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ベンチャー財務部の業務内容や求められる役割、活かせる資格などについて解説します!

2023/11/22 更新

はじめに

ベンチャー企業がIPO(新規上場)を目指す上で、極めて重要な部署があります。
それが「財務部」です。

財務部は、ファイナンス及び資金繰りの専門家が集まる部署ですが、その領域の専門職は、人数自体が少ないため、転職市場で獲得することが難しい職種です。
特にベンチャー企業の場合は、まだ知名度や資金力が乏しいこともあって、大手企業との採用競争で苦戦を強いられることも多いです。
そのような状況でも良い財務人材を獲得できるようにするためには、企業側が財務人材のことを深く理解しておく必要があります。

そこで今回は、ベンチャー企業における財務部の役割や業務内容について簡単に解説していきたいと思います。

1.財務部の役割と業務内容

財務部は、経営の重要な資源であるヒト・モノ・カネの中でも「カネ」を統括する部署です。
同じくお金を扱う部署として「経理」がありますが、経理は「過去のお金の流れ」を主に扱います。
一方で財務は「未来のお金の流れ」を扱う部署です。

具体的には、資金調達(ファイナンス)資金管理(資金繰り)です。

その他にも、ベンチャー企業においては内部統制の構築や監査法人への対応なども行うことが多いです。
一覧で示すと以下のとおりです。

(1)資金管理業務
(2)資金調達業務
(3)内部統制構築業務
(4)監査法人対応業務

以下、一つずつ説明していきます。

(1) 資金管理業務

財務部の日々の業務として、最も重要な業務は会社の「資金管理業務」です。
俗に言う「資金繰り」のことで、この業務は各部署の予算策定から始まります。

ベンチャー企業の場合、創業期は単一事業であることが多いため、予算策定もそこまで大変ではないのですが、少しずつ規模が拡大して、事業が増えていくと、予算策定業務が複雑化していきます。
会社によっては子会社も増えていくため、各子会社の予算とグループ全体の予算を統合して行く作業も発生します。

また、各部署の部長や統括役員が財務に明るい人ばかりというわけではないため、各部署(又は子会社)の責任者に対して様々な助言をしつつ、必要な情報を集めるコミュニケーション能力が必要になってきます。
ベンチャーの場合、一番難易度が高い業務はこれかもしれません。
営業畑の出身者が事業部の責任者になることが多いため、予算が過大で非現実的なことも多いです。
そこをなんとか角が立たないように調整して、現実的な予算に落ち着けていく作業は、なかなかハードなタスクです。

さらに、予算は、経営陣が策定するビジョン、経営戦略、事業計画等を基礎として作っていくので、経営陣との対話が増えます。
この際、財務部には、経営陣が描く近未来的ビジョンと長期的ビジョンの双方を深く理解し、予算を策定する能力が求められます。
そのため、財務部には、会計学や財務に明るいということを前提として、経営・ビジネス・コミュニケーション・ITなど様々な知識が必要となり、人としての総合力が試されます。

そして、実際に今期の予算ができあがったら、その予算どおりに資金が使われているのか、資金が不足しているところはないかなどを日々チェックし、管理していきます。
これが「予実管理」です。

ベンチャーでは、予算の作成時点で全く想定していなかった大きな支出が発生することがよくあるので、毎日神経をすり減らす業務が続きます。
「イレギュラーがレギュラー」という認識でちょうど良いと思います。

(2) 資金調達業務

次に「資金調達業務」についてですが、こちらの業務はベンチャー企業特有の業務と言って良いかもしれません。
ベンチャー企業には、ヒト・モノ・カネの全てが不足しています。
そのため、常に誰かを採用しないといけませんし、常に何かを作り出さないといけません。

そして、それらの活動を続けるための資金をどこかから調達し続ける必要があります。
極稀に、自分たちの事業から得られた売上と利益だけで、事業投資資金を賄ってしまう優れたベンチャーがありますが、それは例外的です。

ほとんどのベンチャーは、1~2年ごとに資金調達をしながら何とか事業を継続していくという感じです。
他人資本を上手に活用して、自己の商圏を広げ、一気にシェアを取りに行くビジネスがほとんどでしょう。
特にプラットフォーム型ビジネスモデル(SNSや各種マッチングアプリ、SaaSなど)の場合は、初期段階での投資額が巨額になりやすいため、資金調達額も大きくなりやすいです。

その結果、短期間で資金調達を繰り返さないといけないため、財務部は原則として激務になります。
日々行う予実管理の中で未来を正確に予測し、資金がショートしないように先手を打って資金調達を行わないといけないため、難易度が高い業務ばかりです。
事業が上手く行っていて、今後も拡大が見込めるのであれば、比較的資金調達は楽に進められますが、そういうベンチャーばかりではないため、苦労することも多い職種です。

なお、資金調達には大きく分けて、2つの手法があります。
1つ目が、銀行や他社からの借入れによって資金調達を行う「デット・ファイナンス」です。
もう1つが、自社の新規株式又は新株予約権等を他者に引き受けてもらうことで資金調達を行う「エクイティ・ファイナンス」です。

ベンチャー企業で主流なのはエクイティ・ファイナンスです。
創業期の場合は、個人の資産家に出資してもらうことで資金調達を行うことが多いです。
このような個人資産家を「エンジェル投資家」と言ったりします。

運が良ければ、より規模の大きなベンチャーキャピタル(VC)からの出資を受けられることもあります。
有名なVCから資金調達を行えた場合、当該VCのネームバリューによって事業拡大がスムーズに行えることが多いので、多くのベンチャーが大手VCに自社を売り込みに行きます。

ただ、VCの中には積極的に経営に参画してくるところもあり、その場合は、取締役の一人にVCのパートナーが入ったりします。
このあたりは一長一短あるので、自社の出資先としてどこが最も適しているかをよく吟味する必要があります。
その判断は原則としてCEOが行いますが、財務部のアドバイスが決め手になることも多いので、重要な役割を担っています。

また、最近事例が増えてきましたが、ベンチャー企業にもデット・ファイナンスという手段が存在します。
これは、主に銀行と交渉して、できる限り低金利でお金を借りてくるという業務です。

ベンチャーの財務部でデット・ファイナンスを経験したことがある人はあまり多くないかもしれませんが、ここ数年でベンチャー向け融資を積極的に行ってくれる銀行も増えてきていますので、できれば一度は経験しておきたい業務です。
なお、借入先としては、銀行だけではなく、日本政策金融公庫などの政府系金融機関や信用金庫なども候補に入れておきましょう。
各都道府県及び市町村が実施している補助金や保証協会融資なども活用するといいかもしれません。
世の中には中小企業やベンチャー企業を支援する補助金・融資制度が結構あるので、より条件の良い資金調達手段を探してください。

そして、先々のキャリアのことを考えると、若いうちに銀行や信用金庫、エンジェル投資家やVCとコネを作っておいた方が財務人材としては良いと思います。
人脈をゼロから作るのは本当に大変なことなので、コツコツと長い時間をかけて広げていきましょう。

(3) 内部統制構築業務

続いて「内部統制構築業務」についてご説明いたします。
この業務は、IPOを目指すベンチャー企業にとっては、避けては通れない大きな壁です。
上場企業を目指す以上は、会社法上の義務(大企業や上場企業には内部統制構築義務がある)を履行しないといけませんから、内部統制の構築は必ず実行しないといけない業務です。

しかし、意思決定のスピードや事業の早期拡大が生命線であるベンチャー企業と、意思決定の正確さや慎重さを確保することで利害関係人の利益を保護するという内部統制の考え方は、なかなか相性が悪いです。
内部統制を構築していく過程でベンチャーらしさやベンチャーの良さが失われて、かつての勢いまで失ってしまうことはよくある話です。
こうならないようにするために、財務部はベンチャーの強みと内部統制の趣旨との両立を図るために奔走することになります。

もちろん会社によって内部統制構築を主導する部署は異なりますが、基本的には財務部か経営企画が担当しますので、先々財務部に行きたいと思っている方は、意思決定のスピードと内部統制との調和を意識しておくと良いと思います。
最終的には、法務や経理、労務などの力も借りて、経営管理部門全体として整えていくのですが、いずれにしても非常に難易度が高く、かつ、地道な作業が続きます。

ちなみに、内部統制構築業務は、多くの場合、定款の見直しや社内規程の整備、不足している様々な議事録等の具備から始まります。
これがまた大変な作業でして、各規程が絵に描いた餅にならないように、実態に即した内容で作る必要があります。
作業期間は会社によりますが、最低限の規程や書類を揃えるのに数ヶ月から1年程度はかかると思います。

そして、最低限の形が整って、会社としての体をなして来たら、本格的にIPOの準備に入っていきます。
多くの場合、最初の一歩は会計監査人(原則として監査法人)を見つけてくることです。
ここ数年、監査法人がかなり忙しい状態になっているので、監査を引き受けてくる監査法人を探すこと自体が難しい状況が続いています。
公認会計士の知り合いなどを通じて様々なアプローチを駆使し、見つけ出すしかありません。

監査法人の候補が見つかったら、まずはショートレビューを受けて、数多くのご指摘をいただくことになります。
内部統制報告制度(J-SOX法)にも対応しないといけないので、いわゆる三点セット(フローチャート・業務記述書・リスクコントロールマトリックス)も作成しないといけません。
これらの業務も、基本的には財務部が担当することになります。

運が良いベンチャー企業の場合は、特段苦労することなく監査法人が見つかり、主幹事証券会社もスムーズに決まって、彼らの指摘どおりに社内規程等を整えていくということもできますが、最近ではIPO市場も厳しくなってきているので、スムーズに全てが進んでいくのは例外的だろうと思います。
そのため、監査法人や主幹事証券会社のコンサルなしでも、ある程度までは自分たちで整えられるように、知見を深めておいた方が良いでしょう。
IPO準備(主に内部統制構築業務)は、極めて専門性が高く、かつ、長期的なプロジェクトになるため、もしベンチャーでIPO準備をしようと思っているならば、3~5年はかかる想定で行くべきです。
なお、上場後も内部統制構築業務は永遠と続きますし、高い水準で統制を維持し続けることが求められるので、この業務には実質的に終りがありません。

(4) 監査法人対応業務

最後に「監査法人対応業務」についてですが、この業務も上記の内部統制構築業務やIPO準備に関係する業務です。
ほとんどのベンチャー企業がIPOを目指すことになりますので、大体N-2期(上場を目指す決算期の前々年)の時点から監査法人の監査を受けることになります。
なお、N-2期は一応上場の2年前という想定ですが、多くの場合はIPO準備に時間かかってN-2期を数回繰り返すので、実質的にはN-3~N-4期という感じです。

この監査法人からの監査がなかなかの大変さで、監査法人側ももちろん大変なんですが、監査法人からいただいた指摘をすべて改善していくという作業に凄く時間がかかります。
財務部だけでは到底終わらないことが多いので、経営企画・経理・法務なども巻き込んで、一つずつ解決していきます。
その主導的役割を担うのが財務部(又は経営企画)なので、他部署との連携も含めて、ここでも高いコミュニケーション能力が必要となります。
なお、監査法人出身の公認会計士などが財務部にいれば、監査法人側からもらう指摘を事前に予想できるため、対応にも先手が打てます。
そのため、IPO準備をメインで任せたいなら、監査法人出身の公認会計士や税理士を採用すると良いかもしれません。

以上が、ベンチャー財務部の主なお仕事及び役割です。
ただ、ベンチャーの場合、上記以外にも様々な業務が発生します。
例えば、各種取締役会や経営会議の準備・開催、その他株主総会等の準備・運営なども財務部が行うことが多かったりするので、そういう会議体運営もある程度勉強しておくとスムーズに業務を進められると思います。

2.ベンチャー財務に向いている人

では、上記のようなベンチャー財務に向いている人について述べていきたいと思います。

あくまでも私の私見ではございますが、財務部に最も求められる能力は「コミュニケーション能力」だと考えています。
多くの財務人材がここで躓くことが多いので、あえて先頭に持ってきています。

というのも、財務の専門家の多くは公認会計士又は税理士です。
資格が無かったとしても、それに近しい専門性を持った人たちです。
そういう人たちの多くが大手監査法人や金融系の大手企業、及びコンサル会社等に勤め、専門的知識を活かして業務を行っていきます。

そして、大手の監査法人や大手の金融機関等では、周りも専門家ばかりで、細かい説明などしなくてもすぐに全体を理解してくれる人たちが揃っています。
また、同等の知識レベルで議論ができるため、ある程度ストレートな指摘をしても、それを受け止められる器を持った人たちが多いです。
そのため、単調又はストレートなコミュニケーションでも別に困らないですし、コミュニケーションが苦手な人に慣れている人も多いので、周りが上手く合わせてくれます。
言ってしまえば、専門職にとっての楽園のような職場なのです。

しかし違う視点でみると、自分のコミュニケーション能力について客観視できない環境が整ってしまっているとも言えます。
その結果、事業会社に行ってコミュニケーションで苦労するというケースが多くなります。
ベンチャー企業では特にコミュニケーション能力が重要になってくるので、自分がいた環境が特殊な環境だったのだということをまず理解して、自分自身を調整していかないといけません。

次に「変化耐性」についても鍛えておく必要があります。

ベンチャー企業では、日々大きな変化が起こります。
大手企業でなら大事になりそうなことでも、ベンチャー企業では日常的な変化です。
そのような劇的な変化に対して抵抗力が弱いと、ベンチャー企業での財務は務まらないだろうなと思います。
ストレス耐性・忍耐力と表現しても良いかもしれません。
自分の能力や努力では如何ともし難いことが多く発生するので、ある程度俯瞰したところから全体を見守れる能力が必要になってきます。

ベンチャーは基本的に「何も整っていません」し「何もありません」から、すべて自分たちでゼロから構築していかないといけません。
そういう創造作業を楽しめる人が、ベンチャーの財務には向いているだろうと思います。

3.ベンチャー財務で活かせる資格

最後に、ベンチャー財務で有効な資格について解説していこうと思います。

まず、最低限のレベルとして、財務部では企業会計の基礎的な知識が必要になります。
どの程度までを基礎と定義するかは会社によって様々ですが、ベンチャーの一般的なレベルでいうと、日商簿記2級又は全経簿記1級が目安になるかと思います。
そのくらいの会計知識は最低限理解していないと、財務のプロ集団の中で会話についていくことは困難であると思われます。

できれば日商簿記1級又は全経簿記上級を取得しておいた方が良いです。
財務の場合、経理と異なって未来のお金について考える機会が増えるため、簿記論を深く理解していることが前提となります。
その上で、財務に関連する知識やファイナンスに関する知識、その他各種法令に関する知識が必要となるため、かなり高度な専門性が要求されます。

また、業務上関わる人の知識レベルも高いため、公認会計士や税理士、証券会社のプロフェッショナルと対等に話し合うためには、日商1級又は全経上級レベルの資格があった方が安心できるかと思います。
理想としては、公認会計士資格があると最高です。
税理士資格でも歓迎されると思いますが、専門分野で考えると公認会計士の試験範囲との相性が良いと思います。

その上で、監査法人や金融機関等での勤務経験があるとより歓迎されやすいかもしれません。

一方で、資格ではないですが、学位としてMBA又はMBA Financeがあると知識的に活かせる場面が多いかと思います。
その学位を持っていることが、財務としての実力を証明することにはなりませんが、MBAやMBA Financeで学んだ理論を間接的に使う場面には恵まれるはずなので、取っておいても損はありません。

そして、何と言っても財務部は実務経験が重視されやすいので、資金調達の経験や証券会社(主にIPOコンサル部門での経験)での経験、会計コンサルやVCなどでの経験があるとより歓迎されるはずです。

その他、証券アナリスト(日米双方)TOEICなどの民間資格も知識的には有益です。
他にも、米国公認会計士米国公認管理会計士なども「英語×会計」という領域の資格なので有益といえます。
財務部は海外の機関投資家とも対話する機会がありますので、英語はやっておいた方が良いです。

ちなみに、私が今まで知り合った財務の専門家の皆様の半数近くが英語ペラペラで、少なくとも読み書きで困らない程度の英語力を有する人が多いです。
そういうレベルの会計専門職が集まる部署こそ財務部なのだろうと勝手に思っております。

おわりに

ということで、今回は経営管理部門の中の「財務部」のお仕事について簡単にではありますが解説させていただきました。

主にベンチャー企業で働く財務部を想定した記事でございますので、大手企業ではより国際的な案件に多く関わっていくことになると思います。
経営管理部門の中でも特に専門家が多い部署なので、将来財務部に行きたいと思っている若手の皆さんは心して挑んでください。

それにしても「Finance」ってカッコイイですよね……。
誰かに「専門分野はなんですか?」と聞かれて「Financeです」って言ってみたいです。

それでは次回は「経営企画部」のお仕事について書きたいと思います!
お楽しみに!

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株式会社WARC

瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate 資格:司法試験予備試験・行政書士など 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です