「IRって何のこと?」「IRの担当になったけど、どんな業務に取り組む?」。上場企業やスタートアップの広報部門では、PRに加えて、IRと呼ばれる業務も担当することがあります。IRは1990年代ごろから、企業が情報を外部に提供することの重要性が高まる中で頻繁に使われるようになりました。
この記事では、IRの定義や業務内容、そしてPR業務との相違点について解説します。
IRは「Investor Relations(インベスター・リレーションズ)」の略で、投資家に関連する広報活動を指します。
具体的な業務内容は、財務状況、事業計画、経営戦略など、投資家や株主が企業の投資に関する判断を行うために必要な情報を提供することです。最近では、投資家だけでなく、顧客や社会全般に対して、経営方針や事業の成果などを公に発表する活動もIRの一部とされています。
IRの役割は情報提供にとどまらず、株主や顧客などからの提案や意見を受け入れ、対話を促進する場を提供することも含みます。積極的なIR活動によって、企業とステークホルダーとの間に信頼関係を築くことができ、企業経営をより良い方向に導く役目です。
「IR」という略語は、よく新聞やメディアで目にしますが、実際には異なる概念を指すケースもあります。IRの略語が混同されないように整理してみましょう。
日本において「IR」として使われているものには、以下の3つがあります。
この記事では1.に焦点を当てて説明しますが、2.と3.についても簡単に説明します。
統合型リゾート(Integrated Resort)は、通常「カジノを含む統合型リゾート」を指します。高級ホテル、カジノ施設、MICE(国際会議、展示)施設、劇場などを統合的に計画するコンセプトで、日本初のカジノを含むリゾート施設が話題となっています。
大学におけるIR(Institutional Research)は、大学の活動に関するデータを収集・分析し、大学の意思決定を支援するための調査研究を指します。これは「学修成果の可視化」を含む、大学の成果や課題を分析し、可視化するための活動です。
企業はさまざまなステークホルダーと関わりを持っており、株主、投資家、ファンド、金融機関から国税機関、クライアント、監督官庁、消費者などが含まれます。これらのステークホルダーは企業の運営に関心を持っており、企業の情報を求めています。
特に、投資家には、投資判断をするために必要な情報を公平に提供は必須です。これには財務状況や経営状況に関する情報が含まれますが、企業の実績や将来の展望なども含まれます。また、企業の社会的責任として、社会問題へのアプローチなど、財務情報以外の側面も開示されることがあります。
IR活動は法的に義務づけられたものではなく、企業が自発的に行うものです。そのため、積極的にIR活動を行う企業は、クリーンで健全なイメージを持つことが一般的でしょう。現在、多くの企業はIR情報をウェブサイトやプレスリリースを通じて提供しています。
企業の広報活動には、IRのほかにPRも存在します。IRは投資家などのステークホルダーに向けて企業情報を提供する一方、PRはPublic Relationsの略で、一般の社会や世間に向けて企業情報を公開する役割を果たします。
PRは、新製品情報や企業の取り組み、組織変更、経営陣の交代など、さまざまなトピックを扱います。また、独自の調査結果を発表することで、市場に新たな需要を創出する戦略PRなども実施するケースが多いです。
IRは、PRの中の特定の分野と考えられるでしょう。広報活動の一環であるPRの中で、投資判断や企業価値の評価に関連する情報を提供するのがIRの役割です。中小企業の場合、広報部門がPR活動の一部としてIRを担当することもあります。
IRの意味と内容について理解したところで、IRを行う目的とその必要性について説明します。IRを行うことは法的に義務づけられているわけではありませんが、企業は投資家から信頼と評価を得て、彼らが投資を検討するためにIRを実施する必要があります。
IRの主要な目的の1つは、情報の平等性を確保することです。投資家は企業のパフォーマンスを判断するために財務報告書などの財務情報を利用しますが、これらの数字だけでは企業の実際の状況を完全に把握することは難しい場合があります。財務情報は過去の結果を示すものであり、将来の成長を予測するのには不十分です。
企業は日々変化し、新しいプロジェクトの立ち上げ、経営計画の変更、新しい経営陣の迎え入れなどが行われます。これらの出来事が株価や企業の評価に影響を与えることがあります。そのため、IRを通じて、株主や投資家に適切でタイムリーな情報提供を行うことは、情報の平等性を確保するための一環です。
IRの適切な実施は、情報の平等性を保つ重要な手段の1つといえるでしょう。
上場企業にとって、経営陣は公開されている株式に対する動向や、TOB(株式の売却勧誘)などの展開を素早く把握し、適切な対応をする必要があります。もし自社が買収対象になる可能性がある場合、リスク管理の観点から、情報を速やかに公表する体制を確立することは極めて重要です。さらに、世界情勢や業界構造の大きな変化など、企業を取り巻く環境要因や実績に及ぼす影響についても、隠すことなく情報を公開することを期待されています。
投資家を含む社会全体は、企業に誠実さを求めており、適切で迅速な情報提供がない場合、信頼を失い、多額の資産が引き出される可能性があります。そのため、企業にとって、経営、財務、実績情報を速やかに伝えるIR活動が不可欠です。
上場企業は、金融取引法や会社法などの法律に基づき、財務内容や事業・経営の概要を記載した「有価証券報告書」などを地方財務局に提出する法的義務が課せられています。
そのため、上場企業では、IR担当者が経営戦略、財務、法務と協力して法的な開示と必要に応じた開示を実行します。必要に応じた開示は、証券取引所が定めた規則に基づいており、企業は株価に影響を与える可能性のある重要な経営情報を速やかにかつ正確に開示しなければなりません。
また、株主や投資家が詳細情報を要求した場合、上場企業としての義務から、面談を通じて説明するケースを求めらることもあります。
情報公開であるIRは、投資家や株主に対してスピーディーに情報を提供する必要があります。では、IRはどのような手法で実施されるのでしょうか。
多くの企業は、決算と同時に情報を公開するために企業説明会や決算説明会を開催しています。
決算説明会は通常、四半期ごとの決算発表に合わせて行われます。法定の開示書類を提出した後、企業は試算表や決算書の内容を詳しく説明し、質問に答える形で情報を提供します。
株主や投資家からの批判や意見を受け入れ、経営陣の立場を耐え忍びながら説明することが肝要です。IRは、情報提供だけでなく、投資家との対話の場を提供するものでもあるのです。
取引所が提供する「適時開示情報閲覧サービス(※1)」やプレスリリースの配信サービス、第三者が運営するIR情報サービスなどは、情報を迅速に投資家や株主に提供する効果的な手段として広く利用されています。
同様に、株主向けのメールニュースやアニュアルレポート(年次報告書)などのIRツールを企業が独自に制作している例も多いです。
これらの手段は法的に義務づけられていないものの、企業の信頼性を築く上で非常に重要であり、多くの企業が積極的に活用しています。
IRサイトの運営についても同様で、企業のコーポレートサイトやIRサイトは、株主や投資家にとって、最も正確で最新の情報を提供できる場として高く評価されているのです。
サイト上での情報提供は、誤りのないように細心の注意しましょう。また、資料のダウンロードや印刷機能を提供することで、利用者に便益をもたらすことも大切です。何よりも、情報開示は投資家の視点から行い、投資家にとって使いやすい形で提供する姿勢が高く評価されます。
コーポレートサイトでIR情報を目立つ場所に配置することは、企業が誠実である印象を投資家や株主に伝える手法の一つと言えるでしょう。
(※1)参考:日本取引所グループ「適時開示情報閲覧サービス」
製造業は、自社の製品が実績に反映され、その価値が示される業界です。特に画期的な製品を開発した場合、IRの一環として投資家向けの商品説明会を実施することは非常に有益になります。
投資家向けのプレゼンテーションや説明会を通じて、投資家は製品を直接体験し、その投資の価値を判断できるでしょう。
さらに、生産性向上のための新しい技術や設備を導入した施設を見学する機会を提供し、その場で投資家との対話を促すのも効果的です。
IRは投資家や株主にとって極めて重要ですが、実施に際して留意すべき点も存在します。どのようなポイントに留意すべきでしょうか。以下で解説します。
IRは、多くの情報から、投資家にとって重要な情報を選別し、充実した内容で提供する必要があります。
企業には日常的に発生するさまざまな出来事があり、それらがすべて投資家や株主に有益な情報とは限りません。IRでは、情報を単に広報するのではなく、投資判断に寄与する情報に焦点を当て、充実した情報提供を行うことが求められます。たとえば、会社の分割、子会社の設立、新株予約権の発行など、株主の利益に密接に関連する情報が注目されるでしょう。
IRの情報提供に関して基準が不明確な場合は、「適時開示情報閲覧サービス」など、IRサイトで提供されている情報を参照することも役立ります。
IRは、潜在的な株主に対するアプローチの一環でもあります。企業経営において、一定のファン層を獲得することも非常に重要であり、PRの戦略と連携しながら、経営計画や経営哲学に共感を呼び起こす情報を提供することも大切です。
現在の投資家は、長期から短期、デイトレードなど、多様な取引スタイルを採用しています。こうした状況では、自社の魅力や将来性、社会的な取り組みなどを伝え、熱烈な支持者を獲得することは、企業の成長や時価総額の拡大に大いに貢献します。戦略的なIR実施は、企業の発展を後押しする役割を果たすのです。
広報業務においても、IRは非常に重要な要素です。IRの目的とその必要性を明確に理解することで、経営方針を正確に伝えるスキルが向上します。企業の経営計画、財務情報、法的事項などと連携しながら、社会的な価値観やトレンドを把握し、企業のファン層を獲得するためのIRを戦略的に実施しましょう。
広報は、企業と社会とを結びつける重要な役割を果たします。バックオフィスの中でも、積極的に外部へ向けて情報発信し、メディアや関係者と円滑で正確なコミュニケーションをとりながら、戦略的に企業価値を高める職務です。
バックオフィスのキャリアに興味がある方には、広報やIR関連の求人情報が多数掲載されている転職サイトを活用してみましょう。求人情報に記載された企業のビジョンや理念に共感し、広報部門でのキャリアを考えてみることをオススメします。