「監査役は、そもそも役員なの?立場が曖昧でモヤモヤする……」企業のガバナンス体制を考えるとき、監査役の位置づけは避けて通れないテーマです。この記事では会社法に基づく監査役の定義・権限・責任を徹底解説します。役立つ情報を明確にまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
会社法では、監査役は「役員」に該当すると明確に定められています。ここでは、会社法の条文に基づいて監査役の位置づけを確認していきましょう。
監査役は法律上「役員」です。会社法第329条では、「株式会社の役員は、取締役、会計参与および監査役とする」と明記されています。この条文により、監査役は取締役や会計参与と同様、法的に「役員」として位置づけられているのです。
ただし、業務執行を担う取締役とは役割が異なり、監査役は主に「監視・監督」の立場です。役員でありながら、経営には直接タッチしないという特殊性が、実務上の誤解を生む一因にもなっています。
監査役が役員に含まれる根拠は、会社法第329条にあります。この条文は、株式会社における「役員」の範囲を明確に示しており、監査役はその一角を占めているのです。また、監査役は株主総会で選任される点でも、取締役などと同様の扱いを受けます。
さらに、監査役の氏名は登記簿に記載され、報酬も株主総会の決議に基づいて決定されます。これらはすべて、監査役が会社にとって公式かつ重要な意思決定機関である「役員」であることを裏づける証拠といえるでしょう。
「監査役=役員ではない」との誤解が生まれる背景には、職務の性質の違いがあるでしょう。取締役は会社の業務を執行する立場であり、日々の経営判断に直接関与します。一方、監査役はあくまで業務執行を監視する立場で、指揮命令権や意思決定権は持ちません。このように、実務での関与の度合いに差があるため、「監査役は部外者に近い」との印象を持たれがちです。
また、従業員から見たときに直接の指示がないことから「社外的存在」と誤認されることも少なくありません。ですが、法的にはれっきとした役員であることに変わりはありません。
監査役と取締役は、いずれも会社法上の「役員」に該当しますが、職務の目的と性質は大きく異なります。この章では、それぞれの役割と権限を比較しながら、業務執行と監督機能の分離について詳しくみていきましょう。
取締役は、会社の業務執行を担う中心的な存在です。具体的には、経営方針の策定、重要な契約の締結、予算や人事に関する決定など、日々の経営判断を下します。取締役会を設置している会社では、複数の取締役が協議し、意思決定を行うのが一般的です。また、代表取締役に選定されれば、会社を法的に代表し、取引を行う権限も与えられます。こうした業務執行権限を持つことが、監査役との最大の違いです。
監査役の主な職務は、取締役の職務執行を監査することです。法令や定款に違反する行為がないかをチェックし、問題があれば株主総会や取締役会に報告・意見表明を行います。とくに常勤監査役には、取締役会や重要会議への出席を通じて、日常的に会社の動きを把握する役割があるでしょう。
また、監査役には「調査権限」も付与されており、帳簿・書類の閲覧や関係者への聴取を通じて監査を行います。ただし、業務執行の指揮や関与は一切できません。
取締役と監査役の関係は、「業務を行う人」と「それを見守る人」として明確に分離されています。この分離は、会社の透明性を高め、不正の抑止やガバナンスの強化につながるでしょう。経営を担う取締役が独走しないよう、社内から独立した立場で監査を行う監査役の存在は極めて重要です。
また、金融庁が推進するコーポレートガバナンス・コードでも、経営の監督機能の強化が強調されており、監査役の果たす役割は今後さらに重視されていくでしょう。
取締役と監査役は、その職務内容こそ異なりますが、いずれも会社法上の「役員」として共通の法的責任を負います。ここからは、役員に課される義務や責任の内容を整理し、監査役が負うリスクについても確認していきましょう。
取締役と監査役のどちらも、会社法に基づく法的義務を負っています。たとえば、善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)や忠実義務(会社の利益を最優先に行動する義務)は、すべての役員に課される義務です。これに違反した場合、損害賠償責任を問われることもあります。
監査役の場合、自らが業務を執行しない立場であっても、「見過ごした責任」が問われる可能性があるため注意が必要です。
監査役も、株主代表訴訟の対象になり得ます。株主代表訴訟とは、会社が取締役や監査役に対して損害賠償請求を行わない場合、株主が会社の代わりに訴える制度です。監査役が職務を怠り、会社に損害が発生した場合、株主から訴えられるリスクがあります。
とくに、明らかに不正な取引や不正会計が見逃されていた場合、「監査役としての注意義務を果たしていなかった」と判断されるケースが見られます。
このような法的リスクに備えるため、企業では「役員賠償責任保険(D&O保険)」を導入するケースが増えています。D&O保険とは、取締役や監査役などの役員が、職務上の過失や違反により損害賠償請求を受けた際に、その損害をカバーする保険制度です。監査役も被保険者に含まれており、訴訟費用や賠償金の一部または全部が保険で補償されます。
この保険の存在は、リスクを背負う役員の安心材料となるだけでなく、有能な人材が役員に就任するための心理的ハードルを下げる効果もあります。
監査役はすべての会社に必要なわけではありません。会社の規模や機関設計に応じて、設置義務の有無が変わります。ここでは、監査役が必要とされる会社の条件や、監査役を置かない場合の代替制度についてみていきましょう。
大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社)は、監査役またはそれに準ずる監査機関の設置が法律で義務付けられています。
中小企業では任意設置が認められていますが、一定の条件を満たすと設置義務が発生します。たとえば、公開会社(株式を自由に譲渡できる会社)で、かつ会計監査人を置く場合には、監査役の設置が必要です。
企業の成長や上場準備段階で、組織体制を見直す際には必ず確認すべきポイントといえるでしょう。
監査役会設置会社とは、取締役の業務執行を監査する仕組みを持つ株式会社です。3名以上の監査役を置き、そのうち半数以上を社外監査役とする必要があります。この形式を採ることで、監査役の監査機能を強化し、企業統治の透明性を高めることが可能です。上場企業や大企業の多くがこの形態を採用しています。
監査役会を設置する場合は、会社法や金融商品取引法に基づいた厳格な報告義務・調査義務も課されるため、企業側にも一定の体制整備と運営力が求められます。
監査役を置かずに経営と監督を分離する方法として、「監査等委員会設置会社」と「指名委員会等設置会社」があります。
監査等委員会設置会社では、取締役の一部が「監査等委員」となり、業務執行取締役を監視します。一方、指名委員会等設置会社は、社外取締役の比率を高めたうえで、指名・報酬・監査の3委員会が業務を監督する制度です。
これらの制度は柔軟性がありつつも、厳格な独立性が求められるため、導入には制度理解と適切な人材確保が不可欠です。
監査役は、会社の監督機能を担う役員として、選任手続きや報酬の決定にも独自のルールが設けられています。以下で、監査役の選び方や適格性の判断基準、そして報酬の決め方や相場についてみていきましょう。
監査役は、株主総会の普通決議によって選任されます。選任に際しては、定款に特別な定めがある場合を除き、出席株主の議決権の過半数による賛成が必要です。また、任期は原則4年とされており、再任もできます。
なお、監査役会を設置している会社では、監査役の候補者を選任するにあたり、監査役会の同意が必要になります。これは監査機能の独立性を確保するための重要な仕組みです。
監査役に就任するためには、一定の要件を満たしている必要があります。まず、法令で定める欠格事由(たとえば破産手続中、成年被後見人、一定の刑事罰を受けた者など)に該当していないことが前提です。
さらに、監査役には「業務執行から独立していること」が求められます。取締役や従業員との兼務は禁止されており、監査役会設置会社の場合、社外監査役には会社の元従業員も一定期間就任できないなど、厳格な基準が設けられているため注意が必要です。
監査役の報酬は、株主総会で決議された「報酬総額の枠内」で、個別に決定されます。取締役と異なり、監査役の報酬には業績連動報酬やストックオプションが認められないことが一般的です。これは、監査役の独立性と中立性を保つためと考えられます。
報酬額の相場は、企業規模や職務の範囲によって異なりますが、中小企業では年額300万〜600万円程度、大企業や上場企業では1,000万円を超えることもあります。
▼監査役の選任方法について詳しくはこちら
常勤監査役の選定方法|設置対象となる会社や向いている人を解説
監査役制度は形だけでは機能しません。本当に機能する監査体制を築くためには、実務面での工夫と体制整備が不可欠です。この章では、監査役の独立性の確保、社内連携、そして日々の監査活動の質を高めるための実践的ポイントを紹介します。
監査役が本来の役割を果たすためには、取締役や経営陣からの独立性が保たれていなければなりません。そのためにはまず、監査役専用の情報ルートの確保が重要です。経営会議の議事録や社内通報制度へのアクセス、必要に応じて経営陣に直接報告・意見を述べる場を設けることが効果的でしょう。
また、監査役が独自に行動できる予算やサポート体制(たとえば専任スタッフの配置)を整えることも、独立性の実効性を担保するうえで欠かせません。
内部監査部門との協力関係を築くことは、監査役の業務効率と監査の網羅性を高めるうえで非常に有効です。具体的には、定期的な情報交換会を設け、監査方針や重点監査項目を共有します。内部監査部門が把握している現場の課題や内部統制上の懸念点を、監査役が早期に把握することで、効果的な監査が可能になるでしょう。内部監査部門を単なる情報源としてではなく、パートナーとして位置づける姿勢が求められます。
実効性のある監査を行うには、「タイミング・対象・方法」の3点に戦略性が必要です。たとえば、重要な意思決定が行われる直前や新規事業の立ち上げ時に重点的なモニタリングを行うことで、経営の暴走を未然に防ぐことができます。また、形式的な書類チェックだけでなく、現場ヒアリングや突発的な訪問(スループ)など、臨場感ある監査が信頼性を高めるでしょう。さらに、監査報告を経営陣と共有する際は、具体的な改善提案を含めることで、「監査役がブレーキ役である」という消極的なイメージを払拭できます。
監査役は、会社法上「役員」に分類されながらも、ほかの役員とは明確に異なる立場と役割を担う存在です。業務執行から距離を置き、独立した視点で経営を監視するという機能は、現代のコーポレートガバナンスにおいて極めて重要といえるでしょう。その一方で、経営判断に直接関与せず、むしろ牽制・監督に専念する役割であることから、社内外での認識にギャップが生まれることも少なくありません。
経営と監督の分離が進む今、監査役は単なる形式的存在ではなく、企業の持続的成長を支える「最後の砦」として機能すべき存在です。今後さらに、社内外のステークホルダーからの説明責任や透明性が問われる中で、監査役の責任と存在意義は一層高まっていくでしょう。
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