本連載では、ビジネスで活用できそうな心理学理論や重要なキーワードをご紹介しております。
今日は、リーダーの行動と会社の業績との関係を調査した「ミシガン研究」を解説させていただこうと思います。
ミシガン研究とは、ミシガン大学のレンシス・リッカート(Rensis Likert)らが行った一連の研究のことをいいます。
リッカート氏の研究を端的に表現すると、高い業績を出す会社では、どのようなリーダーシップスタイルが採用されているのかを明らかにしようとした研究です。
リッカート氏は、組織のリーダーたちに、インタビュー調査を行いました。
このインタビュー調査の結果、リッカート氏は、リーダーシップスタイルを4つの類型に分けました。
今ではこの類型は「リッカートマネジメントシステム」と呼ばれています。
リッカートマネジメントシステムは以下の4類型です。
※和訳は筆者
以下、一つずつ解説してきます。
搾取的権威型とは、上司が部下に相談することなく、独断で意思決定を行う類型です。
日本でいうワンマン経営とほぼ同義です。
威圧や懲罰などによって部下を従わせる傾向が強く、コミュニケーションは上から下への一方通行で、下から上へのコミュニケーションはほとんどありません。
また、このようなマネジメントスタイルを採用する上司の組織は、従業員同士のコミュニケーションも少なく、相互連携などもなされない組織となりやすいです。
経営陣は部下を信頼しておらず、基本的に無理な数値目標や労働時間を一方的に強制しますが、それに見合った報酬やインセンティブ等は提示しません。
さらに、従業員を重要な意思決定に関与させないという特徴も併せ持っています。
経営に関する意思決定を経営陣のみで勝手に決めて、懲罰や制裁を用いて従業員に押し付けてきます。
このような組織の従業員は、初期段階では懲罰等を恐れて従順に従い、すぐに業績を出すようになります。
しかし、時間の経過と共に嫌悪感を示すようになり、モチベーションを失っていきます。
パワハラ系組織の典型例のような組織だと思ってください。
こういうリーダーシップスタイルを採っている人は、まだ日本にも少なからず存在しています。
温情的権威型とは、アメとムチを使い分けて言うことを聞かせるリーダーシップスタイルで、主人と召使いの関係に近い関係です。
この類型も上記の搾取的権威型と同様に、意思決定はほぼ全て上司が独断で行います。
そして、上司と部下の円滑なコミュニケーションというものもほとんどありません。
しかし、搾取的権威型と異なり、上司は部下の良い働きに対して、一定の追加報酬を与えます。
この点が大きな違いです。
ただ、コミュニケーションについては大して変わらない方法で管理したがる傾向があります。
温情的権威型では、部下同士のコミュニケーションはある程度行われますが、このコミュニケーションの方法に上司が制限をかけ、管理するというスタイルをとりますので、搾取的権威型と近い管理手法です。
そして、重要な意思決定については、ある程度部下の関与が認められることもありますが、最終的にはすべて上司・経営陣が決定しますので、実質的には搾取的権威型に近いです。
よって、搾取的権威型にほんの少し温情が追加されただけの類型といってよいと思います。
相談型とは、上司と部下の間で一定のコミュニケーションがなされるリーダーシップスタイルです。
この類型では、重要な意思決定や過去の施策等のフィードバックについて、上司が部下に対して相談し、意見を求めます。
そして、この類型では上司が部下のことをある程度信頼しており、意見を参考にしながら最終的な意思決定を行う傾向が強いです。
もちろん、最終的な意思決定は上司が行うため、部下が意思決定に直接関与しているわけではありません。
それでも、部下は自分の意見を聞いてもらっている、参考にしてもらえているという実感が得られるので、組織への愛着度が高くなります。
また、この類型では、管理業務の一部の権限を部下に委譲することが多いため、ある程度裁量をもった部下が存在します。
以上より、日本によくある一般的な組織をイメージしていただければ良いと思います。
参加型とは、上司が部下を完全に信頼していて、権限を分散しているリーダーシップスタイルです。
この類型では、従業員がそれぞれの部署で自らの権限を行使し、それぞれの目標設定を自分たちで行います。
コミュニケーションは上下・左右(同僚間)で自由に行われ、それぞれが自分の事業の重要な意思決定に参画します。
一方で、それぞれの従業員は、自らの目標や業績について説明責任を負っており、それぞれが高いレベルで自律していることが求められます。
その結果、全従業員が経営について相互に連携し、助け合う文化が醸成されている組織です。
かなり高度なマネジメントスタイルなので、滅多にお目にかかれませんが、規模の小さいベンチャー企業や超ハイスペック人間が集まった特定のチームなどでは時々見かけます。
リッカート氏が、数百人にインタビュー調査を行った結果、良い業績を出している組織は(4)参加型に近似した特徴を持っていて、業績が悪い組織は(1)搾取的権威型の組織と近似していたそうです。
では、参加型のリーダーシップスタイルが適用された組織を作るにはどうしたらいいのでしょうか。
リッカート氏は、この点についても仮説を提唱しているので、参考になる点をまとめていこうと思います。
要素は以下の4つです。
一つずつ解説していきます。
まず重要な点は、組織の中に支援的な関係が構築されていることです。
ここでいう支援的関係とは、上司と部下が互いに支え合って業務を遂行する関係のことです。
これを意識的に行っている人、または行える人をリーダーに置くということが何よりも重要なのだろうと思います。
滅多にいませんが、もし転職市場で見つけることができたら、すぐに内定を出しておきましょう。
この支援的関係の基礎は、上司と部下の良好なコミュニケーションで形成されます。
良いコミュニケーションを増やせば増やすほど、支援的関係が強固に構築されていきます。
なお、ここでいう良好なコミュニケーションを「家族のようなコミュニケーション」と勘違いしてはいけません。
会社の仲間は家族ではなく、あくまでも他人です。
それに、家族だと思ってしまうことで妙な甘えが出ることがほとんどなので、そこを履き違えてしまうとマネジメントで失敗しやすくなります。
良きリーダーは、部下を家族(兄弟や子ども)とみなすのではなく、一人の対等な仲間として接します。
個人として尊重し、相互に支援し合える関係性を構築していきます。
グループ管理とは、会社組織を少人数制のグループに分けて、そのグループ内で管理を行うという方式です。
参加型リーダーシップが採用されている企業を作るためには、グループ管理が必須です。
グループ管理にする目的は、それぞれのグループのメンバーが意思決定に参画しやすくするためです。
人数が多すぎると意思決定に参画できませんから、メンバー全員が何らかの形で意思決定に参加できるサイズに留めることが重要です。
グループのメンバーが重要な意思決定に関与すればするほど、自分事として経営の趨勢を意識しますから、組織に対するコミットメント(愛着度、関心度)が高くなります。
その結果、参加型のリーダーシップを採用しやすくなります。
このような小グループのリーダーの役割は、グループ内のコミュニケーションを促進することで、いわゆる「ファシリテーター」として振る舞うことが要求されます。
そのため、権威主義の人間をリーダーにしてしまうと、その時点でグループ管理の意味が失われます。
おかしな人をリーダーに置かないように、細心の注意を払いましょう。
次に、高い業績を出す組織を作るためには、高い業績目標が必要です。
しかし、この高い目標が、上司・経営層が勝手に決めた目標では意味がありません。
上記のグループ管理の項目で述べたとおり、重要な意思決定にグループのメンバーが関与していることが重要なので、業績目標の決定にもメンバーが参画していないといけません。
そのため、目標設定は、各従業員が自ら行います。
各グループのリーダーがファシリテーターとして議論を促進することはあっても、目標を押し付けることはありません。
ただし、従業員のやる気が溢れすぎて高すぎる目標を設定してしまうことがあるので、その場合はリーダーが「実現可能な範囲」に調整することになります。
この時点で多くの人が気づくと思いますが、この目標設定の流れは、一般的に行われている目標設定と逆の流れです。
一般的な組織では、社長が経営目標を勝手に定めて、それを経営メンバーに割り振り、経営メンバーが各部署の中間管理職に押し付けます。
そして、中間管理職は自分の部下に数値を割り振り、ノルマを設定します。
このような目標設定をされても、従業員としてはどうでも良いというか、知らんがなという話です。
やる気も出ないでしょうし、アホらしくすら感じることでしょう。
参加型のリーダーシップスタイルが採用されている組織では、一般的な組織が行う目標設定の流れとは真逆なので、その概念を理解しておかないと単に高い数値目標を押し付けるだけになってしまうおそれがあります。
最後に、参加型リーダーシップが採用されている良好な組織における重要な特徴として、連結ピン機能が備わっているという点があります。
これは、組織の新しい概念なので、少し詳しく説明しましょう。
そもそも組織というものは、2人以上の個人が集団を形成したものです。
そのため、一般的な組織の概念は、個人が複数人集まった集合体だと考えられています。
しかし、リッカート氏はこれとは異なった考え方を持っています。
リッカート氏がいう組織とは、小さなグループが連結しあったものです。
その連結の重要なポジション(連結ピン)こそが中間管理職です。
一つのグループの中間管理職が、別のグループの中間管理職と連携することで、グループ同士の連結が図られるという考え方で、あたかも中間管理職の一人ひとりが組織同士を繋ぐ連結ピンのように機能しているから、連結ピン機能と名付けています。
連結ピン(中間管理職者)の役割は、各グループ間のコミュニケーションの促進と情報共有です。
それぞれのグループのリーダーが他のグループのリーダーと連携し、自分の役割を果たす組織であれば、参加型リーダーシップスタイルが採用されやすくなります。
この連結ピン機能は、これまで上げてきた特徴の中で最も難易度の高い特徴です。
自分の統括する組織を円滑にコントロールできる人は比較的多くいますし、転職市場でもよく出会えます。
しかし、他部署との連携となると途端にできなくなる人が増えます。
不思議なもので、同じ会社内なのに部署が違うだけでいがみ合ったり、敵対したりするのです。
それによって部署間での情報共有が少なくなり、組織が機能不全に陥ります。
したがって、連結ピン機能を備えた組織を作るためには、連結ピンの役割を果たせる人を採用してくる、または育成するしかありません。
極めて難易度の高い要素だと思います。
まず、優れたリーダーシップの類型は、参加型のリーダーシップでした。
そして、参加型リーダーシップを十分に機能させる組織を作るためには、以下の4つの要素を備えた組織を作らないといけません。
この4つの要素を満たす組織を構築できれば、参加型リーダーシップスタイルが採用されやすくなり、高い業績が上げられる組織ができあがります。
しかしこれは、結局のところ良いリーダーの存在を前提とした理論です。
連結ピン機能を十分に果たせるリーダー(主に中間管理職)がいて、そのリーダーを中心とした小グループを構築し、各グループ内で良好なコミュニケーションを取り続けていれば、自ずと高い目標設定がなされるという仮説です。
たしかにそのとおりだとは思うのですが、そんなスーパーマンは転職市場でも滅多に出会えませんから、現実的に考えるとかなり実現困難な仮説だなと思います。
新卒の段階からじっくり育てて連結ピンを担える人材にしていくか、もしくは転職市場で天才級のマネージャーを一本釣りし続けるかしかありません。
これができる組織が一体どれほどあるか。
規模の小さいベンチャー企業ならば、そこまで多くのリーダーは必要ないので、比較的実現しやすいと思いますが、大手企業になればなるほど、実現不可能になっていくはずです。
そういう意味では、リッカート氏の上記仮説は、ベンチャー向きなのかもしれません。
ということで今回は、ミシガン研究で有名なリッカート氏の理論と仮説について解説させていただきました。
少し古い理論ではありますが、非常に学びが多く、考えさせられる見解です。
組織心理学や組織行動論を学んでいると、リーダーの人柄、能力の重要性を改めて痛感させられます。
採用と教育が何よりも重要ですね。
それではまた次回の記事でお会いしましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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