ベンチャーに長年勤めている人でも、あまり関わりがない職種があります。
それが「監査役」という職種です。
ベンチャーにいる人にとってもあまり馴染みのない職種ではありますが、実はとても重要な役割を担っています。
そこで今回は、ベンチャー監査役にスポットライトをあてて、その業務内容や活かせる資格について解説していきましょう!
ベンチャーという組織の中で働いている人の中でも、あまり関わることが少ない職種として「監査役」というちょっと特殊な役職があります。
大手企業であれば、監査役は取締役と肩を並べる「役員」という位置づけなのですが、ベンチャーの場合は様々な立ち位置の監査役がいて、とても面白い職種になっています。
そこで今回は、意外と知られていないベンチャー監査役について解説していきたいと思います。
そもそも監査役という役職は、何のために存在しているのでしょうか。
この点について解説していきます。
まず、多くのベンチャー企業は「株式会社」という形態をとっています。
そして、株式会社に必ず存在する機関として、取締役という役職があります。
取締役が複数人いる場合は、代表取締役を定めます。
ベンチャーがある程度大きくなってくると、経営層のメンバーも増えるので「取締役会」という機関が設置されます。
これは、取締役が3名以上集まった合議制の意思決定機関です。
この「取締役会」という機関を設置した場合、会社法上置かないといけない機関があります。
それが「監査役」です。
この監査役は、取締役たちが行う業務執行を監視する役割を担っています。
なぜそのような役割が必要なのかというと、株主の利益を保護するためです。
通常の場合、ベンチャーが大きくなってくると、様々なところから出資を受けるようになっていきます。
最初はエンジェル投資家という裕福な個人から出資を受け、次にベンチャーキャピタルという少し大きめの資金を保有しているファンドから出資を受け、徐々に銀行や同業他社などからも出資を受けるようになり、拡大し続けます。
そうなってくると、株主から預かった資金も相当な金額になってきますから、取締役たちには株主の資金を適切に運用してもらわないといけません。
しかし、株主それぞれが、日々の業務について取締役を監視することは不可能です。
そこで、株主の代わりに、取締役たちの業務執行を監視する役割を置くという感じです。
上記のとおり、監査役は「取締役たちを監視する」という役割を担っているため、主に取締役たちと関わる職種です。
そのため、一般の従業員とはあまり関わりを持たないことが多く、比較的小さい組織が多いベンチャー企業でも、監査役がどんな仕事をしているのかについて知らない人の方が多いのです。
せっかくの機会ですから、これを機に監査役のことを学んでいきましょう!
さて、ここからはベンチャーの監査役に着目して、その業務内容を見ていきましょう!
大手企業の監査役でも原則は同じなのですが、ベンチャーならではの特殊性も多いため、差異がある点は個別に述べていこうと思います。
ベンチャー監査役の業務には、主に以下の6つの業務が存在します。
以下、一つずつ簡単に説明していきます。
まず重要な業務として、取締役会への出席があります。
会社によって開催頻度は異なりますが、原則は毎月取締役会を開催します。
法律上は、最低でも3ヶ月に1回は開催することになっています(会社法363条2項参照)
そして、取締役会は合議制の意思決定機関なので、基本的には多数決又は全会一致で意思決定していくのですが、監査役はその取締役会での発言権を持っており(会社法383条1項)、何か疑問点があれば質問もしますし、おかしいと思えば反対意見も言います。
場合によっては、無謀な意思決定について止めるように促すこともあります。
例えば、特定の取締役が、よくわからない事業をいきなり始めようとしていて、かつ、その経験も実績もない状態だとします。
そんな中で、ろくに調べもせず、収益見込みも甘々で、とりあえずお金だけ出そうとしているとしましょう。
このような失敗することが目に見えている業務執行を株主が許すわけがないですよね。
でも、株主は取締役会に出席していないので、止めようがないですし、今まさに自分のお金が無駄遣いされようとしているという事実を知りようがありません。
そこで株主の代わりに取締役会に出席して、無謀な業務執行を止めるのが監査役の仕事です。
この業務は、監査役の業務の中でも極めて重要な業務といえます。
ちなみに、監査役が取締役らによる違法な行為を見つけてしまった場合、監査役にはその違法行為の差止を請求できる強い権限が与えられています(会社法385条1項)。
続いて、監査計画の策定という業務についてご説明します。
監査役は、その名のとおり「監査」をする役割も担っています。
そのため、毎年1年で行う監査の対象及び期間などを決めて、計画書にまとめます。
しかし、ベンチャーの場合は基本的に何も整っておりませんので、監査をやる前から問題があることがすでにわかっています。
また、ベンチャーの監査役は基本的に1名体制であることが多いので、1年でできる監査は限られています。
それゆえ、原則はIPO準備との関係で最も優先度の高い分野から監査対象にして、少しずつ整えていくことになります。
別の視点から見ると、ベンチャーの監査役になるなら、どの分野の監査を優先すべきかを判断できる能力が最低限必要になってきます。
この点においては監査法人でベンチャー企業の監査を担当したことがある公認会計士が強いので、そのような経験を有する公認会計士のセカンドキャリアとして、ベンチャー監査役はとても適しているかもしれません。
上記の監査計画に基づいて、毎年行うのが会計監査という業務です。
会計監査では、適切な会計処理が行われているかという点や、日本又は国際会計基準に則って帳簿作成されているかなどをチェックしてきます。
この点については、ベンチャーであっても大手企業であっても同様です。
しかし、ベンチャーの場合は、十中八九税務会計に即した会計処理をしているはずなので、IPOを目指しているのであれば、きちんと財務会計による処理を行うように指導していく必要があります。
このあたりの指摘を行うのも監査役の仕事の一つです。
財務会計といえば公認会計士の専門領域なので、この業務においても監査法人出身の会計士が最強だと思います。
なお、監査役の行う会計監査では、以下のような項目をチェックしていきます。
など
上記の項目を見てお分かりいただけるとおり、財務会計にかなり明るくないと会計監査は難しいと思います。
次に、業務監査についてもご説明いたします。
ベンチャーの監査役といえば、通常は会計監査のみを行うという限定が付されています。
しかし、中には限定なしで業務監査まで広く監査対象にしている監査役もいます。
その場合は、取締役らの業務執行が適法に行われているかという点もチェックしなければなりません。
なお、ここでいう「業務執行が適法に行われているか」というチェック項目では、妥当性監査までは要求されません。
監査役は経営のスペシャリストではないので、その業務執行が経営上「妥当なのかどうか」は判断ができないからです。
あくまでも「適法かどうか」をチェックしていくだけです。
それでも十分に広い範囲に及ぶので、大変であることに変わりはありません。
業務監査の例を挙げると、以下のようなものがあります。
など
上記に掲げられている例示のとおり、業務監査は会計監査と異なって、法律に関する事項が多いです。
そのため、公認会計士よりは弁護士の方が業務監査には適しています。
IPOを現実的に見据えているベンチャーでは、会計監査は公認会計士資格を有する監査役が担当し、業務監査については弁護士資格を有する監査役が担当するという役割分担が決まっていることもあります。
会計監査や業務監査が実施されたら、そこで得られた情報を監査報告書にまとめていく作業に入ります。
内部監査の場合は、内部監査報告書を代表取締役に提出しておりましたが、監査役監査の場合は、株主に提出することになります。
上場している会社であれば、東証にも提出することになりますので、広く一般に公開される文章となります。
監査報告書については、ベンチャーと大手でそこまで大きな違いはありません。
ただ、一般的には、ベンチャーの方が指摘事項も多くなる傾向はあると思います。
これまで説明してきたとおり、監査役の主な業務は「監査」です。
しかし、ベンチャーの場合は基本的に監査役の人数が少ないので、一人又は二人で会社のすべてをチェックすることは不可能です。
そのため、原則としては会計監査人(監査法人)や内部監査と連携しながら監査を進めていくことになります。
会計監査人・内部監査・監査役という三者それぞれが監査のプロなので、お互いに連携して、効率よく監査を実行していきます。
少なくとも毎四半期ごとに三様会議を開いて、相互に情報共有を行い、監査計画について話し合う機会を設けるべきです。
そういう意味では、監査役にはコミュニケーション能力も求められます。
以上が、ベンチャーにおける監査役の主な業務内容です。
日頃関わることは少ないですが、意外と重要な役割を担ってくれているのです。
では、上記のような業務をこなすベンチャーの監査役に向いている人はどのような人でしょうか。
この点について私見を述べさせていただきます。
そもそもの話ではありますが、ベンチャーといえども監査役になれる人は極めて限定的だろうと思います。
IPOを本気で目指している会社なら尚更狭き門です。
それもそのはずで、上記の業務をすべてこなすためには、高い専門性と経験が必要になるからです。
したがって、原則として監査法人出身の公認会計士・税理士、監査役経験がある弁護士などの人材でない限り、そもそも選任されない可能性が高いです。
その条件を満たした上で、ベンチャーの監査役になるのであれば「柔軟性」を持っている人の方が向いていると思います。
昔ながらのガチガチのルールで縛ろうとしたり、過度に厳しい監査を実施してしまったりする人は、ベンチャーの監査役としては活躍し辛いでしょう。
そもそもベンチャーは、すべてにおいて「これから整える」という段階です。
内部統制の「な」の字もまだできていないことが多いので、監査役を置いたばかりの頃だと指摘事項だけで100個以上あることもザラにあると思います。
それら一つ一つに対してイライラしてしまうと、きっと心が保ちません。
ベンチャーの監査役になるのであれば、何も整っていないことを前提として、様々な視点からお手伝いするという発想の柔軟性が必要です。
単に外からチェックする人という立ち位置ではなく、一緒に内部統制を整えていく仲間という認識でいた方が、活躍しやすいと思います。
この点については、公認会計士が最強だと思います。
そもそも公認会計士は監査のプロなので、監査役になるために生まれてきたようなものです。
監査法人で様々な会社の監査を経験し、年齢と経験を重ねた後はベンチャーで監査役を務める。
そんな素敵なキャリアが描きやすい資格です。
現に、私の知り合いにも監査役を務めている公認会計士が多いのですが、実に羨ましいキャリアを歩んでおられる方が多いです。
監査役は、子育てをしながらでもなし得る職種なので、主婦の公認会計士の方も活躍なさっています。
やはり三大国家資格(弁護士・公認会計士・不動産鑑定士)の一つは強いですね。
また、同等に強い資格として税理士も有益だと思います。
監査法人出身の税理士の方も結構いるので、そういう人であれば監査役を引き受けることも多いと思います。
税理士は中小企業を顧客に抱えることが多いので、ベンチャーとの相性も良いでしょう。
事務所経営の傍ら、企業の監査役を務めている税理士も多いので、キャリアの選択肢としてありだと思います。
他にも、公認内部監査人(CIA)も有益だと思います。
元々内部監査の資格ですが、監査役監査でも活かせる知識が多いので、持っていて損はありません。
最後に、業務監査という視点で弁護士も有益だと思います。
最近は弁護士が監査役に就くことも増えてきているので、ベンチャーの監査役に就任するときにも活かせる資格と言って良いでしょう。
ということで今回はベンチャーの監査役について解説させていただきました。
今回の記事で、ベンチャーにおける経営管理部門のほぼすべての職種についての解説が終わりました。
この連載がベンチャーへの転職を検討している誰かの役に立てば嬉しく思います。
ベンチャーはいろいろと大変なことも多いのですが、私個人としては、活気があってとても楽しい業界です。
最近では新卒でベンチャーに入るなんていう学生も増えてきて、嬉しく思っています。
大手からベンチャーに転職をする人も増えてきているようなので、大歓迎です。
何か困ったことがあったら、いつでも気軽にご連絡ください。
では、また次回!
WARCで働きたい!WARCで転職支援してほしい!という方がもしいらっしゃれば、以下よりメッセージをお送りください。
内容に応じて担当者がお返事させていただきます。