本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回はM&Aに関連する重要用語である「クラウンジュエル」と「ホワイトナイト」について解説いたします。
細かい分野でいうと、M&Aの中の敵対的買収防衛策に関する用語です。
クラウンジュエルとは、敵対的買収に対する防衛措置の一つで、敵対的買収の対象となっている会社が、自社の資産・事業等で最も価値の高いもの(買収の目的となっているもの)をあえて第三者に譲渡することによって、自社の魅力を低下させ、敵対的買収者の買収意欲を削ぐ方法を意味します。
要するに、敵対的買収者がその対象会社を買おうとしている「目的」そのものを第三者に売り払ってしまうことで敵対的買収を諦めさせようという防衛策です。
クラウンジュエルという名称は、買収の対象会社をクラウン(王冠)に例えて、そのクラウンについたジュエル(宝石)を取り払って、王冠の価値を下げるという例え話から来ています。
個人的に一つ気になるのは「クラウンジュエル」という用語を客観的に見るとただの名詞なので、M&Aの目的となっている資産や事業そのものを意味するはずなのですが、実務上は敵対的買収防衛策を講じるという動詞的な意味で使われているようです。
少し納得しづらいですが、M&Aの用語は分かりづらいが比較的多いので、そういうものなのだと思って諦めます。
さて、上述のとおり、クラウンジュエルは敵対的買収に対する防衛策の一種ですが、その有効性には疑問があります。
そもそも、M&Aの目的となるほどの重要な資産や事業を第三者に売却するというのが困難だからです。
重要な財産の処分や事業譲渡には、それぞれ会社法上の規制があるので、取締役会や株主総会の決議が必要になります。
また、仮に経営上重要な資産や事業を売却してしまったら、その経営自体が成り立たなくなるおそれがあるので自滅行為になり得ますし、そのような資産譲渡又は事業譲渡を行ったことによって、会社の価値を毀損するようなことがあれば、他の株主又はすでに株主になっている敵対的買収者から株主代表訴訟や差止訴訟を起こされるリスクもあります。
それに、敵対的買収に対して、M&Aの目的となっている資産等を第三者に売却したところで、敵対的買収者が対象会社の経営権の取得を諦めてくれるとは限りません。
むしろ当該売却行為によって対象会社に大量の現金が流入するという、敵対的買収者にとって望ましい結果を招いてしまうことにもなりかねません。
さらに、敵対的買収者にとってみれば、敵対的買収防衛策として資産や事業を売却等することでその会社がニュースに取り上げられ、それによって株価が吊り上がれば頃合いを見計らって売るか買い取ってもらうかすれば利益が出ます。
そうなると、クラウンジュエルという敵対的買収防衛策を講じることで、敵対的買収者をより乗り気にさせてしまうことにもなります。
したがって、クラウンジュエルという名称はカッコいいので覚えておきたいところですが、有効性はかなり怪しいという点も併せて覚えておいた方が良さそうです。
そのような事情もあってか、日本ではほぼ事例が存在しません。
私の知る限りでは、日本でのクラウンジュエルの例は、ライブドアvsフジテレビ事件(ライブドアがフジテレビを買収するために、フジテレビの株式を大量に保有していたニッポン放送の株式を大量に取得して敵対的買収をしかけた事件)で、ニッポン放送が、敵対的買収防衛策として、自社が保有するポニーキャニオン社の株式やフジテレビの株式を第三者に売却しようとした事例くらいだと思います。
その事例ですら、結局は売却せずに終わっています。
ホワイトナイトとは、敵対的買収に対する防衛策の一つで、敵対的買収の対象となっている会社の株式を友好的な第三者に買い取ってもらうか、又は合併してもらうことで敵対的買収から逃れる防衛策のことをいいます。
上記の定義内にある「友好的な第三者」こそがホワイトナイト(白馬の騎士)です。
ホワイトナイトを運良く見つけられた場合、当該ホワイトナイトにどうやって経営権を持ってもらうかが論点となり得ます。
その場合方法は、主に以下の3つです。
カウンターTOBは、上場企業に対する敵対的買収の場面で使う手法で、敵対的買収者が仕掛けてきたTOBよりも高い値段でホワイトナイトにTOBをかけてもらうという方法です。
第三者割当増資は、対象会社の新しい株式を発行して、それをホワイトナイトに引き受けてもらう方法です。
最後に、新株予約権の付与は、対象会社の新株予約権を発行して、それをホワイトナイトに引き受けてもらう方法です。
この方法は、第三者割当増資と異なり、株式をまだ発行していないので、希釈化(発行済株式総数が増えてしまうことで各株主の経営支配割合が下がること)が発生しないというメリットがあります。
ホワイトナイトを見つけてきて対象会社を買い取ってもらう又は合併してもらうという手法は、いわば最終手段です。
なぜなら、対象会社を第三者に買われてしまう又は合併されてしまう点は変わらないからです。
元々対象会社の経営支配権を有する人からすると、敵対的買収者だろうがホワイトナイトだろうが、経営権を失うことには変わりないのです。
そのため、ホワイトナイトという手段は「敵対的買収者に買われるよりはマシだから」というただの諦めの手段です。
経営者側の視点でいうと、そういう事態が発生しないように日頃から適切な経営を行うしかありません。
ここからは余談ですが、過去10年ほど続いているIPOブームで多くのベンチャー企業がIPOを目指しています。
それ自体は素晴らしいことだと思いますし、VC(ベンチャーキャピタル)から出資を受けているベンチャーがほとんどでしょうから、形だけでもIPOを目指さないといけないので致し方ない部分もあります。
しかし、上場をするということは、常に敵対的買収の危険に晒されるということでもあるので、その点には注意と覚悟が必要だと思います。
創業者としては、早い段階から資本政策を考え、創業者の持株比率をコントロールしておきましょう。
そして、仮に持株比率がすでに低い場合には、自分の会社を買い取ってもらうとしたらどこの会社が良いかという点を考えておくべきです。
子会社になってもいいと思えるほどの会社の経営者と日頃からコネクションを作っておいて、もしものときはホワイトナイトになってくれるような関係性を構築しておくべきだと思います。
ということで、今回はM&A分野におけるクラウンジュエルとホワイトナイトについて解説させていただきました。
ニュースなどでたまに聞く単語だとは思いますが、詳しい意味まで知っておくと、より深くM&Aを理解できるかもしれません。
それでは、今回も最後までお読みいただき誠にありがとうございました。
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