経営や経済に関心を寄せる中で、中小企業診断士資格に興味を抱く方もいるのではないでしょうか。中小企業診断士の仕事内容やメリットを理解しておくことで、資格取得の判断がより容易になります。
この記事では、中小企業診断士の職務や資格取得の手順、メリット、そして将来性などについて解説します。中小企業診断士資格はキャリアアップに非常に有益であるため、参考にしてください。
中小企業診断士は、中小企業の経営における悩みに対して相談に応じ、専門的な助言を行う専門家のことを指します。彼らは企業の経営実態を詳細に調査し、各企業が抱える問題を分析して、広範な専門知識を駆使して課題解決に導くことが主な業務です。
中小企業診断士の職務には、企業勤務と独立という2つのパターンが存在し、平均年収は約700〜800万円(※1)と、一般の会社員よりも高い水準になっています。この資格は経営コンサルタントの一環であり、国家資格として唯一であるため、コンサルタント業務でのキャリアを築きたい方にとっては挑戦すべき資格と言えます。
(※1)参考:職業情報提供サイト(日本版O-NET)「中小企業診断士」
中小企業診断士の具体的な業務は以下のとおりです。
中小企業診断士は、依頼された企業の要望に基づいてコンサルティング業務を遂行します。中小企業が抱える経営上の課題をヒアリングし、経営状況を調査・分析して課題を洗い出す役目です。得られた情報に基づき、生産性向上やコスト削減のための改善策を提案し、経営戦略や必要な知識・情報を効果的に伝えていきます。経営者と連携し、企業の成長をサポートする専門的でやりがいのある仕事です。
中小企業診断士の仕事には、申請書類の作成も含まれます。主なものには、経営改善計画書や経営診断書などです。経営改善計画書は金融機関から融資を受ける際に必要な書類で、経営上の課題を見つけて改善するための計画書になります。経営診断書は産業廃棄物許可申請の際に提出する書類で、企業の現状分析や課題・問題点、解決策をまとめたものです。これらの書類は中小企業診断士にしか作成が許されず、その作成も彼らの重要な役割の一環でしょう。
経産省に中小企業診断士として登録すると、商工会議所や都道府県からの仕事を引き受けることが可能です。中小企業基盤整備機構や商工会議所で働く中小企業診断士は、経営指導者として巡回指導や窓口指導を行い、公的機関の窓口に訪れた企業に対して相談に乗る役割も担います。また、セミナーなどに派遣され、経営の専門家として情報や知識を提供し、中小企業のサポートも行う役目です。
中小企業診断士は経営に関する専門知識の発信も行います。企業経営に関する広範な知識を基に、講演や執筆活動を通じて経営知識を共有する役目もあります。最近ではSNSを活用して経営に関する情報を発信することも一般的であり、特定の業界に特化した中小企業診断士も増加傾向です。対象者は経営者だけでなく、起業家や学生など、情報を求める幅広い層に積極的に情報提供を行います。
中小企業診断士になるためのプロセスを案内します。最初に目指すべきは中小企業診断士試験の合格です。
中小企業診断士になるためには、中小企業診断士協会が主催する試験に合格する必要があります。試験は1次試験と2次試験の2段階で行われ、1次試験はマークシート形式で、2次試験は筆記・口述試験が含まれています。
1次試験合格後、2次試験に合格するか、中小企業診断士養成課程を修了するか、どちらかが必要です。受験資格は年齢・学歴・経験を問わず、広範な分野からの出題があるため、基礎知識があると有利でしょう。なお、公認会計士や税理士、不動産鑑定士、情報処理技術試験合格者は一部科目が免除されます。
1次試験は8月上旬の土日2日間に実施されます。受験手数料は14,500円で、受験資格は年齢・学歴・経験を問いません。試験内容は経済学・経済政策、財務・会計、企業経営理論、運営管理、経営法務、経営情報システム、中小企業経営・中小企業政策の7科目が含まれます。合格基準は「総点数の60%得点」かつ「1科目も40%得点未満でない」ことです。
2次試験は筆記試験と口述試験の2部構成で、筆記試験は10月下旬の日曜日に、口述試験は1月中旬の日曜日に行われます。受験手数料は17,800円で、1次試験合格者が受験資格があります。筆記試験の合格基準は1次試験と同じく「総点数の60%得点」かつ「1科目も40%得点未満でない」ことです。筆記試験合格者は口述試験に進むことができます。口述試験は個人面接で約10分間行われ、評定が60%に達していれば合格です。
2次試験ではなく養成課程を選ぶ場合は、審査により選考されます。通学期間は一定で、フルタイムや夜間・週末のコースがあります。フルタイムの場合でも約半年の通学が必要で、費用が高額になることが考慮されるべきです。
試験合格後の次の段階では、中小企業診断士としての登録に向けて実務補習を行います。中小企業診断士としての登録には、実務補習の修了または診断実務への従事が必要です。実務補習は2次試験合格後、3年以内に15日間の期間で受講する必要があります。
実務補習では、実際の経営コンサルティングの場で先輩から実践的な指導を受けます。グループでの作業を通じて、仲間と連携し合いながらスキルを磨くことができます。
なお、養成課程修了の場合、実務の要件は必要ありません。
実務補習修了後は、必要な書類を整えて経済産業大臣に提出します。提出書類には登録申請書に加えて、合格証明書や実務補習終了証書などが含まれます。養成課程修了者の場合は、修了証明書も添付が必要です。
登録の通知を受けたら、これにより中小企業診断士としての資格を持つことができるようになります。中小企業診断士の登録は5年間有効で、更新のためには特定の要件を満たす必要がありますので、留意しておきましょう。
続いて、中小企業診断士試験の難易度に焦点を当ててみましょう。この試験は非常に難易度が高く、容易に合格できるものではありません。
中小企業診断士試験の1次試験と2次試験の合格率はそれぞれ約20〜25%(※2)であり、最終的な合格率は2次試験まで合格した人数を基にすると約4〜6%です。この数値は、公認会計士資格の取得に必要とされる勉強時間が約3000時間とされているものよりも低い割合になっています。
同等の合格率を有する資格には、社会保険労務士や司法書士などがあり、中小企業診断士試験もその中で難関な資格とされています。
(※2)参考:j-smeca.jp「中小企業診断士試験 申込者数・合格率等の推移」
中小企業診断士試験に合格するために必要な勉強時間は、1次試験が800時間、2次試験が200時間で、総計で1000時間と言われています。これは、社会保険労務士や行政書士と同等の時間であり、長期にわたる学習が不可欠です。
独学でも合格を目指すことは可能ですが、仕事をしながら学習する場合はスクールや通信講座を利用することがおすすめでしょう。計画的に学ぶことで合格までの道のりが短縮され、理解できない点は講師に質問できる利点もあります。また、モチベーションの維持にも寄与するでしょう。
中小企業診断士になると多くの利点が期待できます。主なメリットには以下の5つが挙げられます。
中小企業診断士試験の学習を通じて、経営や経済に関する体系的な知識を獲得することができます。中小企業の経営状況を多岐にわたる視点から理解し、専門的な知識を駆使して経営の診断・改善に取り組むことが可能です。
高品質な成果物を生み出せるため、単なる業務改善だけでなく、組織全体の課題にも取り組む大規模なプロジェクトにも参加できるでしょう。将来的な独立の際にも身につけた知識は必ず役に立ちます。
試験合格後、中小企業診断士として登録し業務を開始する前に、実務補習を受けることが求められます。実務補習はグループで行われるため、外部の多様な人々と出会い、新しい人脈を構築することが可能です。
正式に中小企業診断士として認定された後も、診断士協会への参加などを通じて社外の人脈を広げていけます。また、中小企業診断士は他の診断士や異なる職種の専門家と連携し、外部の人脈を築きやすいでしょう。
会社員を続ける場合でも、独立を目指す場合でも、社外の人脈はビジネスにおいて有益な資源となります。
中小企業診断士は経営コンサルティングに関する唯一の国家資格です。難関を克服して資格を取得した者は、広範な経営知識の保持が証明され、社内外からの社会的な評価も向上します。
中小企業診断士として活動できることで、肩書きのない経営コンサルタントよりも信頼を得ることが間違いありません。
中小企業診断士になることで、キャリアの幅が拡がります。中小企業診断士試験の範囲は広く、合格には多岐にわたる知識が必要です。身につけたスキルや知識はさまざまな業界や職種で応用できます。
専門的な知識を活かして異動先の部署や、昇進して経営に関与するポジションに就くことも可能かもしれません。独立して事務所を設立することもできるため、将来のキャリアプランの選択肢が広がります。
中小企業診断士資格は就職・転職にも有利です。コンサルティング企業だけでなく、多くの企業が自社の経営改善を求めています。中小企業診断士は国家資格であり、経営の専門家として容易に認識され、良い条件で転職できる可能性があるでしょう。
また、難易度の高い資格であるため、成長意欲や学習能力が評価されやすいでしょう。より好待遇ややりがいのある仕事を求めて転職を検討しているなら、中小企業診断士資格の取得がおすすめです。
中小企業診断士は大きく「企業内診断士」と「独立診断士」に分かれますが、その他にもさまざまな活躍の場が存在します。
企業内診断士として勤務する場合、他の会社員と同様に企業で働きながら自社の経営診断を担当します。中小企業診断士の多くが企業内診断士とされ、資格取得は長期の勤務後に行われ、その後も同じ企業での勤務が一般的です。
資格を取得することで、総務部や管理部などで経営的な視点を持ち、異動や昇進・昇給の機会が増える傾向があります。
多くの中小企業診断士が、会計事務所や税理士事務所などでの職を選ぶことがあります。試験の範囲には財務・会計が含まれており、業務も会計士や税理士と密接に関わっているためです。
経営に深い関連があるため、税務相談から経営アドバイスまで広範な業務が可能で、特有の書類を作成できるため経営者にとっては頼りにされる存在となるでしょう。
中小企業診断士は経営コンサルタントとしても成功を収めることがあります。コンサルティング業界に就職するか、独立して自身の事務所を立ち上げるケースも多いです。通常、経験を積んだ後に独立を果たす傾向があります。
独立した場合、複数の企業と契約し、経営診断や必要に応じて経営面での助言を行います。中小企業の経営者と連携し、企業を動かす仕事は非常に充実感をもたらすでしょう。
経営者向けのセミナーを企業や団体から委託されたり、講師としても活躍が可能です。特に独立している中小企業診断士が人気を集め、依頼が舞い込むことが一般的でしょう。
また、執筆活動も行う中小企業診断士がいます。専門知識と経験を活かし、ビジネスに役立つ本を執筆する例が多く見られます。書籍の発表により知名度が向上し、コンサルティングや講演の依頼も増加することが期待されるでしょう。
最後に、中小企業診断士の展望について触れます。以下の理由から、中小企業診断士の将来性は期待されています。
将来の展望を考慮する上で、AIの進化は注目すべき課題です。しかし、中小企業診断士の業務はAIには難しいとされています。中小企業診断士の仕事には数字以外の要素、例えばブランド力の読み取り能力、説得力、コミュニケーション能力が必要です。
また、状況や時代に柔軟に対応し、適切な経営戦略を提案する中小企業診断士の仕事はAIには不向きであり、業務が置き換えられる可能性は低いと言えるでしょう。
全体の99.7%が中小企業である日本企業は、約380万社にも上ります。中小企業診断士が関与する企業は多岐にわたり、多様な分野で求められています。
加えて、現在の日本経済は景気が低迷しており、多くの中小企業が経営に苦しんでいます。中小企業が抱える課題は多岐にわたり、経営者の高齢化や労働力の確保など解決が迫られています。そのため、中小企業診断士の需要は今後一層高まるでしょう。
中小企業診断士は中小企業の経営課題の解決をサポートする専門家です。中小企業が抱える問題は多岐にわたり、今後も中小企業診断士の需要は増加するでしょう。
中小企業診断士資格はキャリアアップに非常に有益であり、企業に残る場合でも社会的な評価が向上します。資格試験は難関ではありますが、学び取った知識は一生の財産となり、克服した先には大きな成果が待っています。この機会にぜひ資格取得を検討してみてください。