簿記検定は、仕事を見つけたり転職する際に有益なスキルとして捉えられ、多くの人々が関心を寄せています。簿記検定には複数の種類とカテゴリが存在し、その内容によって転職などへの影響も変わるでしょう。
この記事では、簿記検定の難易度や試験内容、受験資格、勉強方法などを詳しく説明します。また、簿記検定を取得した人々の平均年収や資格取得のメリットにも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
簿記検定には4種類あります。それぞれ主催者が違い、とくに日本商工会議所が主催する「日商簿記」は規模が大きく、知名度も高い試験です。
以下に、簿記検定の種類と概要について一覧で紹介します。
種類 | 検定名 | 主催者 | 対象 | 級 |
---|---|---|---|---|
日商簿記 | 簿記検定試験 | 日本商工会議所 | 一般社会人 | 1級・2級・3級・簿記初級・原価計算初級 |
全商簿記 | 簿記実務検定試験 | 全国商業高等学校協会 | 商業科・商業高校の高校生 | 1級・2級・3級・基礎 |
全経簿記 | 簿記能力検定試験 | 全国経理教育協会 | 社団法人全国経理教育協会が主催する経理・会計専門学校の学生 | 上級・1級・2級 |
日ビ簿記 | 簿記能力検定試験 | 日本ビジネス技能検定協会 | 一般社会人 | 1級・2級・3級 |
簿記試験4種類それぞれの概要は、上記のとおりです。このなかでも、就職活動や転職活動でアピールポイントとして活用する際には、日商簿記がおすすめです。一般的な社会人向けの簿記試験は、日商簿記と日ビ簿記の2種類で、そのなかでも難易度や信頼度が高く、実務ですぐに役立つのは日商簿記だからです。
日商簿記の2級以上を取得すると、実際の経理部門など、会計に関する現場で働けるスキルが備わっていると認識されます。簿記の全体像を把握できるため、企業の経営状況を理解し、改善策を見つける能力があることを証明できる資格です。
日商簿記の試験は年に3回実施されます。一般的な社会人向けといっても、決められた受験資格はありません。そのため、どのような人でも受験可能であり、学生にも人気のある資格です。
日商簿記のレベル区分は、1級、2級、3級、簿記初級、原価計算初級の5つのカテゴリがあります。このうち3級までは基礎レベルであり、2級と1級は就職や転職時にアピールポイントとなる実務レベルで、履歴書に記載することが可能です。
以下の表で、日商簿記のレベル区分についてまとめて紹介します。
簿記のレベル | 科目 | 対象者 | 難易度 |
---|---|---|---|
1級 | 商業簿記、会計学、工業簿記、原価計算 | 大企業経営者、会計指導者 | 合格率10%前後 |
2級 | 商業簿記、工業簿記 | 中小企業経営者、会計主任 | 合格率15%前後 |
3級 | 商業簿記(入門) | 中小企業経理部、一般記帳者、営業・管理部門 | 合格率45%前後 |
初級 | 商業簿記(入門)、原価計算、工業簿記(入門) | 商業簿記入門者、工業簿記入門者 | 合格率50%前後、合格率90%前後 |
通常、日商簿記検定の1級試験は年に2回実施され、2級と3級試験は年に3回行われます。2023年度の場合、1級試験は6月11日と11月19日に実施され、2級と3級試験に関しては2024年2月25日に追加で試験が行われます。上記で紹介したのは「統一試験」として知られる筆記試験の日程です。また、2級と3級試験は「ネット試験」と呼ばれるインターネット用の試験会場で随時受験することもできます。
一方、簿記初級と原価計算初級については、ネット試験形での実施となっており、試験会場で随時受験するか、毎月第3金曜日に統一試験日として設定されている試験会場で受験できます。具体的な実施日については、試験会場ごとに確認と申込が必要です。
日商簿記試験の試験形式は記述式です。「統一試験」の場合、すべての問題が筆記形式ですが、「ネット試験」の場合は一部の問題がプルダウン選択式などとなっています。
日商簿記検定の難易度は、級によって著しく異なります。他の資格と比較しつつ、簿記検定の難易度について、以下の表で紹介します。
資格の種類 | 合格率 | 勉強時間 |
---|---|---|
簿記3級 | 約45% | 約100時間 |
簿記2級 | 約15% | 約300時間 |
簿記1級 | 約10% | 約600時間 |
公認会計士 | 一次試験約20% | 約3,000時間 |
宅建士 | 約15% | 約350時間 |
税理士 | 約10% | 約3,000時間 |
医師免許 | 約90% | 5,000時間以上 |
弁護士 | 約40% | 約6,000時間 |
こうした理由から、合格率や必要な勉強時間も、取得する資格の種類によってさまざまです。たとえば、税理士などの試験は合格率が低く、多くの勉強時間が必要ですが、それに比べて簿記検定はまだ難易度が低い…とみる人も多いでしょう。ただ簿記検定は税理士試験のたたき台となるものと考えることもできます。日商簿記1級に合格することで、税理士試験の受験資格を得ることができるからです。
総じて受験者レベルが高い医師免許や弁護士試験などは除き、他の資格と比べても簿記はチャレンジしやすいといえます。日商簿記は難しいという人もいますが、ぜひチャレンジしてみましょう。
日商簿記検定には、受験資格の規定はありません。初めて簿記検定にチャレンジする人でも、履歴書に書けるレベルである2級を受験することができます。
また、日商簿記検定は一般社会人向けとされていますが、学生が受験しても問題ありません。
簿記検定の筆記試験は、午前に3級が、午後に2級が実施されています。特定の受験資格が必要ないため、同じ日に2つの級を同時に受験する人も多く見られます。簿記3級をまだ取得していなくて、2級合格を目指して勉強中の方は、同じ試験日に両方の試験を受けることを検討する価値があるかもしれません。
日商簿記の試験内容と範囲は、以下のとおりです。
簿記検定のレベル | 試験内容・範囲 |
---|---|
3級 | 商業簿記60分・3題以内 |
2級 | 商業簿記・工業簿記(原価計算を含む)90分・5題以内 |
1級 | 商業簿記・会計学90分、工業簿記・原価計算90分 |
3級から2級、そして1級へと進むにつれて、試験の対象範囲が広がり、試験時間も大きく変わります。具体的な試験範囲の詳細については、日商簿記の公式ホームページに掲載されている一覧表を参照してください。
参照: 簿記検定試験出題区分表
日商簿記の試験合格に必要な勉強時間は、3級でおよそ100時間、2級で約300時間、そして1級では約600時間程度といわれています。
たとえば、日商簿記2級の受験を考える場合、1日に3時間勉強すると仮定した場合、合計で3ヶ月と10日の期間が必要です。これは独学で毎日勉強をできた場合ですが、実際には理想通りにいかず、勉強をできない日もあるため、もう少し期間が長引くと考えたほうがよいでしょう。しかし独学で試験に合格する人もいます。
効率良く勉強しようと思ったら、資格スクールや専門学校へ通うという方法もあります。スクールに通う場合、3級合格までに1〜2ヶ月、2級で4〜8ヶ月、1級で6ヶ月〜1年半程度の時間がかかるとされています。
簿記を効果的に勉強する方法は、例題を解いたり過去の問題を解いたりすることであり、これらの反復を通じて確実に計算や解答を行えるようにすることです。計算機を使いながら、自信を持って正解できるよう繰り返し練習し、苦手分野を徐々に克服していきましょう。
簿記検定は、2級以上の試験に合格することで、基礎だけでなく実務レベルにより近い内容を修得できる資格です。そのため、簿記2級以上の資格所有者は、幅広い知識を持っており、早い段階で企業の戦力になる人材とみなされます。言い換えれば、簿記2級以上の資格を持つことは、転職や就職の際に有利になるメリットがあります。
簿記2級が活かせる職業を以下に紹介します。
【簿記2級以上が活かせる職業】
簿記2級以上の資格を持っていると、年収面でもプラスになることがあります。簿記2級以上取得者の年収相場について、年齢別にまとめると以下のようになります。
年代 | 20代 | 30代 | 40代 |
---|---|---|---|
2級 | 〜500万円 | 350〜600万円 | 600万円~ |
1級 | ―万円 | ―万円 | ―万円 |
簿記2級以上の取得後、実務経験を積むにつれて年収は高くなります。簿記1級取得者に関しては、現時点で年齢別の統計情報はありませんが、求人情報を調べてみると、一般的に年収500万円を超える求人が多いです。一例として650万円、750万円、800万円といった年収水準の求人も存在します。
経理企画職の求人は、転職エージェントなどが提供しており、一般公開されていないものも多いです。簿記1級取得者の年収は1,000万円を超える場合もあり、年齢情報はないかもしれませんが、高収入が期待できることは間違いないでしょう。
簿記検定を取得するメリットには、以下のようなものがあります。
簿記検定を取得するメリット
これらについて詳しく紹介します。
簿記検定、特に2級以上の取得は、実務レベルの簿記と会計の知識を持っているとみなされ、転職に有利です。
2級以上の簿記資格を取得することは、経営管理において役立つスキルであり、単に帳簿を記録するだけでなく、経営に対してアドバイスできるポジションを示すものです。経理の立場から、経営に対する的確なアドバイスを求める企業が多いため、2級以上の取得者は転職市場で高い価値を持っています。
経理、会計分野における未経験からの転職には、未経験者でも即戦力になれる人材とみなされるため、特に有利に働くでしょう。
簿記検定2級以上の資格を取得しておくと、キャリアアップや昇進の機会が増えます。簿記検定は、会社経営を経理の観点から見られるようになる資格であり、経理の管理職としての道が開かれるだけでなく、将来的には自分自身が経営者として成功する際にも有用です。
実際に、簿記検定2級以上を取得した人は、現職のまま経理主任や最高財務責任者(CFO)などへキャリアアップしていくことが多いでしょう。また、経営企画や会社役員という道も考えられます。中小企業で経理職の経験を積んだ後、大企業の経理職へ転職し、ステップアップする人もいます。
同時に、簿記検定の上位資格として税理士や公認会計士などがあり、これらの資格を取得すれば、開業や税理士法人への転職なども可能です。
簿記2級以上の資格を持つことで、幅広いビジネス知識が身につくでしょう。
とくに経営状態に関する知識は豊富になります。財務諸表を見ることで、企業の経営状態全体を理解できるのは簿記の有資格者です。さらに、簿記の書類や数字から企業の取引内容が見えてくるのです。
簿記の知識があれば、経理職に限らず他の職種でも、自分の仕事が企業の利益にどのように貢献しているかを把握できます。「自分の業務が、財務諸表のどこにどう記録されるか」という視点を持つことで、ムダを減らし業績アップにつながるでしょう。
また、自社の強みや問題点を財務諸表から把握する能力も、簿記有資格者ならではの視点です。競合企業と比較して、企業のどの分野が強みとして輝いているかを把握すれば、それを強化したり弱点を補ったりする戦略を練ることができるでしょう。
簿記2級以上の資格を持つ社員には、資格手当などを設けている企業も多いため、年収アップさせる機会が増えることがあります。簿記資格を持ちながら転職する場合でも、より好条件の企業を見つけて再度転職することも可能です。また、実務経験を積むことで、より良い条件での転職も実現しやすくなるでしょう。
さらに、簿記2級以上の取得によって業務の幅が広がり、新たな地位に昇進することで年収アップすることもできます。転職をせずとも、経理職の一般社員から管理職、さらに上の経営企画職へと活躍の舞台が広がれば、役職手当などがつくこともあり、その分の年収も増えるでしょう。
信頼性の高い日商簿記の資格は、2級以上の取得者は履歴書に記載でき、実務レベルの経理スキルを証明できます。簿記2級以上の資格を持っていれば、即戦力として評価され、経験がなくても転職の有利になります。経理職の経験がある場合、さらに好条件での転職も可能です。
簿記の資格は上位職へのキャリアアップのチャンスを掴める資格でもあります。受験資格は制限されていないため、どなたでも受験できます。難易度は高いとされていますが、十分な準備をすれば、独学で合格することも可能です。経理分野での就職、転職、またはキャリアアップに興味がある人は、ぜひ日商簿記2級以上を取得し、自分のキャリアを充実させるために活用してみてください。