記事FV
資格
2024/09/11 更新

工業簿記とは?商業簿記との違いや難易度を紹介

簿記は、商業簿記と工業簿記の2種類に分かれています。工業簿記は製造業を対象としたもので、製造業を行う企業の収益最大化やコスト管理に欠かせません。経理や会計の仕事をしている方には、商業簿記だけでなく工業簿記の資格も取得したい方が多いでしょう。

この記事では、工業簿記試験の難易度・資格取得に向けての勉強方法について紹介します。原価計算期間・勘定科目など言葉の意味、財務諸表や損益計算書の表記方法など工業簿記と商業簿記の違いも一緒に解説するので、参考にしてください。

工業簿記の資格を取るには?

工業簿記の技能を証明するには、まずは日商簿記検定2級以上を受験・合格を目指しましょう。この項では、工業簿記分野の出題方法・難易度も一緒に解説します。

日商簿記2級以上で出題される

簿記試験は、日商簿記・全商簿記・全経簿記の3種類あります。工業簿記の問題が出題されるのは日商簿記検定2級と1級のみなので、工業簿記の資格を取りたい方は日商簿記検定2級以上を目指しましょう。

日商簿記検定の工業簿記分野では、2級・1級のどちらでも計算問題が出題されます。2級は工業簿記1科目で出題されるのに対し、1級は工業簿記と原価計算の2科目にわけて出題されるのが特徴です。2級より1級の方が理論の理解が問われる設問・計算問題の量は、必然的に1級の方が多くなります。

しかし、工業簿記は業界の専門用語や概念が多いので、初歩的・基本的な設問が中心の日商簿記検定2級でも充分に時間をかけて勉強しないと合格は難しいでしょう。

工業簿記の難易度

工業簿記と商業簿記のどちらが難しいと感じるかは、個人差があります。実際には国語が得意な方は商業簿記、数字や数学が得意な方は工業簿記が理解しやすいと感じる方が多いですが、工業簿記は計算力や暗記力だけで対応できるものではありません。工業簿記の学習をするときは「勘定連絡図」を書きながら、工業簿記全体の理解を深めるようにしましょう。

日商簿記検定では、2級と1級で商業簿記と工業簿記の配点・合格ライン・合格率が異なります。以下に、日商簿記検定の配点・合格ライン・合格率を、工業簿記が出題されない3級も含めて一覧にするので、難易度を測る目安にしてください(※1)。

受験する級

商業簿記と工業簿記の配点

合格ライン

合格率(2023年11月実施分)

3級

商業簿記のみ

100点満点中70点以上

33.6%

2級

・商業簿記60点
・工業簿記40点

100点満点中70点以上

11.9%

1級

・商業簿記25点
・会計学25点
・工業簿記25点
・原価計算25点

100点満点中70点以上(1科目でも10点未満だと不合格)

16.8%

(※1)参考:商工会議所の検定試験「受験者データ」

工業簿記の原価計算とは

工業簿記における原価計算とは、製品を作るすべての過程でかかる費用を計算する手続きを意味します。原価計算で扱う原価の内容・原価計算の流れは以下に紹介するとおりです。

原価計算に必要な費用の項目や要素

原価計算で扱うのは、製品を作るのにかかったすべての費用です。製品製造にかかった費用は、費用が発生した項目別に材料費・労務費・経費に分類します。材料費・労務費・経費は「原価の3要素」と呼ばれ、原価計算の基本項目です。

かかった費用を「原価の3要素」に分類したら、続いて、直接費・間接費・固定費・固定費に分類する場合もあります。一般的に、原価計算でよく使われるのは直接材料費・直接労務費・直接経費・間接材料費・間接労務費・間接経費の6要素です。直接費・間接費・固定費・固定費の内容は以下の表を参考にしてください。

原価の種類

内容

直接費

製品を作るのに必要な材料費(例:自動車を作るのに使う鉄材)・向上で働く方の人件費・外注加工費・特許権使用料など

間接費

広告費・消耗品費・補助材料費(例:燃料)・工場長、工場の事務員、工場アルバイトの賃金・減価償却費・水道光熱費・工場にかける保険料(例:火災保険)・棚卸減耗損など

固定費

家賃・地代・賃金(正規従業員のみ)や減価償却費など、売り上げや操業度が増減しても変化しないもの

変動費

部品費・燃料費・外注費など、売り上げや操業度が増減すると変化するもの

原価計算の3つのステップ

原価計算は、 費目別計算・ 製造間接費の配賦・ 製品原価の計算の「3つのステップ」で構成されています。各ステップで計算する内容は以下のとおりです。

  1. 費目別計算:原価を「3つの要素」から直接費・間接費に分類する
  2. 製造間接費の配賦:製造過程で発生する間接的コストを、金額・時間・物量など一定の基準で部門・製品ごとに配分処理する
  3. 製品原価の計算:製品単位で製造にかかるすべての原価を集計してコストを把握する

原価計算は、企業の正確な利益を知るだけでなく、販売価格の決定・予算の管理や編成・経営計画の策定など、企業のあらゆる意思決定に関わる重要なものです。

## 工業簿記と商業簿記の違い

工業簿記と商業簿記は対象業種をはじめ、さまざまな点が異なります。この記事では対象業種・原価計算期間・勘定科目・財務諸表・損益計算書の表記と、試験合格に向けて学習内容の5項目で比較するので参考にしてください。

異なる項目

工業簿記

商業簿記

対象業種

製造業や加工業などの業種に適している。原材料から製品が生産される過程を追跡できる。

製造業を除くすべての業種で使われている。とくに適しているのは小売業。商品の仕入れと販売の流れを記録できる。

原価計算期間

会計期間は通常1年間。別途、原価計算期間を1カ月単位で設定されている。

会計期間は通常1年間。原価計算期間はない。

勘定科目

主に材料・仕掛品・製品・労務費・経費・製造間接費・月次損益の7つに分類。製造過程に関する詳細な科目が中心。

資産・負債・純資産・収益費用に分類。商品の流通過程を反映する科目が中心。

財務諸表・損益計算書の表記

「当期製品製造原価」と表記。生産過程の工程ごとに原価を算出し、反映する形で表記。

「当期商品仕入高」と表記。仕入れと販売過程での原価や、在庫の変動を重視して表記。

学習内容

暗記より計算方法の理解が重要。製造プロセス・原価計算方法・製品の工程別原価の割り当てなどの知識が求められる。知識の範囲は「狭く深く」。

暗記力と難解な文章を理解する読解力が必要。勘定科目の暗記・簿記の基本的な考え方を理解する能力を重視。知識の範囲は、「浅く広く」。

対象業種

工業簿記と商業簿記の最も大きな違いは、対象業種です。工業簿記は主に、製造業や加工業を対象にしていますが、商業簿記は製造業以外のすべての業種を対象にしています。

製造業や加工業で工業簿記が使われるのは、工業簿記が原価計算のための簿記だからです。工業簿記なら材料の仕入れから製品の販売までにかかるコストを正確に把握できます。対して、商業簿記は企業の資産・負債・資本の増減などを把握し、記録するものです。商業企業でも小売業に適した簿記なので、大企業から小規模店舗まで幅広く使われいています。

原価計算期間

原価計算期間は、工業簿記のみに設定されている決算期間です。商業簿記にはありません。

原価計算期間は毎月1日から末日までの1か月単位で行う必要があります。工場では毎月大量の製品が完成して出荷されるので、原価計算も毎月しないと正確なコストを把握しにくくなるからです。正確なコストを把握していないと、製品原価に問題が生じたとき、迅速に対応できなくなります。

対して、工業簿記にも商業簿記にも設定されているのは会計期間です。会計期間は企業の財務諸表作成対象期間で、決算書を作成したり納税をしたりするのに設定する決算期と同じ意味と考えてください。会計期間・決算期の期間は1年で、日本国内の企業は多くが4月から翌年3月に設定しています。

勘定科目

勘定科目は、企業が使ったお金・企業に入ってきたお金の分類を表す「見出し」のようなものです。勘定科目の内容は、工業簿記と商業簿記で一部異なる部分があります。簿記2級を受験するうえで必ず抑えておきたい勘定科目は、それぞれ以下のとおりです。

  • 工業簿記:材料・賃金・経費・仕掛品・製造間接費・製品・売上原価・労務費・月次損益
  • 商業簿記:資産・負債・純資産・費用・収益

材料・製品・仕掛品・労務費は、工業簿記でしか使わない勘定科目です。

財務諸表・損益計算書の表記

工業簿記と商業簿記では、財務諸表・損益計算書の表記方法と合計する項目が異なります。

  • 工業簿記:当期製品製造原価(材料費・労務費・経費の合計額)
  • 商業簿記:当期商品仕入高(商品を仕入れた際に生じた仕入原価の合計額)

当期製品製造原価は、決算期(1年)の間にかかった材料費・労務費・経費の合計です。計算式は「当期総製造費用+期首仕掛品棚卸高-期末仕掛品棚卸高」となります。当期商品仕入高の計算式は「売上原価-期首商品棚卸高+期末商品棚卸高」です。また、登記製品製造原価・当期商品仕入高のどちらも、前期に製造して今期に完成した製品・前期に売れ残った商品の費用を含めるのがポイントです。

学習内容

工業簿記と商業簿記では、学習する内容も異なります。工業簿記は計算方法を理解しながら「狭く深く」、商業簿記は暗記力と読解力で「浅く広く」を意識して学習するのが基本的な考え方です。

工業簿記を始めて学ぶ方は、工業簿記の全体像を理解するところから始めてください。テキストや参考書を読むほか、動画の視聴もオススメです。全体像が理解できたら、実際の問題をどんどん解き、専門用語などに慣れていきましょう。勘定連絡図を描きながら解くと、今、どの経費の計算をしているかがよく分かります。また、日商簿記検定2級で出題される問題は、工業簿記でも基本的なものばかりです。

商業簿記の学習は、簿記の考え方を理解する・勘定科目などを暗記するところから始めましょう。どちらも簿記の基本であり、日商簿記検定3級で出題される範囲です。日商簿記検定2級になると3級の内容に、連結会計や本支店会計・税効果会計・外貨建取引・リース・各種引当金等の項目が加わります。

工業簿記と商業簿記の勉強の進め方

商業簿記は読解力と暗記がメインになりますが、工業簿記は計算の意味、考え方を理解しながら解く力が必要です。日商簿記検定2級を受けるにあたっての勉強法を解説します。

商業簿記の勉強から始める

初めて簿記の勉強をする方は、先に商業簿記の学習から取り掛かりましょう。商業簿記の基礎知識を身に付けてから工業簿記の学習に取り掛かると、工業簿記の内容が分かりやすくなります。工業簿記の勉強は、以下のポイントを守りながら問題を解く方法がオススメです。

  • 何度も同じ過去問題・問題集を解く
  • ボックス図や勘定連絡図を描きながら解く
  • スピードを意識しながら解く
  • 本番の試験で満点を取れるように意識する

2級の工業簿記では、計算スピードが問われます。試験会場にはそろばんか電卓の持ち込みが許可されているので(※2)、普段から試験当日に使うそろばんか電卓を使って学習し、つ慣れておいてください。また、工業簿記の問題は1日に1問でもよいので意味を理解しながら解く、分からなくなったら1つ前の単元に戻って学習し直してから解くの2点を守ると合格を勝ち取りやすくなるでしょう。

(※2)参考:商工会議所の検定試験「試験科目・注意事項」

日商簿記検定2級を受験

工業簿記の資格に初めてチャレンジする方は、日商簿記検定2級に受験の申し込みをしましょう。申し込み方法は会場によって異なるので公式サイトで確認してください(※3)。近年、3級と2級はネット会場での受験も可能になっています(※4)。

(※3)商工会議所の検定試験「2級」

(※4)商工会議所の検定試験「日商簿記検定試験(2級・3級)ネット試験について」

日商簿記検定3級~1級は、1年度に3回受験の機会があります(※5)。1度不合格になってもあきらめず、勉強を続けて次回の受験に備えてください。

(※5)商工会議所の検定試験「2023年度試験日程カレンダー」

工業簿記は全体の流れを理解してから専門用語に慣れるのがコツ

工業簿記は商業簿記と異なり、計算力と専門用語の理解が問われるのが特徴です。難しいと思い込んでいる方が多いですが、この記事で紹介した方法で勉強すれば必ず身に付けられるので、あきらめずに取り組みましょう。

近年は紙媒体ばかりでなく、スマートフォン向けの学習アプリ・工業簿記の全体像が分かる動画も配信されています。独学が難しい場合はスクールもあるので、ご自身のライフスタイルなどに合わせて、効率よく学べる方法を選んでください。

資格の関連記事一覧

会計・税務関連資格

法律・法務関連資格

監査・管理関連資格

IT関連資格

ビジネス・コンサルティング関連資格

金融関連資格

その他の資格

著者画像

株式会社WARC

WARCエージェントマガジン編集部

「人材紹介の『負』の解消を目指す、新しい転職エージェント」をビジョンに、ハイクラス人材紹介事業を展開しているWARC AGENT。WARCエージェントマガジン編集部は、このビジョンを支えるために、転職者に役立つ情報を執筆し、個々のキャリア形成をサポートしていきます。

満足度98%のキャリアコンサル

無料カウンセリングはこちら