今回は比較的最近の理論である「変革型リーダーシップ理論」について解説させていただきます。
変化の激しい現代社会において必要とされるリーダー像に関する理論なので、参考になるかもしれません。
本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回ご紹介する「変革型リーダーシップ」は1990年代の理論なので、比較的最近の理論です。
変革型リーダーシップが提唱される前は「取引型リーダーシップ」という理論が人気だったので、まずはその説明から始めましょう。
取引型リーダーシップ(Transactional Leadership)とは、平たくいうと、アメとムチで従業員を服従させるリーダーシップスタイルです。
取引型リーダーシップでは、主として指示命令的なリーダーシップスタイルが採用されます。
指示命令的なリーダーシップでは、まずリーダーが部下に対して、労働条件や労働規則、成果を挙げた場合の報酬、失敗や違反に対する懲罰などを説明します。
そして、部下はそれらの規則等に従って職務を遂行することで報酬を得るという関係性です。
この取引型リーダーシップにも、成果報酬型や積極的監視型、放置型などの類型が提唱されていますが、いずれにしても、リーダーと部下との関係は取引的で、無機質なものであるとされています。
このようなリーダーシップスタイルは、昔の工場の管理などで有効だったようです。
その後、取引型リーダーシップがあまり機能しなくなり、新しい時代のリーダーシップスタイルが必要だと考えられるようになっていきました。
そこで登場したのが変革型リーダーシップです。
変革型リーダーシップとは、変革が必要不可欠とされる状況下(変化の激しい市場環境など)で本領を発揮すると考えられているリーダーシップスタイルで、バーナード・バス教授(Bernard Bass, ビンガムトン大学経営学部教授)が提唱した理論です。
具体的には、リーダーは、組織のミッション・ビジョン・バリューを再定義し、部下に対してそれを浸透させ、自発的・自律的な活動を促すというリーダーシップスタイルです。
そして、リーダーは、以下の4つの要素を活用して、部下のやる気を起こさせ、通常よりも高いパフォーマンスを引き出すことで組織変革を実行していきます。
以下、それぞれ解説いたします。
変革型リーダーは、組織が目指している目標をしっかりと理解し、それを部下たちに話して聞かせます。
そして、その目標を達成するために必要となる通過点を説明し、自分たちが行おうとしていることがどれほど重要なことなのかを認識させ、組織内に価値観を浸透させていきます。
そうすることによって、部下たちは自分たちの行っている業務に使命感や誇りを感じるようになり、リーダーに対して忠誠心、信頼、尊敬などを抱くようになります。
ベンチャー業界的に説明しますと、CEOが自社のミッション・ビジョン・バリューを丁寧に説明して、仲間を集め、理想を実現していくあの流れこそが、理想による影響力の行使です。
ベンチャー界隈で長く生息している人にとってはよく目にする光景だと思います。
変革型リーダーは、部下の内発的動機づけ(内側から湧き出てくるようなやる気)を起こさせるために、様々な手段を用いて部下を鼓舞します。
リーダーは部下に対して、部下のあるべき姿や、部下が行っている仕事の価値の高さを説明します。
自分たちの行っている仕事にどれほどの価値があり、どれだけの意義があるのかを語って聞かせるわけです。
そして、部下一人ひとりの内発的動機づけを分析して、適切な励まし活動を行います。
私は専門職なので、どちらかというと「自分のモチベーションは自分で保て」と思ってしまうタイプですが、変革型リーダーシップの世界ではそういう発想はしないようです。
良いリーダーは、部下のモチベーションすらも上げてしまうものという考え方が前提になっているので、モチベーション管理もリーダーの仕事の一つです。
知的刺激に関しては、多くのテキストで記載が薄く、下手をすると1行で終わっています。
多分研究者の皆様がこの要素を重要であると認識していないのだろうと思います。
ただ、実務家視点で見ると、知的刺激こそがリーダーの役割として極めて重要な要素だと思っています。
そもそも変革型リーダーシップにおいては、リーダーが部下に対して様々な知的刺激を与えることで、思考や挑戦を促し、部下のやる気を起こさせ、チームとしての一体感や信頼感を構築していくべきとされています。
部下たちは、上司から知的刺激をもらうことで、思考を深化させて、様々な情報をインプットしていきます。
そして、インプットした情報を駆使して、実務で挑戦を繰り返して、成長していくわけです。
このような過程を意図的に生み出せるリーダーこそが、優れたリーダーだと思います。
また、知的刺激を与えるという行為は、専門職(経理・財務・法務・経営企画など)の部下に対してより重要になってくると思われます。
なぜなら、優秀な専門職ほど、新しい知識や経験を求めていて、常に自分の知識レベルを高めたいと望んでいるからです。
しかし、多くの企業は従業員に対する学習支援を行っていませんし、上司自身の知識レベルも低く、大して知的刺激が得られない環境であることが多いです。
そういう職場に長く居続けても、専門職側にメリットがないので、より高いレベルの経験が積める場所を求めて転職を検討します。
そのせいで、優秀な人材の多くが知的刺激溢れる大手企業及び大手外資コンサルに集中してしまいます。
これは士業の世界でも同じことがいえます。
BIG4やBIG5に優秀な人材が偏っているのも、けして報酬の高さだけが原因ではないのです。
私が知る限り、離職率が高い職場のほとんど全てで、学びの機会が皆無又は極少です。
これによって、優秀な人材から辞めていくという現象が起こり続けます。
良い人材を採用できても、定着してくれないと意味がないですから、リーダーの皆さんは知的刺激の重要性を認識するべきだと常々思っています。
個別的配慮とは、部下一人ひとりの個性・能力に合わせて対応を変化させるということを意味します。
実務上これが最も難しいことかもしれません。
まず、個別的配慮を行うためには、その前提としてリーダーが部下のことをよく理解しておく必要があります。
そして、部下をよく理解するためには、一人ひとりと密なコミュニケーションを取らないといけません。
さらに、部下と密なコミュニケーションをとるためには、部下が気兼ねなく上司と話せるような状態を創り出さないといけません。
このような優れた対人関係スキルを持っている人は少数派なので、見つけ出すこと自体難しいと思います。
以上(1)から(4)までの説明でわかるとおり、変革型リーダーシップは若干実現困難な理論だと思います。
ただ、もし実現できる人と出会えたなら、確実に採用しておくべきです。
そういうリーダーは貴重です。
ということで、今回は変革型リーダーシップについて解説させていただきました。
理論的には素晴らしい内容だと思っているのですが、実務の世界を見渡してみても、変革型リーダーシップを採用できている人材はほとんどいません。
実現可能性の低い理論だとは思いますが、参考にはなると思います。
この解説が皆様の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりご連絡ください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。