本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回ご紹介する「サーバントリーダーシップ」は、ロバート・K・グリーンリーフ(Robert・K・Greenleaf, AT&T社のマネジメント研究センター長)が、1977年に提唱した理論です。
しばらくの間はあまり話題にもならず、リーダーシップ論の研究者に取り上げられることもなかったのですが、2000年代に入ってからは一気に注目を集めることになり、今でも多くの論文が執筆されています。
まだ研究途中という感じの理論ではありますが、実務で役に立つと思われるので、ここで紹介させていただこうと思います。
サーバントリーダーシップとは、リーダーは、フォロワー(以下、単に「部下」といいます。)に対して奉仕する召使(Servant)だと考えるリーダーシップ理論です。
サーバントリーダーシップが提唱される前のリーダーシップ論の主流は、リーダーが部下に対して、一方的に影響を与えて、業績を達成していくということが前提となっていました。
つまり、リーダーが、部下に対して言葉や態度で尊敬を集め、部下のやる気を起こさせ、従わせる(奉仕させる)というニュアンスです。
そのため、サーバントリーダーシップという考え方は、これまでの主流とは真逆の発想をしています。
サーバントリーダーシップでは、あくまでもリーダーは部下の従者であり、召使いであり、奉仕する側であると考えます。
そして、リーダーは自分の利益や組織の利益よりも、部下の利益や成長を優先します。
部下の成長や学習のために、自分に何ができるのかを考え、常に奉仕し、助けるという役割を担っています。
その結果、部下はリーダーに対して信頼を抱き、同じ方向を向いて活動してくれるようになっていきます。
また、サーバントリーダーシップでは、リーダーは部下に対して利他的な活動を促し、他人のために尽くす奉仕の精神でチームを活性化させ、業績を達成していくとされています。
このように、今までのリーダーシップ論にはない非常に面白い発想をする理論です。
次に、サーバントリーダーの役割を解説していきましょう。
サーバントリーダーは、以下の3つの役割を担っています。
以下、簡単に解説していきます。
組織が上手く行っていない組織というものは、たいてい部下が組織に対して絶望しています。
などと考えてしまっていることが多いです。
このような精神状態では、良い業績が出せるはずがないですし、成長も見込めないでしょう。
そこでサーバントリーダーは、部下に対して様々な情報や学びの機会を提供し、支援し、時間と労力をかけて励まし続けます。
そうすると、部下の心理状態に少しずる変化が見られます。
という実感が芽生え始めます。
その結果、組織への期待値が上がっていきます。
サーバントリーダーは、このようにして部下の期待値を上げる役割を担っています。
次に、サーバントリーダーは、部下を適切な方向へと導くファシリテーターとしての役割を担っています。
過去のリーダーシップ論では、主にリーダーは、部下に対してビジョンを示して、指示命令によってそこに向かわせるという考え方が主流だったのですが、サーバントリーダーは一方的な指示命令をしません。
あくまでも部下の伴走者として共に走り、適宜適切な助言を与え、部下を導いていく役割を担います。
随時部下の思考を促し、自発的に考え、行動できるように育てていくイメージです。
人を育てるというのは本当に時間も労力もかかる行為なので、奉仕の精神がないとなかなかできないことです。
最後に、サーバントリーダーは、部下の進むべき方向(ビジョン)を示して、部下が自発的にそこに向かって歩み出せるように随時支えます。
そして、部下がビジョンに向かって突き進めるように、様々な組織制度を整え、仕組みを作っていく役割を担っています。
部下がビジョンの実現に向けて学習したり、努力したりする行為を推奨し、支援できるような体制づくりがサーバントリーダーの役割です。
以上3つがサーバントリーダーの役割です。
最後に、サーバントリーダーの特徴について解説いたします。
サーバントリーダーは、以下の10の特徴を有していると考えられています。
以下、一つずつ簡単に解説していきます。
サーバントリーダーは、部下の話を真摯に聴くという傾聴力を有しています。
そして、部下の話に共感を示し、良い意見であれば積極的に取り入れるという活動をします。
一方で、一般的なリーダーの多くは、部下の話を聞くという行為をしません。
部下がまだ話しているのに途中で遮るように自分の話をし始める人の方が圧倒的に多いでしょう。
こういうリーダーの下で働いている部下は、リーダーに対して信頼を抱くことはほとんどありません。
ここに一般的なリーダーとサーバントリーダーの大きな違いがあります。
共感力はそのままの意味で、他人の気持ちや情緒に対して共感する能力を意味します。
サーバントリーダーには、この共感力に長けた人が多いようです。
一般的には、経営層に行けば行くほど、扱う金額や論点が大きくなっていくため、徐々に一般人の感覚から乖離していきます。
その結果共感力を失ってしまうことが多いので、経営層は意図的に共感力を磨く必要があります。
経営はチームプレイで、実際の現場で働くのは一般の人達ですから、共感力のないリーダーのままだと、誰も付いてこなくなります。
組織運営を行う以上、人間同士の意見の対立や小さないざこざは避けられません。
サーバントリーダーには、そのような苦しい状況に陥った部下を癒やす力が求められています。
しかし、実際のところどうやって癒やせば良いのかについては、テキストや文献には書かれておりません。
気づく力は、自分と組織を客観視できる能力のことを意味します。
優秀な経営者(リーダー)の皆様は、意図的に他社の人間と多く関わりを持とうとします。
そうやって他社の情報を仕入れて、自社と比較して客観的な視点を保っています。
それと同じように、マネジメント能力に優れた管理職の皆さんは、部下と積極的に話をして、現場で今起こっている生の情報を仕入れ、自組織を客観視する機会を意図的に創出しています。
サーバントリーダーは、上記のような活動を通じて自己や自社を客観視して、様々なことに気づく力を持っていることが多いようです。
説得力とは、部下に対して丁寧な説明をして、納得した上で活動してもらう能力のことを意味します。
一般的な意味での「説得力」は、相手を説き伏せるというイメージがあるかもしれませんが、サーバントリーダーに求められる「説得力」は丁寧な説明スキルと相手に納得してもらうスキルのことです。
部下がリーダーの言っていることを正確に理解し、納得してくれた方が圧倒的にパフォーマンスも良くなりますから、説得力を身につけるといろいろと便利です。
次に、概念化力を説明したいのですが、この特徴は意味がよくわからない内容でした。
英語の文献を読んでも、日本語で読んでも「ん?」と思う記述が多かったので、おそらく多くの研究者及び提唱している本人ですらもよくわかっていないのだろうと思います。
少なくとも翻訳もしくは言語化そのものに失敗しているように見えます。
それでも無理矢理解釈して説明すると、概念化力というものは、長期的視点と短期的視点のバランスを取りましょうということだろうと思います。
一般的なリーダーは、目の前の業績目標に注視し、それに集中します。
それ自体は悪いことではないですし、短期的な目標の達成の積み重ねによって長期的な目標が達成されるので、むしろ健全だと思います。
しかし、目の前の短期的な目標のみにこだわってしまうと、いつの間にか本質を見失ったり、不正に手を染めてしまったりすることがあります。
過去、日本でも繰り返し発生している粉飾決算等の不正行為も目の前の売上目標を追い求めた結果起きています。
だからこそ、サーバントリーダーは、長期的な視点を忘れてはいけないのです。
長期的なビジョンを持って、日々そのビジョンを再確認し、かつ、目の前の業務にも集中する。
長期と短期を行ったり来たりして、バランスを取る能力が必要です。
その上で、長期的目標と短期的目標の繋がりや論理的流れを言語化し、部下に対して「概念として」伝える能力が必要でしょう。
この一連のプロセスが「概念化」という特徴だと解釈しています。
概念化は英語で “conceptualization” なので、計画策定や定式化を意味する “formulation” と近い意味です。
そのため、短期的視点と長期的視点を両方持って、双方を矛盾なく説明する能力のことを言っているのだろうと解釈しました。
先見力は、将来起こりうる結果を予見する能力のことをいいます。
過去の経験や教訓を基礎として、将来起こりうる結果を予測し、対応する。
サーバントリーダーはそういう能力に長けているようです。
実務家の一人として思うのは、たしかに良きリーダーは先見力がとても優れています。
特にマネジメント領域で活躍しているリーダーは、部下が今後どのような失敗をするのか、どう成長していくのかを予め予想する能力に長けています。
これは、過去に様々な部下と深く関わってきた経験があることに加え、今現在の部下に対しても強い関心を持って接しているからできることです。
サーバントリーダーは、親並の関心を持って部下と接する人が多いようなので、そういう愛情深いリーダーなのでしょう。
スチュワードというのは、執事や財産管理人という意味です。
スチュワードシップというと、執事としての責任、管理者としての責任という意味になります。
日本語では「受託責任」と訳されることが多いようです。
ただ、この特徴の説明でも迷走が見られます。
原典そのものの説明力の低さ(言語化力の低さ)が原因だと思います。
そして、私が調べた限りでは、この特徴を明確にわかりやすく説明できている文献は見当たりませんでした。
新しい理論はたいてい抽象度が高いものが多いので、今の時点ではハッキリとしたことはよくわかりません。
ただ、思い切って解釈をするとすれば、以下のような内容になります。
まず、リーダーは、日本で言う「取締役」と同様に、会社から信託を受けた立場で、リーダーという「役割」を任された人です。
そして、サーバントリーダーシップ理論では、リーダーは、部下の執事であり、部下に尽くすことが使命です。
だからこそ、部下の執事として、徹底して部下に尽くし、部下の成長を通じて、社会により大きな利益をもたらす責任があります。
サーバントリーダーは、そのことを忘れず、常に実行しているという特徴を持っている、ということだと思います。
この特徴は、部下の成長に対して強いこだわりを持っているという意味です。
サーバントリーダーは、部下の成長に対して強い関心・こだわりを持っていることが多く、部下の成長に貢献することを好みます。
部下の個人的な成長のために、自分の時間や労力を投じ、場合によってはプライベートな時間も使って部下のために尽くします。
部下一人ひとりの意見に耳を傾け、その価値観や意見を尊重し、必要に応じて取り入れていきます。
さらに、組織運営上の重要な意思決定に部下を参画させ、意見を出すことを促します。
そうやって成長の機会を次から次へと提供していくという特徴を有しています。
サーバントリーダーは、組織の中にコミュニティを創り出すという特徴を持っています。
ここでいう「コミュニティ」とは、人と人が素直に意見を言い合える集団のことを意味します。
現在でいう「心理的安全性」に近い概念です。
部下と良好なコミュニティを形成して、良い関係を長く保つことに長けたリーダーということでしょう。
長々と解説していきましたが、サーバントリーダーシップの概要は伝わりましたでしょうか。
まだ新しい理論なので明確さに欠く部分が多いですが、これから10年くらいかけて理論が精錬されていくと思われます。
重要な点は、リーダーは部下に尽くす存在で、部下に一方的に指示命令を出したり、統率管理したりする存在ではないという点です。
サーバントリーダーシップ理論は、一般的に考えられているリーダー像とは逆の発想なので、非常に面白い理論です。
おそらくこれからの組織運営ではサーバントリーダーが主流になっていくと思われるので、若手の皆さんは是非参考にしてみてください。
ということで、心理学理論の紹介シリーズはこちらの記事で終わりです。
次回以降は経営学理論のご紹介をしていく予定です。
最後までお読みいただいて、誠にありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。
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内容に応じて担当者がお返事させていただきます。