企業のガバナンス体制を強化するうえで、社外監査役と非常勤監査役は重要な役割を担います。両者の違いを正しく理解することは、企業の監査体制を構築するうえでも、監査役としてのキャリアを考えるうえでも、大切な判断材料となるでしょう。
この記事では、それぞれの定義から業務内容、報酬体系、選任方法までを徹底的に比較します。ぜひ参考にしてみてください。
社外監査役と非常勤監査役は、似たイメージを持たれがちですが、実際は定義も目的も異なる役割です。両者の違いを正しく理解することで、より効果的な人選やガバナンス体制の設計が可能になります。
社外監査役とは企業と利害関係のない「第三者的立場」で選任された監査役のことです。会社法では、過去に当該企業やその子会社で取締役や従業員を務めていないことが要件とされており、明確に「社外性」が求められています。
【会社法2条16号】
十六 社外監査役 株式会社の監査役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。
イ その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員。ロにおいて同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
ロ その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがないこと。
ハ 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
ニ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
ホ 当該株式会社の取締役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。
社外監査役は経営陣の判断に偏らずに監査業務を行えるため、企業の透明性向上やガバナンス強化の観点で重視されています。
非常勤監査役は、常勤監査役とは異なり、日々の業務に常駐せず、必要に応じて監査活動に関与する立場です。週数回または月数回の頻度で取締役会や監査役会に出席し、経営状況や意思決定プロセスを確認します。時間的制約はあるものの、他社での経験や専門性を活かしてピンポイントに意見を述べることが期待される役割です。
「社外監査役」と「非常勤監査役」はまったく別の区分です。しかし現実には、社外監査役=非常勤という組み合わせで任命されることが一般的でしょう。これは、外部の専門家を非常勤で迎えることで、独立性とコストバランスの両立を図れるからです。ただし、非常勤であっても法的責任は常勤と同等であるため、職務遂行には十分な理解と準備が求められます。
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社外監査役とは?役割や社外取締役との違い、弁護士が向いている理由を解説
社外監査役と非常勤監査役は、いずれも取締役の業務執行を監査する立場ですが、関わり方や責任の重さには違いがあります。ここでは、業務の中身や法的な責任の違いに注目して確認していきましょう。
社外監査役の主な役割は、社内とは異なる視点で経営陣の意思決定や業務の適正性をチェックすることです。具体的には、取締役会や監査役会への出席、業務プロセスの確認、社内の統制システムの把握などが挙げられます。企業との関係性が薄いため、より中立・客観的な立場で指摘や改善提案を行うことが期待されているでしょう。近年では、コンプライアンスやサステナビリティの視点からの監査にも注目が集まっています。
非常勤監査役の業務は、限られた時間のなかで的確に企業のリスクや不正をチェックすることです。日常的に現場に関与する常勤監査役とは異なり、取締役会などの重要会議への出席を中心に、提出資料や決算書類などを通じた間接的な監査が中心となります。したがって、短時間で本質をつかむ観察力と、論点を正確に指摘する力が求められます。他職との兼任が前提となるため、効率的な情報収集と判断が不可欠です。
非常勤や社外という立場にかかわらず、監査役に求められる法的責任は基本的に同じです。取締役の違法行為や経営判断の妥当性を監視し、必要に応じて報告・是正提言を行う責務があります。
万が一、監査の怠慢により損害が発生した場合、損害賠償責任を問われることもあります。つまり、勤務形態の違いにかかわらず、監査役は同等の自覚と準備を持って任務にあたる必要があるといえるでしょう。
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監査法人非常勤の仕事内容と働き方|報酬・スキル・求人情報まで詳しく解説
監査役に支払われる報酬は、職務内容や勤務形態によって大きく異なります。ここでは社外監査役・非常勤監査役それぞれの報酬相場や、企業規模による差についてみていきましょう。
社外監査役の報酬は、常勤に比べて低めに設定されることが多いものの、その経験や専門性が評価され、高額となるケースもあります。上場企業では年間200万円〜500万円程度が相場で、中でも法務・会計・経営分野に強みを持つ人材にはさらに高額の報酬が提示されることもあるでしょう。
一方、非上場企業ではその半分以下に収まることも珍しくありません。報酬水準は、企業規模や業種、求められる役割の重みなどによって大きく左右されます。
非常勤監査役の報酬は、職務時間や業務内容に応じて設定されるため、年間100万円〜500万円程度が一般的です。日数ベースで支払う企業もあれば、役員報酬として月額または年額で固定する企業もあります。
また、業績連動ではなく、役割に対して固定報酬を支払うケースがほとんどです。報酬の妥当性を確保するために、他社事例や外部データとの比較がなされることも増えてきています。
上場企業では、ガバナンス体制の強化が強く求められていることから、監査役への報酬も相応に高くなる傾向があります。社外・非常勤いずれであっても、専門性と独立性のある人材を確保するためには、一定水準以上の報酬が必要です。
一方、非上場企業ではその必要性の認識や財務的な余裕に差があるため、報酬は控えめに設定されがちです。報酬の差は、企業の透明性・信頼性への投資姿勢とも言えるでしょう。
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社外監査役の報酬と決定方法|非常勤・常勤の違いや報酬相場を解説
監査役には、形式的な肩書きだけでなく、実務に活かせる専門性や人格的な資質が求められます。ここでは、社外・非常勤それぞれに期待されるスキルや、共通して重視されるポイントを見ていきましょう。
社外監査役には、企業の意思決定を客観的に評価するための知識と経験が欠かせません。とくに法律・会計・リスク管理といった分野に明るく、企業活動全体を俯瞰できる視野が求められます。
過去に経営層や専門職として活躍した実績がある人材が多く、社内にはない知見で経営を正すことが期待されます。また、自らの見解を適切なタイミングで伝える判断力や表現力も、信頼される社外監査役に欠かせない要素です。
非常勤監査役は、限られた時間の中で正確に情報を読み取り、リスクや問題点を見極める力が求められます。日常的に社内に常駐しないため、資料の事前読み込みや会議の内容把握など、短時間で核心を掴むスキルが必要です。
また、ほかの仕事や役職との兼任が前提となる場合が多いため、時間管理能力も極めて重要です。忙しい中でも継続的に質の高い関与をするためには、経験と自己管理の両方が欠かせません。
社外監査役・非常勤監査役ともに、最も重要なのは企業と一定の距離を保ちながら誠実に監査を行う姿勢です。利害関係に左右されず、正しい判断を下せる独立性は制度的にも求められています。
また、会社に対して意見を述べたり、指摘をしたりする役割であるため、高い倫理観と信念を持って職務を遂行することが前提になります。周囲からの信頼を得るには、人格面での成熟も大きな要素となるでしょう。
監査役の選任は、企業にとって長期的なガバナンスに関わる重要な判断です。ここでは、社外監査役・非常勤監査役を選ぶ際の手順や注意点、近年の傾向を押さえておきましょう。
社外監査役を選任するには、まず会社法で定められた「社外性」の要件を満たしているかの確認が必要です。そのうえで、取締役会や指名委員会を通じて候補者を選定し、株主総会で正式に承認を得ます。
選任時には、候補者の経歴や専門性、独立性に加え、過去の職歴や企業との関係性も審査対象となります。表面的な肩書きだけでなく、「企業の監査に適した人材か」という観点での見極めが不可欠です。
非常勤監査役の選任では、職務にかけられる時間や他職との兼任状況が大きな判断材料になります。法的な制約は少ないものの、非常勤という勤務形態が監査の実効性を損なわないよう、候補者の実務能力やレスポンスの早さ、社内外との関係構築力を見極めることが重要です。また、企業ごとに求める役割の幅も異なるため、選任前に「何を任せたいのか」を明確にすることが成功のカギとなります。
近年では、ガバナンス強化への社会的要請の高まりを受け、社外かつ非常勤の監査役を積極的に登用する企業が増えています。とくに上場企業では、外国人や専門家など多様なバックグラウンドを持つ人材の選任が進んでいるようです。
一方で、形式的な選任や「名ばかり監査役」が問題視されることもあり、候補者の実質的な監査能力や関与姿勢が厳しく問われています。選任にあたっては、社内の選定プロセスの透明性と説明責任も求められているでしょう。
理論だけでなく、実際にどのような場面で社外監査役や非常勤監査役が力を発揮しているかを知ることも大切です。ここでは、実務の現場での成功事例や、企業側が押さえておきたい選任の視点について紹介します。
社外監査役は専門知識と独立性を活かして、企業が気づきにくいリスクや問題を指摘できる存在です。
【社外監査役の成功事例】
ある製造業の企業で、社外監査役が取引先との過剰な割引契約に疑問を持ち調査を指示。結果、営業部門による架空取引が発覚し、早期対応で数千万円規模の損失を未然に防ぎました。
また、社外からの意見は社内に新たな視点をもたらし、意思決定の質を高めるきっかけにもなります。外からの「目」を活用することで、組織全体の透明性と健全性が高まるでしょう。
非常勤監査役は限られた時間のなかで結果を出す必要があるため、情報収集と意思決定の「効率」が大きな鍵となります。たとえば、非常勤監査役が事前に全議題に目を通し、疑問点をメモしたうえで会議に臨むという手法を徹底すれば、実質的な議論が深まるでしょう。また、週単位でレポート提出を受けるなど、社内側の情報提供体制を整えておくことで、非常勤でも十分に機能する体制が構築できます。
企業が監査役を選任する際は、単に経歴や肩書きで判断するのではなく、「企業が今、どんな支援を必要としているのか」を軸に考えるべきです。たとえば、急成長中で内部統制が未整備ならリスク管理に長けた人材、海外展開を加速したい企業なら国際会計や法務に明るい人材が有効でしょう。
また、信頼関係だけでなく、意見をしっかり言ってくれるかどうかも見極める必要があります。企業の未来を支える伴走者として、長期的な視点での選定が重要です。
社外監査役と非常勤監査役、それぞれの特徴や役割、選任のポイントまでを見てきました。両者は単なる名称の違いではなく、監査体制の根幹に関わる重要なポジションです。自社の現状や今後の課題を踏まえ、どのような人物にどの立場で参画してもらうのがベストかをしっかりと見極めましょう。正しい理解と適切な判断が、健全な経営の第一歩となります。
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