労務職や労務管理の業務には、法定三帳簿の管理や雇用契約書の作成などが含まれます。しかし、労務管理に関する具体的な概要を知らない方も少なくありません。
本記事では労務管理の業務内容や企業におけるその重要性、また労務管理士の資格について詳しく説明しています。参考にしてください。
労務管理は、福利厚生や勤怠管理などを通じて、従業員が安心して働ける環境を整える役割を果たす仕事です。その担当部署は会社によって異なり、人事部や総務部などが労務の役割を担うケースもあります。
労務管理の目的は、従業員一人ひとりの生産性を高め、労働契約条件を維持します。従業員は会社の貴重な資産であり、働きやすい環境を整えることが生産性に大きな影響を与える存在です。労務管理が適切であれば、生産性に大きな貢献をもたらし、会社の利益につながるでしょう。
上記のことからもわかるとおり、労務は会社の裏方として大きな役割を果たしますのです。以下は労務管理の業務内容になります。
労務管理の内容
法定三帳簿とは、管理・保管が労働基準法によって定められている帳簿を指します。管理・保管を怠った場合は処罰の対象になるため注意が必要です。主に、以下の帳簿の管理義務が定義されています。
法定三帳簿
帳簿の種類 | 内容 |
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労働者名簿 | 従業員の名前や住所などの個人情報をまとめた帳簿。退職・解雇・死亡の日から3年間の保管義務があります。 |
賃金台帳 | 従業員に払う賃金関連の情報を記した帳簿。最後に賃金の記帳をした日から3年間の保管義務があります。 |
出勤簿 | 従業員の出退勤に関する情報を記録した帳簿。最後の出勤日から3年間の保管義務があります。 |
10人以上の従業員を常時雇用する際には、労働基準法で就業規則の制定が義務付けられています。就業規則の作成には、「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」「任意記載事項」の3つのポイントを中心に据えることが基本です。
最初に、職場の状況に即した規則を設け、法令遵守のためのリーガルチェックを行います。代表従業員が確認した後、問題がなければサインと意見書を取り付け、労働基準監督署に提出して申請します。規則に変更があった場合も、届出が必要です。
雇用契約書は、従業員と会社の両者が労働時間や賃金、休日などの労働条件を確認し、労使契約を締結するために必要な文書です。通常、新入社員などを採用する際に作成されます。雇用契約書の作成は任意ですが、労働条件を示した労働条件通知書の提供は労働基準法で義務付けられています。そのため、両方をまとめて作成することが一般的です。
雇用契約書や労働条件通知書は、絶対的明示事項と相対的明示事項の2つが明記されていれば、書式に厳密な規定はありません。
また、正社員だけでなく、契約社員やパートタイム・アルバイト、試用期間の従業員にも適用されます。
従業員を採用する際には、社会保険(厚生年金保険・健康保険)や雇用保険の手続きが必要です。厚生年金保険は年金事務所、健康保険は会社が加入する健康保険組合、雇用保険は公共職業安定所に申請を行います。
従業員を新たに雇用する際には、保険の資格取得や住所変更、育児休暇中の各種給付金の申請、退職時の資格喪失手続きなど、保険関連の手続きがさまざまな場面で求められます。そのため、期限内にこれらを遂行するためには、計画的な作業が重要です。
勤怠管理は、従業員の勤務状況を記録するために始業・終業時刻、休日労働日数、時間外労働日数などを追跡します。この管理情報をもとに給与計算が行われるため、正確性が重要です。さらに、過度な労働による従業員の健康リスクを防ぐ上でも極めて重要な業務でしょう。
労働基準法では、1日ごと・1週間ごとの労働時間と休日の日数が規定されており、基準以上の時間外労働や休日労働をさせる場合には、「36協定」と呼ばれる合意を事前に締結し、労働基準監督署に申請する必要があります。この協定を怠ると法的な問題に発展するため、年ごとに必ず申請手続きを行うことが必要です。
労働安全衛生法では、労働者の健康を守るために安全衛生管理が求められており、働く人たちが健康的な環境で働けるよう整備する必要があります。従業員の健康診断の義務や、健康を保つための支援策としてインフルエンザ予防接種補助なども行います。
また、50人以上の従業員がいる企業では年に1度のストレスチェックが義務化されています。ストレスチェックを通じて心の健康を守り、職場環境を改善することで、健全な経営を目指すことが大切です。
企業内でのトラブル解決も重要です。セクハラやパワハラ、マタハラなどのハラスメントが発生することがあります。これらは職場での性的な言動や抑圧的な行動、妊娠や育休に関する嫌がらせなどで、労働環境に害を及ぼす問題です。
ハラスメント防止の周知だけでなく、相談窓口を設置し適切に対処できる体制づくりが不可欠でしょう。発生時には迅速に事実を確認し、厳正な措置をとり再発防止の方針を策定することが重要です。
退職手続きには、従業員が退職する際に行うべき手続きが含まれます。雇用保険と社会保険の資格喪失申請や労働者名簿の更新、退職手当の支給などです。また、退職する従業員から返却を受けるべき書類や物品もありますので、注意しください。
さらに、元従業員に渡すべき年金手帳や退職証明書などの書類の準備もします。退職後もしばらく元従業員と連絡を取ることがあるため、手続きを円滑に進めるためには連絡先をしっかり把握しておくことが必要です。
休職・異動の手続きには、怪我や病気、妊娠・出産などで一時的に働けなくなる従業員向けの手続きが含まれます。医師の診断書や休職願など、手続きに必要な書類を提出してもらいましょう。
また、傷病手当金の請求や休職を理由とする保険給付の申請なども発生する場合がありますので、従業員の状況を把握することが重要です。
異動時には健康保険や厚生年金の被保険者の住所変更や雇用保険の転勤届などの手続きが必要になります。手続きの内容を事前に確認しておくことで、届出の遅れなどトラブルを未然に防げるでしょう。
労務管理士とは、労務管理や労働基準法に関する専門知識を持ち、適切な労働環境を築くスキルを証明する資格です。この資格は一般社団法人日本経営管理協会や一般社団法人日本人材育成協会が運営しており、認定の基準はそれぞれの団体によって異なります。
労務管理に関連する別の資格として、社会保険労務士も挙げられますが、こちらは労務管理士と大きく異なる点があります。社会保険労務士は国家資格であり、合格基準が高く設定されているのです。これは将来的に独立して士業として活動したい人に適していている資格と言えるでしょう。一方、労務管理士は国家資格ではありませんが、労務管理に関する知識を基礎から学べるため、企業で労務を担当する人にとって資格取得は有益な選択肢と言えます。
労務管理士の資格試験
資格名 | 労務管理士 |
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主催者 | 一般社団法人日本経営管理協会・一般社団法人日本人材育成協会 |
対象 | 20歳以上(学歴・国籍不問) |
受験方法 | 公開認定講座、通信講座、web資格認定講座、書類審査 |
労務管理士は、認可団体が開催する講座を経て試験を受ければ、比較的容易に合格できるといわれています。未経験者でも取得できる可能性は高いため、挑戦してみてはいかがでしょうか。
労務の仕事に役立つ労務管理士の資格には、次のような利点があります。
労務管理士の資格取得の利点
資格は、自身の能力を他人に証明する重要な手段となります。労務管理の専門家としてステップアップするためにも、資格取得を考えることが良いでしょう。それぞれの利点について詳しく説明しているので、参考にしてください。
労務の仕事は専門的な知識が必要なため、未経験者向けの求人は少ないです。未経験から転職を考える場合、労務管理士の資格を取得することで労務の基礎知識を身につけることが重要でしょう。
資格を持つことで信頼性が高まり、未経験者よりも仕事に役立つ存在として評価されやすくなります。一部の企業は労務管理士の資格を求めている場合もあるため、転職の選択肢を広げるためにも資格取得を目指すことが望ましいでしょう。
労務管理士の資格には、労働法に関する知識を身につけるメリットがあります。専門知識を持つことで、労務管理に限らず人事や総務、経営など幅広い業務で自身の能力を発揮できるチャンスが広がるでしょう。
特に、労務管理の領域では経営陣に近いポジションで働くことも多く、実績を積むことでキャリアや昇進の可能性が高まります。次のステップに進みたい時には、労務管理士の資格が頼りになることでしょう。
労務管理の仕事は、法定の経理業務や就業規則・雇用契約書の策定など多岐にわたります。これらの業務にはそれぞれ専門的な知識が求められるため、労務管理士などの資格取得は有益です。
資格を取得することで専門知識を証明できるようになり、転職やキャリアの向上に寄与するメリットがあります。労務管理の専門家として、働きやすい職場を築くために資格取得を検討してみることをオススメします。