労務リスクと聞いて「具体的にどのようなリスクかわからない」「労務リスクの対処法がわからない」という人もいるでしょう。
企業の成長を支えるうえで、労務リスクの管理はとても重要です。本記事では、労務リスクの事例や対策に加え、労務トラブルについても解説します。
労務リスクとは、企業の「ヒト」にまつわる労働問題が発生するリスクのことです。
具体的には、過重労働や残業代の不払い、ハラスメント、不当解雇などの労働問題が生じることを言います。労務リスクは多岐に渡り「人の感情」に起因する部分も多いため、悪化すると、損害賠償請求など大きな問題に発展する可能性もあるのです。労務リスクを回避するためには、コンプライアンスの遵守が不可欠です。どの企業においても労務リスクで多大な損害を被る可能性はゼロではないため、近年では労務リスクマネジメントが、企業の人事において重要な課題となっています。
労務リスクとは、長時間労働やハラスメントなど、労働にまつわるトラブルが発生するリスクを指します。実際に現場ではどのような問題が起きているのでしょうか。ここでは、労務トラブルの実態と労務トラブルが発生する原因について解説します。
労務トラブルは近年増加傾向にあります。厚生労働省によると、総合労働相談件数は4年連続で120万件を超え、高止まりとなっているのが実態です。(※1)
労務トラブルの発生は、企業にとってさまざまな損失が生じます。ときには、損害賠償請求などを通して企業の存続が危ぶまれる事態になることもあるのです。たとえば、労務トラブルが訴訟に発展すれば、弁護士費用や慰謝料の支払いなど、多大な損害を被る可能性があります。また、トラブルの影響で従業員のモチベーションが下がり、離職者の増加も考えられます。同時に、対外的な企業のイメージダウンにもつながります。
(※1)参考:令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況
労務トラブルが発生する原因は、不況による長時間労働やサービス残業、低賃金の問題や、個人の労働感が多様化していることなどが挙げられます。
また、情報化社会の発展により、企業内部の問題が表面化しやすいことも一因です。労務トラブルは、企業と従業員の間での認識相違から起こるトラブルです。労務トラブルにより、会社に損失を生じさせないためには、コンプライアンスや法律に則り、さまざまな労務リスクに備えることが重要と言えます。
労務リスクが発生すると、企業はさまざまな影響を受けます。具体的には、従業員が企業に対して労働条件の改善や金銭を求め、訴訟問題に発展することがあります。企業は、弁護士費用や慰謝料の支払いなど、金銭的負担をしなくてはいけなくなるのです。
また、他の従業員へ影響が及ぶこともあります。たとえば、トラブルの影響により、従業員のモチベーションが低下したり、離職者の増加などが挙げられます。また、社内だけの問題にはとどまらず、取引先企業との関係悪化などにつながる可能性など、労務リスクの発生は企業運営に大きな影響を与えます。
労務問題が発生するリスクを指す「労務リスク」には、さまざまな種類があります。企業の成長を支えるうえで、労務リスクにはどのような事柄があるのかを知ることが重要です。ここからは、良くある労務リスクを5種紹介します。
過重労働とは、従業員が法定労働時間を超えて働くことです。長時間労働は健康を損ない、ストレスや疲労を引き起こす可能性があります。企業は法定労働時間を守り、時間外労働の上限を設けることで、過重労働を回避しなければいけません。
一方、 残業代は労働者の権利であり、法律で保護されています。従業員が残業をした場合、適切な残業代を支払うことが求められます。残業代を不払いにすると、企業は是正勧告や罰金を受ける可能性もあるのです。企業は適切な勤怠管理を行い、法令遵守を徹底することが重要です。
メンタルハラスメントとは、他の人によって引き起こされる精神的な苦痛や、ストレスのことです。職場でのパワハラやセクハラ、モラハラなどのハラスメントが、労働者のストレスを引き起こし、メンタル不調につながります。 ハラスメントがエスカレートすると、労働者のうつ病や自殺に至る場合もあり、金銭的なリスクだけでなく社会的な影響も増大します。労働者のメンタルヘルスを害するハラスメントは、企業にとって以下のような重大なリスクが生じます。
労働契約とは、労働者と使用者が労働条件に関する合意契約をすることです。具体的には、労働者が使用者の指示に従って働き、使用者が賃金を支払うことを約束する契約です。
労働契約は、労働基準法や労働契約法などの法令によって規制されていて、会社と従業員が個別に結んだ一人一人のルールを指します。労働契約の内容が不適切であったり、法令に違反している場合、以下のような問題が生じるリスクがあります。
また、このような問題が生じた際、従業員を簡単に解雇できないため、注意が必要です。
労働災害とは、仕事中や通勤途中に起きた怪我や病気のことです。企業が安全対策を怠った場合、労働災害が発生するリスクがあります。
労働安全衛生関連法令により、事業主に対して以下の災害防止のための措置が義務付けられています。
労働災害により、事業主は貴重な人材を失う可能性や、被害を受けた従業員への補償、信用の損失など大きなリスクが生じるのです。加えて、労働災害が起こったあと、事業主は労働基準監督庁に対して指定の申請手続きを速やかに行う必要があります。
企業が従業員や顧客の個人情報などを適切に管理することは、義務として定められています。万が一、個人情報が漏えいした場合、多額な損害賠償請求の発生や、企業に対する信用が著しく低下する可能性があるのです。また、情報漏洩が発生すると原因の追求や、改善策を講じるために、多くの時間とコストがかかることとなり、企業にとっては大きなリスクとなります。
個人情報を取り扱う企業に対しては、個人情報保護法により以下の義務が課せられています。
労務トラブルは、企業としてなるべく避けたいことですが、残念ながら完全に避けられるものではありません。労務トラブルにはどのような事例があるのかを知っておき、未然に防げる対策を講じるようにすることが重要です。ここでは、良くある労務トラブルの事例について紹介します。
パワーハラスメントは、職場で権力を持つ人が、部下や同僚に対して不適切な行動をとることです。具体的な事例として、以下が挙げられます。
労働条件の不備により、従業員が企業を訴える場合、リスクがあることも理解しておく必要があります。企業を訴えた際に考えられるリスクは以下のとおりです。
法的なリスク | 裁判で敗訴する可能性がある |
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企業から訴え返されるリスクがある | |
雇用契約を解除される可能性がある | |
金銭的なリスク | 裁判費用がかかる |
弁護士への依頼に費用が発生する | |
事実上のリスク | 職場の雰囲気が悪化して居心地が悪くなる可能性がある |
時間とエネルギーがかかり、精神的負担がある |
リスクを最小限に抑えるために、まずは企業と交渉をしたり、信頼できる弁護士に依頼するなどを検討するのがいいでしょう。
過重労働とは、長時間労働や休日出勤、過度な仕事の負担により、身体的・精神的に大きな負担がかかるような形で働くことです。過重労働により、従業員の欠勤や長期休職、退職など、生産性や業務効率の低下につながる可能性があります。
また、精神的な負担は、うつ病や不安障害、心身症などを引き起こす可能性があり、過労死や自殺に発展するケースも少なくありません。たとえば、長時間労働により、睡眠不足を招くと、メンタルヘルス不調のリスクを高めます。
過重労働とメンタルヘルス問題は、労働環境の改善や、従業員の健康管理の両面から取り組むべき課題です。
労働問題が発生するリスクを指す労務リスクが悪化すると、企業の存続が危ぶまれる事態になることもあります。労務リスクを回避するためには、適切な対策を講じることが重要です。ここからは、今後起こる可能性のある労務リスクを未然に防ぐ対策を3つ紹介します。
労働法遵守のための教育と研修は、企業と従業員が法令を遵守し、労働関係において適切な行動を取るための取り組みです。従業員ひとりひとりが、社会人として責任感や規範、倫理観を養い、ルールを守る意識を向上するために、教育と研修は不可欠と言えます。
企業の信頼が一度損なわれると、回復するのはとても困難なため、企業の信頼を保つためにも労働法遵守のための教育と研修は重要です。
労務上のトラブルは、初動対応によりその後の流れが大きく変わります。企業と従業員だけで解決しようとすると、トラブルがより複雑になる可能性があるため、専門家への相談窓口の設置が有効です。いざというときにすぐに相談できる弁護士などがいれば、リスクを最小限の抑えることができます。
同時に、従業員向けの相談窓口の設置も必要です。従業員が何か悩みを抱える際、通常は上司に相談をしますが、パワハラやセクハラなどは、上司が加害者となるケースもあります。別の相談窓口を設けておくことで、問題が悪化する前に対処が可能です。
雇用慣行賠償責任保険は、ハラスメントや不当解雇で企業が従業員から訴訟された際、損害賠償責任の費用や、問題解決のために要した費用を補償する保険です。俗称「パワハラ保険」「セクハラ保険」と呼ばれることもあります。大企業だけでなく、中小企業や、あらゆる業種の企業で利用されています。
企業や役職員、従業員などが不当行為により損害賠償を負った際、所定の保険金が支払われる主な内容として以下が挙げられます。
ここまで労務リスクについて見てきましたが、労務リスクの種類や対策は多岐にわたります。「労務リスクを回避するために対策を講じたいが、何からすればいいのかわからない」という人もいるでしょう。ここからは、労務リスクを効果的に回避するポイントを3つ紹介します。
日頃から社内で適切にコミュニケーションをとっていることで、多くの労務リスクは回避できます。上司と部下、あるいは同僚との信頼関係を築いていくことが重要です。
仮に労務リスクが発生しても、安心して相談できる場所があることで、大きな問題に発展するのを回避できます。労災は、従業員が危険を感じる点を社内で共有できていれば、対策を検討して未然に防ぐことができるのです。労務リスクを回避するために、まずは上司が部下と積極的に会話するように心がけ、異変がないかを観察し、日頃からコミュニケーションを取ることから始めましょう。
労務リスクを回避するには、労務管理への理解を深めることが重要です。資格取得や研修を通じて労務管理への理解を深めるようにしましょう。代表的な資格として以下が挙げられます。
労務管理システムは、従業員の 勤怠管理や労働契約など、人事・労務に関する業務を効率的に管理するためのシステムです。このシステムを導入することで、従業員の出勤・退勤時間や休暇の申請、勤務実績の管理などをオンライン上で行えます。また、給与計算に必要なデータの管理や社会保険・労働保険などの各種手続きもオンライン上から可能です。
限られた労力でリスクマネジメントを実施するためには、雑務を効率化できる労務管理システムの導入を視野に入れると良いでしょう。
労務リスクの管理は企業の成長を支えるとともに、従業員のキャリアを守る意味でもとても重要です。労務リスクを理解したいと考える方や、転職を検討している場合には、専門的なサポートを受けられるWARCエージェントがおすすめです。WARCエージェントは管理部門に特化した転職エージェントで、企業と転職者に寄り添ったサポートが特徴です。
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