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内発的動機づけやインセンティブってどういう意味?その違いとは?

2024/01/23 更新

はじめに

本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。

そして今回は、組織心理学の分野の中で、個人的に一番重要な研究分野だと思っている「動機づけ」についてお話しようと思います。

ここ数年で組織心理学がビジネスにおいてもある程度定着してきたので「動機づけ」という意味を持っている「インセンティブ」や「モチベーション」という言葉もよく使われるようになりました。
この2つの用語は、似たような意味で使われることも多いのですが、実は意味が異なります。
その辺りについても今回の記事でご説明させていただく予定です。

それでは早速解説していきましょう。

1.動機づけとは

そもそも「動機づけ」の定義から話していきたいと思いますが、心理学という分野は、法学や数学と異なり定義が曖昧でも許される節がありまして、論者によって言っていることが微妙に異なっています。
そこで、本記事では、以下の定義を採用したいと思います。

すなわち「動機づけ」とは、人間が何らかの欲求を満たすことを目的として行動を起こし、達成するまで努力を継続する意欲のことです。
英語では主に「Motivation」(モチベーション)という単語が使われています。
組織開発や組織運営に携わっている人事の皆さんや管理職の皆さんは、日々このモチベーションと格闘していると思います。

従業員の中にはいろんな個性を持った人間がいるため、モチベーションが高い人から全く無い人まで様々です。
一人ひとりのモチベーションを把握して、管理することができれば良いのですが、これがなかなか難しい。
組織心理学の「動機づけ」という分野は、まさしくこのモチベーションを研究する分野で、どうやったらモチベーションを組織的にコントロールできるのか、という論点に立ち向かっている分野です。
未だに明確な方法論や正解は確立されておりませんが、何らかのヒントは得られると思います。

2.インセンティブとは

では「インセンティブ」(Incentive)とはどういう意味でしょうか。
こちらもモチベーションと同様によく使われている言葉です。

モチベーションと区別して使えるようにするためにも、定義を抑えておきましょう。

インセンティブとは、人間の意欲を引き起こす要因や刺激のことをいいます。
つまり、モチベーション(意欲)を起こさせる要因・刺激です。
このインセンティブには、お金、食料、異性からの好意、物品、心の奥底から湧き上がってくる何かなど様々なものがあります。

このあたりについても後ほど説明していきたいと思います。

そして、ここで注意点が一つあります。
心理学系のテキストでは、インセンティブも、モチベーションも「動機づけ」と翻訳されることが多いため、論者によって「動機づけ」の定義が異なることがあります。
そのため、動機づけを「インセンティブ」の意味で使っている文献もありますし「モチベーション」の意味で使っている文献もあります。
さらにいうと、あまりちゃんとしていない論者だと、ページによって、同じ動機づけの話なのに、インセンティブの話をしていたり、モチベーションの話をしていたりすることもあります。
論者自体が混同していることもあるので、心理学者の論文を読むときはそのあたりも注意しながら読み進めると良いでしょう。

3.動機づけの類型

では、動機づけ(モチベーションの方)について、更に詳しく見ていきましょう。

動機づけとは、前述のとおり「意欲」のことを意味します。
この意欲には、大きく分けて2つの類型があると考えられています。

一つが、外部刺激(外部からのインセンティブ)によって動機づけされる「外発的動機づけ」です。
もう一つが、内部刺激(内部からのインセンティブ)によって動機づけされる「内発的動機づけ」です。

以下、それぞれについてご説明いたします。

(1)外発的動機づけとは

外発的動機づけ(Extrinsic Motivation)とは、外部刺激によってもたらされる動機づけ(意欲)のことで、最もわかりやすい例としては、お金と異性です。

例えば、売上ノルマを達成した場合に追加ボーナスが支給されるケースで、当該追加ボーナスがあることによって意欲が高まることなどが外発的動機づけです。
この場合「お金を得ること」がインセンティブ(刺激)となって、モチベーション(意欲)が湧いてきます。

他にも例えば、ギターが弾けるようになったら女性にモテる!じゃあ、ギターを始めよう!という場合も外発的動機づけの一例といえます。
「異性にモテる」というインセンティブ(錯覚ですけど)によって、ギターを上手に弾けるように努力しようというモチベーションが湧いてきて、行動に出ます。

読者の皆さんも一度は外発的動機づけを経験していると思います。
そして多くの人が実感しているとおり、外発的動機づけは即効性がある代わりに長続きしません。
さらにいえば、ほとんどの場合、大した効果も出ません。

お金だけのために努力し続けられる人や異性にモテるためだけに努力し続けられる人は、意外と少ないものです。
徐々にどうでもいいことだと気づいてしまいますし、ある程度稼いだ(モテた)段階でバカバカしくなってきます。
もしくは、全く稼げず、全くモテず、すぐに意欲を失います。

このように、短期的には効果があるが、長期的に見ると効果が薄いという点が外発的動機づけの弱点です。
そのため、組織開発や人事考課制度において、報酬によって従業員のモチベーションを上げようという施策は、最初は効果的なのですが、徐々にその効果を失っていきます。
かといって、全く金銭的なメリットのない施策は従業員のモチベーションを著しく下げることがあります。
このあたりのさじ加減が非常に難しいところです。

そこで重要になってくるのが後述する「内発的動機づけ」です。
従業員のモチベーションを高く維持するためには、外発的動機づけと内発的動機づけを上手に使いこなす必要があります。

(2)内発的動機づけとは

内発的動機づけ(Intrinsic Motivation)とは、内部刺激によってもたらされる動機づけ(意欲)のことを意味します。

例えば、好きで堪らないことをやる場合に発生する動機づけなどがそれです。
これについては、趣味、スポーツ、部活、アニメやグッズなど、何かにドハマリして、沼から抜けられないほど熱中した事がある人ならば、内発的動機づけの効果やその恐ろしさもよく知っていると思います。

内発的動機づけの素晴らしいところは、外部の人間の力がほとんど必要ないという点にあります。
勝手に内側から意欲が湧き出てくるため、放って置いても勝手に行動し続けてくれます。
本人としては、やらずにはいられないという状態です。
そのため、内発的動機づけが発生している状態が最もモチベーションが高い状態で、かつ、業績も出やすい状態であるといえます。

好きこそものの上手なれとはよく言ったもので、好きに敵うものなんて無いのでしょう。

内発的動機づけが発生している人については、その行動によって得られる報酬の多寡に関係なく、自分の興味・関心・理想に従った行動をし続けます。
朝も昼も夜も関係なく、24時間365日、自分の興味・関心の赴くままに思考し続けます。
もし組織内にいる人間の多くがその状態に至ったとしたら、その組織は驚異的な業績を叩き出すことでしょう。

では、どうやったら内発的動機づけをコントロールできるのでしょうか。
そのヒントを探るために、もう少し動機づけについて学んでいきましょう。

4.アンダーマイニング現象

前述のとおり、動機づけには外発的動機づけと内発的動機づけの2種類があります。

まず、行動そのものを目的として、それが楽しいからやっているという状態が内発的動機づけです。
そして、行動の結果として得られる何らかの報酬・利益を目的として行動しているのが外発的動機づけです。

この違いをよく理解した上で、アンダーマイニング現象という厄介な現象について学んでいきましょう。

アンダーマイニング現象とは、内発的動機づけによって始めた行為に、余計なインセンティブ(刺激)を与えたせいで、逆に意欲が低下してしまうという現象です。

例えば、ずっと好きで続けていた趣味が高じて仕事に繋がり、月に何十万円も稼げるようになったとします。
最初のうちはとても嬉しいことで、喜んで仕事をしていたのですが、徐々に「お金をもらえないならやりたくない」という感情が湧いてきて、休みの日に趣味として行うことが「損をしている」という感覚になってくる。
そうやって徐々に内発的動機づけが減少してしまうという現象です。

趣味を仕事にできた経験がある人はよく理解できるのではないでしょうか。

この現象は、職場でもよく起こります。

例えば、総務部に所属するAさんが、最初はホスピタリティ(奉仕精神)溢れる気持ちで報酬に関係なく行っていた業務効率化活動だったのに、それを上司から評価され、昇給してしまったがゆえに、内心で『業務効率化活動はお金になる。だったら、より昇給に直結するような効率化活動に厳選して行った方がお得だな』と考えてしまい、本来のホスピタリティが失われてしまうなどです。

この現象が組織開発をより難解なものにさせます。
この点を少し説明しましょう。

まず、業績との関係では内発的動機づけが重要なのですが、外発的動機づけを全く意識しない制度設計も失敗しやすいので、双方をバランスよく織り交ぜる必要があります。
しかし、現代の心理学では、まだこのあたりの正解が見つかっていません。
ということは、各社各人が自分で考えて、外発的動機づけと内発的動機づけが双方バランスよく引き起こされるような制度設計をしないといけません
ただ、内発的動機づけがすでに発生している人に、余計なインセンティブを与えてしまうと、アンダーマイニング現象によって内発的動機づけが減少してしまう可能性があります。

もし人為的にモチベーションをコントロールしたいなら、この難解なパズルを解かないといけないのです。
しかし、現実的に考えて、他人の内心を理解して、他人のモチベーションを完全に管理することはほぼ不可能です。
それゆえ、組織開発は難しいのです。

では、解決策はないのでしょうか。
私見としては、他人のモチベーション管理を無理に行うよりも、採用時点から、自己のモチベーションコントロールに長けた人材を採用すべきだと考えています。
それが結局は、モチベーションの高い組織を作ることに繋がります。

そもそもビジネスマンの多くは、ある意味何かしらの分野のプロフェッショナルなので、モチベーション管理も仕事の一部です。
そのため、本来は自分自身で内発的動機づけを管理できないといけません。
かなり難しいことではありますが「好き」という感情やホスピタリティを失わないように、常日頃から自分の内心を分析し続けるべきです。

特に若い頃は、外発的動機づけのせいでせっかくの可能性が潰れることがよくあるので注意が必要です。
好きなことを上手にできるようになるために日々努力して、自分の能力を上げることそのものを目的とし、それを楽しめる状態を創り出すことが大切です。
それができる人こそ、優秀な人材なのだと思います。

そして、そのような優秀な人材を狙い撃ちして採用できれば、従業員一人ひとりが、組織内にある様々なインセンティブの中から自分にとって利益の大きいインセンティブを自己選択し、効率よくモチベーションを上げて行ってくれるはずです。
そのような人間たちの集合体こそが、モチベーション管理が行き届いている組織だと思います。

ということは、組織のモチベーションコントロールは、優秀な人材の採用から始まると言っても過言ではないでしょう。
特に、急成長を達成し続けないといけないベンチャー企業にとっては、モチベーションコントロールが鍵になることが多いので、そこに長けた人材を多く採用できれば圧倒的に有利な立場に立てます。
したがって、採用こそがモチベーション管理の肝だと考えます。

5.インセンティブの類型

では最後に、会社側として、どのようなインセンティブ設計をすれば良いのか、という点について書いていきます。

上記のとおり、動機づけには内発的動機づけと外発的動機づけが存在します。
言い換えると、自身が受けるインセンティブ(刺激)によって、内発的動機づけが湧いたり、外発的動機づけが湧いたりするわけです。
ということは、インセンティブ(刺激)にも、外発的動機づけを刺激するインセンティブと、内発的動機づけを刺激するインセンティブがあるはずですよね。

ここでは便宜上、外発的動機づけを刺激するインセンティブを「外発的インセンティブ」と名付けます。
一方で、内発的動機づけを刺激するインセンティブを「内発的インセンティブ」と言います。

組織を作る側、運営する側、管理する側としては、この外発的インセンティブと内発的インセンティブを上手に使いこなせるようになっておく必要があります。
なぜなら、自分の部下や従業員に与えるインセンティブ(刺激)が、外発的なのか内発的なのかをわかっていない状態だと、意図しない方向にモチベーションが動いてしまって、マネジメントがうまく行かなくなるからです。

では、外発的インセンティブと内発的インセンティブにはどのようなものがあるのでしょうか。
例示列挙してみましょう!

【外発的インセンティブの例】

  • 基本給アップ
  • 業績連動のボーナス又は賞与の支給
  • 各種手当の支給
  • 資格合格祝金の支給
  • 教育補助金(大学院の学費補助など)
  • 学習支援金(書籍購入費用の支給など)
  • 飲み会補助金
  • 賞品又は賞金の支給
  • 昇格又は新規ポジションへの任命
  • 祝賀会への参加権付与
  • 年間又は半期ごとの表彰式の開催
  • 机の配置変え(位置によって偉さが変わる場合)
  • 執務のための個室の提供
  • 各種優遇措置
  • 長期有給休暇の付与
  • 希望通りの転勤又は配属先変更の承認

これらは、実際に様々な企業で行われている外発的インセンティブの例です。
そのため、多くのビジネスマンが一度は目にしたことがある(又はもらったことがある)インセンティブだと思います。

では次に、内発的インセンティブの例示を見てみましょう。

【内発的インセンティブの例】

  • 心の底からの称賛の言葉
  • 感謝の気持ちを伝える
  • その人の存在の重要性を説明する
  • 信頼を言葉や態度で示す
  • 成長が見られた点を的確に伝える
  • 到達してほしいレベルを明確に伝える
  • その人の業務や役割の重要性を詳細に説明する
  • 業務の結果発生する事象の社会的意義を説明する
  • 目標を達成した後にどのようなメリットが得られるのかを説明する
  • その人の興味・関心について興味を持つ
  • プライベートな相談に親身になって乗る
  • その人の感情に対する共感を示す
  • 本人以外の誰かに対してその人の素晴らしさを伝える(間接的に褒める)
  • 結果ではなく適切な努力を褒める

上記の例を見ていただいてわかるとおり、内発的インセンティブは、人間の内部に働きかけるようなインセンティブです。
どのインセンティブがより効果的なのかについては、大きな個人差があります。
そのため、内発的インセンティブを使いこなす方が難易度も高いです。

マネージャーとして、部下の内発的動機づけを高めようと思った場合、部下一人ひとりの興味・関心に着目し、インセンティブの種類や強度を調整しないといけません。
それこそがマネジメントスキルだと思います。

一方で、会社の経営側としては、まずは外発的インセンティブの制度設計をしっかりと行いましょう。
外発的インセンティブは、時にアンダーマイニング現象を引き起こす引き金になりますが、全く制度がないと誰もその組織に魅力を感じなくなっていきます。
内発的動機づけだけではご飯は食べられないので、しっかりとした金銭的メリットを提示しましょう。

そもそも外発的インセンティブが多数存在することは、良い会社の前提事項です。
外発的インセンティブを多数配置した上で、内発的動機づけが発生するようなマネジメントを行うことが成功への近道だと思います。

おわりに

ということで今日は「動機づけ」に関連して、インセンティブやモチベーションに関する解説をさせていただきました。
ビジネスで活躍している皆様の参考になれば幸いでございます。

では、次回もお楽しみに!

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株式会社WARC

瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate 資格:司法試験予備試験・行政書士など 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です