金融業界の第一線とのイメージがある証券アナリストですが、具体的な仕事内容がわからない人は多そうです。仕事内容や必要資格について理解すると、証券アナリストへの一歩を踏み出せるでしょう。
この記事では、証券アナリストの概要や資格の内容について解説します。
「証券アナリスト」は金融業界の専門職であり、別名「CMA」としても知られています。主に金融や証券に関連するプロフェッショナルとして、企業や業界の経済状況の調査および分析が仕事です。なお、日本では「公益社団法人 日本証券アナリスト協会」の検定会員を「CMA」と呼ぶことがあります。
「エコノミスト」とよく混同される職種ですが、調査および分析の対象が異なります。エコノミストは主に金利、為替、市場全体などの大きな規模の動向が対象です。一方、証券アナリストは個々の企業や業界を中心に調査および分析を行います。
参考:公益社団法人 日本証券アナリスト協会「公益社団法人 日本証券アナリスト協会」
証券アナリストの職務は、企業や業界の経営状況や動向をリサーチ・分析し、それに基づいてアドバイスを提供することです。具体的には、以下のような業務が含まれます。
証券アナリストの業務内容
単にデスクワークで数理的なアプローチを取るだけでなく、実際に企業を訪れて業界や関係者と対話しながら行います。直接的なアプローチを起こすと、よりリアルで最新的かつ一般には知られていない情報の取得が可能です。
厚生労働省(※1)によると、証券アナリストの年収は1029.5万円とされています。一方、国税庁(※2)によると、令和3年の1年間に働いた人の平均給与は443万円です(男性545万 女性302万)。
証券アナリストの年収は、国民の平均と比べると非常に高給であるといえるでしょう。
(※1)参考:厚生労働省 職業情報提供サイトjobtag「証券アナリスト」
(※2)参考:国税庁 民間給与実態統計調査 17ページ 「2 平均給与」
証券アナリストの仕事は、緻密さとダイナミックさの両方からやりがいを感じられます。特に、好奇心旺盛な人にとって、情報収集自体がやりがいや楽しさにつながる場合も多いようです。経験や論理的思考力などを駆使した情報の分析は、知的好奇心を刺激します。市場の予測が実際に当たれば、さらに達成感を感じられるでしょう。
また、証券アナリストの仕事は大きな金額が絡むため、投資関連業務や国内外で活動できることもやりがいの一つです。人脈を広げる機会もあるため、世界が広がるダイナミックなキャリアといえるでしょう。
証券アナリストに適した人物として、特に以下のタイプの人が挙げられます。
証券アナリストに向いている人
前述したやりがいとも共通しますが、外向性と内向性の両方を兼ね備えた人が証券アナリストに向いています。それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
証券アナリストに向いている人物として、コミュニケーションが得意な人が挙げられます。特に、さまざまな立場の人々との対話が求められるため、相手の話を傾聴する態度が重要です。
例えば、金融機関の担当者や企業の経営者とのインタビューや対話、顧客へのアドバイスなどが挙げられます。こうした状況で円滑なコミュニケーションがとれると、信頼関係の構築や情報の収集においてプラスに作用するでしょう。
金融分野のような、関連ジャンルに関する知識や経済学に興味がある人が挙げられます。証券アナリストには高度で専門的な判断が伴ううえ、膨大な投資額を扱う仕事です。的確な判断を下すには、企業や金融業界に関する知識や経済学的な視点が欠かせません。関連分野に興味や関心を持てないと適切な判断が難しく、よい業績につなげるのは難しいでしょう。
日ごろからコツコツと情報収集ができる、努力家な面も求められます。証券アナリストの仕事は輝かしく見えがちですが、地道な努力があってこその印象です。絶え間ない変化や動向に対応するには、常に情報に敏感でいる姿勢が求められます。広範な動向を理解するには、日頃の情報収集の積み重ねが必要です。
また、リアルタイムで海外の情報を得るために、現地時間に合わせて早朝や深夜に仕事をする場合もあります。地道な情報収集には忍耐強さが必要であり、継続にはある程度の体力も必要となるでしょう。
未経験の人がすぐに証券アナリストに転職するのは、非常にハードルが高いです。一般的には、金融機関や証券会社、資産運用関連の企業に就職してから、適性に応じて該当の部門に配置されます。
資格は証券アナリストになるために必須ではありませんが、持っていると評価がアップするケースは珍しくありません。また、資格を取得すると体系的な知識を得られ、アナリストとしての業務に役立てられるでしょう。
証券アナリスト試験(CMA)は「公益社団法人日本証券アナリスト協会」が主催している資格です。証券アナリスト試験合格には、以下の流れが必要になります。
また、第1次試験は4月と9〜10月の年2回、第2次試験は年1回、6月に実施されます。
参考:公益社団法人 日本証券アナリスト協会「公益社団法人 日本証券アナリスト協会」
試験を受験するには、第1次・第2次ともに同協会の講座受講が必要です。講座は第1次・第2次ともに通信教育で、講座テキストを使用した自己学習形式となります。
第1次・第2次ともに受講した年にはテストは受けられず、翌年から受験が可能です。第1次は科目ごとの合格制度なので、3年以内であれば1科目ずつの受験もできます。
第1次レベル講座は6つの学習分野から成り立っており、一括での受講が必要です。また、第2次レベル講座を受講するには、第1次試験の3科目すべてに合格する必要があります。なお、第1次試験に合格すれば、同じ年のうちに第2次レベル講座を受講できます。
証券アナリスト試験は、マークシート式の第1次試験と記述式の第2次試験の2段階です。試験には電卓の持ち込みが2台まで許可されていますが、通信機能付きのものや、文章や公式の記憶・表示ができるものは使えません。
第1次試験の試験科目と内容は、次の通りです。
試験科目 | 内容 |
第1次試験(科目Ⅰ) | 証券分析とポートフォリオ・マネジメント |
第1次試験(科目Ⅱ) | 財務分析、コーポレート・ファイナンス |
第1次試験(科目Ⅲ) | 市場と経済の分析、数量分析と確立・統計、職業倫理・行動基準 |
なお、第2次試験は全学習分野が出題され、高度な知識・実務への応用力・職業倫理の習得度が問われます。出題形式は、計算問題や記述式の応用問題です。
以下は、講座や試験、合格後にかかる費用をまとめた表です。
講座&試験 | 費用 |
第1次レベル講座 | 60,000円 |
第1次試験(科目Ⅰ) | 6,400円 |
第1次試験(科目Ⅱ) | 3,300円 |
第1次試験(科目Ⅲ) | 3,300円 |
第2次レベル講座 | 57,000円 |
第2次試験 | 15,000円 |
協会入会料 | 10,000円 |
年会費 | 18,000円 |
合計で173,000円かかるため、合格を目指すならあらかじめまとまった金額の準備が必要です。
また、2022年の講座開催時期を例に挙げて、最短での合格スケジュールを考えてみます。
いずれも途中申し込みができ、1月申し込みなら同年4月に第1次試験の受験が可能です。同年8月に第2次レベル講座を開始し、翌年6月に第2次試験に合格すると最短スケジュールとなります。
したがって、開講期間ギリギリの1月からのスタートであっても、約17か月は必要です。長期戦になるので、学習計画を立てて挑む必要があります。
証券アナリスト試験の難易度を、ほかの資格と比較しました。
資格の種類 | 合格率 | 必要勉強時間 | 偏差値 |
証券アナリスト(第1次試験) | 約50% | 約200時間 | 57 |
証券アナリスト(第2次試験) | 約50% | 約200時間 | 57 |
簿記2級 | 15~30% | 250~350時間(簿記経験者) | 58 |
宅建士 | 15~18% | 300~400時間 | 57 |
税理士 | 15~20% | 3,000~4,000時間 | 75 |
証券アナリストは、勉強時間の合計と偏差値を見比べると宅建士と同レベルの難易度です。また、偏差値のイメージとしては、難易度の低い資格の一つである「食品衛生管理士」は35、最難関の資格の「公認会計士」は77となっています。
計算機の持ち込みができることからもわかるように、証券アナリスト試験は数学的要素が強く内容もハイレベルです。なお、合格ラインの具体的な点数などはなく、第1次・第2次とも「上位一定割合の受験者の平均得点を基準として決定」するとされています。
証券アナリスト合格には、協会の講座テキストによる自主学習や過去問による趣味レーションがおすすめです。特に、過去問は本番の試験と似たような問題が出題される場合があるため、繰り返し解いていきます。間違えたところや理解できないところは、講座テキストや解説を読み理解を深める努力が必要です。わからないところを潰していくうちに、大きな得点につながるでしょう。
証券アナリストはハイレベルな専門性が必要となる職種で、見合った収入が得られやりがいにつながる仕事でもあります。
証券アナリストになるには、金融機関や証券会社・資産運用関連の会社への就職が必要です。転職を視野に入れつつ証券アナリスト試験の合格を目指しながら、ジョブチェンジを成功させましょう。