監査役は企業の健全な運営を守る重要なポジションです。しかし、その責任の重さゆえに、うっかり踏み外してはいけないルールも数多く存在します。
この記事では「監査役がやってはいけない行為」とその背景にある法的責任、そしてリスクを避けるための実践的なポイントを分かりやすく解説します。これから監査役に就任される方も、すでに務めている方も、ぜひ参考にしてください。
監査役は、企業の経営を監視する役割を担う役員です。業務や会計の不正を防ぎ、企業の信頼性と健全性を守る役目があります。まずは以下で監査役について確認していきましょう。
監査役の主な任務は、取締役の職務執行を監査し、不正や法令違反を未然に防ぐことです。具体的には、取締役会への出席や重要書類の閲覧、現場調査などを通じて、業務全体の動きをチェックします。また、業務監査に加えて会計監査も行い、財務報告の信頼性を確認する責任もあるでしょう。これらの活動を通じて、企業経営の透明性と健全性を担保し、株主や利害関係者の利益を保護する立場にあるのが監査役です。責任の重い立場であるからこそ、監査の実効性が常に求められます。
▼監査役の役割について詳しくはこちら
監査役・取締役・会計監査人は、それぞれ異なる役割を担いながら企業ガバナンスを支えています。
取締役は経営判断を行い、企業活動を主導する「攻め」の立場です。一方、監査役はその経営が適正に行われているかをチェックする「守り」の立場にあり、取締役の行動を監視・是正します。会計監査人は、企業の財務情報を公正に監査する外部の専門家で、財務諸表の正確性を確保する役割です。つまり、取締役は執行、監査役は内部監視、会計監査人は外部からのチェックという三者の関係が、企業全体のガバナンスを形成しています。
▼監査役と取締役の違いについて詳しくはこちら
監査役には法律や会計の知識だけでなく、高い倫理観や独立性も強く求められます。企業経営に対して「NO」と言える立場であるため、ほかの役員と適切な距離を保ちながら、公正で客観的な判断を下す力が欠かせません。
また、状況を見極める観察眼や経営陣との建設的な対話を行うためのコミュニケーション能力、不正の兆候を見逃さないよう常に注意を払い、行動に責任を持つ姿勢も重要です。これらの資質は一朝一夕で身につくものではないため、常に学び続ける意識と冷静な判断力を磨き続けることが、監査役として信頼される第一歩になります。
監査役には守るべきルールと行動規範が存在します。それを逸脱すると、法的責任を問われる恐れがあります。以下で、注意すべき7つの行為をみていきましょう。
監査役が取締役会へ出席しない、または発言しないことは重大な職務怠慢とみなされるでしょう。取締役会は、企業の重要事項が決定される場であり、監査役はその決定プロセスに異議を唱えたり、監督の意思表示を行ったりする責任があります。
たとえ反対意見があっても、黙っていたことで後に責任を問われたケースもあります。取締役会への継続的な出席と、必要な発言を行う姿勢は、監査役としての基本的な義務です。
監査役が自己または第三者の利益を優先するような行為、つまり「利益相反行為」に関与することは厳禁です。たとえば、親族が経営する企業との取引を黙認したり、自ら関与する別会社に有利な判断を下したりした場合、監査の公正性が損なわれます。監査役は、常に会社と利害が衝突しない立場を維持しなければなりません。たとえ直接的な便益がなかったとしても、利害関係が疑われる行動は避けるべきです。
監査役は、監査結果を正確に記録し、必要に応じて報告する責任があります。にもかかわらず、監査内容を記録していない、あるいは虚偽の報告を行った場合、その責任は重大です。
とくに、後に企業の不正が発覚した際、「なぜ監査記録が存在しないのか」と追及される恐れがあります。監査調書や報告書は、監査役の判断と行動を裏付ける証拠となる重要な文書です。日頃から適切な記録の作成・保存を怠らない姿勢が求められます。
監査役が知り得た社内情報を外部に漏らすことは、守秘義務違反にあたります。取締役会での発言内容や調査結果など、非公開の情報を第三者に開示することは、企業に深刻な損害を与える可能性があるでしょう。
とくに、競合企業や利害関係者に情報が渡った場合、損害賠償の対象となるおそれもあるため、情報管理は徹底しなければなりません。口外しないという意識だけでなく、データの持ち出しやメールの誤送信など、うっかりミスにも注意が必要です。
監査役として最も警戒すべきことのひとつが、経営陣との癒着です。長年の関係性や信頼があること自体は悪いことではありませんが、その結果指摘すべき問題を見逃したり、遠慮して発言を控えたりすることは、監査機能の形骸化を招きます。
監査役には、あらゆる利害関係から距離を置く「独立性」が求められています。親しさや忖度に流されず、常に客観的かつ中立な立場を保つことが信頼される監査役としての資質です。
不正を見逃すことは、監査役として最大の過失といえるでしょう。「気づかなかった」では済まされない場合がほとんどで、結果として企業の社会的信用を失う事態にも発展します。とくに粉飾決算や内部不正は、重大な監査不備として責任を問われるリスクが高いでしょう。監査は書類だけで済ませるものではなく、現場のヒアリングやリスクの洗い出しなど、多角的な手法で行う必要があります。形式的な監査で満足せず、実質的な実効性を意識することが重要です。
監査役の立場を利用して、業務に不必要な情報を要求したり、特定の社員に対して過剰な干渉を行ったりする行為は、権限の濫用にあたります。
本来、監査の範囲は業務執行の適法性を確認することに限定されており、業務の詳細な指示や意思決定への関与は適切ではありません。過剰に踏み込むことで、組織内の混乱や職務範囲の逸脱を招き、監査役自身の信頼性を損なうことにもつながります。あくまで「監視者」としての立場を守ることが大切です。
監査役が職務を怠った場合、その責任は重大です。民事・刑事の両面で法的責任を問われる可能性があります。
監査役は職務上の注意義務を怠った場合、損害賠償責任を負う可能性があるでしょう。たとえば、明らかな不正や違法行為を見逃した場合、「善管注意義務違反」として会社や株主から損害賠償を請求されることがあります。
実際、過去には不正会計を見逃した監査役に対し、億単位の賠償が命じられた判例も存在します。監査の不備や放置が重い責任につながる以上、形式的な対応ではなく実効性ある監査を行うことが重要です。
監査役は、民事責任だけでなく刑事責任を問われる場合もあります。取締役などの不正行為に関与したり、知っていながら黙認したりしていた場合には、共犯とされる可能性があるでしょう。
また、監査報告書に虚偽の記載をした場合には、「虚偽記載罪」や「業務上過失」などが問われることも。これらは「知らなかった」では済まされない重大な違反行為であり、監査役としての役割に対する法的責任の重さを改めて認識する必要があります。
実際に責任を追及される場合、まずは企業や株主から損害賠償請求や告訴がなされ、調査や訴訟を通じて監査役の過失の有無が判断されます。これを防ぐためには、日頃から適切な監査記録を残し、職務遂行の過程を明文化することが重要です。
また、独立性を保ち、少しでも違和感を覚えた時点で、積極的に意見を述べることが自らを守る最善策となります。万一の訴訟に備えて、D&O保険(役員賠償責任保険)に加入しておくこともリスク管理の一環として有効です。
監査役としての職務を果たすには、単なる知識だけでなく、実務面での工夫と実行力が欠かせません。以下に、監査役が実効性ある活動を行うための3つの具体的なポイントをご紹介します。
監査役は場当たり的ではなく、事前に年間を通した監査計画を策定・実行することが重要です。監査対象の優先順位をつけ、必要な情報やリソースを整理することで、効率的かつ漏れのない監査が可能になります。たとえば、重点監査項目をあらかじめ定めておけば、注力すべきリスクを明確にできるでしょう。こうした計画性が、監査の精度と実効性を高める鍵になります。
内部統制システム(会社全体で不正やミスを防ぐ仕組み)の評価は、監査役の基本かつ重要な職務です。評価の際は、組織構造、権限と責任の明確化、業務手順書の整備状況、内部通報制度などの整合性をチェックします。とくに、リスクが高いと考えられる業務領域(経理、人事、仕入れなど)を重点的に調査するのが効果的です。また、内部監査部門がある場合は、その報告書や指摘事項も活用できます。内部統制が機能しているかどうかを定期的に見直すことで、不正の予兆を早期に発見する体制が整うでしょう。
監査役と会計監査人の連携は、企業監査の信頼性を高めるうえで欠かせません。会計監査人は財務報告の正確性をチェックする専門家であり、その知見を監査役が活用することで、より深い理解と分析が可能になります。
たとえば、定期的なミーティングを設定して監査計画やリスク認識を共有したり、監査の中間報告を受けて対応策を検討したりするなど、双方向のやり取りが効果的です。独立性を保ちながらも、適切に連携することが、監査の透明性と説得力を高める結果につながります。
現場で監査役として活動する中で、よくある3つの疑問にお答えします。ぜひ最後まで確認してみてください。
監査役報告書は「監査の成果」を示す公式な記録であり、内容の正確さと根拠の明確さが重要です。形式を整えることはもちろん、監査対象や手続き、判断の根拠なども具体的に記載する必要があります。とくに注意すべきは、「問題がなかった」とする記載には、裏付けとなる監査手続きが必須であるという点です。
また、形式的なテンプレートに頼りすぎると、内容が空疎になりがちです。自らの監査活動を振り返り、事実に基づいて客観的に記述することが、信頼性の高い報告書作成につながります。
監査役が取締役と良好な関係を築くことは大切ですが、あまりに親密になりすぎると独立性を損なうリスクがあります。日常の会話や情報交換の中で信頼関係を築きつつも、監査対象であるという立場は明確に保ちましょう。
たとえば、懇親会や個人的な相談などは極力控え、公私の線引きを意識することが必要です。また、取締役に対して意見や指摘を行う際も、事実や規程に基づいた冷静な態度を貫くことが求められます。適度な距離感を維持することが、監査役としての信頼を高めるために重要です。
すべての監査役が最初から会計や法律のプロフェッショナルというわけではありません。だからこそ継続的な学習と適切な助言の活用が不可欠です。
会計や法務に関する社内外の研修を積極的に受講したり、必要に応じて専門家のアドバイスを仰いだりすることも有効な手段です。また、会計監査人や社内の内部監査部門との連携を通じて、最新の知識やリスクへの対応力を高めることもできます。「知らないままにしない」「聞くことを恐れない」姿勢が、信頼される監査役へと成長する礎になるでしょう。
監査役は、企業の透明性と信頼性を支える重要な存在です。健全な職務遂行のためには、役割や責任を正しく理解し、日々の監査活動を実効性のあるものにすることが求められます。
「見て見ぬふりをしない」「記録を残す」「疑問を持ち続ける」。こうした基本動作を徹底することが、信頼される監査役への第一歩です。日々の行動の積み重ねが、企業全体のガバナンスを支える力となります。初心を忘れず、責任と誇りを持って職務にあたっていきましょう。
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