人間とは悲しいもので、権力を与えられるとそれに支配されることがあります。
日本では「権力の腐敗」としてよく知られている理論ですが、今回は改めてこの理論について解説していこうと思います。
本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は「権力の腐敗」について解説していこうと思います。
権力の腐敗(Power Corrupt)とは、特定の人間が権力を持つほど、それを行使したがり、かつ、権威主義的(偉そう)になっていくという現象です。
この現象は、キプニス氏(Kipnis, D , テンプル大学)の実験によって発見されました。
この実験では、男子大学生を集めて2つのグループに分け、両方のグループにそれぞれ高校生を4人ずつ部下としてつけました。
そして、片方のグループに多くの権力を与え、部下である高校たちに対する報酬決定権、人事権、解雇権などを付与しました。
もう一方のグループには、狭い範囲の権力しか与えず、単に具体的な作業の指示だけを出すことができるというルールにしました。
そうすると、権力を多く与えられたグループでは、以下の行動が見られました。
この実験により、権力の腐敗理論を提唱するに至りました。
この理論は別名「権力の堕落」とも呼ばれています。
翻訳の違いなので、意味は同じです。
人間は一度権力を手にしてしまうと、その権力を手放したくないという欲求と、権力を行使することで自分が権力者であることを周りに示したいという欲求が出てきてしまうものです。
すべての人がそういう欲求に支配されやすいとは言いませんが、割合は高いと思います。
承認欲求や自己顕示欲に抗えないのです。
その結果、以下のような行動に出ることがあります。
など
残念な行動ばかりですが、皆さん御存知のとおり、社会で頻繁に見ることができる事例ばかりです。
そして、この現象の多くは経営陣が気づくことができないケースが多いです。
何なら経営陣こそが権力の腐敗を起こす張本人だったりします。
権力に執着する人間は狡猾であることも多いため、自分の権力を脅かす存在にはバレないように上手く立ち回るのです。
その結果、最上層部から見ると「優秀な管理職」のように見えていることもあります。
しかし、確実に組織は蝕まれていっているので、徐々に若手の優秀層が退職して行き、あまり能力の高くない人だけが残る組織になっていきます。
そうやって徐々に組織力が低下していき、最終的にそれが業績に反映されていきます。
そうなって初めて気づく契機が生まれますが、時すでに遅しです。
権力の腐敗を防ぐ方法は大きくわけて2つだと考えられます。
一つが権力の分散で、もう一つが権力の監視です。
この方法は、日本の法制度等でもよく見られる方法です。
例えば、日本は三権分立という権力分散制度を採用していますが、それぞれがそれぞれを監視しうる(影響を及ぼしうる)権利を持っています。
日本のこの制度が正当に作用しているかは怪しい部分も多いですが、一応制度上の建前としてはそうなっています。
他にも、上場企業の場合は取締役会、監査役会(または監査等委員)、社外取締役などの制度があり、権力の集中を避け、監視できる体制を構築しようとしています。
海外から見ると、日本のガバナンス(企業統治)はガバガバで何の役にも立っていないと批判されていますが、一応法制度上はアメリカの制度を参考に設計されています。
抜け道がいろいろとあるので実効性はあまり無さそうですが、これらの制度がきちんと機能している企業も一部存在します。
もっとも、権力をいくら分散したところで最終的には各人の倫理観や良心に頼るしかないというのが現状です。
監視はあくまでも権力の腐敗を早期に発見するための仕組みなので、完全に予防することはできません。
したがって、最も効果的な予防策は、人格的に優れた人間に権力を与えることだけです。
ただ、人格を見抜くのは極めて困難なので、人格を見抜く方法が発見されるまでは、権力の分散と監視という視点をもって、制度構築をするしかありません。
頑張って制度上の工夫をしていきましょう。
ということで今回は権力の腐敗について簡単に解説させていただきました。
企業内でも日常的によく発生する現象なので、特に経営陣は注意して制度設計を行う必要があります。
権力の腐敗を放置すると、最終的には不正行為に発展していくことが多いので、早め早めに対処しておきましょう。
ではまた次回。
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