給与計算の知識を図る「給与計算実務能力検定試験」という資格があります。経理や人事など、企業のバックオフィスで働いている人の中には、給与計算実務能力検定を聞いた経験があるのではないでしょうか。
「名前は聞いたことあるけど検定内容は知らない」「資格を取得するメリットがわからない」など、実は給与計算実務能力検定に興味はあるけれど、その具体的な中身やメリットを理解している人は少ないです。
そこで、本記事では給与計算実務能力検定に興味がある人に向けて、給与計算実務能力検定について解説します。資格を取得するメリットや取得方法についても解説しているので、気になる人は最後まで読んで参考にしてください。
給与計算実務能力検定とは、企業に不可欠な給与計算の実務能力を図る資格試験です。
給与計算実務能力検定は、内閣府認可の一般財団法人職業技能復興会と一般社団法人実務能力開発支援協会によって実施されています。試験に合格すれば、給与計算業務のエキスパートとして認定されるため、バックオフィスを担当している受験者が多いです。
給与計算業務は、正しく行わなくては従業員からの信頼を失ったり、企業経営に大きな影響を及ぼします。そのため、給与計算を任される従業員は、トラブルを未然に防ぐためにも、社会保険の仕組みや労働法令、税法など、給与計算に関わる幅広い知識を正しく身につける必要があります。これらの知識を身につけるための資格として誕生したのが、給与計算実務能力検定です。
給与計算実務能力検定を取得すると、以下のようなメリットがあります。
▼メリット
上記のようなメリットに魅力を感じ、多くの人が給与計算実務能力検定を受験しています。
参考:一般社団法人実務能力開発支援協会「給与計算実務能力検定試験®とは」
給与計算実務能力検定の受験者は、以下のような属性が多いです。
社会保険労務士は、給与計算実務能力検定の知識を、業務に活用できるので受験者が多いです。給与計算の知識があることを資格で証明できれば、給与計算代行の信頼度が上がり、キャリアアップにつながります。
企業に務めている人の中で多いのが、経理や人事などバックオフィス勤めの人です。バックオフィスは、従業員の給与計算や人事評価を担うため、給与計算実務能力検定で得た知識を活かせます。
特に、給与計算実務能力検定はバックオフィスで働く女性にはおすすめの資格です。資格があれば、未経験でも事務職で働きやすくなります。また、子育て等で時間に限りがあっても、資格を活かしながら融通の効く働き方を実現しやすいです。
ちなみに、給与計算実務能力検定は、受験資格がないので、学生も受験可能です。興味がある学生は積極的に挑戦してみましょう。
給与計算実務能力検定について理解できたところで、次は給与計算実務能力検定の概要について解説します。
受験資格や受験日など、試験について詳しく解説しているので、これから受験予定の方は参考にしてください。
給与計算実務能力検定には、受験資格はありません。そのため、年齢や性別、学歴関係なく、誰でも受験可能です。
給与計算実務能力検定の申込期間は、例年12月〜2月、6月〜10月です。申し込み方法は「WEB出願」または「郵送出願」の2つの方法があります。
WEB出願の場合、職業技能振興会が運営している出願システム「FOSSY」で行います。私用のパソコンやスマホを持っている方には、おすすめの申込方法です。
郵送出願は、指定された郵送先に出願書を提出します。出願時には、受験料のほかに手数料もかかるので注意してください。
給与計算実務能力検定の受験日は、以下のとおりです。
▼2級
▼1級
2級は、年2回試験を実施しています。一方、1級は年1回しか実施していないため、1級の受験を検討している方は受験時期に注意してください。
給与計算実務能力検定の受験料は、以下のとおりです。
▼2級
▼1級
2級と1級では、受験料が異なります。
給与計算実務能力検定は、国内23会場で実施されます。
▼実施会場
北海道、宮城、栃木、埼玉、千葉、東京(2会場)、神奈川、新潟、石川、長野、静岡、愛知、京都、大阪、兵庫、岡山、広島、香川、福岡、熊本、大分、鹿児島、沖縄
居住する地域で試験が行われるか、必ず事前に確認しましょう。他県受験が可能なため、居住する地域で試験が実施されない場合は、近くの受験会場で受験してください。
試験時間、出題問題数は1級も2級も同じです。ただし、試験内容が異なるため、受験する級に合わせた学習を行ってください。
▼2級
試験時間:120分
出題問題数:40問
出題形式:知識問題35問(四肢択一、マークシート)
計算問題5問(四肢択一、マークシート)
点数配分:知識問題1問2点(計70点)
計算問題1問6点(計30点)
▼1級
試験時間:120分
出題問題数:40問
出題形式:知識問題30問(四肢択一、マークシート)
計算問題10問(四肢択一、マークシート)
点数配分:知識問題1問2点(計60点)
計算問題1問4点(計40点)
参考:一般社団法人実務能力開発支援協会「給与計算実務能力検定試験®とは」
給与計算実務能力検定の合格基準は、以下のとおりです。
▼2級
出題問題のうち、7割以上の獲得得点を合格基準とする
▼1級
出題問題のうち、7割以上の得点獲得を合格基準点とし、かつ計算問題を6割以上正解していることを合格基準とする
2級と1級では合格基準が異なります。
以下では、給与計算実務能力検定の試験内容について解説します。試験内容を理解した上で、学習を進めてください。
2級では、給与計算の明細作成など、一般的な給与に関する知識が求められます。
以下、具体的な試験内容です。
2級に合格するには、給与計算を行う上で必要な基礎知識の理解が大切です。給与計算の基礎となる、労務コンプライアンスの正しい知識を身につけるようにしましょう。
2級は1級に比べると比較的容易な内容です。そのため、実務経験がない方や初心者の方でも受験しやすいでしょう。まずは、2級合格を目指してみてください。
1級は、給与計算や賞与計算に加え、社会保険関係や税務上の手続きについての知識が求められます。2級よりも幅広い業務に精通した資格だと、認識しておきましょう。
以下、具体的な試験内容です。
1級は、難易度が少し上がります。2級をすでに合格している人や、給与計算の実務経験がある人は、1級を受験してみましょう。
最初から1級を受験するのは不安という人には、併願受験がおすすめです。しっかり勉強すれば合格できるので、頑張ってください。
合格発表は、試験実施から6週間後です。一般社団法人職業技能振興会より通知を郵送され、その内容で合否の確認ができます。
合格後は、受験料とは別で認定登録料2,000円を支払い、登録完了です。
給与計算実務能力検定の試験内容を理解した次は、試験の難易度について解説します。
1級と2級の難易度や、合格率について解説しているので、自分のレベルと比較して受験する級を検討してみましょう。
それぞれの級について、難易度を解説します。
▼2級
2級では、基本的な給与計算ができ、明細作成ができるレベルが求められます。そのため、難易度は比較的易しいレベルだといえるでしょう。実務経験がない方や初心者の方も受験しやすい級です。
▼1級
1級では、税務や労働法令に関する知識、給与体系のイレギュラーなものへの対応が求められます。さらに、社会保険や年末調整、税務などの給与計算に関するすべての知識を求められるため、難易度は2級よりも上がります。
しかし、実務経験がある人や2級に合格してる人であれば、合格が目指せます。
給与計算実務能力検定の合格率は、2級が60%〜70%(※2)、1級が40%〜50%(※2)です。
以下は、過去数年の合格率です。
2019年3月 :【2級】75.4%
2019年11月:【2級】72.47%
【1級】46.23%
2020年5月 :【2級】86.65%
2020年11月:【2級】73.34%
【1級】56.91%
2021年3月 :【2級】81.73%
2021年11月:【2級】70.67%
【1級】51.94%
2022年3月 :【2級】74.55%
(※2)参考:一般社団法人実務能力開発支援協会「給与計算実務能力検定試験®とは」
難易度が異なるため、1級と2級では想定学習時間が変わります。
2級であれば、40〜50時間の学習時間が必要です。1か月から1か月半で合格を目指せます。
1級であれば、50〜60時間の勉強時間を確保するようにしましょう。期間としては、1か月半〜2か月程度が必要です。しかし、あくまで2級の範囲を理解していることを前提としています。もし、給与計算実務能力検定の受験が初めてであれば、もう少し多く勉強時間を確保してください。
給与計算実務能力検定を取得するメリットを紹介します。今回は、3つのメリットを紹介しています。給与計算実務能力検定に興味がある人は、参考にしてください。
給与計算実務能力検定の勉強をすれば、給与計算以外の知識も身につけられます。
例えば、人事労務に従事する際に必要なコンプライアンスについての理解や、法令遵守など企業経営に必要な知識です。これらの知識は、企業経営を円滑に進める上で重要なため、企業からの需要があります。
労働時間の適正な管理、賃金の適切な支給、社会保険料の納付、税金や納税は、いわゆる労務コンプライアンスの領域です。労務コンプライアンスを向上させれば、労使間の信頼関係やモチベーション向上につながります。
これらの要因から、給与計算以外の知識は、あらゆる場面で活かせるのでおすすめです。
給与計算のスキルは、企業に必要不可欠です。
特に管理部門や労務、経理を担当している場合、給与計算実務能力検定で学んだ内容は、実務に直結します。そのため、給与計算実務能力検定に合格すれば、実務で活躍する場面が増えるでしょう。
企業からは、人事労務業務のプロとして認識され、これまでよりも大きな仕事や責任ある仕事を任される機会が増えます。
そういった面でも、給与計算実務能力検定を取得していれば、キャリアの幅が広がるといえるでしょう。よりハイレベルな仕事を目指している人にはおすすめです。
給与計算実務能力検定で得たスキルや知識は、どこの企業でも活かせます。
給与計算は、企業規模問わず必要です。給与計算に関する専門知識は、どこの企業に就職しても求められるでしょう。
また、給与計算実務能力検定では税法や社会保険についての知識も身につけられるため、転職の際に有利です。「自分には給与会計の専門知識がある」ということを資格で証明できます。
今後、スキルアップやキャリアアップを考えている人は、自分のスキルを証明するためにも、受験してみましょう。
給与計算実務能力検定を受ける際、気を付けるべき注意点を解説します。注意点を認識していないと、せっかく勉強した努力が無駄になる可能性があります。しっかり読んで、認識しておいてください。
給与実務能力検定は、2年ごとに更新が必要です。
給与計算には、社会保険制度や労務関連の法令が関係します。これらの法令は、法の改正や制度の改正で変更があるため、資格取得後も継続して勉強が必要です。常に最新の知識で応用していくために、2年ごとの更新が必須なので注意してください。
登録の有効期限は3か月から6か月前です。連盟から更新用文書と資格更新申請書が送られてきます。更新を希望する場合は、更新料5,000円を支払い、申込書の記入と認定書用の写真が必要です。
給与計算実務能力検定の認知度は、あまり高くありません。
転職の際に有利な資格として、簿記やITパスポートなどがあります。給与計算実務能力検定は、それらの資格に比べると認知度が低いです。そのため、保有しているからといって必ず転職できるわけではないので注意しましょう。
あくまで、給与計算の専門知識がどの程度あるかを客観的に確認するための手段です。経理や総務、管理本部などの業務に携わっている人は、自分のスキルを図る指標として活用してみましょう。
もちろん、企業によっては給与計算実務能力検定を保有していれば、人事からプラスの評価をされる場合もあります。
資格を取得して損することはないので、興味がある方は挑戦してみましょう。
最後に、給与計算実務能力検定の勉強方法について解説します。さまざまなテキストや講座がある中で、自分に合った勉強方法を選択しましょう。
給与計算実務能力検定の試験勉強では、該当級の「公式テキスト」に準拠して出題されます。
1級も2級も、ともに公式テキストはA5判で、約240ページの内容になっています。公式テキストをしっかり使い込み学習を進めれば、合格できるでしょう。
2級公式テキストの内容は、「給与計算とはどんな仕事か」という基礎です。さらに、給与計算の仕組みや社会保険手続きの基礎、賞与の計算の仕方など、給与計算の実務について集約されています。労働基準法など、根拠となる関連法令についても、給与計算実務担当者として学んでおきたいポイントの解説がついているので、利用してみましょう。
1級のテキストは、総合的な給与計算・社会保険手続き事務、イレギュラーな賞与の計算の仕方を学べます。さらに、1級の中核をなす年末調整と、年間を通じた給与計算実務についての学習も可能です。
これらのテキストは、40時間〜60時間程度で学習できる内容になっています。
公式テキストを利用して、一通りの知識を身につけた後は、過去問を解くようにしましょう。
過去問を解くことで、インプットした知識をアウトプットできます。知識のアウトプットは、理解を深めるために効果的です。
給与計算実務能力検定試験の過去問は、公式サイトに掲載されています。過去に実施された給与計算実務能力検定試験の例題がたくさん掲載されているので、それらを活用してください。
いくつか過去問をこなしてみると、出題傾向がわかってきます。出題傾向がわかれば、自分の弱点と照らし合わせながら、効率的に勉強ができるようになります。
給与計算実務能力検定試験に合格するために、実務能力開発支援協会では公式対策講座を開設しています。
講座では、実際に現場で使える給与計算のスキルを学ぶほか、検定合格に必要な法的知識を身につけられます。また、試験に対する実践力も付けられるため、合格の近道です。
短期集中型の1日講座をはじめ、さまざまな実施方法で試験合格のためのポイントを学べます。「ひとりで勉強するのは自信がない」という方は、講座を受講してみましょう。
給与計算は、どの企業でも必要不可欠です。
給与計算実務能力検定に合格をすれば、給与計算のプロとしてスキルアップが可能です。また、幅広い知識を身につけ、自分の活躍の場を広げられます。
現状に満足できない・よりキャリアアップしたいという方は、受験してみてはいかがでしょうか。給与だけでなく、労務に関する知識など幅広い分野を学び、あらゆる場面で活躍してください。