今回は経理のキャリアの類型と、それぞれのメリット・デメリットについて考えていきたいと思います。
これから経理を目指そうと思っている皆様の参考になれば幸いです。
会計という学問は事業の全てに絡んでくるので、すべてのキャリアパターンを網羅的に洗い出すことはできそうにありませんが、代表的なものをいくつか挙げて、それぞれ簡単に解説していこうと思います。
私が考える経理の代表的なキャリアは以下のとおりです。
なお、最初に入った企業からまだ転職はしていないということを前提にしています。
以下、簡単に説明させていただきます。
このキャリアは、私の中では最高のスタートだと思うキャリアです。
超大手企業の多くは、そもそも就職難易度が高く、有名な大学を出ていても極一部の人たちしか就職できません。
そういう会社に運良く入ることができて、しかも経理という専門職に就けるのは運が良すぎるくらい良いです。
イメージとしては、みずほやUFJなどのメガバンクの経理、トヨタ・SONY・野村證券・Panasonic・NTTなどの超有名大手企業の経理をイメージしてください。
転職市場でもほぼほぼ出会えないレアな人材です。
このキャリアは、税理士事務所での経理代行業務等(記帳代行・確定申告書作成など)からスタートするキャリアです。
事例としては意外と多いので、候補として挙げています。
税理士事務所以外でも、公認会計士らが開業している会計事務所なども含まれます。
このキャリアは比較的珍しいですが、私の周りには比較的多くいるので候補に入れております。
外資系にも様々ありますが、例えばデロイト、PwC、BCGなどの外資コンサル、スターバックスやコストコなどの小売業、その他にもAMEX、P&G、ユニリーバなどの経理をイメージしてください。
新卒で入ってこれらの有名外資系企業の経理につける人は、宝くじでそこそこの額を引き当てるくらいの運を持ってます。
このキャリアは、経理キャリアとしては比較的数が多い層だと思います。
中堅企業又は規模としては大手に準ずるけど、超大手企業ほどの知名度はないというクラスの会社で経理キャリアをスタートするパターンです。
例えば、トヨタ、SONY、NTTなどの子会社や関連会社などで経理を担当する場合が該当します。
この層は採用人数がある程度多いので、新卒でも経理になれる可能性がある層です。
新卒から経理になりたいと思っている若手には狙い目です。
最後に、ベンチャーを含む中小企業で経理としてのキャリアをスタートさせるケースがあります。
日本の企業の99%は中小企業なので、全体で見ると最も多いパターンです。
ベンチャーや中小企業は常に人材不足で、経理や財務などの専門職を採用するのに苦労しています。
それゆえ、未経験でも運が良ければ経理になることができるコースです。
簿記2級に受かってすぐの段階でも経理になり得る可能性あるので、若手にとってはチャンスが多いゾーンです。
では、上記の類型ごとに、そのキャリアのメリット・デメリットを考えていきます。
私の個人的な見解として書いていきますので、ご自身でも調べていただいて、自分なりのメリット・デメリットを検討してみてください。
超大手企業で経理キャリアを積むメリットはたくさんあります。
まず福利厚生が充実しているので、非常に効率よくお金を稼げます。
また、後々転職を考えるときもその会社のネームバリューを味方につけることができるので「おそらく優秀な人だろう」と思ってもらいやすいです。
さらに、超大手企業の場合、事業規模が非常に大きいので、普通の経理では経験できないような規模感の会計処理を経験することができます。
場合によっては国際会計にも触れられるでしょうから、とても貴重な経験を積むことができるでしょう。
一方で、デメリットもあります。
まず、超大手企業では、社員の長期的なキャリアを見据えた制度設計がなされていることが多いため、前述のとおり福利厚生が充実しています。
そうなると待遇面でその会社を超えられる会社なんて数える程度しかないでしょうし、長くいればそれだけメリットも多くなっていくので、転職という選択肢が無くなっていきます。
良い意味でも悪い意味でも、牙が抜かれていきます。
また、多くの超大手企業では、内部統制がしっかりと構築し終わっていて、毎年そこまで大きな変化はないので、業務の細分化やルーチンワークが確立されています。
極論を言えば、経理だけでも相当な数のスタッフがいるので、新卒でも3~6ヶ月程度で仕事ができるような仕組みがすでに整っていて、細分化された仕事をこなしていけばそれで良いという状態が出来上がっていることが多いです。
これは経営者視点で見ると非常に素晴らしいことだと思いますし、コストを抑えられてもいます。
しかし、経理専門職として見ると、整い過ぎている組織というのは、学びが少なくなりやすいのです。
もちろん超大手企業の場合、各種研修制度が充実しているので、擬似的な経験を積もうと思えば積めるのですが、当事者として危機的状況を経験することや難易度の高い業務を早期に(若いうちに)経験することはあまり期待できません。
そして、細分化された仕事をこなすだけでは、事業全体が見えづらいので、経理としての本当の価値は高まっていきづらいです。
大きな会社に長く居続ければ、特定の業務をこなす作業員としては有能になっていくと思いますが、経営全体を見て判断できるような経営人材にはなりづらいかなと思っています。
もし経営全体を見るような重要なポジションに就きたいのであれば、優秀な技能を持った社員が多くいる中で順調に出世していかないといけないので、競争が激しく時間もかかります。
私の知人にも10年以上超大手企業の経理を続けている人がいますが、特定分野の業務を続けてきただけなので、それ以外の業務の経験がほとんどありません。
ゆえに、事業会社の経理のプロとは呼べないレベルにいます。
彼が今転職した場合、おそらく採用された後に非常に困ったことになるでしょう。
すべての超大手企業でそういう事態に陥るわけではありませんが、組織が大きいと上記のようなリスクも出てきます。
税理士事務所(主に記帳代行等と仮定する)に勤める最大のメリットは、様々な企業の経理実務と確定申告書作成の経験を積めるという点です。
これは極めて有益な経験で、どこの事業会社にいってもすぐに活用できるスキルが身につきます。
記帳代行によって得た仕訳スキルや確定申告書の作成スキルはとても重宝するはずなので、税理士事務所で数年間経験を積めば、おそらくどこの中小企業にいっても経理としては困らないでしょう。
そのため、キャリアのスタートが税理士事務所というのは、とても良いスタートだと思いますし、若手の皆さんにもオススメしたいコースです。
一方で、デメリットもいくつかあります。
まず一点目として、税理士事務所の顧客の多くが、中小規模又は個人の事業者であるという点です。
その場合、経理実務が税務会計にかなり偏っていきます。
未上場の中小企業には財務諸表の開示義務がないため、確定申告書を作成するためだけの経理処理になりやすいので、税務会計よりの会計処理能力だけが磨かれていきます。
そのため、PL科目に注力し過ぎて、BS科目の正確性が犠牲になることが多いので注意が必要です。
もし、先々上場企業や大手企業での経理を志しているのであれば、財務会計による経理処理(日本会計基準又は国際会計基準に準拠した処理)を身に着けておかないといけないので、別途勉強と経験が必要になってきます。
そうだとすると、先々大手や上場企業での経理を目指すことを考えれば、10年も20年も税理士事務所で記帳代行だけをやっていくというキャリアはあまり得策ではないと思います。
3~5年程度を目処にして、キャリアアップを図った方が良いでしょう。
なお、先々税理士になろうと思っているのであれば、税理士事務所で長く経験を積むのは全く問題ないと思います。
次に、記帳代行や確定申告書作成はとても飽きやすいというデメリットもあります。
仕訳作業と書類作成が主な仕事になってくるので、毎日代わり映えしない日々を過ごすことになります。
事務所の規模にもよりますが、多くの税理士事務所の顧客は中小企業なので、難しい会計処理もあまり出てきません。
器用な人なら半年もすればほぼすべての会計処理を記憶できてしまうでしょうから、すぐに飽きます。
安定的な単純作業が好きな人ならば、むしろメリットだと思いますが、冒険心が強い人とか、成長意欲が強い人にとっては少し辛いものがあるかもしれません。
さらに、税理士事務所は原則として報酬が安く、かつ上がりにくいというデメリットもあります。
税理士事務所の多くは個人事務所又は小規模法人なので、そこまで財源に恵まれているわけではありません。
むしろ、厳しい市場環境の中で、頑張って経営を行っていることの方が多いと思います。
そんな中で、記帳代行の担当者や事務所内の従業員に、高い報酬を出せるかというと難しいでしょう。
大手企業の経理担当者と比べると、比較的安い報酬になることが多いので、長く勤めるという視点で見ると、若干難しいところがあるかもしれません。
また、税理士事務所や会計事務所のボスとの相性もデメリットとなり得ます。
もしボスと馬が合わないなら、長く働くことは難しいかもしれません。
逆に相性が良ければ、非常に働きやすい職場になると思います。
外資系企業の経理の最大のメリットは、日系企業と比べて報酬が高いことが多いという点です。
ほぼ同じレベルの業務だとしても、年収で100万円~200万円程度の差が出ます。
もちろん、外資系なのに中身は日系という企業もありますが、基本的に年収については外資系の方が高いです。
また、日系企業ではなかなか積めない経験が積めるというのも大きな魅力です。
外資系企業の多くでは、本社機能が海外にあります。
それゆえ、本社とのやり取りは原則として英語でなされ、かつ、国際会計基準に則った会計処理をしていくことになります。
これらは極めて市場価値の高い経験で、後々転職をする際にも高く評価してもらえることでしょう。
一方でデメリットについて考えてみると、あまり思い当たりません。
強いて挙げるとすれば、日系企業に戻りづらくなるという点と、クビになる可能性が日系企業よりは高いという点だと思います。
まず、日系企業に戻りづらくなるという点については、経済的・心理的な理由に基づくものが多いです。
外資系は日系と比べると自由度が高い働き方を認めていることが多く、報酬も高いです。
そして、外国人と関わる時間も比較的長いので、海外への憧れが強い人や外国人とのコミュニケーションが好きな人にとっては居心地が良い場所です。
そのような恵まれた環境で長く働くと、日系企業に行こうという気が起こらなくなると思います。
現に私の知人らはもう半分外国人です。
「日系企業に戻るくらいならアメリカに移住する」と言っているので、よほど居心地が良いのだろうと思います。
そう考えると、むしろメリットと言っても良いのかもしれないです。
次に、クビになる可能性が日系企業よりは高いという点についてですが、これは外資系全般に言えることです。
日本では、労働基準法や労働契約法があるので、簡単にはクビにできません。
しかし、基本的に海外では労働者を過度に保護するような法律は無いので、労働契約の解除は原則自由です。
アメリカなんて特にそうで、簡単にクビにできます。
そのため、日本でも比較的頻繁に退職勧奨が行われていますし、実績が出せない人については、自主退職してほしいと言われることもよくあります。
法的な話でいうと、外資系企業であっても日本では簡単にはクビにできませんが、外資系に勤めるのであれば、多くの人が転職を前提に働いているので、退職勧奨くらいのことは日系企業よりは起こりやすいものだと認識しておいた方が良いでしょう。
中堅企業又は一般的な大手日系企業での経理は、日本では比較的多い事例です。
このキャリアのメリットとしては、まず安定が挙げられると思います。
超大手企業並とは言いませんが、中小企業と比べると遥かに安定した身分が得られます。
また、このクラスの企業の場合、上場していることも多いですから、上場企業で働いているというステータスも得られます。
これは、住宅ローンを借りるときなどにも有利に働くことです。
そして、報酬もある程度もらえます。
外資系企業や超大手企業と比べると若干見劣りすると思いますが、それでも平均よりは高い報酬になることが多いので、程よく稼いで程よく生きるというスタイルには合っています。
さらに、社内の制度や福利厚生もある程度整っていることが多いので、長く働くには適した場所だと思います。
一方でデメリットとしては、差別化が図りづらいという点がまず挙げられます。
一生その会社で働くのであれば全く問題のないデメリットではあるのですが、いざ転職市場に出ないといけなくなったときに、これといって強い特徴がないキャリアになりやすいです。
けして悪くはないのですが、決め手にかけるという状況になりやすいので、もし転職をするのであれば、強めの資格で能力を証明するか、経験して得た実務スキルを具体的に記載するなどしておくほうが良いと思います。
もっとも、いきなりCFOや部長クラスの役職を狙わなければ、企業としては最も欲しい層(ミドル層)の人材だと思うので、比較的転職自体はしやすい層ではあります。
28歳~32歳程度までであれば転職先を見つけるのは比較的容易です。
デメリット2つ目としては、平均よりちょっと上の待遇であるがゆえに、転職への踏ん切りがつかないことが多い点です。
今のままで良いのかという漠然とした不安を抱えつつも、ある程度安定した身分であるがゆえにそこまで強い危機感を抱けず、何年も悩んで結局転職をするというリスクを取れないというケースが多いです。
気持ちはよく分かるのですが、一歩間違うと危険なキャリアとなり得ます。
今いる会社が順調に発展していき、自分自身も順調に出世していけるのであれば全く問題ないのですが、例えば業績が傾いてリストラが開始されたり、出世街道から外れてしまって、そのときには転職をするには年齢が行き過ぎているという状況に陥ったりした場合は途端に厳しい人生になります。
そうならないようにするためにも、キャリアについて日頃から考えておくべきです。
最後に、ベンチャーなどの中小企業の経理について考えていきましょう。
まずメリットとしては、幅広い経験が積めるという点があると思います。
特にベンチャー企業では、経理のメンバーが少ないので、経理作業のほぼ全てを少人数(下手すると1人)で処理していかないといけません。
ベンチャーの経理を担当していると、1年で大手の3~5年分の経験値を積めてしまうこともよくあることです(激務になることも多い)ので、あっという間に独り立ちできます。
場合によっては、経理がCFOの役割の一部やM&Aの担当などを兼務したり、法務の一部もこなしたりします。
私の知人にベンチャーの経理を5年ほど勤めていた方がいるのですが、彼は経理・財務に留まらず、法務もIRも労務も総務も人事も全部一人でできます。
おそらくどこの会社に行っても重宝されるでしょうし、わからないことの方が少ないと思うので、一生仕事に困らない人生を送れるでしょう。
ベンチャーにはこういうスーパーマンが時々いるのですが、私の知る限りだと元経理の人が圧倒的に多いです。
経理の役割を果たすためには、会社全体を把握する必要があるため、短期間でキーマンになりやすいのだろうと思います。
一方で、大きめのデメリットもあります。
まず、ベンチャーの場合は、ほぼ無名の中小企業と同等です。
したがって、キャリアとして箔が付きません。
そのベンチャー企業が有名になって行ってIPOを果たすまでに至ったら、IPO実務の経験者として市場価値が跳ね上がるのですが、IPOもできずに鳴かず飛ばずで終わった場合、キャリア的にはあまりプラスにはなりません。
様々な職種の経験値が手に入る可能性はあるのですが、それを得たとしても、能力を証明する手段が乏しいので、若干大きめのリスクを背負うことになります。
また、ベンチャー及び中小企業の多くは、あまり売上も多くないため、利益もその分小さいことが多いです。
それゆえ、経営は不安定で、数年後にどうなっているかはわかりません。
それに、スタートアップのほとんどでは、資金そのものが足りていませんので、日々資金繰りに悩まされることになります。
順調に資金調達ができればいいですが、大抵の会社は資金調達に苦労しているので、経理はその資金調達作業の中心的な役割を担うことになると思います。
そのため、なかなかハードな業務が続くことになると思います。
さらに、中小企業であるがゆえに、給与面での待遇も超大手企業ほどには良くありません。
最近のベンチャーの一部では、大手企業に引けを取らないほどの待遇で専門職人材を採用しているところもあるのですが、少数派です。
そのため、ベンチャーなどの中小企業でのキャリアを積む場合は、その会社の経営者の理念に強く共感したとか、短期間で一気に成長できる環境があるとか、IPOをする蓋然性が極めて高いなどの事情が必要になってくるだろうと思います。
以上が経理のキャリア類型とそれぞれのメリデメです。
細かく書いていくとまだたくさん書き出す事はあると思いますが、概要は伝わったかと思います。
新卒時点でどこの会社に内定をもらえたかでいろいろと変わってくるので、自分でコントロールできない部分も多いですが、各類型のメリデメをきちんと理解していれば、狙ってポジションをもぎ取ることは可能です。
自分の将来像をイメージして、最適な選択をしてください。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
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内容に応じて担当者がお返事させていただきます。
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