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コラム
2024/10/23 更新

【経営学理論】5F分析(ファイブフォース分析)について解説

はじめに

本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。

今回は経営戦略分野において最も有名なフレームワークである、マイケル・ポーター先生(ハーバード大学経営大学院教授)のファイブフォース分析(5F分析)について解説させていただきます。

最初に申し上げておきますと、このフレームワークは非常に難しいフレームワークです。

そもそも理解すること自体が難しいのですが、使いこなすのはもっと難しいです。
なぜなら、より詳細な分析を行おうとすると、様々な理論に派生的に関わっていくからです。
そのため、今から書く解説が、そのままファイブフォース分析のすべてだと思わないでくださいませ。
あくまでも本記事で記載されている内容は、わかりやすくするために簡略化された内容です。

1.5F分析の前提となる知識

5F分析は、自社が今、ブルーオーシャン市場に近いところにいるのか、それともレッドオーシャン市場に近いところにいるのかを、客観的に分析したいときに使うフレームワークです。

この点について、前提となる知識を解説していきます。

まず、経営戦略とは、会社が目指す最終ゴールにたどり着くまでの計画のことをいいます。

そして、会社が目指す最終ゴールというのは、どの市場で、どのようなビジネスを行って利益を出すかという点に集約されます。

さらに、どの市場を選ぶのか、という論点については「完全競争」と「不完全競争」について理解する必要があります。

まず完全競争とは、簡略化していうと、全員が同じ情報、同じ商品を扱っている状態で、競合も大量にいるため、誰も利益を上げられれないような競争状態のことをいいます。
このような状態の市場を「レッドオーシャン」という言葉で表すことが多いです。

経営戦略を練るときは、会社の最終ゴールに到達するためにどこの市場で戦うのかを考えるのですが、こういうレッドオーシャン市場で戦うということはあまりオススメできません。

次に、不完全競争とは、市場に情報を沢山持っている側の人と、ほとんど情報を持っていない人がいて、かつ、それぞれの商人(会社)が別々の商品を扱っている状態で、競合もいない(少ない)競争状態のことをいいます。

この不完全競争の究極系が独占市場です。
独占市場では、たった一社のみが、特定の商品を扱っている状態であるため、利益を独占できます。

独占市場の一歩手前にあるのが、複占市場(2社で独占している市場)、その次が寡占市場(数社で独占している市場)です。

このような儲かりやすい市場を「ブルーオーシャン」といいます。

ブルーオーシャン市場では、競合も少ないですし、自社の商材の優位性があるため、価格をある程度自由に決定できます。
その結果、利益が出やすい状態になります。

以上のことを前提にすると、企業は原則として利益を上げるために存在しているので、経営戦略を練る際にはブルーオーシャンを目指すということになります。
そして前述のとおり、5F分析は、自社の置かれている状況を客観的に分析することで、自社がブルーオーシャンに近いところにいるのか、それともレッドオーシャンに近いところにいるのかを分析できるフレームワークですから、経営戦略を策定したい経営者にとっては極めて有益なフレームワークであるといえます。

2.ファイブフォース分析とは

ファイブフォース分析(5F分析)とは、自社が生業にしている事業の競争状態を5つの要素から分析するフレームワークです。

英語では、“Five Forces Analysis” または “Five Forces Framework” と表記されます。

そして、5F分析では、以下の5つの要素で自社の状態を分析していきます。

  1. 新規参入業者の脅威(Threat of new entrants)
  2. 代替品の脅威(Threat of substitutes)
  3. 買手の交渉力(Bargaining power of customers)
  4. 供給企業の交渉力(Bargaining power of suppliers)
  5. 競合他社(Competitive rivalry)

では、それぞれ説明いたします。

(1)新規参入業者の脅威(Threat of new entrants)

新規参入業者の脅威という要素では、参入障壁の高さを分析します。

参入障壁が低いと、どこの誰でもその事業を開始することができてしまうため、競争が激しくなりやすいです。
競争が激しくなれば、価格競争に陥りやすくなるため、利益が出づらい状態になってしまいます。
そのため、参入障壁は高いほうが望ましいです。

参入障壁には様々なものが考えられますが、代表的な例は、法令等による制限(許認可がないと事業を開始できない)、キラー特許の存在などが挙げられます。

他にも、すでに大部分の市場シェアを取っている会社では、その事実そのものが参入障壁になり得ます。
なぜなら、他社がその市場に入ってこようとしても、既存の顧客の大半を獲得されている状態なので、非常に難易度の高い商売になるからです。

このように、様々な視点から参入障壁の存在・不存在を分析して、新規参入業者の脅威がどの程度存在するのかについて分析を行います。

(2)代替品の脅威(Threat of substitutes)

代替品の脅威という要素では、違う市場に属しているけど、効用としては近い又は代替するような商品が存在しないかどうかを調査します。

例えば、現在30代の人たちが子どもの頃は、任天堂のWii、64、ゲームボーイアドバンス、ソニーのプレイステーション、PSPなどがありました。
ここでいう任天堂のWiiとソニーのプレイステーションは同じ「家庭内ゲーム機」という同じ市場で、切磋琢磨しながら競争を繰り広げていました。

しかしこの市場が、ある日突然別の市場からのプロダクトによって壊滅的なダメージを受けることになります。
それが、スマホゲーム(アプリ)です。

本来、スマホゲームと家庭用ゲーム機は競合しない市場同士だと思われていましたが、時間を潰すための道具という意味でいうと十分に代替可能だったのです。

このような発想で、自社の製品・サービスに対する代替品の存在又は出現可能性を考えるのがこの要素における視点です。
自社の製品・サービスは、究極的にはどのような効用があって買われているのか、その点をしっかり分析して、代替品の存在を調査する必要があります。

(3)買手の交渉力(Bargaining power of customers)

買手の交渉力という要素では、自社製品・サービスに対する買手側の交渉力の強さを調査します。

買手の交渉力が強ければ強いほど、自社の製品・サービスを安く提供しなければならなくなり、結果的に利益が出ないビジネスになっていきます。

そして、買手の交渉力の強さを分析するために、以下のような事項を調べます。

  • 買手の数
  • 同業者の数
  • 買手側のスイッチング・コスト
  • 買手の情報量

    など

上記の事項と買手の交渉力との関係性については以下のとおりです。

  • 買手の数:多いほど買手の交渉力が弱くなる
  • 同業者の数:多いほど買手の交渉力が強くなる
  • 買手側のスイッチング・コスト:高いほど買手の交渉力が弱くなる
  • 買手の情報量:多いほど買手の交渉力が強くなる

少しややこしいですが、何度か調査を行えば慣れてきます。

(4)供給企業の交渉力(Bargaining power of suppliers)

供給企業の交渉力という要素では、自社の仕入先の交渉力を調査します。

調査項目としては、以下のようなものがあります。

  • 仕入先変更コスト
  • 仕入先が提供する商品の差別化度合い
  • 仕入先に対する依存度
  • 仕入品の代替品の数

    など

上記の事項と仕入先の交渉力との関係は以下のとおりです。

  • 仕入先変更コスト:高いほど仕入先の交渉力が強くなる
  • 仕入先の提供する商品の差別化度合い:高いほど仕入先の交渉力が強くなる
  • 仕入先に対する依存度:高いほど仕入先の交渉力が強くなる
  • 仕入品の代替品の数:多いほど仕入先の交渉力が弱くなる

こちらも何度か調査を行えば慣れてきます。

(5)競合他社(Competitive rivalry)

競合他社という要素では、現時点で自社が属している市場内に存在する競合他社について分析していきます。

分析の視点としては以下のようなものがあります。

  • 競合他社の数
  • 市場の成長力
  • 自社ブランドの確立度合い
  • 自社の資金力と他社の資金力の差異

    など

競合他社の分析においては、一旦感情を捨て去って、客観的に分析を行いましょう。

例えば、市場の成長力が弱く、今後の拡大が期待できないような状況で、すでに多くの競合他社が存在する場合、そこに居続ける限り熾烈な競争をしなければならなくなります。
しかも、このような市場でいくら努力したところで利益は出ませんし、顧客はどんどん減っていくのですからジリ貧状態になります。
このような場合は、何らかの明確な差別化又は新規市場の創出等の戦略が必要で、それが思い浮かばないなら、なる早で徹底した方が良いということになります。

おわりに

以上の5つの要素を総合的に調査して、自社が今ブルーオーシャン側にいるのか、それともレッドオーシャン側にいるのかを分析していくのが5F分析です。

難易度の高いフレームワークなので、使いこなせるまでに時間と経験が必要になりますが、若手の思考訓練などにはもってこいのフレームワークだと思いますので、時間があるときにでも活用してみていただけたら幸いです。

それでは今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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瀧田桜司

役職:株式会社WARC 法務兼メディア編集長/ 学歴:一橋大学大学院法学研究科修士課程修了(経営法学)及び京都大学私学経営Certificate/ 執筆分野:経営学・心理学・資格・キャリア分野のコラム記事を担当させていただく予定です

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