管理職としての仕事は責任が重く、しばしば休日出勤を求められることがあります。しかし、労働基準法上の管理監督者と一般的な管理職には違いがあり、その扱いも異なります。
この記事では、管理職の休日出勤をめぐる実態を明らかにするとともに、トラブルを避けるための対策について解説します。休日労働のルールを理解し、働き方改革の観点から健全な労務管理を実現できるように今日から取り組みましょう。
企業の管理職はしばしば管理監督者と混同されがちですが、両者は明確に異なります。
以下で、「管理職」「管理監督者」の違いをまとめました。
項目 | 管理職 | 管理監督者 |
---|---|---|
定義 | 部下を管理する役職にある従業員 | 経営上の重要な判断を行う特別な地位 |
労働基準法の適用 | 労働時間、休憩、休日の条件が適用されることが多い | 労働時間、休憩、休日の規定が適用されない |
業務量の指示 | 上司から指示されることがある | 自身の裁量で業務量や遂行タイミングを調整 |
役割 | 部下の指導・管理、日常業務の遂行 | 経営に関わる重要な判断、自律的な業務管理 |
所定労働時間 | あり | なし |
管理職とは、部下を管理する役職にある従業員を指し、具体的には係長や課長職以上の従業員が該当。多くの場合、企業では管理職に対しても労働基準法の労働時間、休憩、休日の条件が適用されます。
一方、管理監督者は、労働基準法により特別な扱いを受け、労働時間や休憩、休日の規定が適用されません。管理監督者は経営上の重要な判断を行う立場にあり、業務の量や遂行するタイミングを自身の裁量で調整することが求められます。所定の労働時間で勤務し、上司から業務量が指示されるような従業員は管理監督者に該当しません。
先ほどご紹介した通り、「管理職」とは一般に企業内で役職を持つ社員のこと。しかし、労働基準法上の「管理職」と認定されるかどうかで、労働条件が大きく異なってきます。
労働基準法では、「労務に従事する者」を「労働者」と定義しています。
一方、「事業の運営に関する事項の企画、決定、または統括を専門的に行う者」は「管理監督者」と位置付けられ、労働基準法の一部規定が適用除外となります。
具体的には、労働時間、休憩、休日、時間外・休日労働の割増賃金などの規制が適用されません。つまり、企業は管理職に無制限の長時間労働を課すことができる可能性があるのです。
労働基準法上の「管理監督者」に認定されるか否かは、単に肩書きではなく、実際の「職務の内容と責任の程度」によって判断されます。
例えば、部長や課長などの役職名を持っていても、具体的な職務が事業の企画・決定や統括業務ではない場合は管理監督者とはみなされません。一方、係長や主任といった肩書きでも、実際に事業の企画や決定に関与しているのであれば管理監督者に含まれる可能性があります。
つまり、職務内容が事業の中核的な役割を担っているかどうかが重視されます。経営トップに準じて、企業の中核的運営を担う立場であれば管理監督者と認められる公算が高くなります。
このように、肩書きだけでなく実際の職務内容と責任の範囲を見極める必要があり、画一的な基準はありません。企業ごとに個別に検討しなければなりません。
労働基準法では、管理監督者を判断する基準として以下の要素が挙げられます。
参照:厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」
これらの基準を満たす場合にのみ、管理監督者として認定され、労働時間や休日に関する規定の適用が除外されます。しかし、基準を満たさない場合は、一般の労働者と同様の扱いとなります。
続いて、管理職の休日出勤と手当について知っておきたい内容をご紹介します。
先ほどご紹介したとおり、管理監督者とは、労働基準法で定められた概念で、労働者の指揮監督権限や人事・労務管理権限を有する立場の者を指します。この管理監督者は休日労働規制の適用除外とされているため、原則として休日出勤をしても割増賃金(休日出勤手当)を受け取ることはできません。
その理由は、管理監督者には一定の裁量権があり、自らの判断で労働時間を調整できる立場にあると考えられているためです。つまり、休日出勤は本人の意思で決められるものと見なされ、特別な割増賃金を設ける必要がないとされています。ただし、就業規則等で別途定めがある場合は、管理監督者であっても休日出勤手当を受給できる可能性があります。
一方で、管理職については法的な定義がなく、会社ごとに解釈が異なります。役職上は管理職でも、労働基準法上の管理監督者に該当しない場合があり、その際には休日出勤手当の支払い対象となります。具体的には、人事権や企業運営への関与度が低いなど、管理監督者の要件を満たしていないと判断された場合です。
また、管理職であっても、就業規則などで休日出勤手当の支給が定められていれば、受給できる可能性があります。労使で決められた内容に従うことになるため、自社の就業規則等をよく確認してみましょう。
休日出勤手当の法定割増賃金率は、労働基準法で「35%以上」と定められています。
具体的な計算式は、以下のとおりです。
休日出勤手当 = 基本給×1.35(割増賃金率)×休日労働時間数
ただし、この35%は法定最低限の水準であり、企業が就業規則や労使協定で別途高い割増率を定めることは可能です。また、管理職の場合、一般従業員とは異なる独自の割増率が設定されていることもあります。
つまり、管理職の休日出勤手当の有無と具体的な計算方法は、労働基準法とあわせて自社の就業規則などから確認することが大切です。
振替休日と代休は、休日出勤に関する取り扱いが異なります。
【振替休日】
通常の休日を別の平日と入れ替えること。休日出勤した日は通常の就業日と見なされるため、休日出勤手当は発生しません。代わりに別の平日が休日となります。
【代休】
休日出勤した分、別の平日に休暇(代休)を取得することです。休日出勤した日は法的に休日労働となるため、休日出勤手当が支払われる必要があります。
つまり、振替休日の方が従業員への負担は少ないですが、代休の方が法的な手当てを受けられます。
管理職の場合、労働基準法の休日労働規制は適用除外となるため、原則として休日出勤手当は発生しません。ただし、就業規則などで別途定められていれば、振替休日や代休を取得でき、休日出勤手当を受給できる場合があります。具体的な取り扱いは会社ごとに異なるため、就業規則を確認する必要があります。
振替休日とは、法定の週休日や所定の休日をあらかじめ定められた他の労働日と入れ替えること。管理職であっても、会社の就業規則や労使協定に振替休日の取り扱いが定められていれば、振替休日を取得することができます。
ただし、振替休日は労働基準法上の規定はなく、企業ごとの取り決めに基づくものです。従って、管理職が振替休日を取得できるかどうかは、就業規則等の規定内容次第となります。規定が不明確な場合は、人事労務担当部署に確認し、自社の取り扱いを理解しておく必要があります。
代休とは、法定の休日や所定の休日に出勤した際に、別の労働日に代わりの休暇を取得すること。管理職であっても、会社の就業規則等で代休の取り扱いが定められていれば、一定の要件を満たせば代休の取得が可能です。
具体的な取得要件や手続きは、各企業の就業規則や労使協定に従う必要があります。多くの場合、休日出勤した日数に応じた代休の付与日数や、申請期限などが設けられています。管理職は規定を確認し、違反なく適切に代休を取得しましょう。
次に、振替休日と代休の違いを表にまとめました。
振替休日 | 代休 | |
---|---|---|
概要 | 休日を他の就業日と入れ替えること | 休日出勤した分、別の就業日に休暇を取得すること |
休日出勤手当 | 原則発生しない | 発生する |
法的根拠 | 就業規則等に定める必要あり | 特に必要なし(就業規則次第) |
メリット | ・企業コスト抑制可能 ・従業員の負担が少ない | ・柔軟な運用が可能 ・従業員のモチベーション維持 |
デメリット | 就業規則の定めが必要 | 企業コストが高くなる |
効果的な使い方としては、業務の繁閑に合わせて振替休日と代休を使い分けるのがよいでしょう。平常時は振替休日で人件費コストを抑え、繁忙期は代休を活用して従業員の休日出勤手当を確保する、といった具合です。
管理職自身も就業規則を確認し、メリット・デメリットを理解した上で、状況に応じて適切に選択・活用しましょう。
参考:厚生労働省「振替休日と代休の違いは何か。|厚生労働省」
次に、管理職の「深夜手当」「有給休暇」について解説します。それぞれの取得方法・注意点・計算方法まで詳しく紹介するので、参考にしてください。
深夜手当とは、深夜時間帯(通常は夜10時から翌朝5時まで)に労働した従業員に支払われる割増賃金のこと。
管理監督者には適用されませんが、管理職であっても就業規則で定められていれば、深夜手当を受給することができます。
ただし、管理職は時間外労働の規制がないため、深夜時間に勤務しても時間外手当は発生しません。深夜手当は、深夜時間帯の労働に対する割増賃金としての性質が強くなります。受給要件や支給率は就業規則で定められているため、自社の取り扱いを必ず確認しましょう。
割増手当とは、時間外労働や休日労働に対して割増賃金が支払われるもの。管理職には時間外労働の規制がないため、法定の割増率は適用されませんが、就業規則で別途定められていれば割増手当の支給対象となる場合があります。
具体的な計算方法は、労働基準法の規定(時間外25%、休日35%等)に準拠するケースが多いですが、就業規則で独自の割増率を定めることも可能です。一般の従業員よりも低い割増率となっていることもあります。深夜手当と同様に、こちらも自社の就業規則を必ず確認しましょう。
管理職も一般の従業員と同様に、有給休暇の権利が労働基準法上保証されています。
ただし管理職には、部下の労務管理や業務の責任が課せられているため、有給休暇の取得には一定の配慮が求められている点がポイント。
具体的には、部下の有給取得状況や業務の繁閑期を考慮し、計画的に有給休暇を取得する必要があります。自身の長時間労働にならないよう、定期的な取得を心がける一方で、部署全体での計画的なローテーションを組むなどの工夫をしましょう。
参考:厚生労働省「法定労働時間と割増賃金について教えてください。|厚生労働省」
最後に、管理職が休日出勤を減らすための対策を3つご紹介します。仕事量が多く責任のある管理職ですが、日頃から以下の3点を意識することで業務の効率が見込めるでしょう。
管理職が休日出勤を減らすためには、日々の業務をいかに効率的に処理するかが重要になります。そのためには、スケジュール管理の徹底が欠かせません。
具体的には、業務の優先順位を明確にし、重要度の高い業務から着手していく必要があります。また、期限に余裕を持たせて業務を行うことで、急な業務発生時にも対応しやすくなるでしょう。
さらに、会議の効率化や、メール対応ルールの徹底なども有効。会議では事前に議題を明確にし、持ち時間を決めて無駄な時間を作らないようにしましょう。メールでは、至急対応が必要なものとそうでないものを分けて対応するなど、ルール作りが重要です。このようなスケジュール管理を徹底することで、時間外労働を減らすことができます。
管理職の方は、一人で業務を抱え込まずに、部下との役割分担を明確にし、コミュニケーションを密にとることが大切。
まず、部下一人ひとりの強みや得意分野を把握し、適切に業務を割り振ることで全体の生産性が上がります。また、目標やプロジェクトの進捗状況など、部下との情報共有を密に行うことで、課題の早期発見や対策が可能に◎
さらに、部下のスキルアップ支援にも力を入れましょう。OJTやメンタリングを行うことで、部下の能力向上が見込め、結果として管理職自身の負担も軽減されます。チームワークを大切にすることで、全体の業務効率が高まり、管理職自身の休日出勤も減らせるはずです。
テレワークやサテライトオフィスの活用により、リモートワークが可能になれば、通勤時間が省けるだけでなく、集中して業務に取り組める環境を作ることができます。場所を選ばずに働ける利点を活かせば、休日出勤を抑えやすくなるでしょう。
また、先ほどご紹介したように、振替休日・代替休日を効果的に取り入れることも重要です。休日に業務をこなした分、別の平日を休暇にすることで、リフレッシュの機会を設けられます。労使で事前によく相談し、ローテーションを組むなどの工夫が必要ですが、適切に振替や代替の休日を設けることで、管理職の心身のケアにつながるでしょう。
管理職の休日出勤は避けられないケースもありますが、効果的なスケジュール管理、チームワークの強化、リモートワークや代替休日の活用などで、出来る限り削減に努めましょう。長期的な過重労働は体力的・メンタル的な健康リスクにもなるため、適切な労務管理が重要です。
職場環境の改善が難しい場合は、新しい職場を見つけることも検討するべきです。
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