本連載では、ビジネスで活用できそうな経営学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今回は、沈黙の螺旋(らせん)というカッコいいネーミングがついた理論をご紹介します。
この理論は、元々は政治学・社会学分野の理論ですが、組織論においても重要な理論なのでご紹介いたします。
沈黙の螺旋とは、自分のことを少数派である又はそうなりそうだと認識した人間は孤立を恐れて沈黙し、自分を多数派だと認識した人間は声高に発言し始め、その結果少数派はさらに少数派となっていくという理論です。
この理論はドイツの政治学者であるエリザベス=ノエル=ノイマンさんが提唱した理論です。
沈黙の螺旋は、日本的でいうと声の大きな人の言うことが通りやすくなってしまう現象のことですが、この現象の最も恐ろしいところは、多数派の意見が間違っている場合でも発生してしまうという点にあります。
ワンマン経営の会社でもよく発生する現象です。
実際に見た事例でいうと、現場では明らかに間違いだと考えられていたプロジェクトが無理矢理推進されていたにもかかわらず、誰もその問題を指摘せず、CEOと一部の取り巻きが暴走し続けて組織が崩壊したという事例があります。
この事例では、当該プロジェクトを間違いだと考えていた一般社員たちが、自分たちを少数派であると感じていたため、CEO及び一部の取り巻きの大きな声に影響を受けて、全体的に萎縮したのです。
その結果、その会社では数十億単位の損失が出て、重要なメンバーが大量に退職するという事態に陥りました。
沈黙の螺旋がどれだけ怖い現象なのかがわかると思います。
沈黙の螺旋は、元々政治世論の形成に関する理論なので、それを組織で起こる現象として一般化すると、以下の4つの仮説で構成されていると考えられます。
これら4つの仮説が複雑に関連しあって、沈黙の螺旋が発生すると考えられています。
この理論を前提にすると、少数派に属する人たちのうち、周りによく配慮し、意見の趨勢を観察している人ほど沈黙の螺旋の影響を受け、発言が減少する(萎縮する)傾向が強いはずです。
そして、日本人の多くが配慮の塊みたいなものなので、沈黙の螺旋の影響を受けやすいといえるでしょう。
上述のとおり、沈黙の螺旋を放置しておくと、時に大きな失敗へとつながって行くことがあります。
そこで、沈黙の螺旋を防止するための策をいくつかご紹介します。
ハードコア層とは、自分が少数派だという認識を持った後でも臆せず意見を表明する孤立を恐れない人たちのことをいいます。
新しい意見や異なる意見を尊重することはとても重要なことなので、沈黙の螺旋の防止という観点から、一定の尊重を行うべきです。
ただし、注意も必要です。
たしかに、多数意見が間違っている場合、このハードコア層は非常に有り難い存在となりますが、一歩間違えば危ない人達にもなり得ます。
必要なときに論理的な反対意見を述べるのは大歓迎ですが、ハードコア層には一定数、何でもかんでも感情的に反対しまくる人がいるからです。
そもそも多数派意見が明確に間違っているというケースは、そこまで多くありません。
大勢の人間が考えて同じ結論に至るのであれば、一定の合理性がある結論が採用されることが多いので、明らかな間違いを犯すことも少ないのです。
そのため、組織のマネージャーは、ハードコア層の意見をよく検討して、その意見を尊重するかどうかを判断しないといけません。
悪魔の代弁者とは、多数派の意見にあえて反対意見を述べる役割の人をいいます。
悪魔の代弁者は、できればハードコア層の人間で、かつ、論理的な批判がしっかりできる人に任せるべきです。
これによって議論の質が向上します。
そして、反対意見からの批判にもしっかり対応できるだけの論理を組み立てることができれば、集団的間違いを未然に防ぐことができるはずです。
マネジメント層が自己の発言の影響力を自覚することも効果的です。
マネジメント層は、通常その組織内で大きな権限と裁量を持っています。
それゆえに、肩書と権限による効果で、発言に余計な影響力が発生してしまいます。
その結果、沈黙の螺旋を自ら発生させてしまう可能性が高まるのです。
だからこそ、マネジメント層が自己の発言の影響力に自覚を持って、少数派の意見に耳を傾けるだけで、容易に沈黙の螺旋に歯止めをかけることができます。
優れた経営者の多くは、周りの人間の意見をよく聞いていることが多いので、一度自分の声の影響力を顧みてみるといいかもしれません。
ということで今回は、沈黙の螺旋という厨二心をくすぐられるキーワードを解説させていただきました。
どこの組織でも発生し得る現象だと思いますので、知識として押さえておきましょう。
そもそも、経営上の意思決定を行う場合、どうしても多数決になってしまいがちですが、その多数意見が正しいとは限らないので、決断を下す前に十分な検討を行わなければなりません。
そんなときに沈黙の螺旋という現象を思い出していただいて自分たちの見解を客観的に分析してみてください。
それによって、更に良い結論にたどり着けるかもしれませんから。
では、今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回お会いしましょう。
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