本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は、パスゴール理論(Path - Goal Theory)という理論を解説していきます。
マネジメント領域の重要理論の一つなので、知っておいて損はないと思います。
パスゴール理論とは、リーダーの役割に関する理論で、リーダーは、部下が目標(ゴール)を達成できるように、適切な道筋(パス)に導く役割を担っていると考える理論です。
この理論は、1971年にハウス氏(Robert House)によって提唱された理論ですが、ハウス氏はその後もずっとこの理論の研究を続けて、1996年にも進化版を提唱しています。
パスゴール理論の素晴らしいところは、それまでのリーダーシップ理論と異なり、部下側に着目した点にあります。
パスゴール理論以前のリーダーシップ理論の多くは、リーダー側に着目したものが多く、リーダーの特性や行動を分析するものがほとんどでした。
一方でパスゴール理論は、リーダーはあくまでも部下を支援する側であり、部下がゴールに到達できるように様々なサポートをするのが仕事だという前提に立っています。
素晴らしい着眼点の転換だと思いますし、この視点は現在でも主流となっています。
パスゴール理論では、部下の能力や置かれている状況に応じて、リーダーシップスタイルを変化させるべきだという考え方をします。
これは以前別の記事でご紹介したコンティンジェンシー理論を取り入れた考え方です。
そして、パスゴール理論では、以下の4つのリーダーシップスタイルを効果的に使い分けることを提唱しています。
以下、それぞれのリーダーシップスタイルをどのように使い分ければ良いのかという点について解説いたします。
指示型リーダーシップとは、部下に対して明確な指示を出すというリーダーシップスタイルです。
このスタイルは、任せようと思っているタスクの難易度が高い場合やゴールが曖昧な場合に使用するスタイルです。
このスタイルを採用する上司は、部下に任せようと思っているタスクの最終的なゴール、そこに至る道筋、及びゴールまで辿り着けた場合の報酬などについてすべて細かく教示し、適宜指示も出していきます。
これによって部下は自分のやるべきことと成し遂げた後の報酬を明確に認識することができます。
一方で、このリーダーシップスタイルをゴールが明確な場合にまで使用してしまうと、部下は「マイクロマネジメントされている」と感じる場合があります。
そのようなケースでは部下のモチベーションを引き下げてしまう可能性があるので注意が必要です。
実際の現場では、このリーダーシップスタイルを使うべきではないところで使う人が多く存在しています。
既にルーチンワーク化されているタスクについて、毎日のように進捗確認を行ったり、やり方について細かく指示を出したりする人たちです。
そのような人たちは、部下のために指示を出しているのではなく、単に自己満足のために指示出しをしています。
それをやっても誰も得しないので、指示型リーダーシップは使い所を考えて限定的に活用すべきです。
部下を監視したい欲求、思い通りに動かしたい欲求が出てきたときに、自制心を保ち、自分を抑えられるかがカギとなります。
支援型リーダーシップとは、部下が目標を達成できるように、上司が部下に対して様々な支援活動を行うリーダーシップスタイルです。
このスタイルは、タスクの内容や目指すべきゴール自体は明確ですが、部下がそれを達成できるという自信がないという場合に効果を発揮するリーダーシップスタイルとされています。
要するに、部下の経験値が浅く、実力不足の場合に活用するスタイルです。
支援型リーダーシップでは、部下の成熟度や感情に配慮した様々な支援を行います。
例えば、業務プロセスの一部に不安があるなら一度上司がやってみせてあげるとか、一人でやるには重たすぎるタスクならば人員を補強してあげたり、適宜必要な手助けをしてあげたりします。
そして、このような手助けを適宜行うためには、部下のことをよく理解しておく必要があり、よく理解するためには密なコミュニケーションが必要となります。
ということは、上司と部下にある程度の信頼関係ないとできないリーダーシップスタイルともいえますので、若干難易度は高めです。
参加型リーダーシップとは、様々な意思決定に部下を参画させるリーダーシップスタイルです。
このスタイルは、タスクの内容やゴールが明確で、かつ、部下の能力も高い場合に効果的なスタイルとされています。
このリーダーシップスタイルを採用するためには、上司側が部下を信頼して任せないといけないので、上司としての「器」が問われます。
また、部下に任せて失敗した場合の責任は上司が取らないといけないので、部下の能力の評価を正しく行う必要もあります。
そのため、上司側に「人を見る能力」が必要になってくるリーダーシップスタイルです。
達成志向型リーダーシップとは、部下に対して高い目標を設定させ、その達成を促すというリーダーシップスタイルです。
このスタイルは、業務の内容やゴールがまだ曖昧で仕組み化(ルールを作ったりすること)すらできていない状態で、かつ、部下の能力が高い場合に妥当するスタイルといわれています。
誤解を恐れずに言い換えるならば、部下に難易度の高い業務を丸投げするスタイルです。
たしかに、難易度が高い業務を一から構築して成し遂げた場合、その部下は急激な成長をするでしょう。
しかし、私の見解でいうと、極めて限定的な場合にだけ妥当するリーダーシップスタイルだと考えています。
そもそも業務の内容がまだ曖昧な状態で、仕組み化すらできていないのであれば、まずやるべきことは仕組み化です。
そして、仕組みづくりは本来管理職である上司側がやるべきですし、部下に丸投げすべきことではありません。
仮に部下の能力が高く、かつ、本人も仕組みづくりを是非やりたいと思っている場合は任せても良いと思います。
ただ、仕組みづくりをしたことがない人にとっては、かなりハードルが高いタスクです。
そのため、上司が適宜適切なフォローをしてあげた方が良いと思います。
その場合、支援型リーダーシップに近づいていくことになります。
そう考えると、達成志向型リーダーシップを採用する場面は、部下の能力が十分に高く、一人ですべて成し遂げられる場合に限定されるのではないかと思われます。
そのような部下に出会うことは滅多にないので、達成志向型よりは支援型を使う場面の方が多いと思います。
ということで、今日はパスゴール理論について簡単にですが解説させていただきました。
あくまでもただの「理論」(仮説)なので、実際の実務で使えるかどうかはわかりませんが、知っておいて損する理論ではないと思うので、ぜひご活用ください。
では、また次回の記事でお会いしましょう。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
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