情シス部門を一人で担当する「一人情シス」体制により、業務過多やトラブル対応の遅延が起こっているケースは少なくありません。企業が抱える「一人情シス問題」や対策を知ることで、情シス個人や会社によい影響がもたらされるでしょう。
この記事では、一人情シス体制で起こる問題や今日から行える対策方法を解説します。
「一人情シス」とは、情シス部門の業務を1人だけで担当する体制のことです。一人情シス体制は、部門に十分な予算をかけることが難しい中小企業や、創業して間もないスタートアップ会社に多く見られます。
一人情シスは、社内のシステム構築、保守運用、IT機器の管理など多岐にわたる業務を一人で担当しなければなりません。そのため、時間外労働の増加や、保守がおろそかになることによるトラブルにつながります。
一人情シス体制が増える理由が気になる人も多いでしょう。一人情シスは、DXによる転職市場の変化や経営者のITリテラシー不足により起こります。
一人情シスが増加している理由の一つとして、経営者自体が情シスの重要性をわかっていないことが挙げられます。企業はサイバー攻撃やウイルス感染のリスクにさらされており、ITセキュリティの重要性は日に日に高まっています。
しかし、情シスは営業部やマーケティング部門のように、会社の利益に直結する部門ではありません。そのため、経営陣から部門の重要性を理解してもらえず、予算や人員の拡充を渋られてしまいがちです。経営者のITリテラシー不足が、一人情シスにつながっているという例です。
DXの推進により貴重なIT人材が報酬のよい企業へ流出してしまうことも、一人情シス増加の理由です。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル化により新たな価値を創出する取り組みを指します。DX意識の高まりから市場ではIT人材の価値が高騰しており、より待遇のいい企業への人材流出が起きやすい状況です。
スキルを持った人材ほど他社へ流出しやすく、残された情シスの激務化が加速しています。
一人情シス体制の状況下では、以下のような問題が起こります。
一人情シス体制の下では、担当者一人あたりの負担が大きくなってしまいます。情シスは、自身の業務のほかに従業員からの問い合わせ対応なども担当する部門です。
情シスが複数人いれば作業を分担できますが、一人情シスの場合はすべてを一人だけで対応します。日中の出勤時間は従業員対応、終わらなかった自分の仕事は時間外労働で行うという悪循環が生まれかねません。
一人情シス体制では、社内でシステムトラブルが起こっても早急な対応ができません。一人情シスは一度に処理できるトラブルの数が限られるため、システムエラーや障害が発生した際の対処が遅れがちです。
トラブル対応が遅れると社内全体の業務効率が下がり、生産性に大きな影響が出ます。
一人情シス体制を敷く企業では、唯一の情シス担当が休みの日にトラブルが起きても誰も対処できません。本来であれば、一人情シス体制の企業こそ、トラブルがあった際の対処法をほかの部署と共有しておきたいものです。
しかし、IT系トラブルへの対処は専門性が高いうえ、普段から忙しい一人情シスには周囲にナレッジを共有する時間がありません。情シス業務を一般化できず、結局一人ですべてを対処しなければならない悪循環に陥ってしまいます。
一人情シスの中には、一緒に働くメンバーや知識を持った先輩がおらず思うようにスキルアップできないと感じる人もいるでしょう。情シスに限らず、スキルアップには自分の働きぶりを評価し、フォローアップしてくれる存在が必要です。
一人情シスには一緒に働く仲間や先輩がいないので、自分の働き方が合っているかわかりません。能力の伸びしろがあるにもかかわらず、スムーズにスキルアップできずもどかしさを感じる情シスは多いと考えられます。
前任がいるにもかかわらず十分に引き継ぎがなされず、新たな情シスが混乱することも問題です。一人情シスが抱える業務は幅が広く、前任も自分の任されている仕事をよく把握していないというケースは少なくありません。
そのため、前任の退職後、当初聞いていた業務以外にも新たな仕事が次々と舞い込みます。新たな情シスは「これも私の仕事だったの?」と混乱してしまいます。
一人情シスにより、DXが遅れることも課題とされています。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル化により新たな価値を創出する取り組みです。企業はDXの流れに取り残されると、大きな経済損失を被る可能性があります。
DXは企業における大プロジェクトであり、一朝一夕に達成できるものではありません。一人情シスは日々の業務で手一杯なため、DXに着手できず企業が時代の流れに取り残されてしまいます。
情シスが業務効率化に取り組むと、以下のポジティブな効果を期待できます。
業務負担が軽減することはもちろん、今まで滞っていたタスクをスムーズに処理できます。情シスの業務循環がよくなることで、企業全体にもよい影響がもたらされます。
現役の一人情シス担当者の中には、なんとか現状を変えたいと考える人も多いでしょう。ここでは、一人情シスを乗り越えるためのアイデアをご紹介します。
業務範囲を明確にし、情シス担当者として一番優先すべき事項を明らかにしましょう。最初のうちは、どれも優先順位が高いように感じられますが「人に任せられるとしたらどの部分をお願いするか」という視点で考えるのがオススメです。業務の効率化が目指せるだけでなく、重要性の低い仕事を他部署の人やアウトソーシングに任せるきっかけにもなります。
外部の専門業者に一部の業務をアウトソーシングし、一人情シスの負担を減らしましょう。1の「優先順位付け」で比較的重要度が低かった業務をアウトソーシングすれば、情シスは戦略立てやセキュリティ対策などのコア業務に専念できます。たとえば、従業員からのIT機器に関する問い合わせ対応のような、日常的に繰り返し発生するタスクのアウトソーシングがオススメです。
外部の勉強会に参加することで、一人情シスのハンデを乗り越えられます。情シスやIT関連人材が集まるセミナーに参加すれば、業務では身につけられない知識や知見を得ることが可能です。共に学ぶメンバーと知識や悩みを共有する中で、一人情シスの孤独や不安を乗り越えられる可能性もあります。
なお、外部の勉強会に参加する時間のない人は、自宅で知識を身につけるのがオススメです。
一人情シスを乗り越えるための手段として、業務効率化のためのツールの導入も方法の一つです。タスク管理やコミュニケーションツール、セキュリティツールなどの導入が有効でしょう。
以下は、情シスが導入するとよいツールの具体例です。
メール配信システムは、重要な社内情報を自動で確実に送信できるツールです。メールの一斉送信で起こりうる、誤送信やスパム扱いのリスクを軽減しながら配信作業の手間を減らせます。
IT資産管理ツールを使うと、ハードウェアやソフトウェアの情報を一括で管理できます。
企業のソフトウェアのインストール状況やファイル操作などの情報を自動で収集できるため、トラブルが起きても原因を速やかに見つけ出せます。
情報管理・共有ツールは、社内で利用するファイルや文書に対し、メンバー全員でアクセスや編集ができるツールです。すべての重要情報を1つの場所に集約するため、業務フローのスムーズ化を期待できます。なお、よく使われる情報管理ツールとして、GoogleドライブやDropboxなどが挙げられます。
社内FAQツールとは、スタッフからの問い合わせ内容をデータベース化し社員が自ら解決策を探せるようにするツールです。
情シスへの問い合わせが減り、重要度の高い業務に専念できます。
コミュニケーションツールとは、SlackやChatworkのようなチャットで情報共有ができるツールです。
リアルタイムでやり取りできるため、社員同士でのトラブル解決や写真やファイルの送り合いがスムーズに行えます。
必要なデータの一元管理にもつながるため、ファイルやリンクをあとから探す際にも便利です。
RPAツールとは、繰り返しの手作業を人に代わって行うロボットのことです。
データの入力や集計、定型メールの作成といった業務を自動で進められるため、作業時間の削減につながります。
一人情シス体制は業務の増大や過労などが課題となっていますが、対処を講じることで負担を軽減できます
一人情シス問題を軽視すると、後々大きなトラブルにつながりかねません。一人情シスへの対策を実施し、持続可能な業務運営体制を確立しましょう。
情シスは、日頃の業務や問い合わせで忙殺されがちです。しかし、情シスの抱える悩みは増員やアウトソーシング、ツールの利用などにより解決できます。コストや時間効率を考慮し、企業ごとに合った方法で解決を目指しましょう。
なお、今の企業では悩みが解決されないと感じたら、他会社の情シスに転職するという手もあります。各自業界研究を行ったり、転職エージェントを利用したりすることで、自分に合う企業を見つけましょう。
情シスの職員は日頃の業務や問い合わせで忙殺されています。しかし、情シスの抱える悩みはこの記事で紹介したような方法で解消できるので、コストなどと見合わせて、企業ごとに合った方法で対応を図りましょう。
情シスの職員は他部署の職員から、IT関連なら何でも知っていると思われがちです。私用のスマートフォンや家電の相談まで受けさせられている職員もたくさんいます。情シスの悩みを軽減するには、情シスの担当範囲を明確にする・企業全体のITスキルやリテラシーを向上させて自力解決の力を養うなどの対策も重要です。