本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は、MBOという用語について解説いたします。
一生のうちでMBOの実務に関われる人はほんの一握りだと思いますが、とても重要な経営戦略用語なので、ここで押さえておきましょう。
MBOとは、“Management Buyout”の略称で、経営者による自社の買収という意味で使用されている用語です。
MBOという手法は、主に以下の3つのケースで活用されます。
一つずつ解説していきます。
せっかく上場したのになぜ非公開化するのかと疑問に思うかもしれませんが、実は上場を維持し続けるのにも莫大な費用がかかります。
会社の規模にもよりますが、年間で1~5億円くらいの上場維持コストがかかるので、それ以上の利益を上場しているという状態から得られない限り、コスト高になってしまいます。
また、上場企業である以上、守らなければならないルールが多くあり、かつ、情報開示を義務付けられるため、経営者としては常に経営能力及び実行を監視され続けるような形になります。
このような上場維持コストやルールの厳格さなどを考慮すると、株式市場において資金調達を頻繁に行わない会社であれば、上場していることによって得られる利益はあまりないのではないかと思います。
仮に上場を維持する価値がないと判断した場合は、経営者等がMBOによって株式を非公開化します。
非公開化する最大のメリットは、経営を自由に行えるという点にあります。
上場している場合、どうしても公の機関としての側面が出てくるので、内部統制も整えないといけませんし、社外取締役や監査役などの経営メンバーを揃え続けないといけません。
その上で、株主の意向に沿った経営を行わないといけないので、創業者としては経営しづらくなることもあるのです。
株式をあえて非公開化して、経営者たちが全株式を保有する形態にしてしまえば、株主=経営者となるので、原則として自由に会社経営を行えます。
自分の会社のお金であれば、ある程度大きなリスクも取れるようになるので、大胆な経営改革もしやすくなります。
そういう意味で経営を迅速かつ大胆に行えるようになるので、非公開化に大きなメリットを感じる経営者も多いのです。
最近の事例では、進研ゼミで有名なベネッセホールディングスが創業者等によってMBOを実行して上場廃止を実現しています。
子会社のスピンオフの手法としてMBOが活用されることがあります。
例えば、子会社の代表取締役等が、子会社の株式を親会社からすべて買い取って、グループから離脱するという方法です。
これによって、子会社のスピンオフ(グループからの離脱)が完了し、独立して会社の経営を行うことができるようになります。
なぜこのようなことをするのかというと、子会社の社長と親会社の意向が一致しない状況に陥ることがあるからです。
子会社の社長としては、自分が経営する会社の将来を信じていて、今後も上手く経営を行っていく自信がある状態ですが、親会社の意向としては、今その事業を拡大する気はなく、追加投資などにも賛同できないというような場合です。
このような状況が続くと、子会社の経営自体も危うくなりかねないので、子会社社長が自ら株式を買い取って、グループから離脱してしまった方が良いと判断することもあるわけです。
中小企業の子会社社長が独立する場合などを想定していただくとわかりやすいかもしれません。
子会社のスピンオフと似た形で、事業部を独立させるときにもMBOを活用することができます。
例えば、会社内の一つの事業部の部長やコアメンバー等が、自分でその事業を行いたいと思ったときに、会社からその事業部ごと譲り受ける方法で独立する場合などに活用される手法です。
この場合、一般的には事業譲渡(会社法467条1項1号・2号)という方法で事業を譲渡します。
ただし、事業譲渡は手続が面倒なことが多いので、一旦親会社側で会社分割(会社法2条30号)という手続をして新設会社を設立して、そこに事業部及び従業員を移転させ、その子会社の株式を新社長に譲渡するという方法が採用されることもあります。
この方が譲渡の範囲を明確にでき、従業員の移籍も簡単に済むので、事業部を独立させる場合には便利だと思います。
ここからは少々マニアックな話になるので別に覚える必要はございませんが、知っておくと便利なこともありますので、簡単に解説していきたいと思います。
MBOは、細かく分けると沢山の類型があります。
その中でも、代表的な5つの類型について解説いたします。
MEBOとは、経営陣と従業員でお金を出し合って、一緒に自社を買収しようという試みで、英語では“Management Employee Buyout”といいます。
MBOの亜種のような類型です。
この手法が採用されたMBOの事例を私はほとんど知りませんが、唯一知っているのは日本レーザーという会社の事例です。
詳しくは慶應ビジネススクールの記事がわかりやすいですので、以下をご参照ください。
EBOとは、従業員が会社を買うという手法で“Employee Buyout”の略称です。
この手法は、主に中小企業における事業承継の場面で活用されます。
そもそも日本に存在する法人の約99.7%は中小企業であり、かつ、全国の社長の平均年齢は2021年時点で約62歳となっており、70歳を超えた社長は全体の約33%(3人に1人は70代)に達しています。
このような深刻な事態に陥っている理由は、後継者が不足しているからです。
一方で、優秀な従業員ならばいるという会社も多いので、そういう従業員に対して現経営者が自社の株式を売却し、事業を承継するという方法が採用されることがあります。
これがEBOです。
この方法ならば会社を潰さずに済みますし、自社のことを熟知した優秀な社員に経営を引き継ぐことができますので、創業者にとっては有り難い話です。
そして優秀な社員にとっても、慣れ親しんだ事業と同僚達ですぐに経営を実行できるので、一から会社を立ち上げる場合よりも効率的な場合が多いです。
そのため、双方にメリットがある手法として活用されているようです。
MBIとは、“Management Buy-in”の略称で、買収後に外部から経営陣を送り込んで、経営を立て直す手法のことをいいます。
この方法は主に投資ファンド等が行う手法なので、一般的な企業における実務で関与する機会は少ないです。
投資ファンドは、問題を抱えている会社を安く買って、プロの経営陣を送り込むことで経営を立て直して、それによって会社自体の価値を高め、買ったときよりも高い価格で株式を売るという手法で儲けています。
以前、このような投資事業を専門に行っている投資ファンドで働く先輩の話を聞いたことがあるのですが、極めて専門的で、難易度の高い投資だと感じました。
そもそも数年間かけて行う経営立て直しによる会社のバリューアップ自体に不確定要素が多すぎて、ギャンブルに近い投資だと思います。
それでも勝てるという確信を持てるためには、過去の経験に加えて目利きの力が必要になってきます。
投資ファンドでパートナーを務めているような人たちは、そういう能力が突出して高いのだろうと思います。
本当に凄い人たちです。
BIMBOは、“Buy-In Management Buyout”の略称で、旧経営陣も買手の一人となって企業を買収し、新経営陣と共同で経営を行うという手法です。
前述したMBIでは、投資ファンド等が買収した会社に新しい経営陣を送り込んで、旧経営陣には退任してもらうという手法ですが、BIMBOでは、旧経営陣も買手の一人となって企業を買収しているので、新経営陣と協力して経営を行います。
会社のことを一番良く知っている旧経営陣が、新経営陣による新しい経営手法を取り入れつつ、既存の事業を伸ばしていきやすくなるというメリットがあるようです。
しかし、個人的にはそんなに上手くいくのかと思うところはあります。
旧経営陣で上手く行かなかったから新経営陣が必要になったわけですから、新経営陣が抜本的な改革を行うときに旧経営陣の過去の手法を実質的に否定する場面が必ず出てくるはずです。
そこで旧経営陣が本心から協力できるのかと疑問が湧きます。
成功事例を探してみましたが、私の調査能力では見当たらなかったので、実現可能性がどれほどあるかはわかりません。
LBOとは、“Leveraged Buyout”の略称で、買収対象会社の資産や将来収益などを担保にして金融機関(主に銀行)からお金を借りて、その資金でMBOを実行するという手法のことです。
そもそも経営者や従業員等がMBOをやろうと思いたったとしても、企業の株式すべてを買い取るための資金を用意できないことが多いです。
会社の規模が大きければ数十~数千億円のお金が必要となるので、個人でどうにかなる金額ではありません。
そのため、買収対象会社の保有する資産や将来稼ぐ利益を担保にして、銀行からお金を借りてMBO(他の類型含む)を実行します。
過去に実行されたMBOの中で、純粋に自己資金だけですべてを成し遂げた事例はあまりないと思うので、大抵はLBOを活用しつつMBOを行っているというのが実情だと思います。
ということで、今日はMBOについて解説させていただきました。
単にMBOといっても様々な類型、スキームがあって、学んでいくと実はとても深い分野です。
興味がある方はぜひ事例研究をしてみてください。
それでは本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
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