近年、M&Aに意欲的な企業の増加がFAS業界全体に活気をもたらしています。その影響もあり、財務やM&Aの専門性を活かした転職先として、FASが注目されています。FASでは専門的な知識や経験が求められるため、未経験者が転職できないのではないかという不安を抱えている人は多いのではないでしょうか。
この記事では、FASの本質や未経験者が転職する方法について解説します。未経験者でもFASへの転職を実現するための重要なポイントを押さえましょう。
FAS(Financial Advisory Services)は、財務アドバイザリーサービスを指し、主に企業やクライアントに対して財務に関する戦略的な支援やアドバイスを提供するコンサルティング企業を指します。この分野は最近、急速に需要が高まり、転職でも人気の業界となっています。FASの具体的なサービスにはM&A支援や経営戦略の策定、企業再生支援、フォレンジック調査などがあります。
FASとIBD(Investment Banking Division)は共に財務に関わる業務ですが、FASはより幅広い財務アドバイザリー業務を行います。一方、IBDは投資銀行部門で、企業の資本市場での取引や金融商品の提供に特化しています。FASは証券会社の免許を持っていないため、資金調達のフローには深入りできません。
FASとコンサルティングは、企業に支援を行う点では同じですが、FASは主に財務に関連した業務を専門としています。
コンサルティングは幅広い領域にわたる業務を行います。たとえば、財務的な支援以外にも戦略的な問題解決や業務プロセス改善、人材育成や人事制度の設計などです。
FAS業界は企業の財務における重要な役割があります。FASと一括りに言っても、大手監査法人のFASや独立系FASなど、そのバリエーションは多岐にわたります。ここでは各種FASの特徴について紹介していきます。
BIG4系FASは、世界的に有名な大手監査法人のFAS部門を指します。
BIG4には、PwCアドバイザリー、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー、KPMG FAS、EYストラテジー・アンド・コンサルティングなどが含まれます。これらはグローバルなネットワークを有し、幅広い知識とノウハウを生かして、高度なサービスと広範な業務を提供するのが特徴です。
独立系・ブティックFASは、大手監査法人に属さず独自に財務アドバイザリーサービスを提供している企業です。これらのFAS企業は、幅広い業務をカバーするBIG4系FASとは異なり、特定の業界や専門領域に特化しています。
独立系・ブティックFASは、中小・ベンチャー企業などに焦点を当て、網羅的なコンサルティングを提供しやすい態勢を整えています。また、直接的なクライアント関係を築きながらサービスを提供することに重きを置いているのが特徴です。
FASの職務内容は、主に企業に対して財務に関する戦略的なサポートや助言を提供することです。ここでは、FASの仕事内容をより具体的に解説し、業務の実際の姿を詳しく説明していきます。
M&Aアドバイザリーは、FASの中で最も需要が高く、多くのプロジェクトが存在する業務です。企業の合併や買収に関する戦略策定や、投資先の価値やリスクの調査、交渉支援などを行います。また、財務的な評価やリスク分析を通じて、クライアント企業のM&A活動を成功に導く役割もあります。
買収後の統合支援や既存事業と新たな事業の相乗効果についてもサポートし、幅広い業務で活躍可能です。
企業・事業再生支援では、経営危機に直面する企業の状況分析や改革策の提案、資金調達の支援などを行います。
M&Aアドバイザリーよりも多くの案件があり、迅速な対応が必要です。通常、早期退職者の募集や役員報酬の削減などを提案し、財務改善や組織再編などをアドバイスします。企業の無駄なコスト削減や効率化を図り、持続可能な成長をサポートもFASの役目です。
経営戦略・高度化では、企業の長期的な成長戦略の策定や業績向上のため、財務知識を活用して、経営戦略や事業の高度化に必要な助言も行います。
クライアント企業の各事業における収益分析や市場分析を行い、競争戦略の立案や再考などをする役目です。また、ITやグローバル化に対応するため、海外案件や海外支部のマネジメントもサポートします。これらの助言は短期的な改善ではなく、持続可能な成長戦略を考慮し、企業価値の持続的な向上に貢献しています。
フォレンジックは、不正行為の調査や証拠収集、訴訟サポートなどを行うサービスです。主に取引データや記録を分析し、不正行為や疑わしいパターンを特定しています。
フォレンジックの手法には、データの復元、不正行為の証拠の特定、盗聴やハッキングの調査、不正な口座やトランザクションの追跡などが含まれます。FASのフォレンジックは、企業や金融機関における不正行為の早期発見や予防に役立ち、信頼性の高い財務情報を保護するために重要な役割を果たしています。
これまでFAS業界や業務内容について解説してきました。ここでは、FASへの転職に際して、魅力的な要素を紹介します。
FAS業界は高収入だといわれています。クライアントの重要な課題に取り組むことで、高い報酬を得られるからです。特にBig4系は知名度や事業規模がトップクラスで、平均年収はおよそ1,000万円(※1)といわれています。
独立系FASでは、少人数で高い利益率を実現するケースも多いです。中には平均年収が約2000万円を超える企業もあります。
(※1)参考:Openworks
FASはクライアントの成長や企業再生に貢献できるため、充実感を得られます。通常の会社員とは異なり、経営や財務に深く関わることで、達成感が得やすいです。
チームでプロジェクトを進めることが多く、共に目標に向かって努力する仲間との喜びも味わえる機会も多いでしょう。さらに、多様な業種の案件に携わることで視野が広がります。
FASの経験はファイナンス職のキャリアパスに有利です。
幅広い業務経験や専門知識を身につけることで、将来的には管理職や専門家としてのポジションに進むことが可能でしょう。FASの経験は財務分析や戦略企画、投資バンキングなど、多岐にわたるファイナンス関連の職種で活かすこともできます。
また、FAS業界は国内外のクライアントと関わる機会があり、グローバルなビジネス環境で活躍するチャンスにも恵まれるでしょう。
FAS業界の雇用状況は活発であり、M&A案件の増加に伴い需要が増しています。特に大手監査法人のFAS部門や優れた独立系・ブティックFAS企業からの求人が増加中です。
BIG4系FASでは年間の新規採用のうち2~3割は中途採用となっており、未経験者でも転職市場において今が良いチャンスと言えます。
さらに、グローバルな視野や多岐にわたる業務経験を持つ人材が求められており、採用プロセスでは経験やスキルに加えて、個人のポテンシャルや適応力も注目されています。
雇用市場でも人気の高いFASですが、業務自体は非常に高度であると言えます。転職を考える際には求められるスキルや能力を把握することが重要です。ここではFASで必要な能力について紹介します。
FASの職務で求められるのは、幅広い知識に基づいて的確に問題を解決できる能力です。財務データを正確に分析し、クライアントの財務状況を適切に評価するスキルが必要でしょう。財務報告書の解読や財務指標の解釈、数値モデリングなどのスキルが不可欠です。
したがって、転職時には、財務に精通した米国公認会計士(USCPA)や公認会計士資格を持っていることが価値があります。
M&A業務では、M&Aプロセスや法律・税務に関する知識が重要です。企業の評価手法やデューディリジェンスの理解、M&Aの動向や市場トレンドに精通していることが求められます。
面接ではM&Aに関する質問が多いため、M&Aの経験が評価される傾向があります。未経験者であれば、独自に学び、事前に備えておきましょう。
コンサルティング経験はFAS業務に役立つスキルといえます。なぜなら、コンサルティングもFASも共通する点が多く、両者ともクライアントの問題解決に関わるからです。クライアントとのコミュニケーションやプロジェクトマネジメント、問題解決の能力が重要でしょう。
また、特に財務や経営に焦点を当てたコンサルティング経験があると、転職において大きなアドバンテージになります。
FASでは、クライアントとの関係構築や報告書の作成、プレゼンテーションなど、円滑なコミュニケーションが必要です。そのため、明確で適切なコミュニケーション能力が重要です。
FASでは、企業の要人や財務に関わる課題を解決する性質上、投資銀行、法律事務所、戦略系コンサルティングファームとのやり取りも発生します。
このような場面では、高い交渉能力が求められ、通常の営業や事務以上に高度なコミュニケーション力が不可欠です。
FASでは、プロジェクトチームのリーダーシップを執ることがあります。他のメンバーを指導し、タスクを効率的に管理する能力が求められるため、自己管理やチームビルディングのスキルも重要です。
さらに、より高いレベルでは、会社経営に関わる場面でリーダーシップを発揮することもあります。
チームでの業務が多いため、周囲との連携や、時には説得力を持ちつつ牽引力を発揮するなど、多様なマネジメントスキルが求められるでしょう。
FASといった経営や財務に関わる分野は、高度な要求があり、一流の転職先と言えます。しかし、未経験からFASに転職を成功させるためには、具体的にどのようなステップを踏めば良いのでしょうか。以下で解説します。
FAS業界への転職を目指す際には、まずは関連する業界での経験が重要です。未経験者でも可能な場合もありますが、一からのスタートでは厳しいでしょう。
会計や監査、投資銀行、コンサルティングなど、財務や戦略に関連する業務を経験することで、FASで必要なスキルや知識を身につけることができます。ゼロから始めるのであれば、段階を踏んでキャリアを積むことが大切です。
未経験からFASへの転職を成功させるためには、独立系や中小のFAS企業を選ぶ方法もあります。こうした企業では、経験よりもやる気や成長ポテンシャルを評価することがあるため、未経験者にとって魅力的です。
Big4系とは異なり、独立系や中小のFAS企業は柔軟な姿勢で仕事を求めており、多様な人材を求めています。そのため、未経験者でも転職のチャンスが広がるでしょう。また、入社後は少人数の環境で多様な業務に携わることで、短期間で幅広いスキルを身につけられる機会があります。
FAS業界への転職を支援する一環として、関連する資格やスキルを身につけることが有効です。米国公認会計士(USCPA)や公認会計士、税理士など、業界で認められた資格を取得することで、自己アピールのポイントとなります。また、簿記2~1級の取得や経理・財務部での経験も評価されます。最近では、財務分析やM&A関連の知識の獲得も求められています。
さらに、海外とのコミュニケーションが発生する可能性もあるため、財務関連の知識だけでなく、TOEICなどの英語の資格を持つことも有利です。
FASでの経験は、将来のキャリアにおいて価値を持ちます。ただし、FASでの勤務期間が30代前半で終わるケースもあるので、次のキャリアに向けた戦略を早めに検討することが重要です。FASでの経験は、事業会社の幹部や顧問、M&A事業部でのキャリアパスを築くために役立ちます。
また、FAS業界での国際的な経験は、グローバルなキャリアに繋がる可能性があります。将来の展望を考慮し、FASでの経験を活かして、次なるキャリアを築きましょう。
FASへの転職は今が需要が高いタイミングであり、未経験者でも段階的なキャリア形成や独立系・中小FASを目指すことで可能性が広がります。
自分の現状を見つめ直し、資格取得が必要なのか、それとも段階的なキャリア形成が必要なのかを考え、行動に移すことで転職の成功率を高めることができるかもしれません。
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