人事戦略を活用した企業成長を望む場合、戦略の立案や導入について興味を持つ人が多いのではないでしょうか。人事戦略の重要性を把握しつつ、具体的な導入手順を理解することで、自社での適用イメージが広がるでしょう。
この記事では、人事戦略の成功法やフレームワーク、実例を解説します。
人事戦略とは、企業が目標達成を図るために業務を改善していく試みです。経営戦略に基づいて人材管理を行う中で、「他の業務が多忙で人材育成に手が回らない」「求めている人材を確保できない」といった悩みを抱えるケースは少なくありません。
これらの悩みを解決するためには、各業務の進め方を見直す必要があります。業務の方法を戦略的に検討する取り組みが人事戦略と呼ばれ、多くの企業で採用されています。
「人事戦略」は人事業務のオペレーション改善を目指すものであり、「戦略人事」は人材の直接的な活用方法を指します。たとえば、「どの部門に資格を持つ人材を何名配置するか」といった具体的な目標は戦略人事のアプローチです。戦略人事では人材リソースを適切に管理することで、企業を成長に導く役割を果たします。
これら2つの違いは混同されやすいですが、「人事戦略」は業務自体の改善を、「戦略人事」は人材活用の方法を意味すると理解すると良いでしょう。
最近、人事戦略の重要性が高まってきた背景には、社会の変化が影響していると考えられます。以前は日本の労働人口が多く、終身雇用が主流だったため、人事を戦略的に考える必要性はほとんどありませんでした。しかし、今では労働人口の減少や多様な価値観の台頭により、従来の人事手法では企業の生存が難しくなっています。
今後の企業にとって重要なのは、優秀な人材の確保と定着への対策です。企業の貴重な資源である人材を最大限に活かすためには、人事の業務改革が不可欠とされています。
人事戦略を進める際、具体的にどの分野に注力すべきか気になるのではないでしょうか。人事戦略には人材管理や業務プロセスの再検討が求められることを把握しておきましょう。
企業が事業を発展させるためには、経営戦略に基づいた人材採用が欠かせません。より強力な人材を獲得したいなら、求める人物像を明確に把握しておくことが有益です。以下は考慮すべきポイントの一部です。
面接で応募者が企業が求める人材かどうかを確認することは、早期離職やトラブルの予防にもつながります。
もし従業員の業務スキルに不安があれば、適切な研修が必要です。
ただ単に研修を実施するのではなく、スキルが伸び悩む原因を理解するようにしましょう。従業員が業務で困難を抱えている部分を把握し、それに対応した研修を導入することが有効です。適切な研修は企業の成長だけでなく、従業員の働きやすさにもつながります。
労務管理として、従業員の労働環境整備が重要な場合もあります。現在は時間外労働が問題視されており、その改善に乗り出していない企業も多く存在します。
労働環境は従業員の働き方に直結するため、改善が行われないと人材の流出やトラブルにつながりかねません。現場の状況を調査しながら、人材の確保や非効率な点のIT化を推進することで生産性を高める取り組みが求められます。労務改善は従業員の満足度を高め、長期的には企業に良い影響をもたらすでしょう。
従業員のモチベーションを高めるためには、業務の評価制度を策定または見直すことが必要です。時代の変化や業務内容の変更に伴い、等級制度の見直しが必要になることもあるため、定期的な点検が欠かせません。
スキルアップに対する報酬制度が充実している場合、従業員は目標に向かって仕事に取り組めます。成果を上げた人への報奨や、自信を持てるような評価制度を策定することが重要です。
企業の貴重な人材が流出しないように、離職を引き止める取り組みも重要です。近頃は働き方の多様化や価値観の広がりから、人材が企業にとどまってくれる保証がない時代に突入しています。
ほかの企業との差別化を図る施策を取り入れつつ、離職率をいかに下げるかの検討が必要です。例としては、賃金アップや育休制度の充実などが挙げられます。
人事戦略についての基礎を理解したところで、自社に適したアプローチに興味を持つ人もいるでしょう。有用なフレームワークを利用し、自社の課題や現状を明らかにしてください。
MVV(Mission, Vision, Value)は、企業活動を進める上でのミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)の略称です。これら3つを検討することで、適切な行動を整理することができます。
MVVを明確にしておくことで、企業の方向性を迷った際の判断をスムーズに行えるでしょう。
ロジックツリーは、大きな目標を設定し、その目標達成のための方法をいくつかリストアップして検討する手法です。チームでの議論では、論点のずれや目的から逸れることがよくありますが、ロジックツリーは問題やアイデアを整理するのに役立ちます。
また、具体的な案を展開していくため、アイデアの詳細化や優先順位付けに役立るでしょう。
PEST分析(Politics, Economy, Society, Technology)は、政治、経済、社会、技術の4つの要素を分析するフレームワークです。
PEST分析は、社内の問題だけでなく広い視野から人事戦略を検討するのに役立ちます。将来的な変化や外部要因が、企業の今後に影響を与える可能性があるため、これらの要因を考慮した戦略を立てることが重要です。
SWOT分析とは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4つを整理する手法です。
4つのセクションに自社の特徴を分析することで、自社の現状を把握できます。この分析を通じて、自社の強みを生かした人事戦略の立案が可能です。同時に、弱みを克服するためのアイデアも得られるでしょう。
人事戦略の重要性を理解した人にとって、具体的な計画立案手順が気になる方も多いでしょう。人事戦略の構築手法を把握し、将来の行動計画に結びつけてください。
まずは、人事戦略の目的を明確にし、チーム全体で共有します。人事戦略の目的を考える際には、担当者全員が自社の経営ビジョンを再確認することが重要です。経営ビジョンには会社の重要な考え方や行動指針が含まれており、これを人事戦略に取り入れることで計画に一貫性が生まれます。経営ビジョンを理解しながら、全体の目的に加えて各部署ごとの目標も考えましょう。
現場でのヒアリングやオペレーションの確認を通じて、自社の環境調査や分析を行います。課題としては浮上しているものの、実態が不透明なケースもあります。実際の状況を知るために現場を訪れ、目標達成に必要な要素が何かを把握してください。環境調査や分析は、フレームワークなどのツールを使って行う場合もあります。
目標の明確化と環境調査を踏まえ、具体的な行動計画を決定します。戦略を実行するには、次のような詳細な計画も必要です。
たとえば、現場での長時間労働が問題なら、オペレーションの見直しとして作業のIT化が効果的かもしれません。IT化のための導入箇所や費用の見積もりもこの段階で行います。
実行中の人事戦略に対し、定期的にモニタリングと評価を行います。振り返りの結果、効果が見られない場合は戦略の見直しが必要です。ただし、人事戦略は人材を対象とするため、効果が即座に現れるとは限りません。長期的な評価や、他社の戦略導入の動向を参考にすることも有効です。
企業が人事戦略を展開している場合、それらの実際の事例を知ることは価値があります。以下では大手企業の3つの例を挙げて紹介しますので、参考にしてください。
トヨタ自動車は人材を経営資源と位置付け、トヨタウェイという人材育成プログラムを導入しています。このプログラムの目標達成のキーポイントは以下の通りです。
これらのキーポイントは、従業員個々のスキルを活かすための「人間性尊重経営」を具現化するための内容です。
三菱電機株式会社では、入社後の最初の3年間を「基礎的育成期間」とし、従業員一人ひとりに合った研修を提供しています。この期間中に受けられる研修は、基本的なビジネススキルから職種別の技術まで多岐にわたるものです。技術系の研修では、初級から上級まで自分のスキルに合った内容を受講できます。
参考:三菱電機株式会社「新卒採用|採用情報|企業情報|三菱電機」
フジテレビジョン株式会社では、働き方の柔軟性を支援するために以下のような制度を導入しています。
家庭の事情などにより働き方を変える必要がある従業員は多いです。柔軟な働き方の提供は離職率の低下にも繋がると見られています。
企業の問題解決までの道のりは簡単ではないものの、人事戦略の正しいプロセスを踏むことで達成したい目標に近づけます。当記事で紹介したフレームワークや計画立案の流れを参考にしながら、課題解決に向けた人事戦略を実現させましょう。