本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は「三新活動」(さんしんかつどう)について解説させていただきます。
三新活動とは、日東電工株式会社(東証一部上場企業、本社:大阪府)が生み出した、新しい商品を開発し続けるためのビジネスモデルのことをいいます。
三新活動は、今では多くの経営学部またはMBAで学ぶ重要なビジネスモデルの一つです。
特定の会社のビジネスモデルが、ここまで有名になるのは珍しいことなので、日東電工のホームページから学ばせていただきましょう。
参考サイト:https://www.nitto.com/jp/ja/about_us/concepts/businessmodel/
三新活動では、以下の3つの「新」を加えることで新しいビジネスを生み出しています。
日東電工はすでに100年以上存続し続けている会社(創業は1918年)ですが、100年以上事業を続けられた秘訣はおそらくこの特殊なビジネスモデルにあるのでしょう。
さて、三新活動で重要な点は、発想のスタートが「既存商材」や「既存事業」にある点です。
自社がすでに保有していて、かつ、よく熟知している既存の商材や事業を思考の出発点として、そこに「新技術」が使えないか、もしくは「新用途」はないかと思考し続ける活動が三新活動です。
全く新しいものをゼロベースで考え出すわけではないため、新用途や新技術を見つけやすいわけです。
極めてシンプルで、どの事業でも応用しうる理論といえます。
経営学は、汎用性の高い(一般化し易い)理論を好むので、三新活動が様々なテキストで取り上げられている理由もここにあると考えられます。
では、三新活動の素晴らしい事例を見ていきましょう!
参考サイト:https://www.nitto.com/jp/ja/100th/
日東電工といえば、電気絶縁用ビニールテープで有名です。
1950年代からずっと販売している超ロングセラー商品です。
ちなみに、日東電工は、消磁コイル(磁力を消すためのコイル)の難燃性絶縁に使われる消磁コイル絶縁用ビニル粘着テープの分野で世界トップのシェアを誇っています。
この電気絶縁用ビニールテープの「新用途」として開発されたのが自動車部品用表面保護フィルムです。
ただ、電気絶縁用ビニールテープを自動車部品用に使う際には一つ大きな問題がありました。
それは、粘着剤の糊残りです。
剥がしたときに糊残りしてしまうのです。
そこで日東電工は「新技術」を用いて、糊残りの出ない粘着剤を開発しました。
これによって、自動車部品市場という新しい市場を開拓しています。
その後、同様に建材での「新用途」を模索して、強い加工にも耐えられる強度を持った保護フィルムを開発(新技術による開発)し、建材にも使えるような保護フィルムを作って住宅建材の市場を開拓しています。
さらに、保護フィルムの帯電防止や透明度等を上げるという「新技術」を使って、エレクトロニクス分野や光学分野の先端テクノロジーの製造現場で使える保護フィルムも開発しています。
このように、日東電工さんは次から次へと、新用途がないか、新技術を使えないかと活動し続けています。
その結果、今では世界中の約70業界(70市場ともいえる)におよそ13,500点以上の製品を提供する大企業となっています。
続いて、自社に導入する方法について検討してみましょう。
日東電工といえば、社内での教育が充実しているということで有名な企業です。
公式の企業説明動画などでも、部署間に垣根がなく、人と技術が結びつくことで新しい技術を常に生み出そうとしている姿勢が描かれています。
これは、社員間で教え合う、協力し合う文化でもあります。
どうやったらそのような組織文化を醸成できるのか。
この点については、いくつかの分析がなされています。
要素をまとめると以下の2つが重要だと考えます。
一つずつ解説します。
参考サイト:https://www.nitto.com/jp/ja/sustainability/social/human_resources/talent_management/
日東電工は、社内に独自の教育プログラムを持っていて、社員の教育に相当なコストをかけている会社です。
2011年からは選抜者を中心としたNitto Global Business Academyというプログラムも開講していて、グローバル経営人材の育成にも乗り出しています。
社内にグローバルMBAのような講座があるイメージです。
このような教育コストをかけているがゆえに、平均的な社員の質が高くなります。
そして、一部の優秀な人材については、より高度な教育を受ける機会があり、それによって経営層が育っていきます。
日本の会社では珍しいことだと思いますが、会社側が従業員にしっかりと「先行投資」をしているのです。
一方で多くの日本企業は、従業員の教育にコストをかけたがりません。
なぜなら、コストをかけても転職をされたら無駄になるからです。
そもそも一般的な企業では、いつ転職するかわからない人間に対して、多大なコストをかけて教育を施すという発想が出にくいです。
それゆえに、自社にのみ妥当する汎用性の低い教育プログラムを実施しがちです。
教育にコストをかける会社でも、そのプログラムの設計段階から外部に委託してしまったり、教育そのものを外部の研究機関(大学院等)の費用補助をすることで実施したりしています。
そのため、自らプログラムを開発して教えるという手法を採用している会社は少数派です。
その結果、確かに従業員の一部は優秀になりますが、多くの場合ある程度学習が終了したあとに転職をします。
従業員側からすると、教えてくれたのはあくまでも外部の講師又は大学院の教授なので、会社から育ててもらったという感覚がないため、愛社精神が生まれにくいのです。
このような教育制度の違いに、日東電工の強みがあるのかもしれません。
日東電工では2007年から、研究開発段階におけるイノベーションを事業化に結びつけるために、研究開発本部の中に「新機軸探索グループ」という組織を設置して、同社特有の研究開発プログラムを実施しています。
そしてこのグループでは、既存事業だけではなく、どこの分野からでも研究テーマを持ち込んで良いことになっていて、研究員は好きなテーマを研究することができます。
もし新規研究テーマの中で社内外の専門家や顧客などから共感が得られたテーマがあれば、会社が予算をつけてくれます。
しかも、必要に応じて人員まで配置してくれるという手厚いサポートがついています。
従業員が一生懸命インプットして学んだことを事業として形にしようと思ったとき、会社が人とお金を投資してくれる仕組みが整っているのです。
この予算は会社の中で設置されているファンドから支出されるそうで、イノベーションのためにお金を常にプール(保留)しているようです。
ここまでしてくれている会社が日本にどれだけあるでしょうか。
少なくとも私はほとんど知らないです。
こんな素晴らしい企業だからこそ、ハーバード・ビジネス・スクールで事例研究として取り上げられるのでしょう。
ということで今回は日東電工株式会社さんの三新活動について解説させていただきました。
この記事が皆様の事業運営の役に立てば幸いでございます。
それでは今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
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内容に応じて担当者がお返事させていただきます。