衛生管理者とは、何をするのか、どのように目指せばいいのでしょうか。
この記事では、衛生管理者としての役割やその魅力、そして成り上がり方について詳しく説明いたします。また、受験の難易度や給与情報、適性、効果的な学習のコツも詳しく掲載していますので、情報収集の一助としてぜひご覧ください。
衛生管理者は、労働安全衛生法という法律に基づいて国家資格を取得した衛生の専門職者のことを指します。労働者の健康障害を未然に防ぐために役立てられています。
50人以上の社員を持つ企業には、最低でも1人は衛生管理者が配置されることが義務づけられています。社員の総数に基づき、必要とされる衛生管理者の人数は、以下に示すとおりです。
従業員の数 | 衛生管理者の人数 |
---|---|
50〜200名以下 | 1名以上 |
200〜500名以下 | 2名以上 |
500〜1,000名以下 | 3名以上 |
1,000〜2,000名以下 | 4名以上 |
2,000〜3,000名以下 | 5名以上 |
3,000名以上 | 6名以上 |
衛生管理者が行うタスクは多種多様です。具体的な業務内容には以下のようなものが挙げられます。
上記のような、衛生に関連した技術的な課題の管理が役割となります。
その上で、衛生管理者は少なくとも週1回は実際の作業場所を視察し、何か問題を発見した際には適切なアクションを起こさなくてはなりません。
衛生管理者特有の給与制度や具体的な年収が固定されているわけではありません。会社の大きさや業務の内容、勤務年数など様々な要因で収入が変動します。年収の一般的な目安としては、大体300~800万円の間であると考えられています。
年収例 | 業種・職務内容 | 免許の種類 |
---|---|---|
約300万円~ | 経理・総務 | 第一種・第二種 |
約400万円~ | 介護施設・クリニック受付 | 第一種・第二種 |
約500万円~ | 建築の施工管理技術者 | 第一種 |
約600万円~ | 工場 | 第一種 |
約700万円~ | 保健師 | 第一種 |
2020年の調査によれば、会社員の平均年収は約433万円(※1)と報告されています。
一般的に、保健師のような衛生管理者以外で国家資格を必要とする職種では、普通の会社員の平均年収を上回る収入を得ることが考えられます。さらに、資格を持っていることでの手当が、収入を増加させる要因となるでしょう。
(※1)参考:国税庁「令和2年分民間給与実態統計調査-調査結果報告-」
「労働者の健康を保護する」という点が、衛生管理者としての職務の中で特に大きな魅力と言えるでしょう。
例を挙げると、会社が直面している労働関連の問題を解消する目的で、衛生管理者が労働衛生の計画を策定する場面が考えられます。その策定された計画に基づき、全従業員が一丸となって取り組むことにより、労働の環境はより良くなり、事故や病気のリスクを低減させることが可能となるでしょう。
このように、実際の業務の成果として労働環境が向上する様子を実感できることは、職業の魅力を感じる要因です。
衛生管理者というキャリアを選ぶ際、その職業の未来の見通しは気になるポイントでしょう。
結果を先に述べますが、たとえAI技術が進行しても、衛生管理者の職務が消失するリスクは低いと考えられます。衛生管理者のタスクには、健康問題に関するデリケートな個別の相談や従業員との綿密なコミュニケーションが含まれるため、人の手でのきめ細かい対応が不可欠とされる業務です。
さらに、一定の規模を持つ事業所において衛生管理者の配置が法的に要求されている点も、この職種の将来への期待を高めています。近時、過労や長時間労働に関連する問題や労働スタイルの変革が焦点を浴びている中、従業員の健康を守る役目を果たす衛生管理者の重要性は高まっていると言えるでしょう。
衛生管理者として活動するには、資格の取得が求められます。この資格は、国家試験をクリアすることで手に入れることができます。
この試験は、日本全国にある7箇所の安全衛生技術センターで、月に1~5回の頻度で開催されています。この衛生管理士の資格は期限が設定されていないので、いちど取得すれば再取得の必要はありません。
しかし、単に国家試験に合格した段階では、衛生管理者として認められるわけではありません。試験に合格後、東京労働局長宛て(全国で共通)に資格の申請を行い、資格証の交付を正式に受ける手続きが必須となるので、その点は留意が必要です。
参考:安全衛生技術協会
衛生管理者を志す方は、以下の2つの資格から選択することができます。
第一種と第二種、この2つの資格の主な相違点は、取り扱える業界の範囲です。第一種資格を保有する方は、どんな業界でも対応することが可能です。対照的に、第二種資格だけを持つと、有害な作業を伴う業界での衛生管理者としての活動は認められません。
第一種の衛生管理者のみが就ける特定の業界については、以下のようになります。
第一種・第二種の衛生管理者の試験を受けるための資格は、最後に受けた学歴と、労働衛生に関する実際の経験に基づいています。
最終学歴 | 労働衛生の実務経験 |
---|---|
大学 | 実務経験1年以上 |
短期大学 | 実務経験1年以上 |
高等専門学校 | 実務経験1年以上 |
高等学校 | 3年 |
その他 | 10年 |
より詳しい要件は、安全衛生技術協会の公式サイトで確認できます。なお、対象となる労働衛生の実務経験の例は、以下の通りです。
第一種・第二種衛生管理者それぞれの試験内容は、以下の通りです。
免許の種類 | 試験科目 | 出題数 | 配点 | 試験時間 |
---|---|---|---|---|
第一種衛生管理者 | 労働衛生(有害業務に係るもの) | 10問 | 80点 | 3時間 |
労働衛生(有害業務に係るもの以外のもの) | 7問 | 70点 | ||
関係法令(有害業務に係るもの) | 10問 | 80点 | ||
関係法令(有害業務に係るもの以外のもの) | 7問 | 70点 | ||
労働生理 | 10問 | 100点 | ||
第二種衛生管理者 | 労働衛生(有害業務に係るものを除く) | 10問 | 100点 | 3時間 |
関係法令(有害業務に係るものを除く) | 10問 | 100点 | ||
労働生理 | 10問 | 100点 |
衛生管理者の国家試験の合格率を元に、難易度を見てみましょう。他の主要な資格試験の合格率との比較表も参考としてご紹介します。
資格の種類 | 合格率 |
---|---|
第一種衛生管理者 | 45%前後 |
第二種衛生管理者 | 50%前後 |
公認会計士 | 10%前後 |
簿記2級 | 15~30%程度 |
宅建士 | 15~17%程度 |
税理士 | 10~20%前後 |
医師免許 | 90%前後 |
弁護士 | 20~40%程度 |
毎年、少しの変動は見られますが、第一種衛生管理者の合格率はおおよそ45%、第二種衛生管理者の合格率は約50%と考えられます。他の資格試験に照らすと、これは高い合格率を示していると言えるでしょう。さらに、年々のデータを見ると、第一種の方が第二種よりも試験の難しさが上がってきています。
衛生管理者試験を突破するための推奨される学習時間は、以下のようになっております。
資格の種類 | 必要となる勉強時間の目安 | 1日1時間勉強する場合に必要な期間 |
---|---|---|
第一種衛生管理者 | 100時間程度 | 3ヶ月程度 |
第二種衛生管理者 | 60時間 | 2ヶ月程度 |
通信教育での取り組みも一つの方法ですが、自分のペースで学びながら試験に臨む方も少なくありません。より良い学習の手法の例を、以下に示します。
衛生管理者として活躍するには、何の特性を持った人が適しているのでしょうか。その業務の特性上、以下のような性格やスキルを持った方が適していると考えられます。
まず、労働者の健康を守るという重要な役目を持つ衛生管理者は、他人の幸せを願い、献身的に行動できる人が適していると思われます。自らの業務が他者の利益となることに喜びを感じ、積極的に取り組むことができるでしょう。その上、衛生管理者のタスクは多岐にわたるので、多様な業務を遂行しつつ、労働者の様子や危険な状況を早く察知する「洞察力」が要求されます。
また、困難な状況に直面している労働者に心から接し、実効的なアドバイスを与えることができる、人間関係のスキルが豊かな人も、この職種にはふさわしいと言えます。
労働者の健康を保護する役割を果たす衛生管理者の仕事は、非常にやり甲斐があり、将来的な展望も期待される職種です。衛生管理者としての活動を開始するには、資格取得が要となります。
そして、その資格は第一種と第二種の二つに大別されています。どの資格を取得するかにより、対応可能な業種や試験の困難さなどに差が出てきますので、希望する職域に見合った資格を選ぶことが大切です。
他人を支援することに喜びを感じる方や、状況を的確に捉える能力、人との関わりを大事にする人は、この業務での才能を十分に発揮できるでしょう。衛生管理者というキャリアに魅力を感じるなら、是非とも資格の取得に挑戦してみる価値があります。