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コラム
2024/10/25 更新

【経営学理論】完全競争と不完全競争について解説

はじめに

本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。

今回は経済学分野から「完全競争」と「不完全競争」をご紹介したいと思います。

これら2つの概念は、我々実務家にとって極めて重要な考え方です。

経営戦略や競争戦略を考える際に、この概念を理解しているかどうかで思考の深さが変わるとすら思います。
といってもほとんどのビジネスマンはすでに理解している概念だと思いますので、知識のおさらいになれば幸いでございます。

1.完全競争とは

完全競争とは、市場にいるプレイヤーがそれぞれ完全な情報を保有していて、真の自由競争が実現されている状態を意味します。

ただ、現実の世界でこの完全競争が実現することはまずあり得ません。
あくまでも経済学上の仮定です。

経済学の主な目的の一つは、社会で起こる現象をシンプルな仮定のもとに論理的に説明することなので、完全競争という仮定もそのために生み出されたものです。
この視点はビジネスでもとても大事な視点です。

物事をシンプルに考えないと、意思決定が複雑になってしまうので、経済学と同じような発想を持っておくと考えがまとまりやすくなります。

ということで話を戻します。

完全競争が実現している市場では、以下の4つの仮定がすべて満たされています。

  1. 無数のプレイヤー(売手・買手)が存在している
  2. 市場への参入・退出が自由である
  3. 全く同じ商材を販売している(商品間の差がない)
  4. 全プレイヤーが同じ情報を持っている

以下、少し難しいお話ですが、一つずつ解説していきます。

(1)無数のプレイヤーの存在

完全競争市場では、買手も売手も無数に存在し、誰かがいなくなったとしてもすぐに別の誰かが現れるという状態です。

現実世界ではそのようなことはなかなかあり得ないのですが、経済学の世界ではあり得ない世界を仮定して考えていきます。
物理でよくやる「本問では摩擦をゼロとして考える」というのによく似てます。

(2)市場参入・退出が自由

完全競争市場では、買手・売手がそれぞれ自由にその市場に出入りできます。
俗に言う「参入障壁」が全くない状態です。

完全競争市場では、仕入れのことなど気にしなくて良くて、今日から商品を売ろうと思ったら、誰でもすぐに売ることができます。

(3)全く同じ商材を販売

完全競争市場では、売られている商材がすべて同一で、商品間の差異が無いものと仮定します。
よくある「差別化」は一切ありません。

色も形もサービスも全部同じです。

例えていうなら、市場には1種類の商品しかなく、かつ、全員がその商品だけを販売しているような不思議な市場です。

(4)同じ情報を持っている

最後に、完全競争市場では、情報の非対称性(情報格差)が存在しません。
つまり、全員が全く同じ情報を有している状態です。

これは違う視点で見ると、売手側は一切の誤魔化しが利かない世界ともいえます。
全員が同じ情報を持っているため、口八丁手八丁でなんとかなるような市場ではないのです。

完全競争市場では、上記の4つの条件がすべて揃った状態です。
この完全競争市場では、誰もが同じ情報を持って、同じ商材を扱いますから、誰もが最も合理的な選択をすることになります。
そのため、完全競争市場においては、売手は大きな利益を上げることができません。
むしろ、利益はゼロに近づいていきます。

完全競争市場では、誰もが同じ情報、同じ商品で商売をしないといけないので、誰も物の価値に対して影響を与えられず、決まった価格でしか売買できない状態なのです。

したがって、このような状態の市場に参入してしまった場合、ほぼ確実に利益が出なくなるため、事業としては失敗に終わることがほとんどです。

2.不完全競争とは

上記が完全競争の説明でしたが、完全競争自体は実際の市場では実現しえません。
そのため、より重要な知識となるのは「不完全競争」の方です。

不完全競争とは、上記で説明した完全競争の4条件(仮定)のいずれか、またはすべてが満たされていない市場状況のことをいいます。

そして、不完全競争状態の市場には、以下の5類型があります。

  1. 独占市場
  2. 複占市場
  3. 寡占市場
  4. 独占的競争(差別化)
  5. 費用低減産業(自然独占)

通常、これらの市場は数式を用いて説明されることが多いのですが、それをやってしまうと途端に難しくなるので、今回は言葉のみで説明してみたいと思います。

(1)独占市場

独占市場とは、特定の商材の売手が、特定の1社のみになっている市場のことです。

例でいうと、タバコ市場におけるJT(日本たばこ産業株式会社)みたいなものです。

日本産のタバコに関しては、JTが法律上独占しているので、一応独占市場の一種であるということができると思います。

なお、世界各国に独占禁止法又は同種の法律があるので、JTのように法律上特別に認められた産業以外では、市場を独占することが禁止されています。
なぜ禁止するのかというと、独占市場では、独占企業が商材の価格を自由に決定できてしまうからです。
そのような状態を許してしまうと、消費者は不当に高い価格で商材を手にしないといけなくなるので、市場が機能しなくなります。

かなり昔の話ですが、デビアス社という会社が世界のダイヤモンド市場の9割を独占したことがありました。
「ダイヤモンドは永遠の輝き」というキャッチフレーズ聞いたことある世代(30代以上)も多いと思いますが、あの会社です。
このデビアス社は、ダイヤモンドの供給量(販売量)を自ら調整することで希少価値を高め、価格を釣り上げています。
2020年代になった今でもダイヤモンド市場で相当大きな力を有している英国企業です。

前述のとおり、このような独占市場は、現実世界でも稀に発生します。

そして、独占市場が最も儲かる市場と言っても過言ではないでしょう。
特定の商品について、自社だけが提供しているという状態なので、価格決定権も自社にあります。
消費者側は他に選択肢がないため、高い値段がついていたとしてもそれを買うしかありません。
そのため、利益を最も得やすいのです。

ビジネスを行うのであれば、独占市場を目指すというのが最もわかりやすく、かつ、勝てる戦略です。

(2)複占市場

複占市場とは、先程の独占企業が2社になった場合です。

有名な事例でいえば、コーラ市場があります。

おそらくほとんどの人は、コーラを買うならコカ・コーラまたはペプシ・コーラではないかと思います。
他にもコーラを出している会社はあると思いますが、実際のところはこの2社の複占状態といっていいでしょう。

他の事例としては、PCのOS市場におけるMicrosoft(Windows)とApple(iOS)が挙げられます。
こちらもほぼ2社独占の状態なので、ほとんどの人がいずれかのOSをメインで使用しているはずです。

この複占市場もかなり儲かる市場で、消費者側が二者択一でしか選べないので、ある程度高い価格設定をされてもそれを買うしかありません。

(3)寡占市場

寡占市場とは、少数(3社以上)の企業によって市場が独占されている市場を意味します。

どれくらいまでの企業数を「少数」というのかは定かではありません。
私の感覚では2桁になるともう多数なので、おそらく5社程度までと考えれば良いかなと思います。

寡占市場の例としては、今話題の携帯キャリア市場があります。

今までの日本では、スマホキャリアといえばNTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの3社でした。
この3社がほぼ独占していたので、それはもう素晴らしい利益率で今まで荒稼ぎをしてきました。

そこに最近、楽天が参入し、第4のキャリアとして登場しています。
今までの常識では考えられないくらいの低価格を提示し、市場が一気に値引き競争状態に入りました。
楽天はキャリア事業に進出したせいで巨額の借金を背負ってしまっていますが、なんとか乗り越えて第4のキャリアとして市場を活性化させて欲しいものです。

他の事例としては、宅配便市場も寡占市場の一種です。

現在では、クロネコヤマト・佐川急便・日本郵便(ゆうパック)の3社がほぼ独占しています。
なお、私個人はクロネコさんを推しています。

寡占市場は儲かったり儲からなかったりいろいろです。
やはり競争相手が多ければ多いほど利益は減っていくので、寡占市場になってくるとあまり良い市場とは言えなくなっていきます。

(4)独占的競争(差別化)

独占的競争とは、無数にいる売手の1社が、差別化された商品を扱う状態を意味します。

他の商品とは差別化された商品であるため、ある種の独占状態が生まれます。
特定の商材に強い個性が生まれているので、代替性が下がって、希少価値が生まれ、価格決定権が生まれるのです。

事例はたくさんあります。

例えば、書籍などは独占的競争状態といえます。

毎年何万冊も出版されていますが、売れるのは極々一部の書籍です。
売れている書籍はまさしく差別化された書籍で、何らかの強い個性を持っています。
その個性を買手が好んでいるから売れるわけです。
ここ10年ほどのトレンドでいうと、ONE PIECEなどの超人気作を出し続けている集英社などが独占的競争状態を作り出しているといえると思います。
ラノベ分野ではKADOKAWAなども有名かもしれません。

その他、ブランドバッグなどの高級品市場なども独占的競争状態が生まれている事例といえます。

今の時代は独占市場も複占市場も発生し辛いので、ほとんどの市場で寡占市場又はより多くの競争相手がいる状態になってしまっています。
だからこそ、差別化による独占を生み出すというのが主な戦略になってきます。

(5)費用低減産業(自然独占)

費用低減産業(自然独占)とは、初期投資(設備投資)が莫大な額になるがゆえに、自然と参入障壁が形成され、自然と独占状態になる市場のことをいいます。

代表的な例としては、インフラ事業(電気・ガス・水道)があります。

この類型は、規模が大きくなればなるほど1消費者あたりの提供コストが低減していくので「費用低減産業」と呼ばれています。

ただ、この類型はほぼ国家レベルの事業です。

日本での電気・ガス・水道・通信事業・郵便事業などの事例を見てもわかるとおり、それらは元々国家として行ってきたものを民営化したケースが多いので、その規模の市場だとイメージしていただければよいかと思います。

以上5つの類型が不完全競争市場の類型です。

3.実務で重要な視点

まず、完全なる自由競争が実現している状態が「完全競争市場」でした。

そして、完全競争の対局に位置するのが「独占市場」です。

どのような市場であっても「完全競争市場」と「独占市場」の間のどこかにいるのです。

そして、ビジネスでは「独占市場」に近づけば近づくほど、儲かりやすくなります。
なぜなら、独占市場では、特定の商材を自社が独占しているので、自分で自由に価格を決められるからです。

需要があって、かつ、独占に近い市場状態を実現できれば、ほぼ確実に儲かります。
別の言い方をすると、我々は、法の範囲内で、如何にして独占状態に近づけるかを競っているのです。
そうだとすると、独占市場に近づくための試行錯誤が、経営戦略であり、競争戦略であるといえます。

意図しているかいないかに関わらず、経営戦略を担当する皆さんは、自然と「差別化」とか「ブルーオーシャン」とか、なんとかして勝てる場所・方法はないかと考えていると思います。
それはつまり、独占市場に近づくための戦略を練っているのです。

この発想を忘れないようにしましょう。

4.独占市場に近づく方法

最後に、独占市場に近づく方法について話していこうと思います。

ここからはただの私見なので、参考になれば幸いという程度のものです。

(1)売手少・買手多の市場を選ぶ

自己が売手側として成功するためには、原則として、売手が少なく、かつ、買手が多い市場を選ぶ必要があります。
なぜなら、売手が少なければ少ないほど、独占市場に近づくからです。

売手がほとんど居ない市場にいち早く参入することができれば、暫くの間は先行者利益を確保できます。

逆に、自己が買手側にいる場合には、売手が多く、かつ、買手が少ない市場を選択すべきです。
売手が沢山いるということは、それだけ選択肢が多いということですから、買手側としての交渉力が上がります。

企業は商材の提供者であることが多いですが、その商材を創り出す際には仕入れという工程があり、その工程では買手側になるケースもあるので、どちらの視点でも考えられるようにしておくと便利です。

(2)参入障壁が高い市場を狙う

独占市場に近づくためには、前述のとおり売手が少ない必要があるので、そもそもの参入障壁が高い市場を狙ったほうが、独占状態を作りやすいといえます。

代表的な例としては、法規制による参入障壁がある市場を選ぶことです。

例えば、金融商品取引法によって規制されている市場などは魅力的な市場の一つです。
日本では、金融商品(株式等)を取り扱う場合、第一種金融商品取引業登録か第二種金融商品取引業登録が必要になってきますが、この登録が非常に難しい状況となっています。
特に新規登録はかなりハードルが高いです。

さらに、証券取引に関する専門家を常勤で社内に揃えておかないといけないので、人件費というランニングコストが高い事業領域です。
ゆえに、多くの事業者が登録を諦めるか、途中で撤退します。

このような法規制領域をあえて選ぶという戦略もありだと思います。
参入する難易度は高いですが、一度参入できてしまえば、あとは法律が勝手に参入障壁として機能してくれます。
その結果、独占状態に近い市場で戦うことができます。

他にも、自社の技術・ノウハウによる参入障壁もあり得ます。

代表的な例としては、権利範囲が広いキラー特許を取るという戦略があり得ます。
コアとなる特許を自社が押さえてしまえば、他社はライセンス料を支払わない限り同じ技術を使えませんから、極めて有効な参入障壁です。

(3)商品を差別化する

実際に実現するのは難しいことなのですが、商品を差別化するという方法も独占状態を創り出すために有効な戦略の一つです。

例えば、スターバックスなどは差別化に成功している会社だと思います。

原価を考えると一杯100~200円程度で十分利益が出るはずです。
現に同じ種類の豆を使っているとされているセブン・イレブンだと200円程度の値段で買えます。
そのような原価の安いコーヒーをスターバックスでは500円~1000円以上で販売しています。
それでも毎日よく売れています。

私の家の近所のスターバックスなんて、席が空いている日を見たことがないくらいに繁盛しています。
スターバックスに魅了されている顧客の多くは、スターバックスのコーヒーが好きというのもあるでしょうが、あれはたぶん空間そのものが好きなのだと思います。
スターバックスでMac広げてカタカタターンな俺カッケーの理論です。
ある意味凄い差別化です。

おそらく他社では真似できないですし、すでにその雰囲気や文化そのものが参入障壁となっています。
私もMacを使うようになったら一度は行こうと思っています。

(4)情報をコントロールする

高度にITが高度に発達した現代社会においては、情報をコントロールする者が市場をコントロールします。

企業にとって重要な情報の例としては、自社独自のノウハウ、仕入値、特許、商標などが該当します。
様々な情報を管理して、情報そのものを守っていく戦略です。

最近話題のビッグデータも、規模が大きくなればなるほど強い武器になりますし、その使い方に関する情報ですらも武器になり得ます。
これからの時代は自社の情報をどう守るか、そしてどう使うかで勝敗が分かれることも多くなっていくので、情報のコントロールには細心の注意を払ったほうが良いです。

以上、4つの視点から独占市場に近づく方法を考えてみました。
皆様の経営戦略の参考になれば幸いです。

おわりに

ということで今回は完全競争と不完全競争について解説させていただきました。

どのような市場であっても、完全競争と独占状態に間にあるので、自社のビジネスが今どのような立ち位置にいるのかを一度分析してみるのも面白いかもしれません。
自社の置かれている立場を理解すれば、いろいろと見えてくるはずです。

ではまた次回の記事でお会いしましょう。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長/ 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate/ 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です

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