っているというだけでは足りず、そこに情熱が乗っていないといけません。
自社のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に強く共感しているかどうかが重要です。
客観的にはハイクラス層に属する人材なのに、いざ雇ってみると全然機能しないなんてことはザラにありますが、それは多くの場合、情熱不足が原因です。
経営者と当該人材との間で信頼関係が構築されておらず、MVVにも共感していないという状態なのです。
どんなに能力が高く、知識や経験が豊富な人材であっても、その人が「この会社のために何かできることはないか」と常に考え続けないと良いパフォーマンスは発揮できません。
言い換えると、経営者側がそう思わせられなければ採用は失敗します。
CEOがハイクラス人材の情熱と信頼を獲得できるかどうか。
そこにかかっています。
なお、CEOとの信頼関係が強ければ、高い報酬を提示しなくても入社してくれるケースがあります。
そういう成功例もベンチャーにはとても多いので、CEOは常日頃から自分のビジョンを語れるようにしておくと良いと思います。
続いて、面接の手順についてお話します。
ハイクラス層を獲得したいのであれば、まず採用に対する概念を変える必要があると思います。
通常、企業側は自分たちが「選ぶ側」だと思っています。
確かに原則はそのとおりです。
企業には候補者を選ぶ権利があります。
しかし、ハイクラス層には大量にスカウトが来ますので、彼らは圧倒的に強者のポジションにいます。
それにもかかわらず、自分たちは選ぶ側にいるんだぞという認識で面接を行ってしまうとすぐに辞退されます。
それに、横柄な人事担当者の噂はすぐに市場に浸透していく傾向がありまして、そういう企業の評判はどんどん落ちていきます。
私も知人・友人らから他社の人事担当者の良し悪しに関する話をよく聞きますが、やはり横柄な人が人事を務めている会社の評判は良くないです。
そういう噂は横の関係を通じて広まっていくので、面接で自分たちが「選ぶ側だぞ」という態度で接するのは避けたほうが良いです。
そういう意味では人事担当者を誰にするのかが極めて重要になってきます。
物腰が柔らかく、ゆっくり丁寧に話す誠実な人を任命しておくと効果的です。
その上で、面接の手順を「候補者視点」で組み替えていくべきです。
一般的によくある面接の手順は以下の通りです。
このような面接手順は、大手企業の一次面接でよくある手順なのですが、ハイクラス人材を逃してしまいやすい方法だと思います。
企業側にとっては応募者全員にテンプレート適用できるので非常に便利なのですが、候補者からするとベルトコンベアのように流されているだけなので、その会社への愛着が湧きにくいのです。
一方で、ハイクラス人材を頻繁に獲得できているベンチャー企業では、以下のような手順で採用プロセスが進んでいくことが多いです。
上記の一次面接において、志望意思が改めて確認できた場合は、以下の手順に進みます。
上記の手順を見てわかる通り、ハイクラス人材を上手に採用できている企業では、候補者側の立場に立って手順が構築されています。
そもそも、候補者と企業には企業情報に関して情報の非対称性(情報格差)が存在しますので、候補者は常に情報不足に陥り、大きな不安を抱えやすい立場にいます。
その不安を取り除くことに全力を注いでいるのです。
会社の状況や一緒に働くメンバーのことをしっかりと説明し、まずは自社のことをよく知ってもらう。
その上で志望意思を再確認し、選考に入っていくというやり方です。
ここまで候補者目線で丁寧に面談を実施していくと、候補者側はその会社のことを深く理解できるようになります。
その結果、愛着を持ち始め、志望度合いを強めていきます。
そして、面談を複数回実施することで様々なメンバーとも関わりを持てるため、心理的な安全性も高まっていきます。
多い会社では短期間(2~3週間程度)に5回以上の面談を実施していますが、もっと行っても良いです。
そこまで面談を重ねた上でオファーを出すと内定辞退をされる確率は極めて低くなります。
多くの場合はオファーレターを出した瞬間にその場でサイン・承諾を得られます。
また、面談の中で、自社の弱点やダメなところも全部さらけ出しているので、入社前と後で心理的なギャップを感じる可能性も低くなり、組織に定着しやすくなります。
このような面談手順は、ベンチャーの中でも、まだ知名度が低く、競争力が乏しい企業にこそ実施して欲しい手順です。
大手やライバル企業に勝つためには、候補者との信頼関係の深さで勝負するしかないからです。
最後に、人材紹介会社との関わり方についてお話します。
今の時代、人材紹介会社はいくつあるかわかないほど大量に存在しています。
なぜなら、士業と異なり独占資格等もないので、一定の要件を満たせば誰でも人材紹介会社を立ち上げることができるからです。
数多くある人材紹介会社の中で、本当の意味でのハイクラス人材専門のエージェントは、100人に2~5人いるかどうかです。
経営管理部門のハイクラス層を専門としているプロフェッショナルとなると全体の1%もいないと思います。
そもそも、経理・財務・法務などの専門職は、市場全体でみると数が極端に少ない上に、行っている業務自体が高度に専門的なので、その部分の業務のレベル感を理解できているエージェントが極端に少ないのです。
そのため、誰がハイクラス人材なのかという点を見極められていないエージェントが多数派です。
だからこそ、もしベンチャー企業が本気でハイクラス人材を欲するのであれば、まずはプロのエージェントを見つけるところからスタートしないといけません。
CFOがほしいならCFOという職種を深く理解したエージェントである必要がありますし、法務部長なら法務領域に詳しいエージェントが必要です。
これらを見つけられるかどうかで勝率がだいぶ変わります。
経営管理部門のハイクラス層については、そもそもの人数が圧倒的に少ないという問題を抱えているので、転職市場にほとんど出て来ず、より難易度が高くなります。
もっといえば、ハイクラス人材の多くは、転職サイトに登録せずとも、様々な会社及びエージェントから直接的に声がかかるので、転職先に困らないという状況にいます。
そのような人材に接触を持つためにも、プロフェッショナルエージェントと繋がりを作っておくことが重要なのです。
一流のエージェントは、過去に接点を持ったハイクラス人材のプールを持っているので、案件に応じて直接的に声を掛けることができます。
候補者側の転職意欲との関係でタイミングさえあえば、通常出会えないハイクラス人材に出会うことができます。
そういう横の繋がりを多くもったプロのエージェントと仲良くなれれば、ハイクラス層を採用しやすくなります。
なのでもしハイクラス層を本気で獲得したいのであれば、まずはプロフェッショナルエージェントを探すと良いです。
そういうプロのエージェントに「この会社は魅力的な会社だ」と思ってもらえれば、優先的に紹介してもらえる可能性が高くなります。
ということで今日は中途採用に成功する方法について私見を述べさせていただきました。
採用で悩むベンチャー経営者の皆様の参考になれば幸いでございます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりご連絡ください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。