「人事戦略とは、具体的に何をするの?」「会社の成長にどう役立つの?」と疑問を持つ人は少なくありません。人事戦略の本質や策定プロセスを理解すると、人材マネジメントの方向性が見えてきます。
この記事では、人事戦略の定義から具体的な立案方法、大手企業の事例まで詳しく解説します。
効果的な人事戦略を目指すにあたり、まずは戦略の全体像の理解が必要です。ここでは、人事戦略の定義や戦略人事との違いについて解説します。
人事戦略とは、企業の経営目標を達成できるよう人的資源を採用、育成、配置する施策です。中長期的な視点で企業の競争力を高めるために、戦略を練って人材マネジメントの方向性を示します。
人事戦略は経営戦略と密接なつながりを持つもので、組織と従業員の両者の成長を目指す試みです。
人事戦略は、主に3つの要素で構成されます。
採用戦略 | 必要な人材を見極め、採用計画と方法を策定する。 |
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育成戦略 | 従業員のスキル向上やキャリア開発を支援し、組織全体の能力を高める。 |
人材定着戦略 | 従業員の満足度とエンゲージメントを向上させ、長期的な定着を図る |
とくに、近頃は転職が珍しいものではなくなり、どの企業でも人材の流出問題が深刻です。優秀な人材が自社で長く働き続けられるよう、従業員のサポートや満足度を高める施策が求められます。
人事戦略と戦略人事には、以下の違いがあります。
概要 | 取り組みの例 | |
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人事戦略 | 人事業務のオペレーション改善を目指す。 | 業務プロセスの効率化や評価制度の改善。 |
戦略人事 | 人材の直接的な活用方法を指す。 | どの部門に資格を持つ人材を何名配置するかといった具体的な目標。 |
戦略人事は、人材の直接的な活用方法を指します。たとえば「どの部門に資格を持つ人材を何名配置するか」といった具合です。
この2つは混同されやすいですが「人事戦略」は業務自体の改善を、「戦略人事」は人材活用の方法と理解しましょう。
人事戦略の重要性が高まる背景には、日本社会の変化があります。以前は働き手が豊富で終身雇用が当たり前だったため、企業は人事を戦略的に考える必要がありませんでした。
しかし、人口減少や個人の価値観の多様化により、従来の人事では企業の成長が難しくなっています。
これからの経営では、優秀な人材に長く働いてもらえるよう、人事部門の役割を強化し、新しいアプローチを取り入れることが必要です。人事戦略により会社と社員の成長を同時に実現することが、企業競争力を決める重要な鍵となります。
人事戦略には、フレームワークの活用が有効です。以下に、フレームワークを使用するメリットを挙げました。
フレームワークを上手に活用すると、複雑な状況を整理でき戦略立案がスムーズになります。また、経営陣や人事部門で共通認識を持ちやすく、議論の質の向上も期待できる手法です。
ここからは、人事戦略に使える5つのフレームワークを紹介します。自社の目的に合ったフレームワークを見つけ、人事戦略策定に役立てましょう。
SWOT分析とは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つを整理する手法です。4つのセクションに自社の特徴を当てはめることで、自社の現状を把握します。
自社の強みを生かした人事戦略を立案できるだけでなく、弱みを克服するためのアイデアも得られる手法です。
TOWS分析は、SWOT分析を基にして戦略を立案するためのフレームワークです。以下のようにSWOTの各要素を掛け合わせ、詳細な戦略を考えます。
TOWS分析はSWOT分析からさらに踏み込み、実際に何をすべきかを考えるためのツールです。
ロジックツリーは、大きな目標を設定し、その目標達成のための方法を何個もリストアップする手法です。チームで議論すると論点がずれることがよくありますが、ロジックツリーを使うと解決方法にストレートにたどり着けます。
具体的な案を展開していくため、アイデアの具体化や優先順位付けにも役立つ手法です。
PEST分析は、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの要素を分析するフレームワークです。社内の問題だけでなく、世の中を取り巻く広い視野から人事戦略を検討するのに役立ちます。
景気変動や技術革新などの外部要因が企業の未来に影響する可能性があるため、世の中全体の事象を考慮した戦略を立てることが可能です。
PPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)分析は、経営資源を有効活用するためのフレームワークですが、人事戦略にも応用可能です。以下の4つの項目に当てはめ、経営における資源の分配方法を考えます。
各項目に合う戦略を立てることで、資源全体のバランスを取りながら企業の成長と収益の最大化を図れます。
ここからは、人事戦略の立て方を4段階に分けて解説します。人事戦略の構築手法を理解し、将来の行動計画に結びつけてください。
まずは、人事戦略の目的を明確にし、チーム全体で共有します。人事戦略の目的を考える際には、担当者全員で自社の経営ビジョンの再確認が必要です。
経営ビジョンには会社の基本的な考え方や行動指針が含まれています。考え方や行動指針を人事戦略に反映させることで、経営方針との一貫性のある計画を立てることが可能です。
現場でのヒアリングやオペレーションの確認を通じて、自社の環境調査や分析を行います。自社課題の中には、解決の重要性は高いものの実態が不透明なケースも少なくありません。
実際の状況を知るためには、従業員が働く現場を訪れ、課題解決に必要な要素の特定が必要です。環境調査や分析は、フレームワークを使って行う場合もあります。
目標の明確化と環境調査を踏まえ、具体的な行動計画を決定します。
たとえば、現場での長時間労働が問題なら、オペレーションの見直しとして作業のIT化が有効な可能性があります。IT化する導入箇所や費用の見積もりも、この段階での整理が必要です。
実行中の人事戦略に対し、定期的にモニタリングと評価を行います。振り返りの結果、期待する効果が得られない場合は戦略の見直しが必要です。
ただし、人事戦略は人材を対象とするため、効果が即座に現れるとは限りません。長期的な評価や、他社の戦略導入の動向を参考にするのが有効です。
ここでは、人事戦略を策定するためのポイントを2つ紹介します。ポイントを押さえて、より実効性の高い戦略を立案しましょう。
人事戦略を実行するには、社内全体の理解と協力が欠かせません。経営陣から現場の社員まで、すべての従業員に戦略の目的を明確に伝え、共感を得ることが重要です。
また、従業員からのフィードバックを積極的に取り入れ、戦略の改善に活かすことで、全員参加型の人事戦略を実現できます。部門間の壁を越えた協力体制を構築し、定期的な情報共有により人事戦略を身のあるものにしましょう。
人事戦略の見直しは、既存の人事制度や慣習にとらわれずゼロベースで行なうのが大切です。「今までこうだったから」という考えを一旦脇に置き、現在の経営環境や従業員のニーズに合った戦略を一から構築します。
ゼロベースで見直しを行なうことで、新しい価値観や働き方に対応した革新的な戦略を生み出せます。ただし、急激な変更は混乱を招く可能性もあるため、段階的な導入や十分な説明を心がけましょう。
人事戦略の実践にあたり、企業の事例を知ることは価値があります。ここでは、大手企業の3つの例を挙げて紹介しますので参考にしてください。
トヨタ自動車株式会社は「モノづくりは人づくり」との理念のもと、人材育成を行っています。中でも重要なのは、会社独自の行動指針である「トヨタウェイ」を従業員が実践できるようにすることです。
従業員の「人間力」「実行力」を育て、トヨタの看板がなくても活躍できる人材育成を目指しています。
三菱電機株式会社では、入社後の3年間を「基礎的育成期間」とし、従業員一人ひとりに合った研修を提供しています。育成期間中に受けられる研修は、基本的なビジネススキルから職種別の技術までさまざまです。
技術系研修では、初級から上級まで自分のスキルに合った内容を受講できます。
参考:三菱電機株式会社「新卒採用|採用情報|企業情報|三菱電機」
フジテレビジョン株式会社では、フレキシブルな働き方を推進するために、以下のような制度を導入しています。
家庭の事情により、働き方の変更を強いられる従業員は少なくありません。企業が柔軟な働き方を提供することで、離職率の低下につなげていく取り組みです。
人事戦略は、企業の成長と競争力強化に必要な要素です。本質を理解して策定することで、経営目標に合致した人材マネジメントが実現できます。
自社の状況に合わせた戦略により組織と従業員の成長を同時に達成し、生産性の最大化を目指しましょう。
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