本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は、知っているようで意外と知らない「株式」という制度について解説していきます。
株式という制度を本格的に学んだことがある人の多くは、商学部か法学部の出身だろうと思います。
「会社法」という難しい科目を履修した人が必ずと言っていいほど学ぶ分野です。
そして、会社法上の株式とは、以下の定義で説明されることが多いです。
株式とは、均等に細分化された割合的単位の形をとる会社の社員たる地位である。
これを読んで一発でわかったあなたは天才です。
少し解説を加えますと、会社法上の「社員」という用語は、その会社を共同で所有し、運営する構成員という意味があります。
我々が日ごろ使う「社員」は、従業員という意味なので、この点が異なるところです。
そのため、よりわかりやすく説明すると、株式とは、株式会社の所有者としての地位そのものを意味します。
例えば、100株の株式を発行している会社があったとして、私がそのうちの10株を持っていたとすると、私はその会社の10%の所有権を有する社員(構成員)です。
この割合が高くなればなるほど、会社の経営や意思決定について影響を及ぼすことができます。
もし特定の一人が株式の100%を所有しているなら、その人が完全な所有者ですので、自分で何でも決定することができます。
株式という制度は、不特定多数の人から少額の資金を少しずつ集める際に重宝する法的な技術で、非常に便利な制度です。
例えば、皆さんが、以下のような事業を行いたいと思ったとします。
この香辛料は、他国では非常に安価で販売されていますが、自国では希少かつ大人気で、値段が高騰しているとします。
その結果、ほぼ確実に1億円の利益が見込める状況です。
こんなとき、必要経費である1億円をすぐに出せる人は多くありません。
この連載の読者は皆さんハイレベルなので、もしかしたらポケットマネーで出せる人もいるかもしれませんが、通常はなかなか1億円という大金を出せません。
そこで、第三者からお金を集める必要が出てきます。
この際に利用されるのが株式制度です。
例えば以下のような条件で株式を発行します。
上記の条件を見てわかるとおり、株式制度というものは本来「みんなで少しずつお金を出し合って事業を興して、利益を山分けしましょう」という制度です。
事業に参加して利益を上げたい人は株式を買って、出資をすれば良いわけです。
10万円程度なら出せる人は多いでしょうし、その10万円がほぼ確実に20万円になるなら尚更参加したい人は多いでしょう。
これなら上手に宣伝をすれば1億円くらいなら集められそうです。
しかし当然のことながら、事業にはリスクが伴います。
上記の事業では、渡航中に船が沈没するかもしれませんし、他国での香辛料の調達に失敗するかもしれません。
もしくは、自国での香辛料ブームが終わってしまうことも考えられます。
その他にも様々なリスクがあります。
株式という制度では、このリスクも細分化されるので、リスク分散という意味でも便利な制度となっています。
仮に必要資金である1億円を全部自分で負担していた場合は、損失も全部自分で負担しないといけませんが、株式制度を利用して株式を保有している人たちは、自分のリスクは株式で出資した金額が上限となります。
つまり、1株10万円で購入した人のリスクは「10万円」までとなります。
たとえ、事業を行っていた人が大失敗して他人に損害を与え、1億円以上の損害が発生したとしても、株主はその損害を賠償する義務を負いません。
あくまでも10万円の株式が紙切れになるだけです。
このような責任を「間接有限責任」といいます。
一方で、利益が予想以上にたくさん出た場合は、上限なく分配されます。
このように、株式制度は、事業を行いたい人にとっては「資金調達がしやすくなる」というメリットがあり、事業に参加したい人にとっては「リスクを抑えて事業に参加することができる」というメリットを持っています。
株主の権利には、以下の2つの種類があります。
それぞれご説明いたします。
自益権とは、権利行使の結果が、当該株主個人にだけ帰属する権利をいいます。
言い換えれば、株主の個人的利益のための権利です。
代表的な権利は、利益配当請求権です。
いわゆる配当をもらう権利です。
その他にも、残余財産分配請求権というものもあります。
これは、会社が解散する際に、残った財産を分配してもらう権利です。
共益権とは、権利行使の結果が、株主全体に帰属する権利をいいます。
言い換えれば、全株主の利益のための権利です。
代表的な権利は、株主総会での議決権です。
株式会社では、最低でも毎年1回、株主総会という会議が開かれ、その年の経営計画等について多数決による決議がとられます。
この会議に出席して議決権を行使すると、その結果は株主全員に帰属します。
仮に議案が反対多数で否決されたとしても、賛成多数で可決されたとしても、本人がどちらに投票したかにかかわらず、その多数決の結論が株主全員に帰属します。
その他にも、会社に対する解散請求権なども共益権に含まれます。
株主総会において解散決議がなされると、会社は解散し、残余財産があれば株主の持分割合に応じて分配されます。
以上のように、株主には自分のためだけの権利(自益権)と株主全員の利益のための権利(共益権)が与えられています。
ということで今回は、株式という制度について基礎的なところをお話させていただきました。
ここ数年でNISAなどの普及に伴って株式投資が流行っています。
しかし、株式という制度を理解した上で投資を行っている人は少ないので、最低限の基礎的な内容については知っておいた方が良いと思います。
また、ベンチャー企業で働く皆さんについては、多くのベンチャーがIPO(新規上場)を目指しています。
その関係で、ストックオプションという権利を付与されることもあると思うので、株式という制度に対する理解はあった方が良いと思います。
この記事が皆様の理解の助けになれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ではまた次回の記事でお会いしましょう。
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内容に応じて担当者がお返事させていただきます。