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2024/06/23 更新

広報とIR、どちらが適している?職種ごとの役割の違いを比較

「広報とIRに興味があるけれど、具体的な仕事内容や違いについてよく分からないし、未経験の自分でも転職できるのか不安」、そんな悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。

この記事では、広報やIRへの転職を検討している方や、現在広報とIRの両方を担当している方に向けて、広報とIRの相違点や特徴、そして役立つ資格などについて詳しく説明しています。自身が広報とIRのどちらに向いているかを理解し、転職に必要なスキルを習得しましょう。

IRとは何か?

IRは「Investor Relations(インベスター・リレーションズ)」の略で、株主や投資家に向けて、自社の経営や財務状況など、投資判断に必要な情報(IR情報)を提供する活動です。IRは一般的に「投資家向けの広報」と呼ばれ、主な活動には「有価証券報告書」などの資料の作成、決算説明会の運営、IRサイトでの情報発信などが挙げられます。

投資家はIR情報を元にして投資判断を行い、企業側もIRの強化によって株主との良好な関係を築き、円滑な資金調達を促進します。近年、日本企業の海外資金調達が増加しており、外国の投資家の増加や情報開示への意識向上により、IRの重要性も高まっています。

広報とIRの違いは何か?

広報とIRは兼任されることがよくあり、混同されがちですが、情報の発信先や必要な知識に違いがあります。

広報は一般の消費者やメディア関係者、そして企業内の従業員に企業の情報を幅広く伝えることが主な役割です。企業の方針、サービス、活動などの情報を広報し、企業のブランディングやイメージ向上に寄与します。

一方、IRの役割は、株主や投資家などの企業外部のステークホルダーに継続的に企業情報を提供することです。広報がIRに関与することもありますが、IRには深い経営や財務の知識が求められ、数字を扱うこともあるため、財務部や経理部が担当することもあります。

広報とIRは「情報発信」という活動が共通していますが、情報の発信先、必要な知識、役割に違いがあると言えます。

PRと広報・IRの違い

広報やIRと似た言葉に「PR」があります。PRは「Public Relations(パブリック・リレーションズ)」の略で、企業のブランドやサービスを広め、イメージ向上を目指す活動を指します。

PRの主な活動内容

  • 記事やプレスリリースの発表
  • 自社メディアやSNSでの情報発信
  • 地域イベントの開催

これらのPR活動を通じて、取引先や地域住民などのステークホルダー(利害関係者)との良好な関係を築き、企業のイメージ向上を図ります。

広報やIRと同様に情報発信を行いますが、PR、広報、IRの違いは情報の「発信先」にあります。広報は外部のメディア関係者や社内の従業員に向けて情報を提供し、IRは株主や投資家に情報を提供します。PRは企業の広い範囲の一般市民に働きかけ、イメージ向上を目指すことを言います。

広報の主な業務内容

広報の役割は、自社と社会の人々との関係を築き、自社の認知度やブランド力を向上させることです。広報の仕事は主に「社外広報」と「社内広報」に分かれ、それぞれの役割と業務内容が異なります。

社外広報

社外広報は、名前の通り外部の人々に情報を伝える役割を果たします。社外広報の主な業務には以下の3つがあります。

・プレスリリースの発信

自社の活動や組織変更、製品やサービスに関するニュースを外部のマスメディアに向けて発信します。これにはプレスリリース文の作成や関連資料の提供、そしてメディアからの取材対応も行います。

・メディアリレーション(PR活動)

企業はメディアとの信頼関係を築き、自社の製品やサービスの魅力を伝え、認知度向上を図るための広報活動を行います。

・ブランディング

自社のブランドイメージを構築し、強化する活動です。

これらに加えて、社会的責任活動(CSR)や環境・社会・ガバナンス(ESG)に関連する取り組み、また公式ウェブサイトの運営管理なども社外広報の業務として挙げられます。

社内広報

社内広報は、主に「社内報の制作」など、自社の社員を対象とした広報活動を指します。企業の規模に応じて、広報の役割は異なります。

大手企業では、全社員を対象にしたイベントの企画や、社員の家族に向けた情報発信などを行い、社員同士のコミュニケーションを促進し、情報共有と共通の理解を深る役目です。一方、中小企業のような比較的小規模な企業では、社内での情報伝達を強化し、社員が最新情報を入手し、業務に活かすことを目的として、社内報の制作や情報伝達を行います。

社内広報は、自社の企業理念、ビジョン、メディアでの報道内容など、自社の社会的な取り組みとつながりを組織全体で共有するための貴重なツールと言えるでしょう。

広報も関わることがあるIRの詳細な仕事内容

IRは株主や投資家などへ、自社の経営状況や財務情報など、投資判断に必要な企業情報を提供する役割です。以下では、広報とも密接にかかわるIRの具体的な仕事内容について説明します。

決算説明会の運営

決算説明会は、株主や投資家に対して企業の財務状況や経営戦略などを説明する重要なイベントです。広報も関与する場面もありますが、一般的にはIRが運営を主導します。

決算説明会の運営には、決算に関連する報告書や資料の作成が含まれるだけでなく、株主や投資家が求める情報を適切に伝えるスキルが必要です。同時に、IRは自社の経営陣に対して株主や投資家からの意見や要望を報告する重要な仕事も担当します。

これらの業務を通じて、企業と株主・投資家との信頼関係を築き、維持することが不可欠です。

IRにおける各種情報の作成

IRは株主や投資家に対して、財務状況や業績などの情報を提供する「投資家向けの広報」の役割を果たします。IRの主な情報開示には、以下の要素が含まれます。

  1. 有価証券報告書

    上場企業が提出しなければならない投資家向けの公式文書。企業の経営成績、事業内容、財務諸表などの情報が含まれています。

  2. 決算短信

    企業の財務情報や経営状態に関する要点をまとめた速報書類。経営成績、財政状況、業績予想などの要約情報が提供されます。

  3. 適時開示情報

    投資家にとって重要な企業情報を公平かつ迅速に伝える情報。上場企業には法的な要件があります。

  4. 統合報告書

    企業の財務情報と、企業統治、社会的責任(CSR)、知的財産などの「非財務情報」を結集した報告書。

IRを通じてこうした情報を作成することは、企業が公平に評価され、投資家やアナリストと建設的な対話を行うために極めて重要な役割を果たします。

IRサイトの情報提供と問い合わせ対応

個人投資家などからの電話やメールでの問い合わせに、IR担当者は敏速かつ適切に応じる必要があります。このために、IR担当者は自社の財務状況や事業状況などの情報を包括的に把握しておくことが求められます。

さらに、IRサイトは株主や投資家に情報を公平かつ迅速に提供するための重要なツールです。企業が「投資対象」として選ばれるためには、株主や投資家が必要とする情報を漏れなく、正確に提供することが不可欠でしょう。IRサイトは定期的に更新し、常に最新情報を提供し続けることが大切です。

広報とIRの仕事の魅力

広報とIRは「企業の代表」として情報を発信し、企業のイメージ向上やステークホルダーとの関係構築に貢献します。両職種の仕事にはどのような魅力とやりがいがあるのでしょうか。広報とIRの仕事の厳しさと魅力について説明します。

広報の魅力

広報部門は通常、「管理部門」に所属し、社内外で幅広い広報活動を展開しています。他の企業から見れば、広報担当者は「企業の公の代表」としての役割を果たすため、自社のイメージに大きな影響を与える立場と言えるでしょう。

企業の評価を左右する責任は重いですが、自身が関与した広報キャンペーンが成功すると、非常に大きな満足感と達成感を味わえます。社内外に大きな影響を及ぼせるため、これ以上の魅力はないでしょう。

IRの魅力

IRは企業の業績や戦略などの情報を、株主や投資家に説明する役割を担っています。企業情報を深く理解するためには経営、財務、広報など幅広い分野に精通している必要があります。また、IR担当者の説明が株価に影響を与えることもあるため、責任は大きいですが、その分やりがいも大きいでしょう。

さらに、IRは投資家からの意見や市場の反応を、自社の経営陣に伝える役割も担っています。経営戦略や方針に間接的ながら影響を与えられるため、やりがいと自信を感じることでしょう。

広報がIRに関わる際の留意点

広報がIRに関与する場合、その利点として「情報を各方面に統一的に発信できる」メリットがありますが、一方で「情報の開示方法やタイミングが一貫しないため、混乱が生じやすい」といったデメリットも考えられます。広報がIRに関わる場合に留意すべき点を理解しましょう。

情報の正確性と透明性の確保

IRが提供する企業情報において、「正確性」と「透明性」は極めて重要な要素です。これは、その情報が投資判断において非常に重要であるため、投資家に対して正確な情報を提供し、適切なタイミングで情報を開示する責任があるからです。

情報を開示する際には、不確かな内容や誤解を招く表現を避け、情報の公平性と透明性を確保することが肝要です。例えば、東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」には、コーポレートガバナンスの基本原則として、適切な情報の開示と透明性の確保、情報の正確性についての具体的な指針が記載されています。

広報がIR業務に関わる場合、情報の正確性と透明性を確保することが必要不可欠であると言えるでしょう。

一貫性を確保

企業情報の発信において、広報活動とIRで一貫性を保つことは非常に重要です。これは、投資家が信頼性と一貫性を求めるためであり、提供される情報が不正確であったり一貫性がなければ、投資家の信頼を失います。たとえば、公式ウェブサイトから提供される情報とIR活動による情報が矛盾する場合、投資家は混乱し、その企業に対して疑念を抱くことでしょう。

したがって、情報の一貫性を維持するために、情報を統一し、IR担当者が問い合わせに対応するなどの措置を講じることが重要です。

開示要件を順守

各国の金融市場には、情報の開示要件が存在しています。IRに関わる広報担当者は、企業情報を開示する際に、適切な法的要件や開示規則を順守する責任があります。

たとえば、日本取引所グループの運営サイトでは、適切な情報開示のための制度として、以下の2つが挙げられています。

  1. 法定開示(金融商品取引法などの法律に基づく開示)(※1)
  2. 適時開示(証券取引所の規則に基づく開示)

IR情報は投資判断だけでなく、株価にも影響を与えるため、上記の規定に従い、適切な手続きとタイミングで情報を開示することが重要です。

(※1)参考:日本取引所グループ「適時開示制度の概要」

投資家とのコミュニケーション

IR担当者が企業情報を包括的かつ分かりやすく説明するためには、投資家たちの関心や懸念を正しく理解することが非常に重要です。

また、IRは投資家からの質問や要望に応じる役割も果たします。例えば、株価が低迷している場合、株主から「良いIR情報を増やしてほしい」といった要望が寄せられることがあります。IR担当者はこうした要望や意見に適切に対応する必要があります。

上記の理由から、IRは円滑なコミュニケーションを通じて企業と投資家を結ぶ「架け橋」としての役割を果たしていると言えます。

競合他社情報の把握

IRに関わる広報担当者は、競合他社の情報や市場の動向を把握することも非常に重要です。競合他社のIR活動や業績発表に関する情報を把握し、自社のポジションや業績との比較分析を行うことで、効果的なIR戦略を立てることができます。

例えば、IRは競合他社が新製品や業績予想を発表した場合、その情報をキャッチし、自社のIR戦略に取り入れます。広報がIRに関与する場合、競合他社の動向にも注目し、IR戦略の構築に生かしましょう。

安全性とセキュリティの確保

IR活動では、企業情報や業績に関する高度な機密性が求められ、その情報の漏洩や改ざんは大きなリスクとなります。そのため、広報担当者はIR情報の安全性とセキュリティを確実に確保するための対策を講じる必要があります。

具体的には、社内でIR情報の取り扱いに関する規則やガイドラインを設定し、従業員を教育し監査を行うなどです。広報担当者がIRに関与する際、情報リテラシーを向上させ、安全性とセキュリティに十分に気を配ることが肝要でしょう。

広報・IRに関する一般的な質問

広報やIRに転職を考える際、よく寄せられる質問があります。これらの疑問を解消することで、転職活動がスムーズに進めてください

  • 広報・IRの年収は?
  • 広報・IRの残業時間は?
  • 求められるスキルや資格は?
  • 未経験でも広報・IRに転職できるのか?

広報・IRの年収はについて

広報やIR担当者の平均年収は約484万円です(※2)。国税庁の「令和3年分 民間給与実態統計調査」によると、日本人の平均年収は約443万円(※3)です。したがって、広報やIR担当者の年収は平均的な水準に近いと言えます。

特にIR担当者は実務経験によって年収が上昇する傾向があり、上場企業で経験を積んだり、優秀な成績を収めた場合、年収が1,000万円以上になることもあります。IRの職種は幅広い知識と豊富な実務経験が必要であるため、スキルの向上やキャリアの発展を追求することで、さらなる高い年収が期待できるでしょう。

(※2)参考:duda「広報/PR/IRとはどんな職種?仕事内容/年収/転職事情を解説」

(※3)参考:国税庁「令和3年分 民間給与実態統計調査」

広報・IRの残業時間について

広報やIRの残業時間は、月平均でおおよそ26.3時間ほどです(※4)。

会社によって異なりますが、広報やIRの職種では、通常、定時に出社し、定時に帰宅することが一般的であり、過度な残業はほとんど発生しません。近年、オンラインツールの利用が進み、イベントやPRの準備・実施にかかる時間が短縮されており、残業時間はますます減少しています。

特定の時期、例えば企業説明会の直前では資料の準備に追われることもありますが、基本的にはワークライフバランスを保ちやすい職種と言えるでしょう。

(※4)参考:duda「広報/PR/IRとはどんな職種?仕事内容/年収/転職事情を解説」

求められるスキルや資格について

広報やIRの職に就くために必須の資格は存在しませんが、業務遂行に役立つ資格があります。特にIR担当者には、「IRプランナー」と呼ばれる資格に加えて、「財務報告実務検定」や「日商簿記」などの資格が役立つでしょう。

  • PRプランナー資格認定制度:広報・PRの基礎から実務スキルまでを認定する民間の資格制度
  • IRプランナー:通常「CIRP(サープ)」と呼ばれます。IR担当者向けの専門知識やスキルを認定する資格で、1年以上の実務経験がある人が受験できる「CIRP-S」と呼ばれるS級の資格も用意されています。
  • 商品プランナー:商品戦略や販売促進戦略などの基礎知識とスキルを認定する資格
  • 財務報告実務検定:財務諸表の作成など、財務報告に関連する知識やスキルを認定する資格
  • 日商簿記:企業の経営や財務状況を明確に記録するための簿記の知識やスキルを認定する資格

未経験からの広報・IRに転職について

広報やIRへの転職は未経験者でも可能です。実際、広報やIRの求人情報には、「未経験者歓迎」という表記がよく見られます。ただし、多くの転職者が実務経験を持っているため、未経験からの転職は一般的にハードルが高いと言えるでしょう。

未経験から広報やIRへの転職を考える場合、IRプランナーなどの関連資格の取得や、情報発信スキルや企画・立案の経験など、業務に役立つスキルを強調することで、適性を認められやすくなるでしょう。

IRの知識を身につけて、広報としてスキル向上へ

この記事では、広報とIRの相違点に焦点を当て、仕事内容や業務上の留意点、有用な資格などについて説明しました。

特にIRの職務においては、充実した実務経験に加えて財務や経営に関する専門知識も要求されます。未経験からの転職は一般的に難しいですが、関連する資格を取得することで成功の可能性を高められます。

現役の広報担当者の方もこれから広報を目指す方も、資格を取得するだけでなく、IRに関連する幅広い知識を習得することによってスキル向上を目指してみましょう。

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株式会社WARC

WARCエージェントマガジン編集部

「人材紹介の『負』の解消を目指す、新しい転職エージェント」をビジョンに、ハイクラス人材紹介事業を展開しているWARC AGENT。WARCエージェントマガジン編集部は、このビジョンを支えるために、転職者に役立つ情報を執筆し、個々のキャリア形成をサポートしていきます。

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