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コラム
2024/05/22 更新

経営戦略の作り方

はじめに

本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。

今回は「経営戦略の作り方」について書いていこうと思います。

他の分類や学説もございますが、経営戦略には、主に以下の4段階のレベルがあると考えられています。

  1. グループ戦略:企業グループ全体の経営戦略
  2. コーポレート戦略:企業単体での経営戦略
  3. ビジネス戦略:事業部単位での経営戦略
  4. チーム戦略:部署(課やチーム)単位での経営戦略

この中で、(1)のグループ戦略や(2)のコーポレート戦略は、(3)のビジネス戦略を統合したものと考えることができますので、最も重要な経営戦略は(3)のビジネス戦略であるといえます。

そして、多くの管理職が苦戦するのもビジネス戦略なので、今回はビジネス戦略の作り方を中心に書いていこうと思います。

1.事業選定

ビジネス戦略で最も重要なことは、自分が行う事業を決めることです。

これは思っているよりも難しいことで、多くの経営者が事業選定に長い時間を費やしています。
安易な思いつきで事業を始めても大抵は失敗するので、慎重に調査を重ねて、勝てる可能性の高い分野でビジネスを展開する必要があります。

事業選定における正解はないのですが、選定の参考となる類型として、以下の4類型を意識してみると見つかりやすくなるかもしれません。

  • (1)模倣型
  • (2)課題解決型
  • (3)パラダイムシフト型
  • (4)専門型

この世に存在する事業の多くは、上記4類型のうちのどれか、または、2つ以上の複合型であると考えられます。
そのため、自分が得意又は情熱を注げると思える類型がどれなのかについて一度考えてみることが有益だと思います。

以下では、各類型について簡単に解説していきます。

(1)模倣型

模倣型とは、既存のビジネスモデルを模倣した事業を行うやり方です。
これが最も創業しやすく、成功確率も高いと思います。

模倣型で注意するべき点は、模倣するビジネスを選び間違うと失敗するという点です。
自分が模倣しようと思っているビジネスをよく調べて、自分の方が上手にやれるという確信が持てるまで考え抜きましょう。

なお、日本ですでに成功を収めているビジネスモデルを模倣するのはあまりオススメしません。
なぜなら、すでに競合が山程いるはずだからです。

日本で流行っているビジネスモデルに乗っかることで成功する場合もあるとは思いますが、流行している時点で始めるには遅すぎるタイミングになってしまっていることが多いです。

比較的成功しやすいのは、他の先進国で流行り始めているビジネスモデルを模倣するケースです。
海外で上手く行っていて、日本ではまだ誰もやっていないビジネスモデルを見つけ出し、日本で始められるか調べてみると良いかと思います。

今現在日本で大きな成功を収めているビジネスの中には、海外で流行っていたものを日本に持ち込んだものが多いです。
例えば、婚活アプリやダイレクトリクルーティングサービスなどがそうです。

まだ日本に持ち込まれていないビジネスもあると思うので、一度検討してみると良いと思います。

(2)課題解決型

課題解決型とは、社会的な課題を探してビジネスを生み出すというやり方です。

今現在困っている人が多く存在するのに、何らかの理由で解決されていないという状況があるなら、それはビジネスチャンスです。
もし画期的な解決策を思いつけるのであれば、利益を独占できる可能性があります。

しかし、画期的な解決策を思いつく必要があるので、発明に近い要素があり、難易度は高いと言って良いと思います。

また、その解決策が特許等の法的保護を受けられるものではない場合は、誰かに模倣される可能性が高いです。そうなると、苦労して考えた解決策を他人に真似され、利益も分散していくということになります。
そのようなリスクが常に存在するやり方なので、極力特許等の法的な保護が得られる方法でビジネスを展開した方が良いと思います。

ベンチャー企業は知財戦略を疎かにしがちなので特に注意が必要です。

(3)パラダイムシフト型

パラダイムシフト型とは、我々の生活が一変するような大きな変革が起こったときに、それに便乗する形でビジネスを展開するやり方です。

過去の事例でいうと、ガラケーからスマホに変わったとき、ADSLから光回線に変わったとき、再生可能エネルギー普及のために固定買取制度ができたとき、コロナによって在宅ワークが主流になったときなどに、各業界でパラダイムシフトが起こっています。
そのような大きな変化が起こったときに、いち早くビジネスを興して大きな流れに乗れた人が、その後数年間で大きな利益を手にしています。

この類型のビジネスは、時代の変化を敏感に察知し、先読みして事業を起こさないといけないので、難易度は非常に高いです。

また、常にアンテナを張って、様々なことに関心を持っていないといけないので、ある意味天才的な嗅覚やセンスも必要となります。

さらに、この類型のビジネスは、急激に流行って急激に廃れるということが多いので、引き際を間違うと大きな損失を抱えることになります。
良き経営者というものは、事業を始めることより、事業を畳むスピード(撤退の意思決定)が早いので、その点は常に意識しておくべきです。

日本ではソフトバンクの孫さんがパラダイムシフト型のビジネスを興す天才です。
Yahoo(検索サイト)、ヤフーBB、ソフトバンクモバイル、太陽光発電事業、AI関連投資など様々な分野でパラダイムシフトの波に乗っかって大金を稼いでいます。
もちろん失敗もありますが、得られた利益の総額で見ると、圧倒的な勝ち組だと思います。

(4)専門型

専門型とは、自分の専門性を活かしてビジネスを展開する類型です。

例えば、法律事務所、会計事務所、特許事務所、クリニック開業などがこれに当たります。

こちらの類型は、大成功を収めるというよりは、確実に勝ちに行く類型のビジネスだと思います。
国家資格による独占業務等であれば、生活に困らない程度の稼ぎはほぼ確実に獲得できます。

一方で、専門性が差別化しにくいもの(一般的なサービス業等)で勝負する場合は、失敗する可能性が高くなります。
そのため、自分の専門性をどこに置くかという点が最も重要で、慎重に選ばないといけない点です。

以上4類型のうちのいずれか、または複数を組み合わせて事業選定を行うと勝ちやすいはずです。
参考になれば幸いです。

2.経営戦略を策定する方法

では、経営戦略を作る際の話に移ります。

経営戦略の作り方には、以下の2つのアプローチ方法があると考えられます。

  • (1)トップダウンアプローチ
  • (2)ボトムアップアプローチ

他にも細分化すればいくつかあると思いますが、まずは基礎としてこの2つのアプローチをマスターした方が良いのではないかと思っています。

以下、それぞれ解説いたします。

(1)トップダウンアプローチ

トップダウンアプローチとは、経営戦略を高い視点から作っていく方法です。

このアプローチ方法ではまず、世界経済の動向、日本の経済状況、事業を行おうとしてる市場の状態、政治・政策の状況、立法や法改正の動向などのマクロ的な視点で自社の外部環境を観察していきます。
それらの情報をもとに、自社が現在どういうポジションにいて、これからどのポジションを取りに行くのかを考えていく方法です。

比較的大きな会社に勤めていた方や経済学の素養がある方はこのアプローチ方法が性に合っているのではないかと思います。

また、理系の方もマクロ的な調査分析に長けている人が多いでしょうから、このアプローチ方法との相性が良いかもしれません。

なお、外部環境分析においては、様々なフレームワークが存在しますので、自分の理解しやすいフレームワークを用いて情報を整理すると良いと思います。

いずれにしても、法令や規制の動向だけはしっかり見定めおくことが重要です。

特に規制業種については今後規制が厳格化していく可能性があるため、法改正で一発アウトになることがあります。
許認可制を導入されると手続きなども面倒になるので、事業を始める前に調査しておきましょう。

また、トップダウンアプローチでは、必ず専門家の力を借りるようにしましょう。
市場調査に長けた専門家、法律家、会計士、シンクタンクなどを上手に活用して、外部環境を正確に把握してください。

(2)ボトムアップアプローチ

ボトムアップアプローチとは、自社の保有し得るリソースを基礎として戦略を策定する方法です。

リソースとは、ヒト・モノ・カネ・情報を意味します。

自社が今現在持っているリソースと、現実的に調達し得る近い将来のリソースをベースにして、自社の戦略を策定していきます。

この方法では、まずは現在の自社のリソースの質と量を正確に把握することから始まります。
財務的情報は比較的簡単に集められるのですが、人と情報については意外と難しく、把握に苦労するかもしれません。

特に難しいのは、従業員の保有する能力を正確に把握することです。今のメンバーに何ができて、数年後までにどの程度能力が伸びているのかを予想しないといけません。

そして、それらの情報を基礎として、近い将来得られるすべてのリソースの最高値・最低値・中央値を検討します。近い将来における人材育成、資金調達、採用、開発などを考慮するので、あくまでも予想値になります。

さらにその情報をベースに、自社として目指せる数値目標や戦術を選定していきます。

トップダウンアプローチと異なり、足元をよく見た策定方法なので、比較的現実的な経営戦略が作れるはずです。

なお、ベンチャーではよく最高値を基準にして経営戦略が練られていきますが、多くの場合、そこまでのリソースは獲得できないので、中央値付近で策定しておくほうが良いと思います。

(3)最終的には両方できた方が良い

トップダウンアプローチだけで戦略を練った場合、大体は地に足がついていない大胆な夢を描くことになったり、逆に規制を恐れて二の足を踏むことになったりします。

一方でボトムアップアプローチだけだと、眼の前の確実に取れる利益ばかり追いかけやすくなります。

そのため、最終的にはトップダウンアプローチとボトムアップアプローチの両方の視点から考えていく必要があり、両者の符号点(重なる部分)を見つけないといけなくなります。

仮に、両者が一切符号しない場合は、トップダウンアプローチで打ち立てた戦略の時間軸に誤りがあるはずなので、それを引き伸ばしてください。
期間を長く取ることができれば、両者が重なるようになると思います。

3.変更することを前提にする

経営戦略を作る際、一度作ったらそれで確定で、一切変更しないという暗黙のルールみたいなものがある会社もありますが、通常は変更を前提にして作ります。

これは逃げの変更ではなく、フィージビリティ(実現可能性)の変化による変更を意味します。

経営戦略を作るときというのは、最も情報が不足している段階です。
そのため、どんなに頑張って情報をかき集めても、やってみないとわからない部分というものが必ず発生します。

そして、この「やってみないとわからない部分」というものは、経営戦略を実行していく中で少しずつ解像度が上がっていき、理解できる範囲に収まっていきます。そうやって実現可能性が高まった段階、または実現可能性が低いということがわかった段階で、経営戦略を修正します。
そういう意味では、初期の経営戦略というものはただの仮設定と言っても良い品質です。
むしろ、そう考えておかないと判断を誤ります。

特にベンチャー業界では四半期ごとに状況は変化しているはずなので、四半期ごとに仮説を再検討することが望ましいです。
多くのベンチャーではそういう前提で経営戦略が策定されているはずです。

4.情熱のない戦略は無価値

最後に、経営戦略において最も重要なことを述べておきたいと思います。

経営戦略を練る際、ロジカルに考えることはとても重要なことです。
自社の外部環境と内部環境をよく分析して、論理矛盾のない戦略を立てないといけません。

しかし、ロジカルを重視するあまり、情熱を見失うようなことはあってはなりません。

大手企業の経営戦略でならある程度機械的に作成しても許されるのかもしれませんが、ベンチャーの場合は情熱ベースで作成するべきです。
ヒト・モノ・カネ・情報のすべてが不足しているベンチャー業界で情熱を失ったら終わりです。

ベンチャーにわざわざ来ている優秀層の従業員は、CEOの夢に共感して来ていることが多いので、情熱を失った経営戦略を見た時点で他に行きます。
そもそも、完璧なロジックで仕事をしたいなら、優秀な人ほど大手に行きますし、コンサルに行きます。
彼らがわざわざベンチャーに来ている理由をしっかりと認識しないといけません。

戦略は大事ですが、一番大事なのはCEOの夢であり、情熱です。
多少無謀だと思える戦略でも、CEOが誰よりも情熱を持ってそれにあたっているなら、優秀層だって全力で尽くしてくれます。

不可能を可能に変える唯一の要素は、人間の情熱だと思うので、そこだけは失わないでください。

おわりに

ということで、今回は経営戦略の作成方法について、トップダウンアプローチとボトムアップアプローチの2つをご紹介させていただきました。

より具体的な戦略策定については各社の事業によって変わって来ますが、本質的には似たような作業をして作成していきます。

外部環境の調査と内部環境の調査が上手になれば、情報が整理されるので、経営戦略も立てやすくなります。

何度か経験すれば慣れると思いますので、若手の皆さんは自分の勤めている会社の経営戦略を勝手に作ってみたりして、模擬練習をしてみてください。

では、また次回の記事でお会いしましょう。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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株式会社WARC

瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長/ 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate/ 資格:司法試験予備試験・行政書士など/ 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です