「転職を考えているけど、退職金はもらえる?」「転職先の退職金はどうなる?」など、転職を検討する方にとって退職金は気になる内容です。
本記事では、転職での退職金や制度、もらえる退職金の相場を解説します。また、退職金の運用方法についても解説しますので、適切に運用し退職金が減るリスクに備えましょう。
退職金は、退職時に企業から支給される金銭であり、通常の給与や賞与とは別に支払われます。この支給制度を退職金制度と呼び、仕組みを利用するかどうかは企業によってさまざまです。したがって、退職金制度のない企業では退職金の支給はありませんが、制度が導入されている場合、会社は必ず労働者に対して支払います。
退職金の支給額は企業によって異なりますが、勤続年数や基本給、役職に応じての算出が基本です。支給条件も企業によって異なり、自己都合での退職や解雇であっても支給されることがあります。
退職金制度にはさまざまな種類があるため、それぞれの内容が気になる人は多いでしょう。ここからは、以下の4つの退職金制度を紹介します。
退職一時金制度は、従業員の退職の際、企業が積み立てた資金を全額支給する仕組みです。多くの人が退職金として想像するものが、この制度に当たります。支給される金額やタイミングは企業ごとに異なるため、自分が勤めている企業の規定を確認しておくことが大切です。
退職金共済制度は、中小企業が退職金を用意するのが難しい場合に活用される仕組みです。自社での退職金制度がない場合、従業員のために外部の機関に積み立てを委託します。毎月、企業が金融機関に対して掛金を支払うと、従業員が退職した際に共済機構からの退職金支給が可能です。企業が倒産などで退職金を支払えない状況でも、従業員は金銭を受け取れます。
会社によっては、企業年金という名目で退職金が支払われるケースがあります。受け取り方法としては年金・一時金・併用の3パターンから選ぶことが可能です。
なお、企業年金制度には、確定拠出年金制度(DC)と確定給付企業年金制度(DB)の2パターンが用意されています。
確定拠出年金制度は、企業が掛け金を支払い、運用は従業員が行う制度です。退職後に受け取れる金額は、本人の運用結果によります。運用の結果、掛金を下回っていたとしても、会社は補填する責任を負いません。
また、確定拠出年金の受け取りは60歳以降と規定されているため、転職などで退職する場合には移行手続きが必要です。新しい職場が確定拠出年金制度を導入していない場合、個人型確定拠出年金(iDeCo)に移行する必要があります。
確定給付企業年金制度(DB)は会社側が運用や管理、給付までの責任を負う制度であり、万が一の損失は企業が補う仕組みです。
確定給付企業年金制度(DB)には、運用方法によりさらに2つに分かれます。会社独自で年金の積み立てや管理、運用を行う「基金型」と、信託銀行や生命保険会社などに依頼する「規約型」です。どちらの方法も給付内容は企業で決められているため、それに基づき給付されます。
退職金を事前に受け取れる前払い制度は、従業員の在職中に給与や賞与などに上乗せして支払われます。
前払い制度は、退職金を在職中にもらい、定年までの勤務のモチベーションアップにつなげるために用意されました。近年は転職や個人の都合で定年まで勤めあげる人材が減っているため、現代の働き方に合わせた支給方法ともいえるでしょう。
ただし、毎月の給与額が増えるため、所得税や住民税などの税負担が大きくなる点に注意が必要です。
退職金は転職者にとって厳しい制度であり、通常は勤続年数に応じて金額が決まります。
また、勤続年数が3年未満の場合、ほとんどの企業では退職金は支給されません。これまでの日本は終身雇用が主流であり、その時代に合った制度でした。
しかし、労働条件が不利などの理由で転職する場合、早めにジョブチェンジすれば生涯でもらえる給与が増える可能性もあります。
退職金制度について理解したところで、もらえる金額の相場が気になる人も多いでしょう。
自己都合による退職、会社都合による退職、学歴ごとに表に表したので、参考にしてください。
中央労働委員会(※1)によると、自己都合による退職金の相場は以下のとおりです。
勤続年数 | 大卒 | 短大・高専卒 | 高卒 |
3 | 32万2千円 | 20万2千円 | 18万6千円 |
5 | 50万9千円 | 34万4千円 | 40万4千円 |
10 | 137万5千円 | 105万6千円 | 106万7千円 |
15 | 286万9千円 | 261万2千円 | 252万4千円 |
20 | 525万5千円 | 514万6千円 | 483万4千円 |
25 | 812万2千円 | 794万3千円 | 839万1千円 |
30 | 1,123万6千円 | 1,115万2千円 | 1,214万4千円 |
35 | 1,420万7千円 | 1,376万9千円 | 1,611万3千円 |
40(大卒は38年、高卒は42年) | 1,550万2千円 | 1,503万6千円 | 1,879万7千円 |
(※1)参考:退職手当制度がある企業の割合
表を参照すると、勤続年数が長ければ長いほど、もらえる退職金が多いことがわかります。退職金として1,000万円以上もらうには、同じ会社に30年以上勤める必要があるといえるでしょう。
中央労働委員会(※2)によると、会社都合による退職金の相場は以下のとおりです。
勤続年数 | 大卒 | 短大・高専卒 | 高卒 |
3年 | 57万9千円 | 48万2千円 | 52万2千円 |
5年 | 96万8千円 | 71万2千円 | 98万4千円 |
10年 | 245万9千円 | 180万8千円 | 231万3千円 |
15年 | 426万円 | 359万6千円 | 431万3千円 |
20年 | 746万2千円 | 644万円 | 671万6千円 |
25年 | 1,016万7千円 | 929万9千円 | 1,051万5千円 |
30年 | 1,218万6千円 | 1,261万3千円 | 1,401万8千円 |
35年 | 1,473万4千円 | 1,426万3千円 | 1,783万5千円 |
40年(大卒は38年、高卒は42年) | 1,608万5千円 | 1,544万2千円 | 1,917万4千円 |
定年 | 1,788万3千円 | 1,413万9千円 | 2,114万円 |
(※2)参考:退職手当制度がある企業の割合
自己都合での退職金の場合と比べて、会社都合による退職金のほうがもらえる額が多いことがわかります。自己都合退職で1,000万円の退職金をもらうには30年以上かかりますが、会社都合による退職金は25年で受け取れるようです。
なお、40年勤めあげると、もらえる退職金額は学歴を問わず1,500万円を超えます。会社都合退職でもらえる退職金相場からも、途中退職する方には厳しい仕組みであるといえるでしょう。
退職金としてもらえる額は、働いた年数や役職、退職における理由などの要素を考慮し算出されます。退職金の算出方法について、以下の4つを解説します。
定額制とは、勤続年数に応じて退職金の額があらかじめ設定されている仕組みです。たとえば、15年勤続した場合は300万円、30年勤続した場合は1,000万円など、金額があらかじめ規定されています。
就業規則や退職金の取り決めに詳細が明記されているため、前もって確認しておきましょう。
基本給連動型は、勤続年数だけでなく退職理由や退職時の基本給を考慮する手法です。
通常、支給係数は3年の勤続で1.0、4年の勤続で2.0など、勤続年数に比例して増えます。また、退職理由は自己都合なら0.8、会社都合なら1.0とされることが多いです。
具体的な計算例(10年目の支給係数を10と仮定)
25万円(基本給)×1.0(支給係数)×0.8(自己都合退職)=20万円
35万円(基本給)×10(支給係数)×1.0(会社都合退職)=350万円
別テーブル制度は、勤続年数に応じた基準額に、等級や役職、退職理由を組み合わせて計算する方法です。基本給連動型に、等級や退職理由の要素が追加された方式といえます。
具体的な計算例(勤続7年目の基準額を60万円、勤続20年は300万円、一般社員0.8、課長1.2と仮定)
60万円(基準額)×0.7(役職)×1.0(会社都合退職)=42万円
300万円(基準額)×1.2(役職)×0.8(自己都合退職)=288万円
ポイント制は、勤続年数や役職に加えて、会社への貢献度や成長度などに応じてポイントを付加する成果報酬型の算出方法です。退職時にはこれまでに加算されたポイントに、1ポイントあたりの単価をかけて計算されます。勤続年数だけでなく実績も考慮されるため、成績のよい人は早期退職しても一定の退職金がもらえる仕組みです。
具体的な計算例(1ポイント1万円と仮定)
280(ポイント)×1万円(1ポイントあたりの単価)=280万円
退職金が一括で支給されると、分割の企業年金に比べてかかる税金額も大きくなります。退職金の受け取り方は企業により異なりますが、支給方法が決まっている会社がほとんどでしょう。したがって、退職金の受け取り時には節税が重要です。節税の手段として、退職所得の受給を申告すれば、退職所得控除を受けられます。具体的な退職所得控除の計算方法や例については、次節からの解説をご覧ください。
退職所得控除額の計算には、国税庁の「退職所得の計算方法」を参考にするのがオススメです。
勤続年数がわかっていれば、以下の計算式を利用し退職所得控除額を簡単に求められます。
40万円×勤続年数(80万円より少ないときは80万円)
70万円×勤続年数-600万円 障害者となったことにより退職した場合は、上記で計算した金額に100万円を加算します。 (※3)
(※3)参考:退職所得の計算方法
勤続10年の退職所得控除額の計算例は、以下のとおりです。
勤続10年であり、勤続年数が20年までの場合にあてはまるため、以下の計算式を使用します。
40万円×10年(勤続年数)=400万円
退職所得控除額は400万円です。
もし障害者になったことを理由に退職する場合は、算出した400万円に100万円を加えた500万円の退職所得控除を受け取れます。
近年では退職金の支給額の減少や、平均寿命が伸びていることから老後の生活資金を不安に思う人は多いでしょう。退職金を賢く運用し、老後資金を今のうちから準備しておきたいものです。
退職金を有効に運用するためのオススメの方法には、以下の4つがあります。
定期預金は普通預金と異なり、特定の期間にわたって銀行に資金を預ける取引形態です。資金を預ける期間は1週間から10年程度まで幅広く、利用者は自分の都合に合わせて設定できます。たとえば、数年後に住宅購入を予定している場合、5年間定期預金に預けると普通預金よりも高い金利を得ることが可能です。銀行は身近であり、1,000万円までの預金については元本が保証されているため、安心して利用できます。
ただし、定期預金は一定期間中の引き出しが制限されることや金利が低さがデメリットです。途中で解約する場合は、利息を受け取れない場合もあります。また、金利は普通預金よりは高いものの、投資信託などと比較すると低めです。したがって、定期預金は日常生活や、近い将来に使用する可能性のある資金を預けるのに適しているといえます。
個人向け国債は、国が発行する債券で、一般の人々も購入できる制度です。国に資金を貸し、対価として利子が支払われます。
個人向け国債は郵便局や証券会社などで手軽に購入でき、1万円からのスタートが可能です。最低金利は年率0.05%で元本割れの心配がなく、国の発行である安心感もあります。
利用可能な期間は3年、5年、10年で、特に10年の場合は半年ごとに利率が変更されるため、金利が上昇する可能性があるでしょう。(※1)。
ただし、金利がそれほど高くないため、利回りが限られるというデメリットも考えられます。
(※4)参考:個人向け国債窓口トップページ : 財務省
個人年金保険は、国民年金保険とは異なり、加入が義務づけられていない保険です。保険料の支払い方法としては、毎月または毎年支払う方法と、一括払いがあります。一括で支払うと保険料が割安になるため、退職金を得た場合にオススメです。
個人年金保険を利用する際のメリットとして、個人年金保険料の控除が挙げられます。一定の条件を満たす場合、最大で年間4万円の控除が受けることが可能です。(※5,6)。控除を受けると、課税所得金額が減少し所得税や住民税を軽減できます。
(※5)参考:No.1140 生命保険料控除|国税庁
(※6)参考:No.1141 生命保険料控除の対象となる保険契約等|国税庁
投資信託は、顧客から調達した資金をプロが運用代行し、さまざまな債権や株式などに分散投資できる仕組みです。国内外を問わず、プロが選んだ投資先で運用し、得た損益を顧客に分配します。株式投資が1つの対象に投資するのに対し、投資信託は預けた資金を分散投資に活用するため、リスクの低減が可能です。
投資信託は少額から投資が可能で、100円ほどからでも始められます。また、つみたてNISAなどを活用すれば、非課税での運用が可能です。ただし、元本割れのリスクや、運用代行における手数料などがかかるデメリットもあります。
退職金は確実に支給されるものではなく、制度がなかったり受け取る条件を満たしていなかったりするともらえません。退職金に関する注意事項について、転職時に留意すべき点を紹介します。
転職を検討している方は、応募先企業に退職金制度があるかチェックが必要です。退職金制度を採用するかどうかは企業が独自に決定するものであり、必ずしも導入されているわけではありません。厚生労働省の調査によると、退職給付(一時金・年金)制度を持つ企業は全体の75.5%であり、25.5%は導入していないことがわかります(※7)。
退職金の受け取りを希望する場合は、会社の規程の確認や企業に質問しておきましょう。
(※7)参考:結果の概要(4 退職給付(一時金・年金)制度)|平成25年就労条件総合調査結果の概況|厚生労働省
退職金制度が存在していても、実際には受け取れないことがあります。退職金の支給条件は各企業で異なり、要件を満たしていない場合、支給義務は発生しません。
ただし、同僚と同じ条件であるにもかかわらず自分だけが退職金を受け取れない場合、いじめや嫌がらせの可能性も考えられます。このようなケースでは、厚生労働省の「労働紛争解決制度」を活用し、企業との協議が可能です(※8)。
(※8)参考:個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん) |厚生労働省
転職前の勤務先で積み立てていた退職金は、新しい職場に移るとリセットされます。たとえ長期間働いていたとしても、退職金の積み立ては中断されるのが一般的です。
ただし、現在在籍する会社が企業年金制度を採用していて、かつ転職後の企業も同様の制度の場合、退職金の積み立てを継続できるかもしれません。確定拠出年金制度(DC)や確定給付企業年金制度(DB)などでは、引き継ぎが可能なケースがよく見られます。
3年未満で新しい仕事に移る場合、通常は退職金が支給されません。各企業の方針により退職金制度が異なり、支給条件が明確に定められているため、会社規程の確認が必要です。
また、退職金に関連する税金も相当な額になるため、退職所得控除などを利用した節税も視野に入れましょう。新しい職場でも退職金制度があるか、またその仕組みが引き継ぎ可能なものかなどを確認してからの転職がオススメです。