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2024/10/26 更新

ビジネスで使える認知心理学「マジカルナンバー」

今回の記事では認知心理学の重要キーワードである「マジカルナンバー」について解説し、ビジネスでの応用方法を検討します。

はじめに

今日は認知心理学の分野の中から「マジカルナンバー」というキーワードをご紹介いたします。
このワードは、短期記憶という領域の研究で出てくる用語なのですが、ビジネスにおいて活用できる場面が多いことから、マーケティングの分野ではよく知られている用語です。
知っているとビジネスで活かせる場面も多いので、これを機に抑えておきましょう。

それでは、解説を始めます!

1.マジカルナンバーとは

マジカルナンバーとは、人間が短期記憶として記憶できるチャンクの上限値を表す言葉です。

ここでまずは「チャンク」という不思議な概念について説明していきます。

チャンクとは、一度に記憶できる情報のまとまりのことをいいます。

昔の実験を見る限りでは、1チャック=1文字というスタイルもあったようですが、その後の実験では、グルーピング(複数の文字をまとめて意味のある単語を作ること)によって、1チャンク=1単語というスタイルが多いので、チャンク≒単語又は1文字と認識して良さそうです。
したがって、「1」「2」「3」のような1文字もそれぞれが1チャンクですし “Baseball” “Basketball”などの単語も1チャンクです。

ただし、中国や日本には「漢字」という表記体系があるため、同じ1文字でも単語と同様に特定の意味を伝えることができます。
日本や中国でマジカルナンバーを活用する場合は、チャンクという概念について幅のある解釈ができるということです。
したがって、「あ」も1チャンクだし、「鯢」(さんしょううお)も1チャンクということになります。
同じ「1文字」という枠内にあるのに、漢字を使うと幅が広がりますね!

もちろん英語も負けておりません。
1単語も1チャンクということですから、「me」(私)と「pneumonoultramicroscopicsilicovolcanoconiosis」(塵肺症)が同じ1チャンクということになります。

このように、チャンクという概念一つ取ってみても、かなり曖昧というか、幅のある世界です。
もしかしたら読者の皆さんの一部は『心理学って意外といい加減な概念で話が進んでいるのだな』と思ったかもしれません。
実はそうなんです。

私が学習した範囲内でも、かなり曖昧な概念がいくつも出てきたり、少し怪しい実験もあったりしたので、昔の心理学は、結構いい加減な概念で話が進んでいるし、実験も雑だったものが多いので、そのすべての理論を科学的に正しいものとして鵜呑みにすることはオススメできません。
あくまでも、昔の論文に書かれている実験では、そういう検証結果が出た「らしい」くらいの緩い感覚で読んだ方が良いです。
後々その実験結果が学術的に見て意味をなさない条件下で行われていたとか、不正とまでは言えないけど現代では到底考えられない実験方法で行われていたなんてこともよくあるので、あくまでも参考程度の理論として学んでいくことが重要です。
ただ研究者としては、ある意味研究のための「余白」が残っているということですから、血が騒ぎますね!

さて、マジカルナンバーの話に戻りますが、心理学者であるジョージミラー教授(元プリンストン大学及びハーバード大学等の教授)の研究(1956年)によると、マジカルナンバーは「7±2」だったそうです。
つまり、短期記憶では、人間は5~9個のチャンクしか記憶できないということです。

確かに、意味をなさないランダムの文字だったら、数秒で記憶できるのは5個程度が限界かもしれません。
意味のある単語であったとしても、数秒で5個以上を記憶するのはなかなか難しいところがあります。
なので、あながち間違ってはいないように感じます。

しかしその後、2001年にミズーリ大学のネルソンコーワン教授によって「マジカルナンバーは3~5だったよ!」という論文が発表されました。
どうやら、人間の短期記憶の容量は、過去の実験よりも少なかったようです。

上述したミラー教授の「5~9」を採用するにしても、ネルソン教授の「3~5」を採用するにしても、このマジカルナンバーという概念で重要なことは、人間が短期間で記憶できるチャンク数は、我々が思っている以上に少ないという点にあります。
ここが最も重要で、ビジネスでも忘れてはいけない点です。

では、この事実を基礎として、ビジネスでマジカルナンバーを応用する方法を考えてみましょう!

2.マジカルナンバーを商談で活用する

営業部に所属している皆様ならご納得いただけると思いますが、商談で相手方が記憶できる情報量は、商材を説明する側が想定しているより遥かに少ないですよね。
私も過去に多くの商談を重ねてきましたが、相手方がこちらの伝えたことの2割程度を覚えていてくれたら良い方でした。
下手をすると、こちらの名前すら覚えていません。
それが普通です。

そもそも、ビジネスにおける商談の多くは、顧客側がそこまで興味のない対象についてなされます。
顧客側が商材について興味津々で、自分で徹底的に調べてきていることの方が少ないはずです。
そういうときこそ、マジカルナンバーのことを思い出してください。

私の知る限り、デキる営業マンや商社マンほど、商談がシンプルです。
聞かれたことに的確に短く答えるだけで、余計なことをほとんど言いません。
相手の理解レベルに合わせて、極めてシンプルな言葉だけを紡いでいきます。

また、優れた営業マンほど、顧客に伝えるべき事項を予め絞っています。
私が過去に顧客側として接客を受けて感銘を受けた方々は、顧客に伝えることを3つ以下に絞っておりました。
それ以上の情報は、聞かれない限りは積極的に話さないという感じで、非常にシンプルな商談でした。
そういう商談の後は、脳内に重要な情報がしっかり残っていることが多いので、家に帰ってからの検討もスムーズに進みます。

一方で、あまり商談が上手ではない営業マンの多くは、1聞いたら10も20も返ってくるような口数の多い商談になってしまっていて、顧客が情報を処理し切れずに疲れ果ててしまうのです。
そういう営業マンと接した後は、抱えている疲労感と比較して情報がほとんど脳内に残っていないので、もう会いたくないなと感じてしまうことが多いです。
その結果、商談も不成立で終わります。

自分が一度の商談で3つ以上の情報を相手に与えてしまっているなら、相手がその情報を覚えられていない可能性が高いので、調整が必要だと思います。

3.マジカルナンバーをサービス設計で活用する

マジカルナンバーの概念は、様々なサービス設計でも活用できます。

そもそも、日本のサービスは複雑でわかりにくいものが多いです。
そのサービスに並々ならぬ関心を寄せている人であれば、きちんと調べて理解しようと努めると思いますが、普通の人たちは面倒くさいものが嫌いですから、複雑だと感じた時点で候補から除外します。
その結果、複雑なビジネス・サービス・商品はなかなか売れません。

どのような顧客層をターゲットにするのかによってサービスの複雑性の度合いは変化しますが、シンプルで困ることはあまりありません。
難しいことでもシンプルにわかりやすくすることこそが、サービス設計の肝になります。
したがって、サービス設計においてもマジカルナンバーを意識すべきです。

例えば、自社のサービス又は製品の価格を決めるときに、まずは顧客に一発で理解してもらえるような設計を意識するべきだと思います。
商売上手な企業の場合、大抵は3~5つのシンプルなプランを設定します。
顧客が1分ほどその資料を眺めれば、大体の大枠を理解できるくらいのシンプルな価格設定です。

極端な例ですが、以下のようなものが該当します。

  • 松コース:12,000円
  • 竹コース: 7,000円
  • 梅コース: 5,000円

飲食店などでこのような価格設定を見たことがある人は多いと思います。
切りの良い数値で、3タイプだけの価格設定なので、短期記憶で十分に記憶できますし、マジカルナンバー(3~7)の範囲内のチャンクです。
このような設定にしておけば、顧客は記憶の中だけで検討を進めることができます。

そして、このようなシンプルなサービス設計を行うと、売上が上がりやすくなります。
なぜなら、本来は買うか買わないかという二択だったはずなのに、選択肢を3つに狭められることで「どれを選ぶか」という思考に変化しやすくなるからです。
しかも不思議なことに、多くの人が真ん中を選ぶんですよね。
こういうのを経済学用語で「ゴルディロックスの原理」と言いますが、マジカルナンバーと併用するとより効果的なサービス設計が可能となります。

4.マジカルナンバーを広告で活用する

他にも活用できる場面があります。
それが広告です。

人間の認知限界をよく理解し、短い時間で、一発で記憶できるような短いフレーズで宣伝を行う、というある意味常識的な活用方法です。
ただし、これはすでに多くのマーケターが実践していることですし「キャッチコピー」という有名な用語もあるので、真新しいことではございません。
しかし、改めて意識すべきことではあります。

宣伝広告用の資料や画像を作るとき、どうしても情報を詰め込みたい欲求が出てきます。
あれもこれも伝えたい!という気持ちは非常によくわかります。
でも、顧客側はそれらの情報を受け入れる体制が整っておりません。
TVでもYouTubeでも、広告を見る時間は長くて15秒です。
その短い間に、どれだけ印象に残る物を作れるかが勝負です。
そんなときこそ、マジカルナンバーを意識しましょう。

私の知る広告の中で、最も優れていると感じているのは、皆さんご存知JR東海の「そうだ 京都、行こう。」です。
コピーライターの太田恵美さんの作品ですが、私の中では史上最高傑作だと思っています。
「そうだ」「京都、」「行こう。」の3チャンクで表現されていて、ほとんどの日本人が一発で記憶できる情報量です。

しかも、このCM及びポスターが優れていた点は、キャッチコピーと同時に表示される映像又は画像です。
THE 京都!という感じの美しい映像・画像と共に「そうだ京都行こう」と言われたら、多くの人が行きたくなると思います。
日本人の8割くらいはこのキャッチコピーを知っていると思いますが、それもそのはずで、このキャッチコピーは1993年からなんと30年間使われています!
これからもずっと使い続けて欲しい名作です。

この他にも、3チャンク以内の素晴らしいキャッチコピーがいろいろあります!

  • 「ピアノ 売って ちょーだい」(タケモトピアノ)
  • 「お値段以上 ニトリ」(ニトリ)
  • 「カラダに ピース。 カルピス」(アサヒ)
  • 「JUST DO IT」(ナイキ)
  • 「I'm lovin' it」(マクドナルド)
  • 「おーい お茶」(伊藤園)
  • 「セブンイレブン いい気分」(セブンイレブン)
  • 「Drive Your Dreams」(トヨタ自動車)
  • 「Inspire the Next」(日立製作所)
  • 「Yes We Can」(オバマ大統領)
  • 「やめられない 止まらない かっぱえびせん」(カルビー)
  • 「あなたと コンビに ファミリーマート」(ファミリーマート)
  • 「インテル、入ってる」(インテル)

どれも脳内再生が可能なくらい刷り込まれていると思います。
今後もし、自社の広告を作るときは、是非マジカルナンバーを意識してみてください。
もしかしたら歴史に名を刻むほどの名キャッチコピーが生まれるかもしれないですよ。

5.マジカルナンバーを日常業務で活用する

マジカルナンバーは日常業務でも活用できます。
むしろ、日常業務こそが最も活用場面が多いかもしれません。

例えば、社内で行うプレゼンのために、パワーポイント等でスライドを作ることがあると思います。
そのような資料を作るときは、常にマジカルナンバーを意識して作るべきです。
もちろん、プレゼンの視聴者の専門性や知識レベルによって、どの程度マジカルナンバーを意識するかは変わってきますが、原則は「一発で記憶できるくらいシンプルに」を心がけるべきです。

ビジネスの実務においても「ワンスライドワンメッセージ」という格言がよく使われると思いますが、それこそがマジカルナンバーの活用場面です。
1枚のスライドにたった一つのメッセージしか入れないという究極のシンプルさこそが理想形です。

一方で、一部のコンサル会社では、1枚のスライドにすべての情報を詰め込むように指導されることがあります。
そういった会社で指導を受けた人の作ったスライドは、文字やグラフでミチミチの状態であることが多いのですが、残念ながら実務上の評判は高くないことが多いです。
なぜなら、そのような情報過多のスライドを読みこなせる人がほとんどいないからです。
極一部のプロフェッショナルだけを対象としたコンサル事業であれば、スライドに情報を詰め込んでも許されると思いますが、一般的なビジネスマンを相手にするなら、シンプルさを追求するべきです。

おわりに

ということで今回は「マジカルナンバー」という心理学用語について解説させていただきました。
意外と使える場面が多い理論なので、覚えておいても損はないと思いますので、ぜひご活用ください。

では、次回もお楽しみに!

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