家庭・学校・職場などで日々発生している「同調現象」について解説していきます。
一歩間違うと人生を狂わせることもあるので、これを機に重要な定義などを抑えておきましょう。
本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回のキーワードは「同調現象」です。
この心理学用語は、子育て世代の皆さんに是非知っておいて欲しい用語です。
ベンチャー企業の組織運営でも使える知識ですが、どちらかというとベンチャー企業で働く子育て世代の皆さんにお伝えしたい内容です。
同調現象とは、集団の中で一部の人間が行った行動や判断に対して、他の者の行動や判断も引っ張られるという現象のことをいいます。
別名「同調行動」ともいいます。
この現象は、シェリフ氏(1935年)が行った社会心理学の実験によって提唱されるようになった現象です。
そもそも人間は、自分一人で物事を判断できる動物ですし、一人で意思決定をすることができます。
しかしそれと同時に、人間は集団で生活をする社会的動物でもあるため、周りの同類たちと協調しながら生きていかないといけません。
それゆえに、集団の中で支障なく生きていくためには、他者の意見や行動に配慮しないといけなくなります。
これが無意識的に現れているのが同調現象です。
同調現象の身近な例としては、私達が日頃抱いている「一般常識」が該当します。
誰も日頃は言語化したりしませんが、無意識的に従っている常識があるはずです。
例えば、優先席では体の不自由な方やご老人に席を譲るとか、小さい子供が道路付近で遊んでいたら目を離さないようにしてあげるとか、そういう行動です。
他にも、人前で派手な格好はしない、頭を変な色に染めない、就活では服装自由でもスーツで行く、葬式には黒いスーツで行くなど、様々な常識が存在します。
しかし、その一般常識は誰が制定して、誰が正しいと決めたのでしょう。
いつの間にか根付いているこれらの一般常識は、少し広い地域や国でみた場合、間違いかもしれません。
だからこそ、同調現象という不思議な現象を理解し、自己の行動を客観的に分析できるようになっておくべきです。
自分の親戚内、会社内、学校内、地域内、国内の常識を客観的に分析して、自分がただの同調現象でそれに従っているのではないかと冷静になって分析してみるべきです。
そしてもしそれが間違いだと気づいたら、すぐに改善していきましょう。
ケルマン教授(Herbert C. Kelman, ハーバード大学)よれば、人間の同調現象には、以下の3つの段階があるそうです。
以下、一つずつご説明いたします。
追従とは、集団の中で構成された規範(考え方、価値観、常識などのこと)に表面上従っている状態のことをいいます。
この段階ではまだ内心では個人的な別の見解を持っている状態なので、集団から離れればまた自身の見解に戻ります。
そのため、同調現象の中でも最も弱い段階といえます。
このような「追従」が発生する理由は、何らかの好意的評価を得たいため、懲罰やデメリットを避けるため、集団内の影響力を持った人間から目をつけられることを防ぐためなどが考えられます。
小中学校から高校くらいまでは学校のどうでもいい校則に従わないといけないと思いますが、多くの学生が追従状態で、内心では別の見解を持っています。
古い会社にも意味のわからないルールがたくさんあると思いますが、これも従業員の多くが追従しているだけで、本当は不合理なルールだと感じています。
このような状態は同調現象の中でも最も弱い同調です。
同一視とは、自分が尊敬する人と同一になりたいという欲求から発生する同調現象です。
この同調現象では、自ら進んで自分の見解・行動等を変化させ、尊敬する人と同じ格好、同じ言動を取ろうとします。
ゆえに、追従よりも強い同調現象といえます。
ただし、尊敬する人への信頼が無くなってしまった場合や憧れがなくなってしまった場合には、同調現象が消滅し、元の自分の見解や行動に戻ります。
例示としてわかりやすいのは、私の親の世代の話ですが、昔は松田聖子さんと同じ髪型をする人が山程いまして、うちの母ちゃんなんて聖子ちゃんの2倍はあろうと思われる顔面で聖子ちゃんカットにしておりました。
もし私が同級生だったら全力で止めていたと思いますが、当時は一種の宗教のような状態で、多くの若い女性が同じ髪型をしていたので、おそらく同世代の人たちも黒歴史写真がいっぱい残っていると思います。
この他にも、地方の一部の地域でまだ残っている不良文化なども同様の現象です。
中学生や高校生くらいの年齢の子たちが、けして格好良くはない(むしろダサい)格好をして学校に通ってしまったり、なぜかリーゼントやモヒカンにしてしまったりという奇行に走ることがあります。
これもある種の同調現象で、大抵はモデルとなっている誰かが存在します。
これがエスカレートしていくと、少年犯罪事件を起こすようになります。
同一視の恐ろしいところは、自分を客観視することができなくなりやすい点です。
本人としては、自分の行っている言動がカッコいい、可愛い、キレイだと勘違いしていて、その格好や言動が自分に客観的に適合しているのかという視点が欠如していることが多いのです。
憧れが先行してしまって、自分という存在を客観的に分析する視点が抜け落ちていきます。
特に若い年代では注意が必要な同調現象だと思います。
内面化とは、集団内の影響を持った人間の意見・主張・行動に心からの共感を示して、その見解を自分自身の見解として全面的に受け入れ、自己の信念・行動等を変化させることをいいます。
同調現象の中でも最も強度の強い同調で、一歩間違うと危ない状態でもあります。
同調現象が内面化まで進行してしまうと、元々は他人の価値観であっても自分の価値観そのものになってしまっている(そう錯覚してしまっている)ので、集団を離れたとしても見解・行動が変化しづらくなります。
これが社会的に正しい見解・行動であれば何ら問題ありませんし、むしろ自分の信念や個性などの人格形成の根幹をなすものとなりますので喜ばしいことです。
一方で、社会的に誤った価値観や言動だった場合、かなり悲惨なことになります。
内面化まで進んでしまった同調現象は、自分の内面の奥深くまで根付いてしまっている価値観なので、それを変えることは容易ではありません。
是非善悪の区別などの極めて重要な価値観について誤った内面化が進んでしまった場合、取り返しのつかない結果を招くこともあります。
だからこそ、時々立ち止まって、自分の価値観と向き合う時間を作るべきだと思います。
今自分が思っている見解は、どこで植え付けられ、自己の見解だと思うに至ったのか。
そして、その見解が本当に正しいのか。
人間には、そういうことを考える時間が必要です。
前述のとおり、同調現象は我々にとって身近な現象で、日々発生していると言っても過言ではありません。
そして、家庭・学校・職場などで発生した同調現象が進行し、内面化まで至ってしまえば、それを変化させることは難しくなります。
だからこそ、子を育てる年齢になった人たちは、同調現象の危険性をよく理解しておかないといけません。
そこで今回は、同調現象の注意点として、家庭・学校・職場の3つの場面を挙げて解説していこうと思います。
子育て世代の皆さんは、自分の子育てが間違っていないかという視点で読んでみてください。
幼い子供に植え付けられた価値観は、大人になってからの人生に大きな影響を及ぼします。
これは多くの大人たちが今まさに実感していることだろうと思います。
家庭内でどのような見解を見聞きし、どのような教育を受けたかで、人生は大きく変わってしまうものです。
だからこそ、親としては子供にどんな見解を見せるか、という点に注意を払わないといけません。
もし家庭内で誤った価値観・思考・思想等を強烈に植え付けられた場合で、他の大人との関わりが少ない場合、子どもたちはその誤った価値観等を内面化させていきます。
こうなってしまうと、大人になってからの修正はほぼ不可能です。
例えば、小学生の子どもに対して「勉強しろ!」「宿題をしろ!」と言うのは簡単ですが、自分は社会人として毎日勉強をしているのか、将来のために学んでいるのかを自問自答してほしいです。
子供側の視点でみると、親は何も学んでいない上に、毎日ダラダラと過ごしているのに、自分には勉強しろと命令してくる矛盾だらけの存在と映っているかもしれません。
子供は親の矛盾行動をよく見ています。
その矛盾行動そのものが価値観であり、言動です。
子供はその姿を見て、少しずつ自己の見解を形成していくのです。
反面教師にしてもらえるならまだ良いですが、大抵は同じような価値観を持つに至ります。
だからこそ、我々世代は子どもたちに対して良い背中を見せ、範を示さないといけません。
子どもが自分のいうことを聞かないとか、思ったとおりに成長してくれないという現象には大抵理由があり、ほぼ100%親の育て方の問題なので、自己の言動を顧みて、どういう同調現象を引き起こしてしまっているのかを分析する必要があると思います。
その上で、子どもの言動の改善よりもまず自己の言動の改善を行いましょう。
子どもたちは、親の成長や変化をちゃんと見ています。
学校内での同調現象も注意が必要です。
小学校高学年から中学校が特に重要かと思います。
その時期は思春期真っ盛りなので、通う学校次第では悪い同調現象を引き起こしてしまうからです。
私は修羅の国の出身なので、特にこの点を危惧しています。
残念ながら、学内における不良の連鎖(悪い意味での同調現象)は間違いなく存在します。
そして、負の連鎖の発生率は、学校内の平均的な学力が下がれば下がるほど反比例する形で上昇すると実感しています。
心理学実験で、クラスにおいて堂々とカンニングを行う人が1名いた場合に、どれだけの人間がカンニングを行うのかという実験が実施されたことがあります。
そのときは、最終的にクラスの半数がカンニングを行ったという結果が出ました。
これと同様のことが、学校内で起こっていくわけです。
私が実際に見た例としては、とある学校に取り返しのつかないほどの不良が1名いた学年(中学1年生)がありました。
その子がいたクラスでは、入学式からわずか半年で、クラスの半数以上がタバコ、飲酒、薬物、無免許運転などに手を出し、常習的な犯罪行為を行うようになってしまいました。
不良行為を繰り返しているメンバーの中には、それまでずっと真面目に勉強をして、好成績を収めていた子も当然に含まれています。
最終的にどうなったかというと、不良行為を行わない人間(断った人間)を暴力によって従わせる文化が学校内で根付き、学年全体に広がっていったそうです。
先生に聞いたところによると、この悲惨な状態は主要な不良メンバーが卒業した後も後輩たちに引き継がれて、2~3年間不良校としての状態が継続したそうです。
これはとある地方の実例でしかありませんが、仮に自分の子どもが上記のような学校に通っているケースを想定してみてください。
我が子が中学生でタバコ、お酒、薬物、バイクの暴走行為にうつつを抜かす状態です。
どれだけリスクが高いのかがよく分かるかと思います。
このような事態を防ぐためには、子供を良い学校に進学させるしかありません。
しかし、日本で良い学校というのはかなり少数で、各地域に数校しか存在しません。
しかも、良い学校であればあるほど、入試の難易度も高くなっていきます。
そのため、全家庭の全子どもたちに良い選択肢を提供できるわけではないですが、親として真剣に考えるべき論点の代表格ではあると思います。
子の幸せのためにも、一度よく考えてみてください。
学校という小さな世界で起こる同調現象は、時に人生を狂わせますので。
最後に、職場内での同調現象についてお話します。
職場内での同調現象で最も多いのは、CEO等の経営層の価値観・行動に他の従業員が同調してしまう現象です。
これについては、経営層の価値観が法的にも倫理的にも正しいものであるならば何ら問題ないと思います。
しかし、違法だった場合はすぐに転職をしましょう。
大きな不祥事が起こった後で転職をすると、あらぬ疑いをかけられることも多くなるため、かなり不利な状態で転職活動をしなければならなくなります。
経営層の倫理観、価値観が自分と全く異なり、かつ、看過できないほど倫理性に欠ける場合は、できる限り早い決断をおすすめ致します。
社会人になってからのキャリア選択は、慎重に行いましょう。
ということで今回は同調現象について私見も交えて解説させていただきました。
子育て世代の皆様や若手従業員の皆様にとって参考になれば幸いです。
では、また次回の記事でお会いしましょう。
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりメッセージをお送りください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。