ベンチャー企業にも専属の人事担当者又はCHROという役職が設置されることが多くなってきました。
しかし、ベンチャーという特殊性もあり、一般的な大手企業の人事とは異なる部分も多いのが実情です。
そこで今回は、ベンチャーへの転職を検討している方に向けて、ベンチャー人事の業務内容や求められる適性、活かせる資格などについて解説させていただきます。
ベンチャー企業の事業拡大において、最重要課題となるのが人材の獲得です。
その人材獲得の要であるベンチャー人事は、とても重要な役割を担っています。
一般的に、ベンチャーは知名度もまだ無いですし、資本力もまだありません。
それゆえに、大手企業との人材獲得競争で苦戦を強いられることが多いです。
その熾烈な戦いを制するためには、優秀な人事が必要となります。
しかし、ベンチャーの人事について、深く知っている人は少数派だろうと思います。
そこで今回は、ベンチャー人事の業務内容や適性、活かせる資格などについて解説していこうと思います。
ベンチャー人事も大手企業の人事と同様に、様々な業務に従事しています。
その業務は、主に以下の4つに分類できます。
一つずつ解説していきます。
まず重要な業務として「人事企画」が挙げられます。
しかし、この業務はかなり専門的で、ベンチャー人事でこの業務を実際にこなしている人は少数派です。
そのため、ベンチャー人事においては、ある程度規模が大きくなった一部のベンチャー企業でのみ発生する業務だと思ってください。
そもそもこの業務の前提として、経営戦略又は経営計画がないといけませんので、そこからご説明いたします。
IPOを見据えて拡大して行っているベンチャーには、CEO等が掲げたビジョンやミッションがあり、それに基づいて中期経営計画が立てられます。
ベンチャーの中には感覚だけで経営を行っているところもあるので、すべてのベンチャーでMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)や中期経営計画があるかと言われるとそうではありませんが、ちゃんとしているベンチャーなら、ほぼ100%あります。
そして、その中期経営計画等を更に細かくしたものとして、経営戦略や経営計画があります。
簡単にいうと、1年から3年程度の短期的な経営計画のことです。
今後数年間で、どれだけの売上・利益を産み出そうとしているのか、そしてその売上・利益をどうやって生み出すのか、という点についての概要が書かれている計画書です。
その短期的な経営計画に基づいて、人事は「人材獲得計画」や「人事戦略」「組織戦略」などを策定し、実行していきます。
これが人事企画業務です。
人事企画業務を行う際、人事は、CEOたちが策定したMVVや中期経営計画をよく理解した上で、それらの計画を達成させるために、人事としてどういう貢献を行うのかを考えないといけません。
学校の試験のように正解があるような問ではないので難しい業務ではありますが、本来人事という職種はそういうレベルの高い職種です。
そして、難易度の高い業務だからこそ、ベンチャー企業によっては人事企画業務そのものが存在しないということもよくあります。
そもそもMVVや中期経営計画がまだ存在しなかったり、組織戦略策定までできる人事が存在しなかったりで、なかなか人事企画業務までしっかり行えているベンチャーは少ないのが現状です。
そのため、もし人事企画業務を中心に行いたいというのであれば、転職先を選定する際に業務内容を細かく確認しておいた方が良いだろうと思います。
次に「人材採用業務」が挙げられます。
こちらについては、ベンチャー企業でも大手企業でも必ずと言っていいほど発生する業務です。
ベンチャーでは特に重要な業務となってきます。
この業務においては、まず前述した人事企画業務において年間の人材獲得計画が策定されます。
※企業によっては人材獲得計画がないこともあります
そして、その人材獲得計画に基づいて、採用面接数やスカウト数などのKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)が定められます。
そのKPIを人事担当者各人に割り振って、計画を実行していきます。
例えば人材獲得計画上、月間10名(年間120名)の採用をしないといけないとなれば、少なくともその倍くらい(月間で約20名)の面接をしないといけないわけです。
そして、月間20名の人と面接をするためには、一般的なベンチャーで月間100~200名にスカウトメッセージを送らないといけません。
これを2名の人事担当者でこなすなら、仮に月20日勤務だとして、少なくとも1日あたり2件~5件程度のスカウトを送り、かつ、毎日1名以上の面接をこなさないといけません。
そうやって、日々の業務量を確定させていきます。
ここまでの逆算をした上で業務を行っているベンチャー人事は少数派かもしれないですが、原則はちゃんとKPIを定めて、数値管理しないといけません。
そうしないと、今自分が何のために何をやっているのかわからなくなります。
特に拡大期のベンチャーは人の入れ替わりも激しいので、数値管理を怠るとすぐに混乱していきます。
人事が場当たり的に事業部から言われたまま人を採用し続けていると、あっという間に人件費が膨れ上がって利益が出づらい組織になるので、人材獲得計画はしっかり守っていかないといけません。
このあたりの数値管理については、人件費に関する予算を策定している財務との連携も必要です。
なお、会社によっては人事と採用担当が分かれていることもあります。
人事が人事企画に集中して主に組織戦略を実行するのに対し、採用担当は採用活動に集中するという役割分担です。
そんな採用担当の主な業務は以下のとおりです。
など
ベンチャーの拡大期は、一年中採用し続けないと追いつかないと思うので、採用担当は激務になりやすいです。
そのため、自己管理が上手な人じゃないとなかなか務まらない職種だと思います。
次に「組織開発」という業務があります。
ただし、この業務が発生するベンチャー企業は少数派だと思います。
大抵は拡大期の人員増に対応するので精一杯で、組織開発は後手になります。
その結果、後々困ったことになりますが、現実的に考えて組織開発にまで手を回せるだけの人的余裕が人事部には無いだろうなと思います。
組織開発業務に落ち着いて対応出来る時期は、拡大期が落ち着いてきた頃です。
もしくは、拡大期に拡大しすぎて急縮小をした後です。
採用によって人を増やすということが一段落して、組織の質を上げていかないといけない状況になって初めて組織開発に手が回るようになってきます。
その時期の組織開発では、主に以下のような業務を行います。
この中で、最も難易度の高い業務は「社員教育」だと思います。
組織開発業務では、様々な計画や企画を策定しますが、その多くはあまり効果がなく、コストだけがかかっていくという結果に終わります。
その原因は様々ですが、主なものとしては、日本人があまり勉強をしない民族なので教育をしても効果がほとんど得られないという点と、教育力を併せ持った高度専門人材がほとんどいないという2点です。
これらの問題を解決できたとしても、今度は教育を受けて成長したメンバーが転職をしてしまうという派生問題が発生するので、組織開発業務は非常に難易度の高い業務です。
ベンチャー人事として組織開発を行う場合は試行錯誤を繰り返すしかないので、予算の範囲内で精一杯足掻きましょう!
最後に「人事評価制度の構築業務」があります。
これもまた難しい業務の一つです。
大前提として、すべての従業員が納得できる制度は存在しません。
それを追い求めるべきではあるのですが、追い求めすぎても変な制度しか出来上がらないので、会社としてどういう人材に居続けて欲しいかという視点で制度を構築するしかありません。
そのためにも、まずは経営陣とよく話し合って、会社の望む人物像をできる限り具体化していきましょう。
できれば言語化までしてしまった方が良いです。
それができたら、優秀な人材が長く残って活躍してくれるようにするための制度を考えていきます。
単に会社側が設定した数値目標を一方的に課して、それをクリアできたらA評価で、そのA評価を2期連続で達成したらランクアップ……などの単純な人事評価制度を敷くのも一つの手ですが、おそらく従業員のモチベーションは下がる一方になるだろうと思います。
人事評価制度を構築するためには、自社にとっての優秀な人材が、何を求めて働いているのか、どういうリターンが得られれば長く居続けてくれるのかについて、インセンティブ(動機)構造から分析して理解しないといけません。
答えは一つではないので、様々な視点から考えて、制度を少しずつ整えていく必要があります。
ただ、重要な要素はあまり変わりません。
優秀な人材が長く働く環境は似通っていますので、それを参考に作っていけば良いと思います。
主な要素としては以下のようなものが挙げられます。
など
これらの要素を満遍なく満たして、自社にとっての優秀な人材が長く働いてくれる環境を作りましょう!
なお、ベンチャーの場合、大手企業ほどの予算がないので、そこまで大掛かりな制度設計はできませんが、少ない予算の範囲内で良い制度を作れるようになったら、極めて優秀な人事になると思います。
以上のような業務を担当するベンチャー人事ですが、どのような人だと適性が高いといえるでしょうか。
この点について私見を述べさせていただきます。
まず前提としては、ベンチャー企業にもいろいろな企業がございます。
人事をとても重要視して大事にしている企業(できればこういう企業に入るべき)から、ただの採用面接の調整係とみなしているような企業までいろいろです。
そのため、これから述べる「ベンチャー人事」という職種については、ハイレベルなベンチャー企業の人事を基準にして語っていきたいと思います。
上記のようなベンチャー企業では、何よりもまずは「人を見る目」が求められます。
他人の履歴書・経歴書に書かれている文章からその人の性格を読み取る力だったり、面接の一挙手一投足、言葉のチョイス、声のトーンなどから心理を読み解く能力だったりが必要です。
そのような能力を持っている人については、ベンチャー人事に向いていると思います。
というのも、ベンチャーは、採用コストに制限があるため、採用ミスをすることが許されません。
実態としては採用ミスが発生している会社の方が多いかもしれませんが、原則は百発百中を狙っていこうというスタンスです。
限られたコストの中で、優秀で自社に合う人材を徹底して厳選して採用していかないと競争の激しいベンチャーの世界では生き残れないのです。
次に「勉強熱心な人」が人事に向いています。
ここ最近のトレンドとして、イケてるベンチャーの多くが高学歴化又は高学力化してきています。
特にITベンチャーで顕著なのですが、社内の主要メンバーの多くが有名大学の理系院卒であることが多いです。
中には博士号まで取得している人もいますので、一部のITベンチャーでは学力のインフレが起こっております。
そういう人たちが友人たちを誘ってリファーラル(紹介)で入社させることが多いので、社内にも理系出身者が多くなります。
そういう会社で人事として働くには高い学力が必要です。
そして、学力の高い人たちが新規メンバーとして選ぶのは、やはり高学歴な人が多くなるため、人事自体が賢くないと面接で対等に対話することが難しい状態になります。
そうならないようにするためにも、日頃から学習して様々な専門用語を覚え、各職種に対する解像度を上げ、対等な知識レベルと会話スピードで話せるようになっておくべきです。
最後に「そのベンチャー企業のことを心から愛せる人」であるべきだと思います。
これは適性というよりも転職先を選定するときの絶対条件のようなものですが、とても大事なことです。
そもそもベンチャー人事は、CEOの代わりに会社の魅力やビジョンを語らないといけない立場です。
また、多くの候補者にとって、最初に接する会社の人が人事ですから、その人事が会社のことを好きでも何でもないという状態だと、候補者側も入社したいという意欲が減退します。
それに、会社のことを愛せないまま他人の人生を大きく動かしてしまう人事という役職に就くのは人事本人が辛いはずです。
だからこそ、その会社を心から愛せる会社に出会えたときにだけ、転職をするべきだと思います。
最後に、ベンチャー人事として活かせる資格・学位などについて述べさせていただきます。
人事と労務が分かれていないベンチャー企業の場合には、社会保険労務士を取得しておくと有効です。
人事が社労士を持っていれば、人事と労務を一貫して理解することができるため、会社側としても管理職として任命しやすいです。
そのため、先々CHROとして人事領域を統括する立場になりたいと思っている人については、社労士の獲得を目指すと良いと思います。
もちろん、転職においても極めて強い資格です。
また、人事といえども管理職クラスになってくると予実管理を行わないといけない立場になるため、最低限の会計知識が必要です。
そのため、日商簿記2級又は全経簿記1級程度の会計知識を習得しておく必要があります。
ただし、これは資格を取得するというよりは、知識を習得しておくという色彩が強いので、資格自体は無くても構いません。
取っておいたほうがアピールになるという程度のものです。
そして学位としては、マネジメント専攻及び人的資源管理論専攻、又は経営戦略専攻のMBA(経営管理修士号)が有益だろうと思います。
MBAで学ぶ分野の多くは、人事に直接的に関係する学問領域ではございませんが、知識として知っておいて損はないと思います。
ということで今回はベンチャー人事について解説させていただきました。
私は、ベンチャーの成功は人材獲得の成否で決まると思っているので、人事を極めて重要な職種であると認識しています。
ベンチャーという特殊な世界で人事を担当するのはとても大変だとは思いますが、無理をせず、体に気をつけて頑張ってください!
そして、先々ベンチャー人事を目指している若手の皆さんには、ぜひ一度人材紹介の営業という職種を経験してみることをオススメいたします。
人材紹介の営業を経験すると、短期間で多くの企業の人事や求人に触れることになります。
様々な会社の内情やレベル感、面白い人事考課制度などを知ることができるため、先々人事になったときにその経験が活かせます。
では、次回はベンチャーの総務について解説させていただく予定です。
お楽しみに!
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりメッセージをお送りください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。