最近ベンチャー企業でもPR(広報)やIRの担当者を置くことが増えてきました。
これらの職種は、まだ知名度のないベンチャー企業にとって極めて重要な役割を担っており、上場後も重要な業務を担当します。
そこで今回は、ベンチャー企業におけるPR/IRについて、その業務内容や活かせる資格等をまとめて、解説していこうと思います。
まだ知名度がないベンチャー企業にとって、外部の方に自社を知ってもらうためにとても重要な業務がPR(Public Relations)業務です。
日本では「広報」と呼ばれることが多く、自社自体のことや自社のプロダクトについて、様々な媒体で発信していく業務です。
そして、ベンチャー企業にとってとても重要な業務がもう一つあります。
それが、IR(Investor Relations)業務です。
ベンチャー企業の多くは、数年に1回~数回のペースで資金調達を行うため、自社に出資してくれる投資家を探し続けないといけません。
その投資家の皆さんに、自社に関する情報を適切に開示し、事業の将来性や魅力について語る業務こそがIR業務です。
このPR/IR業務は、それぞれ「広報部」「IR部」などに委ねられる業務ですが、ベンチャー企業では「PR/IR部」として一つの部署にすることもあります。
少ない人員でPR業務とIR業務を両方回していかないといけないため、なかなか大変な部署ですが、意外と周りには理解してもらいづらい職種です。
そこで今回は、ベンチャー企業におけるPR/IR部にスポットライトを当てて、解説していこうと思います。
前述した内容と重複する部分もございますが、それぞれの定義を含めて説明させていただきます。
PRとは、“Public Relations”の略称で、いわゆる広報のことを意味します。
広報の業務範囲はとても広く、外部に対する情報発信に関することはほぼすべてその業務範囲に入ってきます。
例示としては、以下に掲げる業務などを担当します。
上記の業務の中で、比較的イメージしやすいのは、プレスリリースとニュースリリースだろうと思います。
プレスリリースは、主に報道機関に対するお知らせを意味します。
PR担当者は、一年を通して様々な報道機関(TV・新聞・雑誌・WEBメディア等)に向けた情報発信を行います。
例えば、上場企業が自社のホームページに決算発表を行ったという事実を掲載する場合や、会社にとって重要なお知らせをPR Timesなどに掲載する場合などがプレスリリースに該当します。
これらのプレスリリースは、自社の情報発信後に様々な媒体で取り上げてもらうことを想定しているものなので、場合によってはプレスリリース後に取材対応などが発生します。
一方でニュースリリースは、より広く、一般公衆に向けた直接的な情報発信を意味します。
こちらの業務には特段制限がないので、例えば、各種SNSでの情報発信や採用広報記事の公開、会社公式のYouTubeチャンネルの運営など、様々な業務が該当し得ます。
ニュースリリースは、プレスリリースほど固くない業務なので、PR部としても楽しみながら業務を遂行出来るものも多いです。
最近では、企業の公式アカウントを運用する「中の人」として有名になる人もたくさん出てきていますので、ある意味個性がものをいう業務ともいえそうです。
ただし、SNSの情報発信で失敗して炎上したりしたら、会社として大変なことになりますので細心の注意が必要です。
IRとは、“Investor Relations”の略称で、投資家向けの情報発信及び折衝を担当する部署又は担当者を意味します。
PRの業務と重なる部分もあるため、IRとPRは同じ部署に置かれることもあります。
ただ、IRの場合は、より難易度の高い業務を中心に行うという点と、上場後に極めて重要な役割を果たすという特徴があります。
まず、上場前の段階では、主に出資者及び将来の出資候補者への対応業務を行います。
すなわち、既存の株主(エンジェル投資家やベンチャーキャピタル)に対する情報開示と、新規の出資候補者(別のベンチャーキャピタルや銀行、大手企業など)に対する情報公開・折衝などを担当します。
これらの業務はCFOや財務と連携して行うことが多いため、IR担当者は基本的には財務のプロフェッショナルでないといけません。
そして、ベンチャー企業が上場を果たすと、会社法だけでなく金融商品取引法や各種の規則及び上場規程等が適用されることになります。
それらの法令等には、情報公開に関する義務条項が散りばめられていて、上場企業はそれらに従って適時適切な情報開示を行わなければなりません。
この開示義務を果たすために、各種の報告書(四半期報告書や有価証券報告書等)や適時開示を外部に公開していくのですが、これらの情報を管理し、公開資料を作成するのがIRのお仕事です。
その他にも、株主総会の運営などを担当する場合もあります。
上場後は一般の個人株主も多く来場することが予想されるため、会場を借りて、司会進行を担当したり、裏方として様々なものを手配したりします。
場合によっては外部の専門家を雇って大掛かりな総会運営を行うこともあるため、年に最低1回は繁忙期があります。
IRは、これらの業務を通して株式市場に適切に情報を公開し、会社側と投資家との間にある情報の非対称性(情報格差)を是正する使命を負っています。
その先にあるのが「株式市場からの資金調達」です。
ベンチャー企業が上場したからといって資金のニーズ自体が無くなるわけではないので、上場ベンチャーといえども、資金調達の一手段として「株式市場からの資金調達」(新株発行による調達又は自社株の売却による調達)を検討することがあります。
そして、株式市場から資金調達を行うためには、自社の株式が常に流動し続けている必要があり、一定の流通量が確保されていなければなりません。
この流通量は、投資家の皆さんが「この会社の株式がほしい」と思ってもらえるかどうかにかかっています。
そのため、IRは適時に適切な情報を公開し続けて、市場からの信頼を得ないといけないのです。
このように、IRはその業務の特性上、極めて高度な法令知識と財務知識が要求される部署です。
そのため、業務の難易度が全般的に高く、かつ、失敗したときの影響度が大きいため、責任重大なポジションといえます。
では、PRやIRに向いている人はどのような人でしょうか。
それぞれ考察していきましょう。
まずPRについては会社によって要求レベルが様々で、適性に関してもかなり大きな幅があります。
スタートアップのPRと大手企業のPRでは、人材要件も全く異なるので、この特性を持っていればPRに向いているというのがなかなか言いづらいところがあります。
そこで今回は、ベンチャーのPRの中でも、特にハイレベルなPRを求めている企業を基準に書いていこうと思います。
私が知る限りで最もレベルの高いPRの皆さんは、財務・法務・マーケティングに明るく、かつ、文章力があり、他人と接するのが大好きな人たちです。
言い換えると、それらの条件をすべて満たす人がPRに向いています。
ここでいう「財務・法務・マーケティングに明るく」という点が特に重要です。
一般的なベンチャーのPRは、広報記事を書いたり、簡単な取材対応を行ったりしているのですが、よりハイレベルなPR担当者になってくると、自社のサービスや商品の宣伝も積極的に行いますし、自社のCM制作にも関わります。
また、IRが行う専門的な開示資料の作成も手伝いますし、マーケティング領域の統計学的調査などにも携わります。
さらにレベルの高いPRになってくると、自社で行ったPR活動に関する効果測定を行い、統計分析等を用いて数値に落とし込んでいきます。
最近では、そのレベルまで要求されることも多くなってきているので、会計分野・法律分野・マーケティング分野に関する知見がないと、そもそも業務を遂行できないかもしれません。
そして、ほぼ毎日文章を書く・読む・添削する業務が発生するので、文章の読み書きが得意で、かつ好きな人じゃないとなかなか続けられないでしょう。
その上で、他人と接する機会が非常に多い職業なので、他人と丁寧かつ礼儀正しく接することができる人はPRに向いていると思います。
ただ、いきなりすべてを満たすのは難しいと思うので、若いうちはとにかく勉強をして知識や資格を積み上げていくべきです。
日頃から文章を多く読んで、書いて、目上の方々の話をよく聞いて、知見を貯めていきましょう!
ベンチャーのIRに求められることは様々ありますが、適性という面でいうとまずは「忍耐力」が必要になってくると思います。
最初から順風満帆なベンチャー企業は極めて少数派ですから、資金調達に苦労するのが普通です。
投資家との折衝はなかなかハードなものが多く、IR担当者としては忍耐力が試される場面が多くあると思います。
投資家の皆様から厳しいご指摘をいただくことも多いので、一つ一つ真摯に受け止めて、改善していくしかありません。
また、IRは財務領域の業務に携わることが多いため「正確性・緻密性」が要求されます。
細かい数字にまで注意を払い、間違いがないように丁寧に仕事が出来る人の方がIRには向いているでしょう。
しかし一方で、神経質になってはいけません。
IRは基本的に他人と関わることが多い職種なので、正確性や緻密性と両立する形で「コミュニケーション能力」に長けた人でないといけません。
社交性と言い換えても良いです。
投資家との飲み会やお食事会なども多い職種なので、業務時間外に人と接することも多いです。
それを楽しいと感じられる人の方が、IRには向いているでしょう。
まずPRに関しては、これといって必要な資格はありません。
資格や学位が無くてもPRの業務自体はできますし、資格等がなくてもPRという職種に就いている方もたくさんいます。
ただ、ハイレベルなPRの皆さんは何かしらの資格・学位を持っていることが多く、私の見てきた範囲でいうと日商簿記(2級以上)、ビジネス実務法務検定(2級以上)、行政書士、宅建士、FP(2級以上)、MBAなどが多かったです。
直接的にそれらの資格や学位が業務に活かされたり、転職で有利になったりするということではないかもしれませんが、PRは会社全体の部署に関わる職業であるため、どのような知識も無駄になることがありません。
そのため、日頃から様々なことに興味を持ち、学び続けておくことが重要です。
一方でIRについては、財務や法務の専門家としての側面があるため、様々な資格が活かせます。
まず有名なところでいうと、日商簿記と全経簿記です。
最低でも日商簿記2級又は全経簿記1級は欲しい所ですが、管理職クラスになってくると日商簿記1級・全経簿記上級保有者も多くなってきます。
また、元々財務や経理の出身で、公認会計士や税理士(科目合格含む)資格を持っている方もいますし、法務として活躍していた弁護士資格保有者なども少数ながら存在します。
これらの士業資格はIRとして非常に役に立ちますし、知識的にも活用できる場面が多くあります。
その他、証券会社出身の方だと証券アナリストなども役に立つと思われます。
最近人気なのは、MBA(Finance専攻)で、企業のIR担当者がMBAに入学するケースをよく見かけます。
いずれにしても、IRは専門分野の勉強をし続けないといけない職種といえそうです。
近年では、民間資格で財務報告実務検定というIRに特化した資格も出てきているので、検討してみるのもありだと思います。
ということで今回は、PR/IRについて解説させていただきました。
PR/IRに馴染みのない方も多いと思うので、これを機に知っていただければ幸いです。
IPOを目指すベンチャー企業にとっては、どちらも重要な職種なので、今後も一定の需要が見込める職種です。
PRやIRを目指そうと思っている若手の皆さんは、ぜひ幅広い勉強をしていただいて、専門職としての知見を磨いておきましょう!
では、次回は私の専門分野である法務部について解説させていただこうと思います。
お楽しみに!
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりメッセージをお送りください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。