記事FV
監査法人
2024/06/23 更新

監査役とは?役割、権限、報酬、適性などを解説

企業の監査を担当する「監査役」は、健全な経営に不可欠な重要なポジションです。しかし、「監査役は具体的に何をしているのか」「誰でも監査役になれるのか」といった疑問を抱く人はいるのではないでしょうか。

この記事では、監査役に関する基本的な知識から役割、業務内容、報酬、適任な監査役のプロフィールなどを解説しています。将来的に監査役を配置する計画のある企業や、監査役へのキャリアアップを検討している方にとって有益な情報ですので、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてください。

監査役とは?

監査役は、株式会社において取締役の業務執行状況を監督・監査する役職です。これは取締役と同じく、会社の役員の一環といえます。

取締役は業務執行における意思決定を行う立場であり、その違法行為やそのおそれがあるかどうかを監査役が調査し、不正が発覚した場合には是正します。

監査役は取締役とは異なる視点から企業経営に参画し、会社、株主、従業員の利益を守る重要なポジションです。現代では企業のガバナンスとコンプライアンスが重要視されており、監査役の役割は一層高まっています。

監査役の役割とは

監査役は、取締役の職務の執行を監査する「業務監査」と、会計などに関連する「会計監査」の二つの重要な役割があります。

業務監査は主に経営目標の達成を支援することを目的とし、会計監査は主に株主や金融機関などのステークホルダー(利害関係者)を保護することを目指します。監査役の役割には、監査して不正を発見した場合に取締役会に報告し、株主総会で報告することも含まれます。

①業務監査

業務監査は、取締役の職務の執行が法令や定款に適合しているか、経営目標のために適切で合理的な業務が行われているかをチェックします。監査役は取締役から事業の状況について報告を受け、会社の業務や財産の状況を調査も監査役の仕事です。

通常、「適法性監査」と呼ばれ、取締役によって作成された事業報告書が法令に適合していることを確認し、取締役の不正行為などによって会社や株主、従業員などが不利益を被らないようにします。業務監査が終わった後には監査報告書を作成します。業務監査は、会社の経営目標達成を支援し、コンプライアンスの確立において重要な役割を果たすのです。

②会計監査

株式会社では、決算時に損益計算書などの作成が必要です。これらの計算書類は定時株主総会に提出される前に会計監査が行われ、株主総会の招集通知時には「監査役会の監査報告」が株主に提供されます。

会計監査では、取締役などが作成した経理上の計算書類が公正かつ適切な会計基準に基づいて作成されているかを確認します。その際には法的な不正行為や、株主に不利益な会計操作がないかなどもチェックし、監査済みの計算書類が信頼性のあるものであることを株主に示す役割があります。したがって、会計監査を行う監査役には会計の専門知識を有し、信頼性を確保できる人材を選ぶことが肝要です。

監査役の選任手続きは?

監査役は取締役と同じく、会社役員としての地位を有しています。このため、会社法第341条に基づいて、株主総会の通常決議によって選出されます。

まずは、監査役としての適格性を備えた候補者を選定し、その人物に就任を依頼します。条件によっては辞退される可能性もあるため、複数の有力候補者をリストアップし、雇用条件や報酬に関する検討も重要です。

選りすぐられた候補者に対して、監査役または監査役会の同意を得たら、株主総会で正式に決議を行います。なお、既に2名以上の監査役がいる場合は、その過半数から同意を得ない限り、新たな監査役を選任することはできません。

監査役の任期は?

監査役の任期については、会社法に基づき原則として4年と規定されています。ただし、非公開会社であって譲渡制限のある場合、会社の定款により最大で10年まで任期を延長することが認められています。

なお、取締役の任期が2年であるのに対し、監査役の任期は倍以上の長さとされています。この設定は、監査役の実効性を高めるためであり、同じ人物が任期満了後に再任されることも多いです。任期が終了した場合でも、役員変更のための登記手続きが法的に要求されます。

監査役の設置要件

かつては、株式会社においては「取締役会」「株主総会」「監査役」の設置が義務づけられていました。しかし、2006年の会社法改正により、一定の条件を満たす企業においては監査役の設置が任意となりました。

現在でも、監査役が必要な企業は「取締役会設置企業」「会計監査人設置企業」の二つに区分されます。また、特定の条件を満たす企業は「監査役会」の設置も義務づけられています。

①取締役会設置企業

「取締役会設置企業」とは、取締役会を設ける株式会社のことです。会社法では取締役会の設置が義務づけられている株式会社が指定されていますが、それ以外の会社は取締役会の設置が必須ではありません。

ただし、取締役会の設置により、株主総会を招集せずしても経営上の重要な決定を行えるなどのメリットがあり、多くの企業が取締役会を設けています。定款で取締役会を設置することができ、この場合は通常監査役の設置も必要です。

ただし、非公開会社で会計参与を任命している場合は、取締役会を設置していても監査役の設置は必須ではありません。

②会計監査人設置企業

「会計監査人設置企業」とは、資本金5億円以上または負債200億円以上の企業が大会社に該当し、会計監査人を設ける株式会社のことです。

大会社には会計監査人の設置が法的に義務づけられています。大会社では監査役の設置が前提条件となり、監査役の設置は必須の条件となります。

大会社においては、不正行為や違法な事実が発覚すると、それがステークホルダーだけでなく、社会全体に大きな影響を与える可能性があるため、監査役の存在は極めて重要です。

監査役のタイプ

監査役にはいくつかの種類があり、「社内監査役」「社外監査役」「常勤監査役」「非常勤監査役」の4つに分類されます。また、「監査役会」はこれら複数の監査役で構成される組織であり、それについても説明します。

1.社内監査役

社内監査役は、その企業の従業員や役員として経歴を持つ者が監査役に任命されるケースです。社内監査役は企業の内部事情に精通しており、業務監査において問題点を見つけやすいという利点があります。また、社内の人脈を活かして情報収集や調査がしやすいメリットもあげられます。

一方で、客観性に欠けるといった課題もあり、社内のつながりや経営陣に対して厳しく対応することが難しい場合も。一般的には、社内監査役が常勤の監査役になることが一般的です。

2.社外監査役

社外監査役は、企業外から任命される監査役で、企業のコーポレートガバナンスを強化するための条件を満たす人材が選ばれます。

社外監査役には、過去10年間にその企業や子会社で経営執行取締役、会計参与、支配人、または従業員などの経験がないことなどが要件です。これにより、企業内との繋がりが薄い人物が選ばれ、監査役としての独立性が確保されます。通常、企業内との接触が少ない非常勤監査役が社外監査役になる傾向があります。

3.常勤監査役

常勤監査役は、他に常勤する仕事がなく、会社の営業時間中はその会社の監査役として職務に当たる監査役です。会社法では出社する日数に関する具体的な定めはなく、通常は週に3日から4日以上の出社が常勤と見なされます。

社内監査役が兼務することが一般的で、企業の内部に精通しているため、業務の調査がしやすい反面、客観性が不足する可能性があります。十分なチェック機能が働かない懸念もあるので認識しておきましょう。

4.非常勤監査役

非常勤監査役は、通常、月に数回の取締役会や監査役会の出席以外には出社しない監査役を指します。一般的には社外監査役が兼務し、他の業務を持っているために出社頻度が低いです。

非常勤監査役には法律や会計に関する専門知識を有する弁護士や公認会計士が選ばれることが多く、そのため、監査の深度が増すことが期待されます。

監査役会とは?

監査役会とは、複数の監査役によって構成される組織で、取締役会の業務を監査する機関を指します。監査報告書の作成や、常勤の監査役の任命・解任、監査の方針や業務・財産の状況の調査方法の決定などがその業務に含まれます。

特に大会社かつ公開会社の場合、監査役会の設置は法的に義務付けられており、監査役会には3人以上の監査役が必要で、そのうち1人は常勤監査役である必要があります。

監査役会を設置することで、監査役の機能が正確に機能しているかを確認でき、監査の実効性が向上し、社会的な信用も向上するでしょう。

監査役の権限

監査役の主な権限には以下の点が挙げられます。監査役は独立性を保ちつつ、事業の状況を調査する責任があります。そのため、会社法において監査役には様々な権限が与えられています。

1. 報告要求・調査

監査役は取締役会の報告が不十分と判断した場合、追加の報告を依頼できます。また、取締役や従業員に対して、事業の報告を求めたり、会社の業務や財産の状況を調査する権限があります。子会社に対する報告要求や調査も条件付で可能です。

2. 取締役の違法行為の阻止

監査役は、取締役会での違法または著しく不当な決議を未然に防ぐために、全ての取締役会に出席しなければなりません。また、取締役の不正行為や法令違反が疑われる場合、取締役会を招集し、対処する権限を有しています。

3. 会計監査人の選任議案

大会社かつ公開会社の場合、会計監査人の選任に関する議案の決定権限が監査役会にあります。選任や報酬に関する提案を行い、他の監査役と協議しながら株主総会に意見を述べることが求められます。

4. 会社・取締役間の訴訟

監査役は、会社・取締役間での訴訟において会社を代表します。違法行為が発覚した場合、不当な行為の是正や損害賠償請求などの訴訟を起こす権限があります。また、株主総会において監査結果を報告することも監査役に与えられた権限です。

監査役の報酬

監査役の報酬は、通常、企業の定款または株主総会によって規定されます。株主総会の決議に基づいて監査役の報酬総額が定まり、その後、監査役同士が協議して具体的な配分が決まります。

報酬の額は企業の規模や監査役の職務形態(常勤・非常勤)により異なり、非常勤の場合は一般的に低い傾向があります。例えば、常勤監査役の場合、報酬は約500〜1,500万円(※1)程度が目安とされ、非常勤監査役の場合は約100〜500万円程度が一般的です。

報酬の水準には企業ごとの違いがあり、大手企業では数千万円に達することもあります。監査役の経歴や企業によるポリシーによっても変動が見られます。

(※1)参考:役員報酬.com

監査役になれない人とは?

監査役を選ぶ際には、欠格事由に考慮が必要です。以下のような監査役になれない条件がありますので確認しておきましょう。

監査役の欠格事由について

会社法では取締役の欠格事由を監査役でも準用しています。以下の条件に当てはまる人は監査役にはなれません。

  1. 法人
  2. 成年被後見人・被保佐人
  3. 会社法や金融商品取引法などの法律において罰則や刑に処され、執行後から2年を経過していない者
  4. 3以外の法律による禁固以上の刑に処され、執行が終わるもしくは執行を受けなくなるまでの者

監査役の兼任禁止の条件について

監査役は、監査を行う会社もしくはその子会社の「取締役」「会計参与」「執行役」「使用人」は兼任できないことが会社法で定められています。

つまり、会社の取締役は自社の監査役には就任できず、監査役が取締役になることもできません。これは監査する側とされる側の立場を明確に分ける必要があるためです。

監査役に適した人物とは?

監査役には、職務を遂行するに足る専門知識や能力のある人を選任しなければなりません。

どのような人材が監査役に適しているのか、一般的にふさわしいとされている職種や人材について紹介します。

①弁護士

業務監査では、法律に則った事業運営が行われているかをチェックします。そのため法律の専門家である弁護士などは監査役にピッタリです。

業務において、たとえば産地偽装などの法律違反を犯すようなことがあれば、企業の信頼は失墜し、株価は暴落して株主の利益を害することになります。当然売り上げは低下し、従業員の年収にも影響が出るでしょう。

そのような事態を未然に防ぐためにも、弁護士を監査役に迎える会社が多くなっています。

②公認会計士・税理士

公認会計士は、企業会計の監査ができる独占資格であり、税理士と共に会計・税務の専門家として監査役に適しています。

公認会計士・税理士による会計監査は、粉飾決算の防止など、会社のダメージになる大きな損害を未然に防ぎ、ステークホルダー(利害関係者)を守ることができます。

また、公認会計士・税理士はさまざまな企業の監査を行っているため、会計上の問題になる点を熟知しているため監査役にふさわしい存在です。

③内部監査経験者

内部監査とは、業務上の不正の防止や業務の改善を目的として、企業が自ら行う監査のことです。

内部監査の担当者は法務・税務、どちらも監査していた経験があるので、関連する法律や会計の知識を持っています。業務部門では気づかない問題点も発見してくれるなど、観察眼もあり、コンプライアンス意識が高い人が多く、監査役に適しています。

監査役へのキャリアアップを検討している人は、法務や税務の知識を習得し、内部監査担当者にまずは就任することもキャリアパスの一つといえるでしょう。

監査役は企業の適切な経営を守る役職

監査役は、企業の適切な事業運営と経営を監督・監視する役割を持つ重要な役職です。監査役の業務内容や権限を理解し、信頼のおける自社にとって有利な人材を選ぶことが大切です。

新たに監査役設置を検討している企業においては、企業のコーポレートガバナンス強化に大変役立つことが理解できたのではないでしょうか。監査役への転職を考えている人は、内部監査担当を経たキャリアパスも検討してみてください。

著者画像

株式会社WARC

WARCエージェントマガジン編集部

「人材紹介の『負』の解消を目指す、新しい転職エージェント」をビジョンに、ハイクラス人材紹介事業を展開しているWARC AGENT。WARCエージェントマガジン編集部は、このビジョンを支えるために、転職者に役立つ情報を執筆し、個々のキャリア形成をサポートしていきます。

満足度98%のキャリアコンサル

無料カウンセリングはこちら