ここ数年で学習者が増えている組織心理学ですが、その中でも重要な理論が2つ存在します。
それが科学的管理法と人間関係論の2つです。
今回はこの2つの理論の概要を解説していきます。
本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は、組織心理学・組織論の分野の基礎的かつ重要なキーワードである「科学的管理法」と「人間関係論」について解説させていただきます。
科学的管理法とは、1800年代後半に提唱され始めた理論で、誤解を恐れずにいうと、人間を命令どおりに稼働する機械と考える管理法です。
この管理法の前提は「人間は経済的な動物である」という経済人仮説です。
すなわち、人間は損得勘定に基づいて合理的に動く動物で、経済的メリットが大きい方に向かって意思決定をし、行動するものだと考えられていたのです。
そのため、従業員を企業側の思い通りに動かしたいのであれば、本人の成果に連動する報酬制度にしたり、時間外労働手当を多く出したりすれば、積極的に人間は働くはずだと考えられていました。
そして、本人の成果を正確に測定するためには、管理をしないといけないので、従業員のタスクを細かく細分化し、動作を分析(動作研究)して、無駄な作業や非効率を解消した上で、一日の標準的な作業時間を算出(時間研究)することになりました。
例えば法務でいうと、1通の契約書をチェックする時間を複数回ストップウォッチで測って、その平均を割り出して標準的な作業時間を算出します。
その上で、標準的な作業時間未満で契約書のチェックを完了させた作業効率の良い人について、他の者よりも高い賃金を提供し、標準的な作業時間を超えてしまう作業効率が悪い人には低い賃金を提供するという方法で管理を行います。
これをやることによって、従業員は、より高い賃金をもらうためにより作業効率を向上させるだろうと考えられていました。
しかし、そう上手くは行きませんでした。
なぜなら、人間は経済人とは限らないからです。
むしろ、経済的に見て非合理な動きを多くする感情の動物だと考えた方が妥当だと思います。
上記のとおり、科学的管理法はあまり上手くいかず、批判も多く提唱されておりましたが、比較的長い間、科学的管理法は管理法の中で主流となっていました。
おそらく、当時は工場の経営などが主な事業だったと考えられるため、人を機械のように考える発想がその当時の経営者の思考とマッチしていたのだろうと思います。
しかし、1920年代に入り、心理学の世界ではとても有名な「ホーソン実験」が開始されました。
その後「人間関係論」が提唱され、今日まで研究され続けています。
この人間関係論とは、組織の生産性は、賃金や労働条件などの客観的な要素のみで決定されるわけではなく、人間関係によっても決定されるという理論です。
この理論の重要な点は以下の二つです。
少し難しい論点も含まれますが、できる限り簡単に解説していきたいと思います。
まず、人間関係論では、科学的管理法とはほぼ真逆の考え方をします。
科学的管理法では、人間を経済的な思考に基づいて合理的に行動する経済人であると考えていました。
そのため、経済人仮説を前提としています。
一方で人間関係論では、人間は、損得勘定だけではなく、感情や人間関係によって意思決定を行っているという社会人仮説を前提としています。
したがって、生産性を上げたいのであれば、賃金や労働時間等の客観的指標だけを管理するのではなく、従業員の労働意欲そのものを上げなければならないのだと考えています。
そのためにも、人間関係の管理が必要になります。
職場内の良質な人間関係を保ち、従業員のモチベーションを保つことによって生産性が向上するという考え方です。
こちらの考え方の方が、今の日本には合っていると思うので、参考になる理論だと思います。
組織内の人間関係が生産性に影響を及ぼすとして、そもそも組織内にはどのような組織が存在するのでしょうか。
この点について、人間関係論は、組織の中に二つの種類の組織が存在すると考えています。
一つが公式組織です。
公式組織とは、会社内の公式ルールによって作られた組織です。
例えば、営業部、管理部、法務部、人事課などの組織が該当します。
会社側が設置して、運営している組織です。
この公式組織は人工的に作られた組織なので、会社側の経営上の命令に従い、一定の目標を持って活動することが期待されています。
もう一方の組織が非公式組織です。
非公式組織とは、組織内で自然発生的にできあがる組織のことをいいます。
例えば、社内での友達関係、派閥関係等のことです。
そして人間関係論においては、公式組織の規律よりも、非公式組織の規律(ルール)の方が影響度も大きいと考えられています。
そのため、非公式組織と公式組織のルールが異なる場合、会社側が決めた正式のルールや方針が機能せず、非公式組織のルールが優先されるケースがあります。
例えば、会社の経営者が、Aという事業を伸ばして、Bという事業を縮小しようという決断をしたとします。
それに従って、各部署の責任者に指示・命令を出し、A事業を伸ばすための施策を展開しました。
一方で、非公式組織の考え方は真逆で、Bという事業を伸ばすべきで、Aという事業は止めるべきだと考えていたとします。
この場合、組織内においては非公式組織の考え方が優先され、経営が上手く行かなくなるということが発生します。
このような事態を未然に防ぐためにも、会社内での人間関係の管理を行う必要性が出てきます。
非公式組織があまりにも強大な力を持ちすぎてしまった場合や経営陣との価値観の統一ができなくなってくると、会社の業績は上がりにくくなります。
そのため、会社としては社内の人間関係をある程度コントロールしておかないといけません。
では、どのように行えば良いのでしょうか。
この点については、学術研究においても明確な答えはまだ出ていません。
また、実務の世界でも皆さん相当苦労しているようで、ベンチャー業界でも試行錯誤が続いています。
労働組合なども非公式組織の一種と考えられますので、大手企業でも労使交渉が大変そうです。
いずれにしても、組織内の人間関係が良好に保たれていれば、問題はあまり起こりません。
事業に支障が出るほどの問題が起こるときは、大抵コミュニケーションが圧倒的に不足しているときです。
そのため、会社側としては、社内のコミュニケーションの総量を増やすという施策を考えた方が良いでしょう。
このとき重要なことは、誰と誰のコミュニケーションを増やすのかという点です。
組織内におけるコミュニケーションの当事者については様々なパターンが考えられますが、主に以下の8つであると考えられますので、どの当事者間のコミュニケーションを増やしたいのか、という視点を持って施策を展開していくと良いともいます。
いずれのコミュニケーションも組織運営上重要で、それぞれが良好に保たれていることが重要です。
それが人間関係をコントロールすることにも繋がります。
上記の8つの視点は、組織内での問題を発見するときのチェックリストの役割も果たすので、組織内で何か違和感を覚えたら、上記の8つの視点でチェックしてみてください。
おそらくいずれかの当事者にコミュニケーションの不足が発生しています。
ということで、今回は科学的管理法と人間関係論について簡単にですが解説させていただきました。
最近の実務を見る限りだと、科学的管理法も必要な場合があると考えているので、おそらく今後は科学的管理法と人間関係論の融合が学問上図られていくのだろうと推測しています。
一方で我々実務家としては、自社の文化に適合した管理方法を検討し、社内のコミュニケーションの総量を把握しつつ、様々な試行錯誤を積み重ねていきましょう。
では、また次の記事でお会いしましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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内容に応じて担当者がお返事させていただきます。