弁護士業界では、「イソ弁」という言葉がよく使われます。イソ弁とは、独立して事務所を持っていない「法律事務所で働いている弁護士」のことです。弁護士業界ではこのような専門用語や略語が頻繁に使われることがあります。
この記事では「イソ弁」の解説と、弁護士業界で使われるそのほかの専門用語を解説していきます。
「イソ弁」とは自分で独立した事務所を持っておらず、法律事務所に所属する弁護士のことです。司法試験に合格した後、すぐに弁護士として独立するケースは少なく、法律事務所に勤務して実務経験を積み、イソ弁として実務経験を積むことが一般的です。
イソ弁の語源は、「居候(いそうろう)弁護士」から来ています。法律事務所に所属(居候)して、弁護士活動を行うことから、居候弁護士を略して、イソ弁と呼ばれています。
「居候」という言葉にはあまりいい印象を持っていない方も多いと思います。ですが、ただで居座っているわけではなく、法律事務所に「雇用」されている弁護士であり、事務所を構えて独立する前に多くの弁護士が経験する一般的なキャリアです。イソ弁というのは単なる業界用語と考えてください。
イソ弁という言葉は昔から使われていますが、イソ弁と似た意味で使われているのが、アソシエイト弁護士です。言い方は違いますが、イソ弁とアソシエイト弁護士は同じ意味で、どちらも法律事務所に雇用されている弁護士のことを指します。
小さい法律事務所では「イソ弁」と呼ばれることが多く、国外との渉外案件を扱う大手の法律事務所では、「アソシエイト弁護士」と呼ばれることが多いです。理由としては、「イソ弁」という略称が国際的には通じにくいからです。
ちなみに、アソシエイトは英語のアソシエイト(associate)「同僚・仲間」に由来したものです。
イソ弁の業務内容は、勤務する事務所の規模によって違ってきます。
ここでは大手事務所と小規模な事務所での業務の違いを比較してみましょう。
上司の弁護士が受け持った仕事を補佐しながら、業務を遂行することがメインになります。
主な業務は、
などです。
事務所の規模が小さいと、一人で仕事を任されることも少なくありません。一般民事や刑事事件、個人事件など、比較的専門性が低い案件が多いです。
主な業務は、
などです。
イソ弁の業務内容は、所属する事務所の規模によって大きく異なります。そのため、自分が希望する業務ができる事務所を選ぶことが大切です。
イソ弁の平均年収は、個々の年齢や経験年数の他に、勤務する法律事務所の規模によっても大きく違ってきます。
日本弁護士連合会が行った調査「近年の弁護士の実勢について」によれば、経験年数が5年未満の弁護士の平均年収は796万円(※1)です。経験を重ねるごとに年収は増えていき、経験年数が5年から10年の弁護士では、年収が1,000万円を超える場合もあります。
大手事務所に勤務した場合は、経験年数が5年未満でも年収が1,000万円を超えることも少なくありません。ですが、地方の小規模事務所に所属していると500万円前後が標準的です。
年収の差は自身の経験やスキルだけでなく、所属する事務所によってもかなりの差がでてきます。将来のキャリアパスを見据えて、所属する事務所で年収が大きく変動することを認識しておきましょう。
(※1)参考:近年の弁護士の実勢について(弁護士実勢調査と事件動向調査を元に)
弁護士は個人事業主だと思われがちですが、イソ弁は法律事務所に勤務する「勤務弁護士」であり、給与所得者なので確定申告の必要はありません。
確定申告は個人事業主が、所得税を申告するための処理です。法律事務所に勤務している弁護士は普通の会社員と同じなので、源泉徴収によって各種税金を納付し、年末調整で差額分を清算します。ですから個人による確定申告は不要です。
個別の確定申告が必要になる主なケースは、下記のような場合です。
法律事務所以外から給与・報酬を貰っていないイソ弁は、基本的には確定申告の必要がありません。
次に、イソ弁になるためのステップを解説します。イソ弁を目指している方は、この手順をよく理解しておきましょう。
弁護士になるわけですから、まず司法試験に合格して、弁護士資格を取得する必要があります。
司法試験の受験方法には2つのパターンがあります。
法科大学院は、法曹養成のための教育を目的とする専門職大学院です。学習期間は、大学での専攻学部によって異なります。
法学部の出身の場合は「法学支流者コース」の2年間ですが、他の学部であれば「法学未修者コース」の3年間になります。
修了要件は、3年以上在学し、93単位以上を修得することです。法学既修者の場合は、1年以下・30単位以下を短縮することが可能になります。
法科大学院は国立大学(東京大学、一橋大学など)、公立大学(東京都立大学など)、私立大学(早稲田大学、中央大学など)に設置されています。
予備試験は簡単に言うと、司法試験の受験資格を取るための試験です。正式名称は「司法試験予備試験」ですが、予備試験といわれることが一般的です。
この予備試験は、「法科大学院を経ずに法曹資格を取得するための途を開くために設けられた試験」です。予備試験に合格すれば、法科大学院修了者と同等の資格を持っているとみなされ、法学部を出ていなくても司法試験を受験することができます。
弁護士資格を取ったあとは、最初に法律事務所に勤め、弁護士としての経験値を積むのが一般的です。
基本的には、上司や先輩弁護士の仕事を手伝いながら業務を学び、5年から10年程度で独立して、自分の事務所を立ち上げるケースが多いです。
独立しない場合は、勤務事務所でパートナー(共同経営者)になる、という選択肢もありますが、パートナーになるにしても独立するにしても、実務だけでなく、営業能力や事務所の運営能力が必要になります。
弁護士業界には、イソ弁以外にもいろいろな専門用語があります。
弁護士業界への就職を考えている人は、専門用語を事前に理解しておくと、業界のことがわかりやすくなります。
ボス弁とは「ボス」である弁護士のことです。
ボスとは、法律事務所の経営者や共同経営者のことを指し、通常は「所長」や「パートナー弁護士」と呼ばれることが多いです。
ボス弁は、法律事務所で「弁護士を雇用する立場にある弁護士」に与えられる通称です。
ボス弁のランクは、事務所の規模によって異なり、
というランキングになります。
ブル弁とは「ブルジョワ弁護士」の略です。4大法律事務所といわれている、
などに所属し、大企業を顧客としてM&Aや国際商取引などの業務を請負う、高給取り(=ブルジョワ)の弁護士のことを指します。
近年では上記の法律事務所に、TMI総合法律事務所を加え、5大法律事務所といわれることもあります。
ノキ弁は「軒先弁護士」の略です。
ノキ弁は、イソ弁とは異なり法律事務所に「雇用」されている立場ではなく、法律事務所のオフィス(軒先)を間借りして活動する弁護士です。
名義上は法律事務所に所属していますが、実際には独立採算制であり、事務所から給料をもらうことはありません。ノキ弁になる理由は、一般的に弁護士は法律事務所に所属していなければ活動できないからです。
ノキ弁は法律事務所に名義上の所属しながら、自分の目指すキャリアパスに向かって自由に仕事ができるのが良いところです。
タウン弁は、後述する「マチ弁」とほぼ同じ意味で、地方や田舎の小さな街の法律事務所で働く弁護士のことです。
大手事務所と違って一般民事系のトラブルや離婚案件、訴訟案件などの小規模な案件を扱うことが多いです。
大規模な案件は少ないですが、地域密着型の仕事なので、顧客とのコミュニケーションも密に取れ、地域への貢献にも繋がるので、リアルなやりがいを感じることができます。
マチ弁とは「街の弁護士」の略です。小さな弁護士事務所を開いて、地域密着型の業務を行う弁護士のことを指します。中小企業の法律問題や、離婚や相続などの家庭問題を主に扱います。
タウン弁とほぼ同義語です。
ソク独とは、法律事務所などに所属せず、弁護士になってすぐ(即)独立した弁護士のことをいいます。下に記述した「タク弁」「ケー弁」などがソク独の弁護士です。
タク弁とは「自宅弁護士」の略です。
司法修習を修了したものの、イソ弁として法律事務所に勤めることができず、ノキ弁にもなれずに、自宅を事務所として開業している弁護士を、タク弁と呼びます。
一般的には、法律事務所に就職できず、自宅で業務を行わざるを得ない弁護士のことをタク弁と呼ぶので、あまりいい呼称としては使われません。
しかし、実際には成功を収めて独立した弁護士が、自宅を事務所として活動している場合もあります。その場合もタク弁と呼ばれることになります。
ケー弁は「携帯弁護士」の略称です。事務所を持たずに、携帯電話だけで業務を行うのでこう呼ばれます。
多くのケー弁は、何らかの事情で自宅を事務所として利用できないので、事務所を持たずに、携帯電話をメインに業務をこなしています。事務所がないので、クライアントとの打ち合わせには、ホテルのラウンジやカフェ、ファミレスなどを使うことが多いです。
しかし、事務所を構えていないフリーの弁護士はクライアントからの信頼を得るのが難しく、仕事も任されにくいのが現実です。弁護士を目指すのであれば、ケー弁は避けたほうが良いキャリアパスといえるでしょう。
ヤメ検とは「検事をヤメた弁護士」のことを指します。ほとんどの検事は司法修習を修了しているので、検事をやめた後、弁護士になることが可能です。
ヤメ検は元々検事なので、刑事事件のエキスパートであり、弁護士になった場合は刑事事件でその強みを発揮できます。
ヤメ判とは「裁判官をヤメた弁護士」のことをいいます。裁判官も検事と同様、司法修習を修了しているので、裁判官をやめた後、弁護士になれるのです。
裁判官をしていたからといって、弁護士として優れている、ということにはなりませんが、「裁判官をやめた」という独特の立場をほのめかしたり、他の弁護士と差別化するために使われることもあります。
リベラル弁は、左翼的な立場で活動する弁護士のことです。社会問題に積極的に取り組む弁護士に使われることが多いです。
宗教的問題や人権的な問題を扱う弁護士を揶揄する時にも使われることがあります。
アカ弁とは左翼的な意味合いでいう、「アカ」の弁護士を指します。いわゆる左翼系の弁護士であり、社会問題に関する事件に熱心に取り組む弁護士に対して使われます。
ある有名弁護士が宗教団体から「左翼弁護士」という趣旨のことをいわれた時に、「私は人権派です」と反応したこともあります。
リベラル弁とほぼ同義語として使われます。
イソ弁は多くの弁護士が経験するキャリアパスであり、効率的に弁護士としてのキャリアを積むのに都合がいいポジションです。しかし、所属する法律事務所によって、業務も将来も大きく変わってきます。
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