業務のDX化、効率化が進む昨今。AIの台頭により、将来なくなる可能性のある仕事の一つに挙がっているのが経理の仕事です。そのため、経理職や経理関係の仕事に就いている、目指している方の中には、「将来、人員削減の影響を受けるのではないか」「ずっと働ける分野といえないのではないか」などといった不安や疑問を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、経理の仕事が将来なくなると言われている理由や、今後なくなる可能性が高い業務内容、今後もなくならないであろう業務内容について紹介します。それに加え、経理の仕事を続けるために必要な知識や役立つ資格についても紹介します。
経理の将来性に不安がある方はぜひ参考にしてみてください。
ここでは、経理の仕事が将来なくなると言われる理由を3つ紹介します。
AIが代替できるとされる業務は、あらゆる職種に存在します。単純作業やルーチンワーク、大量のデータを処理する作業などは、AIの仕事になっていくでしょう。経理の仕事は、このような事務作業の占める割合が多いといえます。また、PCを使って人間が行う作業の手順を記録することで、自動化を実現するRPA(Robotic Process Automation)の導入によっても、データ入力や基幹システムへの転記といった定型の事務作業の削減が進むことが予想されます。
現在日本では国策としてDX化を推し進めており、それにともない実現されるのがペーパーレス化です。
これまで紙で行っていた請求書、納品書、領収書などのやり取りもデジタルデータで行われるようになり、金額のチェックなどもデータのみで可能となります。時間のかかる紙での処理や保管、整理などが必要なくなるため、経理部門で必要な人手が減少する可能性が非常に高いです。
国は、1998年に電子帳簿保存法を制定。その後、2005年にはe-文書法を成立させ、経理部門の資料の電子化によるデータ保存を推進しています。ここまでは、10年近く前に整備された法律ですが、今後に強く影響を及ぼすとされているのが2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法です。
これにより電子化の要件が大幅に緩和され、さらに電子取引における電子データの保存が義務化されています。国策として、先述したペーパーレス化に繋がる法整備が進められているのです。
経理業務は、AIやRPAによって自動化されるものと、自動化されないものに分けられます。このうち自動化されるのは、データ入力のような同じ作業を繰り返す業務です。業務効率化、ペーパーレス化が進むことによってアナログな要素が排除された結果、「人がやらなくてもいい業務」になる可能性が高いのは以下の業務が挙げられます。
将来、経理の行う仕訳業務や記帳、伝票の作成などの業務は無くなる可能性があります。仕訳業務は、これまで会計ソフトや表計算ツールを用いて行われてきました。しかし、デジタルを利用したシステムによるデータ入力が推進されることで、さらに自動化しやすい状況になっていくと予想されます。手入力では、どうしても入力ミスの発生が避けられません。データの処理をAIに任せることで、経理業務の正確性とスピードは格段に向上することが期待されます。そのため、自動化を進める企業は着実に増えているのです。
消し込みとは、主に売掛金や買掛金の支払いが行われた際、残高を消していく作業です。経理業務の中でも重要度の高い作業ですが、手間や時間をとられやすい作業でもあります。また、消し込みにはスピードと正確性が求められるため、ベテラン社員に業務が集中したり、業務が属人化してしまうという問題も発生しがちです。そのため、自動化を進める企業も増えてきています。
試算表や財務報告書の作成では、正確な計算と適切な処理が必要であり、複数人で何度もチェックするなど、帳簿や仕訳帳でのミスを見つけるために多くの時間がかかっていました。帳簿データから財務報告書が自動的に作成されるようなシステムを導入することで、財務諸表や財務分析文書を自動生成することが可能になります。業務にかかる人員や時間が大幅に削減されると、こちらも自動化が進んでいる業務に挙げられます。
請求書の発行も、自動化できる定型の業務といえるでしょう。注文書や請求書、帳簿書類等の作成・発行は、先方の締め日に合わせ金額や内訳を確定し、書類を送付します。作成する書類や仕分け先は決まっており、フローも明確です。そのため請求書や注文書の作成や仕分け作業は、AIによって代替される可能性があるといえます。
給与計算もAIやRPAが最も得意とする分野です。会社の勤怠システムをAIやRPAと連動させれば、基本給に残業代や手当などを加味して総支給額を計算し、そこから税金や社会保険料などを控除して、支払額を計算するという一連の流れを速く、正確に行うことが可能です。
給与計算は経理業務の中でも最も煩雑な業務の1つですが、今後人間の手で行うのは、AIやRPAが計算した金額が正しいかどうかを確認するだけになるので、給与計算にかかる人手や時間は大幅に減少することになるでしょう。
一方、定型業務とは対照的に業務フローや流れの確立が困難である非定型業務は引き続き人が行うことになるといえます。主に、経理職としての経験や知見、人間による柔軟な対応が必要な業務です。以下のような業務は、 臨機応変な対応を要求されるうえ、発生するタイミングも不規則なものが多いでしょう。
一つ目は業務分析です。財務の専門家ではない経営者に代わり、業務分析の業務を経理職が行う場合があります。このとき、AIやRPAを活用することでデータの処理や集計の時間を削減することが可能です。そのデータを元に作成した帳簿や決算書類から「売上や利益の昨年比」「粗利益率や営業利益率」などを分析し、現在の自社の状況などを踏まえた経営戦略を策定するには人間の視点と知見が必要といえるでしょう。
業務分析に加え、経営戦略に関する企業の将来予測もAIのみに代替しにくい分野といえるでしょう。もちろん、AIにも単純な予測は可能です。しかし実際に求められるのは、決算書から経営体制の全体像を把握し、現状維持したい場合に考えられるリスクの対策を検討するといった「複雑な予測能力」です。正誤判断などすべてをAIに任せることは、現状では難しいといえます。
決算時の会計監査もなくならない可能性が高い業務です。監査には内部監査と外部監査があり、このうち内部監査は経理部の会計担当者や専門部署が担当します。会計ソフトを使うことで財務諸表の作成を自動化することはできるものの、作成されたデータを監査人の監査前にチェックし、矛盾のない状態にする必要があります。ここには、経理担当者の知識と経験が不可欠です。また、監査人からの質問や書類提出要求に対応する業務もAIには代替できない業務といえます。
経理システムの管理・メンテナンスも会計の知識と実務経験が不可欠な業務といえるでしょう。会計ソフトや、AI、RPAなどは、全ての企業の経理業務に最適化されたものではありません。そのため、導入から初期設定などは、自社のニーズを把握できる人が行う必要があります。また、運用時のトラブル対応やサポートは、システムのみで代替できるものではなく、経理の専門知識でシステムを運用・メンテナンスできる人材は、引き続き求められるでしょう。
人材育成に関わる業務も、AIには代替不可能な業務といえます。特に、新入社員に対する教育は、社員それぞれの個性に合わせた、適切なコミュニケーションや育成スケジュールの策定が必要です。このように個別での対応が求められる業務は、現状、AIで行うのは適切とはいえません。実務経験を通して、自社に合った指導やアドバイスができる人材が適任といえるでしょう。
ここまで、経理の仕事のうち、AIなどに代替されなくなるであろう業務と、今後もなくならない可能性の高い業務を紹介してきました。将来、経理を含む多くの職業で、自動化できない「非定型業務」に対し適切に対応する能力が求められると予想されます。
ここからは、経理として将来的に生き残っていくために、取得しておくべき知識やスキルを紹介します。
AIやRPAに代替できない業務にあたるためには、金銭にまつわる幅広い知識・専門的な知識を持っていることが重要です。経理で扱う数字は、最終的に経営戦略を立案するための材料になります。経理として活躍し続けるためには、財務諸表・決算書・販売データなどの数字を分析できるスキルも磨いておくと良いでしょう。経営の現状を把握し、事業戦略の立案に貢献できる人材は重宝されるはずです。
経理業務においてAIやRPAが代替できる業務は、単純な伝票処理や財務諸表作成などに限定されます。AIと同等の処理ができるだけでは、スピード、正確さの面で有利に立つことは困難です。しかし、財務や会計分野の知識を習得すれば、AIを活用する立場に立つことができます。単純作業や定型業務はAIやRPAに任せ、それをもとにしたデータ分析や、提案力を身につけると良いでしょう。そのためには、財務・会計の知識を深めるとともに、経営についても学ぶ必要があります。
前項でも触れたとおり、AIが台頭してくる時代に経理として生き残るためには、「AIなどの技術を使う側になる」ことが必要です。活躍できる人材になることを目指すなら、ITスキル・ITリテラシーの向上にも努めましょう。
経理ソフトを使いこなせるようになれば、業務効率の改善に大きく貢献できますし、セキュリティに強い人材も今後ますます重宝されるでしょう。一部の業務がAIに代替されることを見越し、これからはITにも詳しい経理を目指すことが大切です。
M&AとはMergers and Acquisitionsの略で、広義的な意味では、資本参加や合弁会社設立などの資本提携によって事業の多角化などを図る経営戦略を指します。他の企業を吸収するか新規に企業を興す「合併」と、株式の譲渡や交換、第三者割当増資などの手段を用いて「買収」するケースなどに分かれ、条件や進め方など個別性が高い案件です。
昨今は大企業だけでなく、継承者不足により中小企業でもM&Aの知識が求められています。そのため、M&Aについての専門性を身につけることで、AIなどが発展したとしても長く経理の領域で活躍できるでしょう。
経理職はデスクワークのイメージが強いかもしれませんが、社内外の関係者へプレゼンテーションする機会もあります。たとえば融資の継続や増額を申し出る際には、現在の経営状態を端的に説明したり、要求された資料の提出を提出したりします。このような時、特に社外関係者とのコミュニケーションでは、経理の知識や経験も大切ですが、何より駆け引き等の話術や誠意が重要です。書籍やセミナー等を活用し、実践を通して身につけていきましょう。
非定型業務が求められるようになり、これから経理職になる人や、経理職としてキャリアアップを目指す人は、金銭にまつわる幅広い知識・専門的な知識を持っていることが重要視されるでしょう。減少しつつある経理職ですが、長く活躍するために、以下のような資格の取得を目指すのもよいでしょう。
FASS(Finance Accounting Skill Standard)とは、経理・財務部門において日常業務で求められる実務スキルを問う試験です。日商簿記などの資格との違いは、より実務レベルのスキルが問われるということです。出題範囲は簿記より広く、「資産」「決算」「税務」「資金」の4つの分野に分かれます。そのため、FASSを取得すると、実務レベルでも仕事ができると評価されます。企業からの評価も高まっており、人材採用において活用する企業も増えているのです。
実務経験がない状態で経理職への就職を目指す場合、日商簿記検定2級までは取得していると良いでしょう。さらに1級を取得できれば、自分の強みとしてアピールできます。簿記は、会社で日々発生する取引を帳簿に正しく記帳したり計算をして、財産、資産、負債の増減を確認する業務です。日商簿記検定には、初級及び3級から1級までありますが、企業の現場で使える技能が身につきやすいのは2級といわれています。1級は、難易度も高く、また実務上必要のない知識も多く含まれています。一般的に、中途採用で企業に評価されやすいのは、2級以上と言われています。
USCPA(米国公認会計士)の資格を取得すると、会計士の知識の他に、その過程で英語スキルも同時に身につきます。そのため、外資系企業に経理職として就職できたり、海外進出を目指している企業に歓迎されたりする可能性があります。国内の公認会計士試験と比較して、USCPAの試験難易度は低めといわれており、働きながら学習できる点も魅力の資格です。
FPと呼ばれるファイナンシャル・プランニング技能士も、経理を目指す際におすすめの資格です。国家資格の一つであり、取得していると企業から幅広い金融知識があるとみなされ、即戦力として歓迎される傾向にあります。また、知識としても資金計画や資金調達の際、非常に役立つスキルです。キャリアアップや転職に役立てるのであれば、2級以上の取得を目指しましょう。
この記事では、経理の仕事がなくなると言われる理由やAIやRPAに代替される業務内容、経理に求められる知識やスキルについて解説しました。AIやRPAに代替され人手がいらなくなる業務がある一方、専門的な知見が必要など人手が不可欠な業務もあるのも事実です。
経理職でキャリアアップや転職を考えている人は、転職エージェントを利用してみましょう。自分の希望にあった企業を探すことができます。
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