「内部統制監査と内部監査は何が違うの?」と疑問に感じる方もいるでしょう。内部統制監査とは、企業が作成した内部統制報告書の内容が正しく妥当かを、監査法人が第三者の立場で検証することです。この業務は内部監査とは異なり、社外の監査法人によって実施されます。
この記事では「内部統制監査」の基本や実務のコツ、キャリア形成に活かす方法を、丁寧に解説します。企業価値を守りながら、自身の専門性を高めたい方は参考にしてみてください。
内部統制監査は、企業が自社の業務を適切に管理し、不正やミスを防ぐための仕組みが正しく機能しているかを評価する重要なプロセスです。以下で詳しく紹介します。
内部統制監査とは、企業が適切に業務を行い、不正やミスを防ぐための仕組み(内部統制)が正しく機能しているかを確認する監査です。その目的は、主に「業務の効率性」「財務報告の信頼性」「法令遵守」「リスク管理」の4つです。J-SOX(日本版内部統制報告制度)により上場企業には内部統制の整備が求められています。
たとえば、経費精算が適切に処理されているか、ITシステムのアクセス管理が不正利用を防げているかなどが対象になります。このように内部統制監査は、企業経営の信頼性を確保するために欠かせないチェック機能の一つといえるでしょう。
内部統制監査は企業の健全な運営を支える柱となっています。主な役割は以下のとおりです。
リスク管理 | 潜在的なリスクを特定し、適切な対策が講じられているかを評価します。 |
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法令遵守の確認 | 企業が関連法規や規則を遵守しているかをチェックします。 |
業務効率の向上 | 業務プロセスが効果的かつ効率的に運用されているかを検証します。 |
財務報告の信頼性確保 | 財務情報が正確で信頼性があることを保証します。 |
これらを通じて、企業の信頼性やステークホルダーからの評価を高めることができます。
内部統制監査と内部監査の主な違いは実施主体です。
内部統制監査 | 外部の監査法人や公認会計士が、企業の内部統制が適切に機能しているかを評価。 |
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内部監査 | 企業内部の専門部署が、業務全般の適正性や効率性を評価し、改善点を提案。 |
内部監査部門が日常的に業務プロセスをチェックし、改善提案を行う一方で、内部統制監査は外部の専門家が独立した視点で内部統制の有効性を評価します。
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内部監査について解説|内部監査の手順や必要な資格を理解しよう
内部統制監査を効果的に行うためには、計画的なアプローチが必要です。以下で実施プロセスや手法についてみていきましょう。
内部統制監査の質は計画段階で決まると言っても過言ではありません。まず監査の目的を明確にし、対象業務やリスクの洗い出しを行います。次に、重要度の高いプロセスを優先して監査範囲を設定。リソースやスケジュールを含む実施計画を作成します。
その過程では、業務フローやマニュアル、規定類の収集と事前のインタビューも有効です。計画と準備を徹底することで、監査が形式的な確認にとどまらず、実効性のある気づきを生むプロセスに変わるでしょう。
内部統制監査は、次のようなステップで進められます。
まず、企業は内部統制のうち監査対象となる範囲を明確にします。
企業全体に共通する内部統制(例:倫理規定や組織体制)が機能しているかを確認します。
財務報告の信頼性に直結する決算プロセスの内部統制が、正しく運用されているかを評価します。
購買・販売・在庫管理など、個別の業務プロセスにおける統制の妥当性を検証します。
内部統制上の不備が見つかった場合は、改善対応を行い、改めて統制の有効性を確認します。
最終的に確認された不備を整理し、法令上「開示すべき重要な不備」に該当するかを判断します。
これまでの評価結果をもとに、内部統制報告書を企業が作成します。
報告書の内容について、監査法人などの外部監査人が適正性をチェックします。
外部監査人による内部統制監査報告書が作成され、最終的に関係者に対して公表されます。
なお、上記は一般的な流れであり、企業によって具体的な手順や方法は異なる場合があります。
監査の締めくくりは、報告書の作成と改善対応のフォローアップです。報告書には、監査の目的や範囲、実施内容、評価結果、発見事項、改善提案などを明記します。分かりやすく、実行可能な改善提案を行うのがポイントです。
とくに、不備が見つかった場合には、その背景や影響を丁寧に説明し、再発防止策を提案することが重要です。報告後は、経営層への説明とあわせて、改善状況の確認や継続的なモニタリングも行いましょう。
内部統制監査は、制度や仕組みの整備だけでなく、現場との連携や実効性のある改善提案が求められる繊細な業務です。ここからは、内部統制監査で直面しやすい課題と、それらを乗り越えて効果的に実施するための成功要因や改善活用のポイントを解説します。
内部統制監査では、計画段階での情報不足や、現場の協力が得られにくいことが大きな課題となるでしょう。とくに、業務が属人化していたり、現場が監査に「チェックされる側」として構えたりしていると、必要な情報が得られず監査の質が低下してしまいます。
また、統制の文書化が不十分な場合、実態の把握が難しくなります。さらに、業務のIT化が進む中で、IT統制への理解不足も問題です。これらの課題を克服するには、事前の十分なヒアリングと信頼関係の構築が不可欠でしょう。
効果的な内部統制監査を行うには、「リスクベースアプローチ」と「双方向のコミュニケーション」がカギです。リスクの高い領域にリソースを集中し、重要な統制活動を優先的に確認することで、効率と精度を両立できます。また、監査側と現場側が対等な立場で対話し、現実的で改善可能な指摘を行うことも重要です。一方的な指摘ではなく、建設的な提案をする姿勢が、組織全体の信頼感と改善意欲を高め、監査結果の実効性につながります。
監査は「終わってから」が本当のスタートです。指摘事項をそのままにせず、組織の改善活動にどうつなげるかがカギとなります。
まずは、改善の優先順位を明確にし、担当部署と連携して実行計画を立てます。その際、具体的な対応期限や責任者も明記すると効果的です。改善後には、再評価やモニタリングを行い、統制の再定着を確認しましょう。監査結果を「指摘」で終わらせず、「改善」まで完了させることで、企業のリスク耐性と業務品質は確実に向上します。
内部統制監査の知識とスキルは、法務・経理・リスク管理など幅広い分野で活かせる専門性の高い武器です。ここでは、監査担当者として求められるスキルや学び方、実務経験の積み方について解説します。
内部統制監査担当者に求められるのは、業務プロセスへの理解力とリスク感度の高さです。
具体的には、財務・会計の知識に加え、法令遵守、IT統制、企業倫理など、幅広い視点から物事を分析できる能力が必要です。さらに、問題点を論理的に説明し、改善策を提案できるコミュニケーション力も欠かせません。
また、監査先の業務に対する敬意と傾聴の姿勢も重要なスキルです。こうした知識と姿勢を備えることで、単なるチェック担当ではなく、信頼されるパートナーとして活躍できる人材になります。
キャリアアップを図るうえで、資格取得や外部研修の活用は非常に効果的です。代表的な資格には「CIA(公認内部監査人)」や「CISA(公認情報システム監査人)」があります。これらは国際的にも評価が高く、知識の体系化や転職市場での信頼性向上にもつながるでしょう。
また、セミナーや実務講座などで最新動向を学ぶこともスキル維持に有効です。資格だけに頼らず、現場の実務に即した内容を取り入れて、自分の監査スタイルを磨いていきましょう。
経験を積むには、まず自社の監査部門やリスク管理部門で業務に携わることが基本です。また、社内異動制度を活用して監査対象となる部門での実務を経験すると、統制を見る視点が養われます。さらに、子会社やグループ企業の監査支援に関わることもよい訓練になるでしょう。
監査法人や外部コンサルとの連携プロジェクトに参画するのも、スキルアップの近道です。「現場を知る」「視点を増やす」「変化に対応する」の3点を意識することで、より実践的な監査力が身につくでしょう。
内部統制監査は、企業のリスク管理体制を強化し、持続可能な経営を支える重要な業務です。同時に、自らの専門性を高めることで、キャリアの幅を広げる絶好のフィールドでもあります。企業価値の維持・向上に貢献しながら、自身の成長にもつなげていきましょう。
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