ベンチャー企業の9割くらいはIPOを目指していると思います。
しかし、その中で実際にIPOできるのはほんの一握りだけですし、IPOの準備を始めてから成し遂げるまで、どんなに早くても2~4年くらいかかります。
普通は5年くらいかけてやっと成し遂げられることです。
それゆえに、難易度がとても高く、運も必要になってきます。
そんなIPOですが、ベンチャーで現に働いている人たちでも、その詳細を知る人は少数派です。
そこで今回は、IPOの概要とそのメリット・デメリットについて、簡単に解説させていただこうと思います。
IPO(Initial Public Offering)とは、日本証券取引所等が管理する株式市場で、自社の株式を新規公開し、一般投資家が自由に株式を売買できるようにすることをいいます。
IPOの前と後で大きく異なる点は、株式会社がプライベートカンパニー(自己または同族等で管理する会社)から、パブリックカンパニー(公の機関であり、会社)に切り替わる点です。
パブリックカンパニーの方が当然に責任は重いので、様々な法的・倫理的規制を受けることになります。
そのような規制を受けると経営がやりづらくなるはずですが、それにも関わらず、なぜ多数のベンチャー企業はIPOを目指しているのでしょうか。
そのメリットを見ていきましょう。
IPOの主なメリットは、以下のようなものがあります。
以下、一つずつ簡単に解説させていただきます。
ベンチャー企業にとってのIPOの最大のメリットは、資金調達の多様化です。
前提として、ベンチャー企業の上場前の資金調達手段は、極めて限定されています。
VCやエンジェル投資家からの資金調達か、銀行等からの借金しかありません。
しかし、信用力が低い未上場ベンチャーの場合、銀行等は融資を渋ることが多いので、実質的にはVCやエンジェル投資家を頼るしかありません。
これが上場企業であれば、株式市場において新株を発行することによって資金を調達することができるようになります。
もちろん業績が悪いと誰もその株式を買ってくれないので、資金調達ができない可能性もありますが、しっかりと業績を出し続けられれば、多額の資金調達を行うことが可能です。
さらに、上場によって社会的信用が増しますから、銀行等からの借り入れもしやすくなります。
ベンチャーの事例はそこまで多くないですが、社債という手段も成し得るかもしれません。
このように、資金調達を多様化して成長を加速させたいベンチャーにとっては、IPOは極めて重要な通過点となります。
続いて、先程も少し触れましたが、上場によって知名度と信用力が向上する点が挙げられます。
まず知名度については、上場時に様々なメディアに取り上げてもらいやすくなるので、それによって知名度が上がります。
上場後に株価が上昇して人気株になれば、より多くのメディアに取り上げてもらえるので、それでまた知名度が上がります。
また、上場企業の場合、テレビCMやメディアの広告審査に通りやすくなる傾向があるため、上場後に知名度を上げるための広告宣伝活動も、未上場時よりはスムーズに行えるようになります。
次に信用力については、上場企業の仲間入りを果たすことで、一定の内部統制システムが構築され、財務情報も開示されているため、ある程度信用できる会社であるということが証明できます。
それによって銀行等が融資をしてくれやすくなります。
これは従業員にとってもメリットをもたらします。
それは、住宅ローンの審査に通りやすくなるというメリットです。
未上場ベンチャー企業は、銀行等からすればただの中小企業でしかなく、財務情報の信用性も低い状態です。
そのため、住宅ローンの審査ではかなり厳しく審査されます。
ローンの金額にもよりますが、東京でマンションを買うためにはそこそこ大変な思いをしないといけないでしょう。
他方で上場企業になると、監査法人による監査を経た財務情報が公開されていて、信頼度が増すと考えられているため、未上場の頃よりは住宅ローンの審査に通りやすくなります。
若い人材が多いベンチャー企業といえども、従業員の一部は家を買う年齢になりますから、そういう人たちにとっては重要度の高い関心事だと思います。
創業者にとっての最大のメリットは、創業者利益の獲得です。
ゼロから会社を立ち上げ、様々なリスクを取って経営を実施してきた創業者たちが、IPO時に自分の持ち株を売ります。
それによって得られる利益が創業者利益です。
この利益は、多いときは数十~数百億の現金を手にするのですが、ベンチャー企業のIPOは小規模上場が非常に多いので、現金としては2~5億円程度の利益獲得が多いかと思います。
あとは株式という名の資産となりますが、創業者は自社株を簡単に売買できない立場にいるので、流動性は低いです。
それでも一般人からすると多額の資産ですが、おそらくベンチャー企業の経営の実態を理解すると、意外と安いと感じるでしょう。
それほど、ベンチャー企業の経営はリスクに溢れています。
IPOまでこぎつけられるベンチャー企業は極々少数なので、多くのベンチャー経営者は借金を背負って生きていくことになります。
IPOできなくても、会社が儲かっているのであれば全然問題ないのですが、赤字企業が多数の中小企業では、利益が出ることの方が珍しいかもしれません。
そう考えると、創業者利益の獲得は、称賛されるべきものだと思います。
また、私の知る限りでは、創業者利益で獲得したお金を、結局また事業に使う経営者が多いので、実態としては大して儲かっていないことが多いという印象です。
最後に、従業員側のメリットとして、福利厚生の充実が挙げられます。
中小企業から上場企業に変化していく過程で、様々な制度を整えていくフェーズに入ります。
基本的にはその頃に福利厚生制度が拡充されます。
より働きやすいように様々な補助制度などが整えられていくので、初期からいたメンバーにとっては嬉しい変化だろうと思います。
ただし、すべてのベンチャー企業が福利厚生を充実させるわけではないので注意が必要です。
ホワイトなベンチャー企業はほぼ間違いなく福利厚生の充実を図りますので、それを一つの指標にしてみてもいいかもしれません。
次に、IPOのデメリットについても見ていきましょう。
IPOのデメリットも様々なものがありますが、私が特に重要だと考えているデメリットは、以下の6つです。
以下では、それぞれを簡単に解説していきます。
IPOまでにかかる期間の長短によって、IPOまでにかかる費用に数倍の差がついてしまうため、一概にこのくらいかかりますということは言えませんが、見てきた範囲で申し上げると、一般的な小型のベンチャー(従業員100人未満)が、IPOの準備を始めて2~3年で上場まで行けたケースで、大体1億~2億円ほどかかっています。
会社の規模が大きくなればなるほど高くなるため、従業員数や拠点数が増えれば3億~5億円くらいかかると思っておいて良いかと思います。
上場を目指すにあたって、IPOコンサル、監査法人費用、内部統制構築費用など様々なコストが継続的に発生するため、どうしても億単位のお金が抜けていきます。
上記に加えて、IPO実務に耐えられる優秀な人材を揃えないといけないので、人件費も追加でかかります。
人件費はバラつきが大きいのでなんともいえませんが、IPOまでの間に5,000万円~1億円くらいは追加の人件費がかかると思っておいて良いでしょう。
したがって、小型の場合で2~3億、大型なら何億かかるか読めないというくらいコストがかかります。
ただし、この程度のコストは、急拡大し続けているベンチャーにとっては大したことない金額だとは思います。
IPOまでのコストは時限があるので、長くても5年くらい耐え抜けばそれで乗り越えられます(または諦めがつきます)。
しかし、上場企業になると、永続性が求められるため上場維持コストというものが発生します。
このコストは上場し続けている限りずっと発生し続けるコストです。
代表的なものでいうと、東証に支払う上場維持費(安い)、監査法人に支払う監査報酬(とても高い)、証券会社等に支払う管理費用(証券会社等による)、その他管理部門の人件費(高い)などが発生します。
これも会社の規模や上場する市場によって大きく金額が上下するため、一概には言えませんが、年間で5,000万円~数億円程度のコストがかかると思ってください。
上場企業になった以上は、毎年株主総会を開催することになりますから、会場を押さえて、リハーサルをして、しっかりと準備をした上で進行していかないといけません。
事業が上手く行っているうちはスムーズに進むと思いますが、業績が悪くなれば、それ相応の対応をしてくる株主さんもいらっしゃいます。
お叱りを真摯に受け止め、誠実に回答していくしかありません。
また、株主との対話は、株主総会だけではありません。
日頃からIRによって情報開示を行う必要があります。
法定開示と適時開示双方に対応し、PR活動もしっかり行う必要も出てきます。
そうやって日々活動して行く中で、事業が上手くいかない時期も必ず来ますし、事業は上手く行っているのに株価が振るわないという時期も必ず来ます。
そういうときは会社に数多くのお叱りの電話がかかってきます。
IR担当者が1名のみという上場ベンチャーも多いですが、到底対応できる数ではないので、誰かを雇うか、CFOが自ら電話対応に当たるかしないといけません。
しかし、あまりに電話が多くなってしまうと、他の業務に大きな支障が出ることがあります。
これもベンチャーにはよくあることで、一時的に管理部門の多くが電話対応に追われるなんていうこともザラにあります。
そういうコストも考えておかないといけません。
中には、その電話対応がトラウマになって退職してしまうメンバーも出てきます。
上場企業になるということは、ワンマン経営から合議体経営になっていくことを意味しますので、上場前とは経営スタイルが変わっていきます。
重要な意思決定は、必ず取締役会を経ないといけませんし、利益相反取引も原則としてできなくなります。
「自分の会社」という意識から「公の機関」としての認識に変えていかないといけません。
その結果として、意思決定のスピードが落ちます。
小型の上場ベンチャーならば、上場してもあまりスピードが落ちることなく経営できていることもありますが、上場後も拡大を続けていくベンチャーの場合は、どうしても規模が大きくなる分、社外取締役等の人数も増えていくため、意思決定が遅くなっていきます。
上場企業である以上致し方ないところですが、デメリットの一つといえます。
上場企業になって株式が市場に公開されると、金融商品取引法のインサイダー取引規制を受けます。
そうすると、原則としてインサイダー(経営陣、従業員など)は、勝手に自社の株を売買してはいけません。
しかし、このルールを全従業員が知っているとは限らないので、会社として定期的に教育研修を施し、株取引に関するルールを徹底周知しないといけません。
これも結構大変な作業で、毎年必ず研修を開催し、入社時にも説明を行い、売買を行う場合でも事前届出制を敷いて、しっかり管理しないといけません。
一歩間違うと逮捕される案件なので、ここは慎重に整備を進めないといけないところです。
そして、インサイダー取引規制に対応できるだけの制度を社内に整備するためにも専門人材が必要で、法務や財務などの人材が毎年工数をかけて精度を維持しないといけません。
そういう意味で対応コストや人件費がかかり続けるというデメリットがあります。
その他、上場企業として様々な管理コストがかかります。
未上場ベンチャーだった頃のような自由な取引や自由な事業執行はなかなかできなくなっていきます。
社内に稟議というシステムが導入され、大手企業のような厳格なルールの下運営されるようになっていくので、ベンチャーの自由さが好きだったという人たちが少しずつ離れていきます。
ベンチャー大好き民族の多くは、ベンチャーの「自由度」を愛しているので、ある程度規模が大きくなって、大手企業化していくと、魅力が薄れるのです。
そうやって、1番大変だった頃のコアメンバーが一人、また一人と抜けていきます。
これは致し方ないことで、どこの上場ベンチャーでも起こっていることです。
しかし、彼らが抜けた穴を埋めるのはかなり大変です。
彼らと同等以上の情熱を持った人を転職市場で見つけてくることはほぼ不可能なので、組織内における平均的な情熱の濃度は間違いなく下がっていきます。
そうやって少しずつ情熱的で優秀な人材が減っていき、平均的で安定志向な人員が増えていく結果、人件費を中心とした管理コストが増加していくのです。
一部の例外的企業を除いて、会社が上場して大きくなるにつれて、少しずつ非効率になっていくのは避けられないことだと思っておいたほうが良いです。
以上がIPOの主なデメリットだと考えています。
上記のとおり、IPOにはメリットもデメリットもあります。
IPOを実際にやってみて、あまりメリットを感じなくなったからMBOをして未上場に戻ったという会社も最近では出てきているので、IPOに適したビジネスモデルなのかという点については慎重に見極めたいところです。
これからベンチャーに転職をしようと思っている皆様も、IPOを目指している会社なのか、それとも未上場のままで行けるところまで行こうとしている会社なのかをよく分析して、自分の価値観に合った会社を選んでください。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりご連絡ください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。