簿記は企業の経営実績や財政状態を正確に把握し、経営のスキルを向上させるために不可欠なビジネス能力です。その結果、簿記2級の取得はキャリアの向上を望む多くの方に選ばれています。では、簿記2級は具体的に何であり、どのような利点があるのでしょうか。この記事では、簿記2級の魅力や取得のメリットをお伝えします。
簿記とは、「お金や財産に関する営業取引を帳簿に記録すること」です。
簿記2級は、以下のように紹介されています。
経営管理に役立つ知識として、企業から最も求められる資格の一つ。 高度な商業簿記・工業簿記(原価計算を含む)を修得し、財務諸表の数字から経営内容を把握できるなど、企業活動や会計実務を踏まえ適切な処理や分析を行うために求められるレベル。
引用元:簿記| 商工会議所の検定試験
簿記3級は、ビジネスパーソンが身に付けておくべき「必須の基本知識」で、業種や職種に関係なく役立つものです。簿記2級の取得によって、経理や会計における専門知識をより証明できるでしょう。
一括りに簿記2級といっても、簿記検定には4種類あります。以下で、簿記検定の種類を紹介します。
簿記検定の種類 | 日商簿記 | 全商簿記 | 全経簿記 | 日ビ簿記 |
---|---|---|---|---|
検定名 | 簿記検定試験 | 簿記実務検定試験 | 簿記能力検定試験 | 簿記能力検定試験 |
主催者 | 日本商工会議所 | 全国商業高等学校協会 | 全国経理教育協会 | 日本ビジネス技能検定協会 |
対象 | 一般社会人 | 商業科・商業高校の高校生 | 経理・会計専門学校の学生 | 一般社会人 |
級 | 1級・2級・3級・算初級 | 1級・2級・3級 | 上級・1級・2級・3級・基礎 | 簿記初級・原価計算 |
これらの中で、日本商工会議所が主催する日商簿記が、最も大規模で知名度が高いものとなっています。
年ごとの受験者数も多く、就職活動や転職活動の際にアピールポイントとして活用するなら、日商簿記がおすすめです。
日商簿記2級は年に3回試験が実施され、受験資格がないため、誰でも受験することができ、学生にも人気のある資格です。
引用元:日商簿記公式HP
日商簿記は5つのレベルに分けられています。
原価計算初級は2018年から新たに導入された級です。一方、初級はそれ以前の4級に代わり、2017年から施行されています。どちらの試験もネットで受験し、採点や合格判定もネット上で行われます。
前述の通り、3級は簿記の基本知識となるのに対し、2級は専門性が高まるため、就職や転職活動時に「経理業務ができる人」としてアピールできる級です。そして、1級は経営管理や分析を行うスキルがあるレベルで、公認会計士や税理士などの国家資格への登竜門とされています。
以下の表に、各級の特徴をまとめました。
簿記のレベル | 科目 | 対象者 | 難易度 |
---|---|---|---|
1級 | 商業簿記、会計学、工業簿記、原価計算 | 大企業経営者、会計指導者 | 合格率7〜10% |
2級 | 商業簿記、工業簿記 | 中小企業経営者、会計主任 | 合格率20〜30% |
3級 | 商業簿記 | 中小企業経理部、一般記帳者、営業・管理部門 | 合格率30〜50% |
初級 | 商業簿記(入門)、工業簿記(入門) | 商業簿記入門者、工業簿記入門者 | 合格率50〜60% |
原価計算書初級 | 原価計算、工業簿記(入門) | 工業簿記入門者 | 合格率80〜90% |
日商簿記2級の試験は、年に3回実施されます。
この試験は「統一試験」と呼ばれ、試験は記述式で時間は90分です。途中休憩はなく、商業簿記と工業簿記の2科目を時間内に解答する必要があります。試験会場では、問題用紙、答案用紙、計算用紙が一緒になった冊子が配布され、試験終了後には全て回収されます。
また、2021年からはインターネットを利用した「ネット試験」も導入され、ネット用試験会場で随時受験が可能です。
日商簿記2級の難易度は高く、合格率は高くておよそ30%です。以下に過去10回の試験の合格率をまとめました。
回 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
164回(2023/6/11) | 8,454名 | 1,788名 | 21.1% |
163回(2023/2/26) | 12,033名 | 2,983名 | 24.8% |
162回(2022/11/20) | 15,570名 | 3,257名 | 20.9% |
161回(2022/6/12) | 13,118名 | 3,524名 | 26.9% |
160回(2022/2/27) | 17,448名 | 3,057名 | 17.5% |
159回(2021/11/21) | 22,626名 | 6,932名 | 30.6% |
158回(2021/6/13) | 22,711名 | 5,440名 | 24.0% |
157回(2021/2/28) | 35,898名 | 3,091名 | 8.6% |
156回(2020/11/15) | 39,830名 | 7,255名 | 18.2% |
154回(2020/2/23) | 46,939名 | 13,409名 | 28.6% |
※155回は新型コロナの影響で中止
簿記2級の合格率は、実施回によってばらつきがあるのがわかります。中には1割に満たない回もあります。なお、合格基準は2科目の合計得点が100点中70点以上であることです。
ほかの試験と比較すると、税理士15%〜20%、宅建士15%〜18%、社労士6%〜7%の合格率となっています。
日商簿記検定は誰でも受験可能であり、特別な受験資格は必要ありません。そのため、初級や3級を受けずに直接2級を受験することも可能です。 ただし、日本商工会議所のホームページでは、より深く内容を理解し実践的なスキルを磨くためには、下の階級から順に受験することを推奨しています。
簿記2級の試験は90分間です。大問が5つ出題され、第1問〜3問までは商業簿記、第4問〜5問までは工業簿記が出題されます。合格には100点中70点以上が必要です。
具体的な試験内容は以下のとおりです。
簿記検定2級の試験内容
詳細な試験範囲については、日商簿記の公式ホームページに一覧表で示されています。
参照:簿記検定試験出題区分表
簿記2級の試験は以前は筆記試験のみでしたが、2021年からはインターネットで受験可能になりました。ただし、ネット試験は自宅ではなく、ネット専用の試験会場に足を運び、会場内のパソコンで試験を受ける形式です。
試験時間、試験内容、受験料は共通であり、難易度も変わりません。ネット試験は試験会場に任意の日程で随時募集されているので、自分の都合に合わせて会場を選び、受験することができます。
また、合否通知についても、筆記試験では2〜3週間かかりますが、ネット試験では受験後にその場で結果を確認できます。これらの点を考慮し、以下の表にネット試験と筆記試験のメリット・デメリットをまとめました。
ネット試験(CBT試験) | 筆記試験 | |
---|---|---|
費用(税込) | 4,720円 | 4,720円 |
メリット | 受験日、受験会場が柔軟に選べ、近い日程で再受験できる | 問題用紙に書き込みができる |
デメリット | パソコンの操作に慣れていないと回答しづらい | 年に受ける回数は上限3回 |
ネット試験と筆記試験のメリットを比較し、自分にあった受験方法を選びましょう。
前述の合格率からもわかるように、簿記2級合格はかなりハードルが高く、合格までの道のりが長く感じるかもしれません。
簿記2級合格のためには、250〜350時間の勉強が必要といわれています。これは、毎日3時間の学習を行う場合、約3〜4ヶ月かかる計算です。
資格取得のために、専門学校やオンライン講座を受講することも1つの方法ですが、なかには独学で合格する人もいます。効果的な勉強方法は、参考書と問題集を1冊ずつに絞り、2回、3回と何度も繰り返し、苦手分野を克服することです。
簿記3級は簿記の基礎範囲で、簿記2級はより実務に近いスキルを身につけることができます。そのため、簿記2級以上の資格を持つ人は、一定以上の知識を持ち、企業の即戦力になる人材と評価されます。これが簿記2級以上の資格を持っていると、就職や転職に有利になる理由です。
【簿記2級以上が活かせる職業】
上記の職業では、簿記2級以上の知識とスキルを活かす機会が多くあります。
簿記2級を取得するメリットは以下のとおりです。
簿記2級を取得するメリット
以下に、それぞれのメリットについて紹介します。
簿記2級以上の資格を持つ人は、実務レベルの簿記・会計の知識があるとみなされ、転職の際に有利です。また、簿記2級以上の資格は経営コンサルタントとしても役立ちます。多くの企業が経理から経営に関するアドバイスを求めており、簿記2級以上の資格を持つ人の転職市場価値は高いです。
未経験からの転職でも、知識があり即戦力とみなされるため、有利になります。
簿記2級以上の資格を取得することで、キャリアアップや年収アップの機会が増えます。
理由は、企業の多くが資格手当などを設けているためです。
また、会社の経営状況を把握できるようになるため、管理職や経営者へとキャリアアップしやすくなるでしょう。中小企業での経理経験をスタート地点として、大企業の経理職へ転職し、キャリアを築くことも可能です。
簿記2級以上の資格を持つと、幅広いビジネス知識が身につきます。
まず、財務諸表を分析し、企業の経営状況を把握できるようになります。さらに、経理以外の職業であっても、自分の業務が財務諸表にどのように反映されるかがわかるため、無駄を減らしやすく業績アップにつながるでしょう。
さらに、簿記の書類と数字から取引の詳細が明らかになり、自社の強みや問題を財務諸表から把握することもできるようになります。
日商簿記2級は、社会的に信頼性の高い資格であり、実務で必要な経理スキルを証明する手段となります。
そのため即戦力として評価され、未経験者でも就職や転職に有利なポジションにつく傾向があります。
試験の難易度は高いですが、しっかりと準備すれば独学でも合格可能です。今後キャリアアップを目指す人は、簿記2級は持っていて損のない資格といえるでしょう。ぜひ自分のキャリアに役立ててください。