本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は経営学の理論の中でも特に重要なRBV(Resource-Based View)について解説いたします。
企業の持続的な競争優位性は、どこから生まれるのでしょうか。
この点について、経営学の世界では長い間議論が続けられてきました。
そして、今では以下の3つの見解が主流になっています。
企業の競争優位性の源泉を外部環境に求める見解は、ポジショニングアプローチと呼ばれていて、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授のファイブフォース分析が有名です。
一方で、企業の競争優位性の源泉を企業の内部に求める見解としては、資源ベースアプローチと呼ばれる見解があります。
これを英語でRBV(Resource-Based View)といいます。
前述のとおり、RBV(Resource-Based View)とは、企業の競争優位性はその企業の内部にある経営資源から生じるという見解です。
このRBVの考え方は、1984年にワーナーフェルト教授(Birger Wernerfelt:マサチューセッツ工科大学スローンマネジメントスクール教授, 経営戦略論)によって初めて提唱されました。
RBVでは、会社を様々な経営資源の集合体であると考えます。
その考えを基礎にすると、各企業はそれぞれ別々の経営資源を持っていて、その経営資源の質や量が異なっているため、結果として会社ごとに個性が生まれます。
その結果、その個性が競争優位性を生み出していきます。
そして、RBVでは、これらの経営資源が、簡単には他社に移動しないものと考えます。
これを「非移動性」というのですが、意味としては、簡単に真似されたり、同一の資源が量産されて他社が簡単に入手できたりはしないという意味です。
したがって、RBVは、競争優位性の高い企業は、他社とは異なる非移動性を有する経営資源を持っていて、その経営資源を上手に活用することで、競争優位性を保っているのだと考えているわけです。
では、企業はどのような経営資源を持っているのでしょうか。
その種類について解説していきます。
経営資源の分類については、経営学上様々な見解がありますが、私はグラント教授(Robert Morris Grant:元ジョージタウン大学教授, 経済学)の見解が好きなので、それを基礎にして代表的な経営資源について解説していきます。
すなわち、経営資源には以下の6つの種類があります。
以下、一つずつご説明いたします。
財務的資源とは、現金、現預金、有価証券、借入能力などの資源を意味します。
そして、財務的資源の内、現預金を多く保有している企業を「キャッシュリッチ企業」と言います。
キャッシュリッチ企業は、重要な事業投資を行う際にすぐに現金を投入できるので、他社よりも早く手を打つことができます。
また、急激な不況に襲われたとしても、自分が持っている現預金で耐え抜くことも可能です。
このような状況にある企業は、他の会社と比べて競争優位性があるといえます。
なお、現預金に関しては多ければ多いほど良いと思いますが、有価証券や借入能力についてはデメリットもあります。
そのため、財務的資源の構成バランスを整えることも重要な経営戦略の一つです。
物理的資源とは、工場、設備、オフィス、土地、建物、什器などの資源を意味します。
これらの資源が多い企業は、一般的には財務的資源(主に借入能力)も多く持っている傾向があるため、競争優位性を持ちやすいとはいえます。
しかし、物理的資源を購入するために借金ばかりしている企業もあるので、物理的資源が多ければ多いほど競争優位性があるとは言い難いです。
無駄な土地や自社ビルなどを保有し続けている会社も相当数あるので、何ともいえないところです。
昔、ダイエーが潰れかけたときに、土地の買い過ぎ問題が露呈したことがありましたが、物理的資源の入手には借金の問題がつきものです。
不動産バブルに乗っかって買い過ぎて、その後バブルが弾けて大損するなんてこともあるので、経営者は物理的資源の入手には細心の注意を払いましょう。
人的資源とは、従業員が保有している技能、ノウハウ、協働できる能力、モチベーションの高さなどを意味します。
ここ数年で人的資源に対する注目自体は高まっていますが、本当の意味での重要性を理解している経営者は多くありません。
そのため最近では、人的資源の重要性を経営者が理解しているかどうかという点が、競争優位性の有無を分ける分水嶺になっています。
例えば、高度な専門性や技能を有する人材にいくらの報酬を出すかというのは、経営者の価値観が反映される場面です。
人的資源の重要性を理解している経営者は、特に高度な能力を有する人材に、相場以上の報酬を提示します。
そうしないと、すぐに他社に取られてしまうからです。
これがわかっている経営者なのかどうかという点は、今後の競争優位性の有無を分けることになります。
転職市場を見ている限り、優秀な経営者は優秀な人材に適切な報酬額を提示していますので、個人的な見解としては、これができない時点でその会社の未来は相当厳しいなと感じてしまいます。
技術的資源とは、特許、著作権、ソフトウェアなどの資源を意味します。
この中で最も重要なものは特許です。
他社に対して参入障壁となりうるにとどまらず、上手くいけばライセンス料が稼げます。
技術を競争優位性の根源としている企業では、いくつキラー特許を持っているかで将来が決まります。
ビジネスの根幹を担うような重要な特許を取れるかどうかで今後10年分くらいの利益が変動するのです。
ベンチャーで特許の重要性を理解している企業は少ないですが、IT分野で創業しようと思っている若い経営者の皆さんには、特許について早めに学んでおくことを強くオススメいたします。
ブランド資源とは、その企業のサービスや製品が有する固有の評判(レピュテーション)に関する資源を意味します。
最近では、レピュテーション・マネジメントという言葉まで出てきているほど、レピュテーションは重要な経営戦略分野となっています。
良いレピュテーションを持っている企業は、ブランド力も高いため、莫大な広告宣伝費用をかけなくても自然に顧客が増えます。
その結果、競合他社と比べて競争優位性も高くなります。
組織的資源とは、企業文化、組織構造、オペレーションシステム(管理システム)などの資源を意味します。
競争優位性の高い企業の多くは、組織文化がしっかりしていて、社内のオペレーションがスムーズに流れていきます。
そのため、全く同じ業種に属するビジネスを営んでいる2つの企業であっても、実際のオペレーションの部分で差がでてしまうため、最終的に利益にも差が出てしまいます。
以上の6つが経営資源の代表例です。
これらの経営資源を持っている企業は、競争優位性も高くなると考えられていますので、自社の競争優位性を高めたいと思うのであれば、上記6つのいずれか、もしくは複数を強化すれば良いということになります。
ということで今回はRBV(Resource-Based View)について解説させていただきました。
前述のとおり、経営資源を6種類に分けて考えていけば、自社の強みがどこにあって、逆に弱みがどこにあるのかもわかります。
経営戦略を策定する上で、どの経営資源により多くの資金を分配するかという論点が必ず出てきますので、そのときに本記事が参考になれば幸いです。
では、本日も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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